目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第44話 混乱が発生した

 草薙たちは冒険者ギルド本部の総長室に呼び出されていた。


 そこで待っている間に、草薙は自分のステータス画面を確認する。


『身体強化レベル二十一

 短地レベル十八

 自己防御レベル十六

 放出魔法レベル二十』


(この短期間に結構レベル上がったな……。そりゃそうか。最近戦っていることが多かったもんな)


 そんなことを思いながら、草薙はステータス画面を眺める。すると、総長室の扉が開き、シーラン総長とナターシャが入ってくる。草薙はステータス画面を閉じて二人のことを見る。


「それで、僕たちが呼び出された理由とは……?」


 ミゲルが最初に口を開く。


「そうだな。簡潔に話すとすれば、怪物化現象の原因が判明した、ということだ」

「解明できたのか!?」


 ジークは驚く。これまで原因が分かっていなかったのに、急に分かったと言われても信用できないだろう。


「あぁ。原因のとっかかりと理解したらあっさりと判明したよ」

「それで、原因はなんだったんですか?」

「その説明はナターシャ嬢がしてくれる」


 そういうと、ナターシャは手元の紙をめくって説明を始める。


「まず怪物化した魔物には、共通した点がありましたわ。どの魔物にも、頭蓋骨の額に当たる部分に魔法陣が彫られていたのです」

「魔法陣……なのです?」


 アリシアが聞き返す。


「はい。この魔法陣を国立図書館で調査したところ、該当する魔法陣を発見しましたの。その魔法陣の説明には、刻印した生き物を自在に操ることができるとありましたわ」

「生き物を自在に操る……。とても冒涜的な魔法ですね……」


 ミーナがそのような感想を残す。


「そして、その魔法陣を刻印できたのは、魔物を統べる存在、魔王がいると考えられますわ」

「魔王……」


 草薙は少しザワッとした。なんだか嫌な予感がしたからだ。


「しかし記憶が間違っていなければ、魔王は五百年も前に打ち滅ぼされたはずでは?」


 ミゲルが質問する。


「えぇ、その通りですわ。しかし別の文献によれば、魔王は必ず復活すると宣言して塵と化したそうですの」

「復活する、ねぇ……。そりゃ復活されたら面倒なことになるだろうけど……」


 ジークは嫌な顔をしながら言う。


「でもでも! こんな情報を公表したら大変なことになると思うのです!」

「アリシアの言う通りだ。これを発表することは世間の混乱を招くことに繋がりかねない」


 ミゲルも同意する。


「もちろん、その可能性は考慮していますわ。この情報を得た全ての人たちには、最重要機密事項であることを伝え、箝口令を敷きました。もう少し情報を整理してから世間に公表しようと考えてますわ」


 ナターシャがそのように報告した時だった。


「総長! 大変です!」


 ギルド本部の職員が総長室に入ってくる。


「なんだね? 緊急事態か?」

「はいっ……。最重要機密事項である魔王の復活が一般市民に漏れています!」

「なんだと!?」


 王都はパニックに陥っていた。


「魔物を統べる存在の魔王が復活するだって!?」

「この国にいたら、全員魔物のスタンピードで死んじまうよ!」

「早くここから脱出しないと!」


 そういって王都から逃げ出す人々が大勢いる一方で、銀行などから自分の資産を引き出そうとする人々が取り付け騒ぎを引き起こしていた。


 その様子を、商人ギルドの秘密の部屋から見る人物が一人。ノーフォード公爵である。


「人々に恐怖を植え付けさせ、混乱に乗じて私が国王の座に就く。なかなかに名案ではないかね?」


 そう。一般市民に魔王復活の噂を流したのは、このノーフォード公爵である。厳密にはノーフォード公爵から商人たちに情報を流し、その商人たちが一般市民へ噂を流させたのである。


「このままでは王都は混乱してしまう。例え憲兵や大陸軍の力を使ったとしても、一般市民はさらに混乱してしまうだろう。しかしそこに、颯爽と現れる我が領の私兵が現れて王都防衛に当たれば、人々は安堵に包まれる。そして私の地位が向上するという寸法だ。いかがかね?」

「まことに名案でございます、閣下」


 商人たちはノーフォード公爵のことを褒めたたえる。


「問題があるとすれば、私兵が到着するのに幾分か時間がかかるという点だ。我が領から王都までは遠いからな。事前にこの情報を掴んでいれば、楽に王都を制圧出来たのだが……」


 そういってノーフォード公爵は憂いた。


「まぁ、そんなことは些細な問題に過ぎない。では商人どもよ、すぐに我が私兵が派遣されることを一般市民に知らせてきなさい」

「御意」


 こうして商人たちの伝言ゲームにより、一般市民にノーフォード公爵領の私兵がやってくることが噂として流れる。


「王都防衛のために公爵様が兵を派遣してくださるそうよ」

「これで王都も安泰だな」

「それにひきかえ、憲兵や大陸軍は一体何をしているのかしら……」


 少しずつ、世論はマズい方向に動いていく。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?