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第53話 復活した

 緊急事態宣言下ではあったものの、草薙たちは信頼されているパーティであったため、すんなりと国王の執務室に入れた。


「ノーフォード公爵の件で話があるそうだが、一体何があったのだ?」

「はい。実は、ノーフォード公爵が殺害されました。犯人は魔王配下の四天王の一人、獄炎のヒラエルという者です」

「なんと……! ノーフォード公爵は魔王の四天王に殺されたというのか……!」


 国王は事態の重大さを一瞬で理解する。


「これは由々しき問題だな……。ノーフォード公爵から爵位と領地を取り上げ、今回の事件に関する供述でも聞こうと思っていたのだが……。それも叶わぬのか……」

「陛下。今問題なのはノーフォード公爵よりも、魔王四天王の対応です」

「うむ……、そうだな」


 ミゲルが国王に進言した。国王は今の論点を変える。


「四天王が出現したと言うことは、過去の文献にあるような伝説上の物語が現世に戻って来るということか……」

「おそらくそうでしょう。となれば、魔王の復活も近いということでもあります」

「今すぐにでも魔王が復活するとなると、軍備も情報も何もかも足りないことになる。それに我が国で魔王が復活すると、最悪外交問題に発展するかもしれん」


 国王が起こりうる可能性を挙げる。王国内での被害ならば自国で何とかすれば問題ないが、国境を超えて他国まで被害が及ぶとなると非常に面倒なことになる。


 国王はそれを危惧しているようだ。


「しかし、まだ魔王が復活したという情報はありませんし、そのような兆候もないと言えるでしょう。ですが、四天王が復活している以上、魔王が復活するのも近いと言うほかありません」


 ミゲルがそのように説得する。


「しかしよ。魔王が復活したのをどうやって観測するんだ?」


 ジークがミゲルに尋ねる。


「それは分からない。だが四天王の様子を見るに、非常に礼儀正しい連中の可能性がある。つまり、魔王が復活した時は、そのことを僕たちや国王陛下に伝えてくるだろう」

「その推測が間違っていたら?」

「その時は、魔王の根城をくまなく探すほかないさ」

「うげぇ……。それ、俺たちがやらないといけないヤツじゃん」


 ジークは嫌な顔をする。それを無視して、ミゲルは言葉を続ける。


「とにかく、魔王の復活は近いと言うことになります。様々な準備が必要なのは分かりますが、まだ我々には戦力があります」

「どこにあるんですか?」


 草薙がミゲルに聞く。


「今も王都の西側にいるだろう? ノーフォード公爵の私兵を使うんだ」

「なるほど。その考えは悪くないな。一つの懲罰部隊として使用すれば、君たちの負担は軽減できるかもしれん」


 そのように国王は同意する。


「では早速、公爵軍を使って魔王の捜索に━━」


 その瞬間だった。その場にいる全員が、激しい頭痛に襲われる。


「ぐぁぁぁ!」

「い、痛い……!」


 まるで脳を直接縛り付けられているような感覚だ。それと同時に声が聞こえてくる。


『王国にいる人間どもよ、私は魔王ベルベガサス。この地を蹂躙し、余が支配するために復活した! そのために、最初の刺客を送り込んだ。獄炎のヒラエルとの戦いは素晴らしく絶望しただろう……!』


 魔王ベルベガサスはそのように発言するが、しばらく沈黙が続く。


『……なぜ人々は驚かない? おい、ヒラエル! 一体どうなっている? ……何? ヒラエルが死んだ? なぜだ? ……魂を浄化されただと!?』


 独り言のような言葉が続き、ベルベガサスは一つ咳をする。


『四天王のうちの一人を倒すとは、なかなかやるではないか! 褒めて遣わす! しかし! 今後もこのようになるとは限らん! 恐怖に震えるがよい! 北の山岳地帯で待っているぞ!』


 そういって魔王ベルベガサスは高笑いする。そしてその声は次第に遠くなっていった。


 声が完全に聞こえなくなると、全員頭痛から解放される。


「今の、本当に魔王の仕業……だったのか?」

「一体何だったんだ……」


 ジークと草薙が困惑している中、ミゲルは今の声を冷静に分析する。


「先ほどの声は魔王の物と断定していいでしょう。問題は『北の山岳地帯で待つ』という文言。これは文字通り、北部にある山岳地帯に魔王がいることを示唆しているはずです」

「お前、あの痛みの中でよくそんなこと考えてられるな……」


 ジークが呆れたように言う。


「うむ……。かの声はそのように言った。これを正しいものとして扱うほかないだろう。しかし、実際に魔王は復活してしまったか……」


 国王は悲しそうに言う。


 若干悲壮感漂う執務室に、クリスタシアが飛び込んでくる。


「お父様! 今の声をお聞きになりましたか!? 魔王が復活してしまったようです!」

「クリスタシア、お前も聞いたのか?」

「えぇ。お母様もお聞きになりました」

「私たちだけじゃなくて、広い範囲で声が聞こえたのです?」


 アリシアはそのように考える。その時、ミゲルが慌て出す。


「まさか、王国の国民全員に聞こえていたのか……!?」


 すると、近衛師団の伝令が執務室に飛び込んできた。


「陛下! 大変です! 魔王と思われる声を聞いた市民が、王宮に押し寄せています!」

「なんだと!?」


 執務室にいた草薙たちは、アウステンバーグ城から王都を一望できるテラスへと走る。


 テラスに出てみると、アウステンバーグ城の目の前には何万人もの市民が押し寄せていた。人々は魔王の脅威に怯え、助けを乞うことを叫んでいる。


「これは大変なことになった……」


 国王が息を呑むほど切羽詰まった状態であるのを、草薙は理解した。

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