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第50話 たぶん終わった

「現在公爵軍は、近衛師団第一〇四連隊と第一〇五連隊及び子爵軍と交戦。状況は拮抗しているものの、我の軍勢で負傷者多数出ていると報告があります」


 軍事担当の侍従がそのように報告する。


 執務室で護衛されながら執務を行っている国王は、その報告を受けてすぐに指示を出す。


「南門にいる近衛師団第一〇二連隊を、西門の応援に出す。第一〇二連隊の穴は憲兵で埋めてくれ」

「はっ」


 侍従は執務室のすぐ外で待っていた近衛師団の伝令に、国王からの下命を伝える。


「さて、後はどうなるかだな……」


 国王は椅子に背中を預け、書類に目を落とす。


「ノーフォード公爵の悪事の全貌を解明するには至らないが、断片は少しずつ見えてきている。あとはなんとかして、決定的な証拠を掴みたい所だが……」

「現在諜報員が総力を挙げて捜査中ですが、まだ報告が上がってきていません」


 国王の呟きに、侍従次長が答える。


「後は時間の問題だと思っていたが、ここで煙に巻かれると非常に厄介だ」


 国王は少し考えた。


「もし我が彼と同じような立場にあったら、どのように行動するだろうか?」

「はぁ……? それならば、木箱などで陛下の身を隠し、荷物馬車に乗せて、人気のない場所から王都を脱出させますな」


 侍従次長がそのように答える。それを聞いた国王は、顎に手をやる。


「やはり、このままではマズいか……。証拠が集まってから逮捕するのは、あまりにも時間がかかりすぎる」


 そう判断した国王は、侍従次長に命令を下す。


「現在を以って、ノーフォード公爵カラム・ノーフォード卿を緊急指名手配とする! 緊急のため罪状は無し! 見つけ次第、直ちに王宮へと連行せよ!」

「はっ!」


 侍従の一人が憲兵の詰所へ向かう。


 現在は緊急事態宣言下であるため、国王の命令は憲法や法律よりも優先される。制限君主制の中でも、国王の権限が最大限に増大する数少ない場面である。


 こうして、憲兵がノーフォード公爵の身柄を拘束する方向に動いていく。


━━


 草薙とミーナ、そして王女は、無事に冒険者ギルド本部に到着し、王女の身柄を保護していた。


「この部屋は建物の中心近くにあるため窓がなく、比較的安全です。現在は頻繁に使う物置として使用していますので、埃などの心配はありません」

「ありがとうございます」


 こうして草薙たちは休憩を取る。


「ここまで来れば、比較的安全なはず……」

「ありがとうございます。皆さんが身を呈してくれなければ、私は今頃殺されていたでしょう」


 王女がそのように話す。


「その脅威からお守りするのが、我々の使命であり、国王陛下からの命令ですから」


 真面目な表情で王女に話す草薙。しかし、その内心は少し焦っていた。


(ミゲルさんたち、大丈夫だろうか……。いくら優秀な冒険者と言えども、圧倒的な数の追手に勝てるだろうか……?)


 そんなことを考えていると、部屋の扉が開く。そこには少しボロボロになったミゲルたちの姿があった。


「ミゲルさん!」

「いやぁ、なんとかなって良かった。あの数の人間を相手にしたのはいつ以来だっただろう?」


 非常に呑気なことを言いながら、ミゲルは部屋に入る。


「ミゲルさんが無事で良かった」

「タケルも無事でなによりだ。だが、馬二頭と御者が犠牲になってしまった。残念なことだ……」


 そういってミゲルは反省する。


「いえ。彼らは黒いローブの人々によって殺されたのです。あなたは何も悪くありませんよ」


 そういって王女はミゲルのことを労う。


「ありがとうございます。王女殿下」

「それよりも今後のことを考えないといけません。この後はどうするつもりですか?」


 王女はミゲルに尋ねる。


「と、言われましても、僕自身も考えあぐねているところでして……。残念ながら最適な答えは明示出来ません」


 ミゲルは申し訳なさそうに言う。


「このまま緊急事態宣言が解除されるまで待つか?」

「そしたら何日かかるか分からないのです」


 ジークの提案に、アリシアが否定する。緊急事態宣言がいつまで布告されているか分からない以上、冒険者ギルド本部に留まっていては危険が増大するだけである。


 そんな時、部屋の扉がノックされて、外から声が聞こえてくる。


「『ヘイムダルの剣』様、いらっしゃいますか?」

「はい」

「少し失礼します」


 扉が開くと、ギルド本部の職員が入ってくる。そのまま扉の前で話し始めた。


「先ほど武力省より連絡がありました。公爵軍と戦闘状態にある西門に、王都に在住する退役軍人を動員したとのことです」

「退役軍人を動員したのか? 僕たち冒険者ではなく?」

「はい。国王陛下がノーフォード公爵家当主を緊急指名手配したことによる影響です」

「アイツ指名手配されたのかよ」

「北門にて不審な荷物馬車があったため、検問を行った所、楽器ケースの木箱の中にノーフォード公爵家当主が潜んでいたとのことです。指名手配されていたのでその場で逮捕しました。また当主が逮捕されたので、公爵軍に対して停戦の呼びかけも行いました」

(なんかあっけなく終わってない?)


 草薙は心の中で思うだけにした。

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