「近衛師団はすぐに事態の鎮圧を。我の護衛以外の全員を向かわせるのだ。ついでに憲兵や大陸軍の兵士も持って行っていい」
「はっ」
そういって近衛師団を向かわせる。
「では殿下、我々も避難しましょう」
ミゲルが先導して王女を連れていく。
「お父様! お母様! どうかご無事で!」
「クリスタシアもな」
こうして草薙たちは別に用意された馬車に乗り、アウステンバーグ城を後にする。馬車の中ではジークとアリシアが、後ろの荷物席ではミゲルとミーナ、草薙が周囲を警戒していた。
「それで、これからどうするんです?」
草薙はミゲルに尋ねる。
「まずは冒険者ギルド本部に向かう。この王都の中では比較的安全な部類に入るはずだ」
そういって馬車を東に進めているときだった。ミーナが後ろの方を見ている。
「ミーナさん、どうかしました?」
「何か、黒いものが来ています」
草薙も後ろを見ようとする。その時、キラリと光る何かが目の前に迫ってきていた。草薙は反射的に体を後ろに反らす。ナイフが顔面のスレスレを通っていった。
「うぉぁ!」
「敵か!?」
草薙が情けない声を出すと、ミゲルが状況を把握して周囲を見渡す。そして剣を抜こうとしたが、狭い荷物席であるためなかなか抜刀出来ない。
そんなことをしていると、馬車を曳いていた馬二頭の首がいきなり飛ぶ。馬車はそのまま勢いを落として停車した。
それを取り囲むように、黒いローブをかぶった何者かが複数人、周りの建物の上で馬車を包囲する。
「こりゃマズいことになったな……」
やっと抜刀したミゲルが、周囲の状況を確認して言う。そして冷静に指示を飛ばした。
「ジークと僕とアリシアはここで敵を迎え撃つ。その隙にタケルとミーナさんは殿下を連れてギルド本部に逃げるんだ」
「二手に分かれるんですか? だったらここで一緒に戦ったほうが……」
「それだとここで馬車を使って籠城戦をすることになる。向こうの方が明らかに優位だ。だからこそ、二手に分かれるべきなんだ」
草薙の反論にも、正論で投げ返すミゲル。これを言われた草薙は、無言で承諾するしかなかった。
草薙は荷物席から降り、ワゴンの扉の取っ手に手をかける。中でジークが飛び出す準備をしていた。
「今だ! ジーク!」
ミゲルの叫び声と共に、草薙が扉を開ける。外に出ながら、ジークがスキルを発動する。
『アガスト・ミギー!』
黒い敵に幾千のダガーナイフが降り注ぐ。敵は各々ダガーナイフに対処している。
「今のうちに!」
草薙は王女の手を取り、急いで引っ張っていく。王女の姿を確認した数人の敵は、草薙たちのほうへと駆け寄ってくる。
「ミーナさん! 王女殿下をお願いします!」
「はいぃ……!」
王女のことをミーナに託し、草薙は殿として走る。そのまま振り向きざまに、スキルを使用した。
「短地!」
まず一番近くにいた敵に対して距離を詰める。そのまま身体強化スキルを最大にまで高め、勢いよくぶん殴る。
「短地ッ」
ぶん殴った後はすぐに別の敵の元へと移動し、同じようにぶん殴る。
「短地! 短地! 短地ッ!」
追手の分だけぶん殴る。その間、わずか五秒ともかからなかった。
追手を返り討ちにした草薙は、王女とミーナの元に戻る。
「お二人とも、大丈夫でしたか?」
「はい、今のところは……」
「もう少しでギルド本部に着きますので、どうか辛抱ください」
そういって三人は走る。その時、三人の目の前に巨大な影が現れる。身長三メートルはあろうかという巨体の男性だった。
「王女殿下! お下がりください!」
草薙は王女の前に出る。その時には巨人が王女に向かって手を伸ばしていた。
その手に合わせるように、草薙は拳を強く殴りつける。拳が入った角度や速度などの好条件が重なり、巨人の伸ばした手は弾かれて近くの建物にめり込んだ。
「走って!」
草薙は王女とミーナに叫び、再び殿を走る。巨人は建物から瓦礫と共に手を引き抜き、草薙たちのことを追跡する。その後ろからは、先ほどの追手が迫ってきていた。
「クソ、キリがねぇ!」
草薙は手のひらに魔力を集中させ、放出魔法を使う。
『メッサー・スピアー!』
魔力の刃をあらん限り生成し、それを敵に向かって放出する技だ。これもジークの「アガスト・ミギー」に似ている。
魔力の刃は追手を次々と貫き、行動不能にしていく。しかし、巨人には効いてないようだ。巨人は再び草薙たちのことを追いかける。
(このままじゃジリ貧だ……。何とかして巨人を行動不能にさせなければ……)
その時、草薙は一つの策をひらめく。
(……これしかない!)
草薙は後ろを振り向き、巨人と相対する。
「身体強化……!」
限界まで身体を強化し、体を前かがみにさせる。
「……短地!」
全力で地面を蹴る。それによって、地面が割れるだろう。短地による瞬間的な加速は、音速にまで達しようとしていた。
その速度のまま、巨人の左胸に向かって拳を振るう。
巨人と拳が衝突した瞬間、巨人の胸が大きく凹む。背中側まで衝撃は伝わり、皮膚が張り裂けて大量の出血をする。
草薙の体は衝突の影響で強く反発し、大きく後ろに飛ぶ。草薙が地面に降り立った時、巨人は心臓の鼓動を停止して地面に倒れた。
「なんとか、なった……」
巨人が停止し、追手も来てないことを確認してから、草薙は王女とミーナの後を追いかけた。