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第47話 布告された

『国王アキレサトス二世の名において、ここに緊急事態宣言を宣告する』


 布令が発布されてから半日もせずに、この発表がなされる。これにより王都の民衆はより混乱に陥った。


『魔王復活の可能性があるとして、王都の絶対死守を目的とする軍隊派遣も視野に入れ、この宣言とする』


 理由も付け加えて発表されたものの、民衆はそれを解釈する余裕もなかった。人々はすぐにでも王都を逃げ出す準備をしていた。


 これにより王都内部の経済は半分崩壊していく。ありとあらゆる商品が倍以上の値段へとなり、品薄状態になる。民衆は王都を脱出するために私財を投げ打って資金を得ようとするが、逆に家財などが町中に溢れてしまい、価格は暴落する。そして民衆は私財すら放棄して、有り金と最小限の荷物を持って王都を後にする。


 この状況になるまでに二十四時間ともかからなかった。


「この状況は、少しマズいかもしれません」


 侍従からそのように報告される国王。


「現在は軍の監視下にある元老院からも、苦言を呈されています。さすがに事後報告がマズかったのでしょう」

「しかし非常事態宣言とはそういうものだろう。むしろ我の権力を分散させるというのが間違っているのだ」


 そんな話を、執務室で警備をしている草薙は聞く。


(絶対君主制じゃなくて、制限君主制なんだなぁ……)


 そんなことをぼんやりと考える。


「商人ギルドから苦情が届いています。非常事態宣言により、王都内の経済が崩壊しているとの懸念が上がっています」

「財務大臣。我の情報機関からの報告によれば、反王家派は商人ギルドが中心になっていると言う。ノーフォード公爵もそこにつけこんで連中を動かしているのだろう。連中からの報告は無視しても問題はない」

「ですが、民衆の生活を守るのも財務省の務めです」


 そんな話をしていると、執務室の扉がノックされる。


「カルナス子爵令嬢ナターシャ様がお見えです」

「入室を許可する」


 すると扉が開き、ナターシャが執務室に入ってくる。


「陛下。お父様に連絡を取り、カルナス家の私兵を陛下のために派遣する許可をいただきました。すでに五百の兵が王都に向けて出発したとのことです」

「うむ、よくやった。これで近衛師団と合わせて、約五千の兵士が集まることになる。ノーフォード公爵の私兵とも十分に戦えるだろう」


 国王は嬉しそうに話す。


 こうして緊急事態宣言が宣告されてから数日が経過した。王都の民衆は流出する一方で、王都での軍事的緊張は高まりつつあった。


 そんな中、カルナス子爵の軍とノーフォード公爵の軍がほぼ同時に到着することが知らされた。


「面倒なことになったな……」


 国王は執務室で深く溜息をついた。明らかに面倒な状況になると踏んでいる顔だ。


「ここで両軍が鉢合わせでもすれば、武力衝突になりかねん……」

「近衛師団を使ってノーフォード軍の遅延行動をさせますか?」

「それで頼む。その分の防衛には冒険者を使用する」


 そんな話をしている時だった。近衛師団の連隊長がやってくる。


「陛下。王妃と王女殿下をお連れしました」

「まことか? それは大変良い知らせだ」


 国王はすぐにアウステンバーグ城の正門に向かう。


 そこには馬車が停まっており、女性が二人いた。


「お父様!」


 若い方の女性━━王女は、国王に駆け寄る。


「クリスタシア! 無事でなりよりだ」


 そういって二人は抱擁を交わす。そこに王妃も近づいてくる。


「あなた。無事で良かったわ」

「マナリアスタも無事で良かった」


 その様子を草薙たちは国王の後ろで見守る。


「お父様、急に緊急事態宣言を発布なされるなど、一体何があったのですか?」

「その話は後で詳しく話そう。クリスタシアに紹介したい人たちがいる」


 そういって国王は、草薙たちの方を向く。


「一人娘のクリスタシアだ。今から君たち『ヘイムダルの剣』には、娘の護衛をしてもらいたい」

「王女殿下の護衛、ですか?」


 ミゲルが聞き返す。


「我と妻の護衛は近衛師団に任せよう。ノーフォード公爵の魔の手から逃れ、緊急事態宣言を解除するまでの間だ」

「殿下も近衛師団に護衛させればよろしいのでは?」

「敵の狙いは王家の血筋と座だ。仮に我や妻が死んだとしても、娘だけでも生き延びられるように、分けて護衛するというのが目的だ」

「お父様、お父様が死ぬというのはどういうことですか?」


 王女が質問すると、国王は手短に状況を説明する。


「今、ノーフォード公爵の私兵が王都にやってこようとしている。彼は反王家派の中心人物だ。狙いは我ら王家の血と座。それを阻止するために緊急事態宣言を宣告したのだよ」


 それだけ聞いた王女は、状況を理解したようだ。


「分かりました。私は彼らと共にいればいいんですね?」

「そうだ。もう少しの辛抱だ」


 そういうと、王女は草薙たちのほうへと歩く。


「では、よろしくお願いしますね。『ヘイムダルの剣』様たち」

「はい、よろしくお願いします。僕はミゲルです」

「ジークだ」

「アリシアなのです」

「ミーナです」

「武尊です」


 そういって自己紹介が終わった時だった。城の正門に馬が一頭がやってくる。騎兵だ。騎兵の後ろにはナターシャが乗っている。


「陛下! 大変です!」

「カルナス子爵軍が到着したようだな。それで、何が大変なのだ?」

「ノーフォード公爵の私兵が、近衛師団の兵に攻撃を加えました! 現在、王都西門の外で戦闘が発生しているようです!」

「マズいことになった……!」


 国王の懸念が現実となってしまった。内乱の勃発である。

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