時は過ぎて翌日。王都では引き続き非常事態宣言が宣告されたままであったが、人々の暮らしは平穏なものになっていた。
その理由は単純。公爵軍との戦闘が終了したからである。現在ノーフォード公爵は、憲兵の詰所にて拘留中だ。
「なんだかあっけなく終わりましたね……」
念のため、冒険者ギルド本部に留まっている草薙たち。情報提供をしてもらっていることで、現状の外の様子は理解している。
「まぁ、それだけ急に始まった上に大雑把な計画しか出来なかったのが致命傷になったんだろうな」
草薙の感想に、ミゲルがそのように答える。
「ひとまず、動乱が収まったようでなによりです」
王女は一安心したように言う。
「それにしても、どうしてこんなことになっちまったんだろうな」
ジークがボソッと呟く。
「ノーフォード公爵の暴走じゃないのですか?」
アリシアがジークに聞いた。
「俺の勘では、ノーフォード公爵は必要に迫られて決断したんじゃないかと思っている。公爵自身や陛下以上の何者かによってな。それこそ神とか」
「そんなまさか。神は存在するとしても、現世に介入はしないだろう?」
ジークの見解にミゲルがツッコむ。
「……それもそうだな。悪ィ、変なこと言ったわ」
「だが、ノーフォード公爵が何か決断したのは間違いないだろう。問題は、その決断が一体なんなのか、だが……」
ミゲルは顎に手をやり、考える。
そのようなことをしていると、部屋の扉がノックされる。入ってきたのはシーラン総長だ。
「失礼する」
「総長、お疲れ様です。急にどうされたのですか?」
「あぁ。王女殿下が本部にいるというのに、挨拶に行かないのは失礼だと思ってね」
そういってシーラン総長は王女の前で跪く。
「お久しぶりです、王女殿下。もう五年も前のことでしょうか」
「ご機嫌麗しゅう、総長」
そういって挨拶を交わしたあと、シーラン総長はミゲルのほうを見る。
「国王陛下の使いがここに来た。この後、近衛師団の連中が王女殿下をお迎えにあがるそうだ。そして君たちは憲兵の詰所に行って、ノーフォード公爵の様子を見てきてほしいとのことだ」
「分かりました。近衛師団の迎えが来次第、詰所に向かいます」
数十分後、予定通り近衛師団が王女のことを迎えに来た。草薙たちは王女のことを近衛師団に引き渡し、憲兵の詰所へと向かった。
「しかし、国王陛下も考えていることが謎だ。大陸軍の師団長でも向かわせればいいものを、なぜ我々の頼むのだか……」
ミゲルが首をかしげながら言う。
「それだけ私たちのことを信用しているのでしょう」
ミーナが説得する。
一行は、憲兵の詰所の入口まで来る。すると、入口に見たことある人がいた。
「あれ? ナターシャ?」
「あ、タケル!」
王都動乱中は、ずっと別行動だったナターシャがいたのだ。
「どうしたの急に」
「国王陛下がタケルたちについていくようにおっしゃってたの。これからノーフォード公爵様の所に行くんでしょ? お父様の私兵に攻撃した理由を聞いて、賠償を払ってもらわないといけないわ」
「あー、なるほど……」
こういう形で戦争の経済は回っているのだなと、草薙は思うことにした。
草薙たちは詰所に入り、憲兵の案内によりノーフォード公爵が拘留されている牢屋へと案内される。
「……誰だ?」
牢屋にいたノーフォード公爵は、以前相対した時のような威厳に満ちた様子は無く、ただ酷くやつれていた。
「冒険者ギルドに所属する『ヘイムダルの剣』です。以前うちのタケルに挨拶したでしょう?」
「あぁ、あんときの悪ガキか……」
「だいぶ口が悪くなりましたね。変なものでも食べました?」
「残念だな。私は元からこうだ」
ミゲルとノーフォード公爵の会話は、どこか不穏な感じもあった。おそらく、お互いに軽蔑し合っているのだろう。
「……あなたが反王家派であることは聞きました。タケルに暗殺者を差し向けたのもあなたですか?」
「そうだ。どれだけ私財をつぎ込んででも消し去ろうとした」
「なぜです?」
「国王の座に就くには、国王自身とヤツとつるむ連中全てを排除する必要がある。近衛師団、大陸軍、冒険者、全てだ。その中に悪ガキがいたに過ぎない」
ノーフォード公爵は覚悟を決めていたようだ。どんなに高い壁だろうと、絶対に乗り越えるという気迫があった。
「今回の一件で、あなたの爵位は取り上げられることでしょう。そして取り調べ。その後でもいいので、我々は煮たり焼いたりします」
「自由にしろ。それでも私は決して口を割らない」
「……なぜ自信があるのです?」
「簡単なことだ。私の命はもうないからな」
その瞬間、ノーフォード公爵の首に、光り輝くリングのような物が現れる。次の瞬間には光輪は縮小し、ノーフォード公爵の首を二分していた。
「なっ……!」
その場にいた全員が、ノーフォード公爵の首から血が噴きだすのをただ見ることしか出来なかった。