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第54話 二人目が来た

 国王はテラスから市民に対して叫ぶ。


「国民よ! どうか冷静になってほしい! 魔王は復活したが、我々が負けることは決してない! このことを信じて、今は家に帰ってほしい!」


 そのように魔法の拡声機能で話すものの、国王の声は届いていない。人々はひどく混乱しているようだ。


「このままでは埒が明かない……。憲兵と大陸軍を呼べ! 王宮から市民を引きはがすんだ!」

「しかし陛下、そんなことをすれば市民から反発を食らいますぞ!」

「今は緊急事態宣言下だ。構わん」

「ですが、今の緊急事態宣言はあくまでノーフォード公爵が反乱を起こす可能性についてのものなので、今回は適応外かと……!」

「なら再宣告だ! 今の宣言を取り下げ、新しく宣言を出すんだ!」

「は、はいっ!」


 そういって侍従がテラスを去る。その様子を見た草薙は、少し危機感を覚えた。


(国王陛下は現在の脅威となり得るであろう市民の排除を、緊急事態宣言の名の元に実行しようとしている……! 排除を強硬するなら、市民の反発は必至……! その前になんとあしなくては……)


 草薙は口を開こうとした。その時、どこからともなく声が聞こえてくる。


『聞こえているか、愚かな人間ども。私は魔王の四天王が一人、極寒のカリシュエル。この国を極寒で不毛の土地に変えてやる。愚かな人間ども、早く家に籠らないと凍死してしまうぞ』


 四天王の一人が人々に話しかけてきたのだ。この声を聞いた市民は大混乱し、続々と王宮から離れていく。


「人々が移動していく……」


 テラスから様子を見ていたナターシャが、思わず口にする。あっという間に人々は散り散りに去り、王宮の前から消え去っていった。


「集団心理ってこえーなぁ……」


 草薙はボソッとそんなことを呟く。


 しばらくして。


「問題は、四天王がそれぞれで僕たちのことを攻撃することだ。それはそれでありがたいが、個々の戦力が大きいことを示しているだろう」


 国王の執務室に戻ってきた草薙たちは、ミゲルの発言に耳を傾ける。


「しかし、その四天王をどうやって探すかが問題だぜ?」


 ジークが指摘する。


「確かに、敵の場所が分からないと意味がないのです……」

「その点に関しては、探して戦うのは困難に等しいと考える。向こうから直接攻撃してくるのを待つだけだ」


 ミゲルが反論する。


「それじゃあ籠城も覚悟しないといけなくないですか?」


 草薙が質問する。


「その通りだ。だが、いつまでも籠城するわけにもいかない。そこで、公爵軍の私兵を使った懲罰部隊の編制だ。籠城している傍ら、懲罰部隊で四天王や魔王の根城を特定する。編制に関しては国王陛下の助力を得る形にする」

「任せるがいい。公爵の私兵とて、我の命令には逆らえんだろう」


 国王はそのように言う。


「つまり、懲罰部隊が斥候、僕たち『ヘイムダルの剣』が攻撃部隊となるんだ。理想的な攻撃態勢だと思うんだけど、どう?」


 ミゲルは草薙たちに聞く。


「まぁ、斥候は広い範囲を大勢で探したほうが効率的だからな」

「問題はないと思うのです」

「私も問題ないと思います」

「自分も大丈夫です」


 全員が賛成の意を表明する。


「では決まりだ。問題は、極寒のカリシュエルがいつどんな攻撃を仕掛けてくるかだが……」


 そんなことを考え出すミゲル。


「でも今は冬だぜ? 確かに春は近いけど、そこまで急に変化するものじゃないだろ」


 ジークが外の様子を見ながら言う。しかし、ジークの言葉とは反対に、天候はだんだんと悪くなってくる。


「しかし、寒くなってきたな。天気も悪そうだ。厚着できる服を持ってきてくれ」


 国王が侍従に指示を出す。


 そんな中、草薙は空の様子を見ながら、思考を巡らせていた。


(今回の敵は極寒の二つ名がついていた……。順当に考えるなら、寒さに関する能力を持っているのが正解だ……。となると、今から寒くなるのは、四天王からの攻撃……?)


 何も確証はないどころか、これは草薙の妄想である。これが正しいとは限らない。


(今は様子見するしかないか……)


 そういって草薙は、窓の外を不安そうに眺めるのだった。

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