王都、第二城壁西門の外。今まさに近衛師団とノーフォード公爵軍が武力衝突していた。

「魔法兵、火炎弾発射！」

「重装歩兵、前に出ろ！」

「騎兵隊突撃！」

「城壁の投石機も動かせ！　西門の侵入は絶対に阻止しろ！」

　近衛師団は西門を中心とした防衛陣形。ノーフォード公爵軍は魔法兵と騎兵隊を中心とした機動重視の布陣。

　この状況で一番問題なのは、近衛師団の兵士たちはなぜ戦っているのかを理解していないことだ。そもそも公爵軍がやってくること自体、末端まで連絡が届いていない。その上、なぜ同じ王国民同士で戦わないといけないのかと疑問を抱く兵士もいる。

　そんな兵士たちを、上官は殴ってでも戦わせないといけない。

「隊長！　なぜ同じ国民同士で争わないといけないのですか！？」

「国王陛下が公爵軍と戦うようにご命令を下されたからだ！　つべこべ言わずに戦え！」

「自分には出来ません！」

「なんだとぉ！」

　そんなことを言い争っている間に、敵からの攻撃に曝され負傷する。

　それを近衛師団長が城壁の上から眺めていた。

「師団長、報告します！　我千五百に対して、敵は三千五百！　現在も状況は不利になりつつあり、負傷者も時間を追うごとに増えています！」

「マズいな……。ただでさえ王都防衛のために戦力を割いているというのに、ここに来て負傷者が増えているか……」

　部下からの戦況報告を聞いた師団長は、周囲を見渡して何か解決策はないか考える。城壁の上を伝って、向こうのほうから大陸軍の弓兵がやってきていた。

「大陸軍の弓兵がこっちに来ているな。彼らの指揮は第六大隊長に任せる。これで戦況が変わればいいが……」

　しかし、師団長の願いは打ち砕かれることになる。

「貴兄ら、なんでそんなに矢の数が少ないんだ？」

「えっ！？　矢の数が少ないのは当然ですよ。一本いくらすると思っているんですか」

　一人当たり約六本しか持っていなかった。その弓兵は合わせて二十人ほど。百本強しか矢はないのだ。

　近衛師団には弓兵はいない。なんとなくのイメージだけで判断していた。それが結果としてミスを引き起こしたのである。

「敵に命中した矢を引き抜いて再利用するのは現実的ではない……。何か矢の代わりになるものがあるかと言われれば、ない……」

　師団長は一つ溜息を吐いた。

「出し惜しみしていても仕方ない。全て命中させる気で放て！」

　大隊長に命令を下し、それを大隊長は遂行する。

「狙いを定めて矢を引け！」

　大隊長の命令通り、弓兵は矢をつがえて弦を引く。

「狙いが定まったら順次放て！」

　その指示の元、弓兵は次々と矢を放つ。矢は真っすぐ飛ばずに、放物線を描いて落下する。絶え間なく動く戦場かつ下方に向けての放射であるため、しっかり狙ったつもりでも矢は命中しなかった。

「これじゃ駄目だ！　もっと大きくて鈍重な相手じゃないと」

「じゃあ馬だ！　馬を狙え！」

　それでも矢は命中せず、思ったような戦果は上がらなかった。

「弓兵でも駄目か……。そうなれば八方ふさがりになってしまう……」

　師団長は何か他に方法はないか考える。

　他に応援を呼ぶ？　その間に西門を突破されるかもしれない。手の空いた弓兵を農機具で武装させて突撃させる？　慣れないことをすれば負傷者が増えるだけだ。ならば城壁の石でも壊して投擲させる？　それで防衛がなおざりになれば本末転倒だ。

　師団長は判断を迫られていた。

　その時である。北のほうから、城壁の外側に沿って何かが接近しつつある。

「我らカルナス子爵軍、五二一名参陣！」

　隊長と思われる、馬に乗った騎士が叫ぶ。それに続くように、兵士が隊列を成して走っていた。

「カルナス子爵軍、本当に来たのか……！」

　師団長は救われる思いだった。少しでも戦力が増えれば、その分勝てる見込みが増えるからだ。

「全軍、公爵軍に突撃ィ！」

「「うぉぉぉ！」」

　野太い雄叫びに続き、子爵軍は公爵軍に向かって攻撃を加える。

　ここで決定打になったのは、槍を持った兵士がいたことだ。古来より槍は攻撃範囲が広い上に重量があるため、降り降ろすだけでも十分な攻撃力を持つとされる。集団を作った槍兵により、戦況は変わりつつあった。

「このまま押せばいける……」

　師団長に希望の光が差し込んできた。