草薙は、王都にある冒険者ギルド本部のカフェテリアでコーヒーを飲みながらステータス画面を見ていた。
『身体強化レベル二十五
短地レベル二十
自己防御レベル十八
放出魔法レベル二十四
魂浄化レベル五』
(よく分からんスキルが追加されているな……。多分獄炎のヒラエルを倒した時に入手したんだろうなぁ)
そんなことを考えるが、それを邪魔する物があった。冒険者ギルド本部の扉から入ってくる冷たい風である。
「うぃー、さむさむ」
「こんな寒い時に依頼なんかできるわけないよなぁ」
「早く酒でも飲んで暖まりたいぜ」
ここ数日、厳密には極寒のカリシュエルの声が聞こえてから、王都の気温はどんどん寒くなっていった。王都上空には雲がかかり、雪を降らせている。これが余計に寒さを誘発している状態だ。
「わざわざこんな時にギルド本部に来るとは、なかなか物好きだな」
そんな草薙の元に、シーラン総長がやってくる。手にはコーヒーの入ったマグカップがあった。
「総長、お疲れ様です」
草薙は椅子から立ち上がり、挨拶をする。
「かしこまらなくてもいい。今はオフだからね。相席いいか?」
「えぇ、どうぞ」
そういってシーラン総長は、草薙の横の椅子に座る。
「何かいいことでもあったかね?」
「え?」
「顔に出てたぞ」
「あぁ……。まぁ、そんなところです」
シーラン総長には勝手にスキルが増えていることは話していない。ここはあえて隠す。
草薙は少しぬるくなったコーヒーを飲みつつ、シーラン総長の様子を伺う。
「最近めっきり寒くなりましたね。これも四天王の仕業なのでしょうか?」
「それはまだ分からない。この時期の天気が不安定になるのはよくあることだからな。あと数日ほど待ってみて、天候も気温も回復しないのなら、それは四天王による影響と判断してもいいだろう」
そういってシーラン総長は、マグカップに入っているコーヒーを飲む。
「それに、今は緊急事態宣言が発表されている。もしもの時があれば、まずは憲兵か近衛師団が動くだろう」
「そうですね……」
その言葉に、少し不安を感じる草薙であった。
それから数日。天候も気温も回復せず、ただ冷たい風と雪が王都を襲っていた。積雪量は人間の背丈を優に超え、人々は除雪作業に追われている。その上、公爵軍を再編制した懲罰部隊からの報告も、いいものばかりではない。
この状況を重く見た国王は、草薙たちを王宮に招集した。
「見ての通り、王都は極寒の大地と化している。この現象は周辺の町村には見られず、王都にのみ発生しているようだ。十中八九、四天王の一人であるカリシュエルの影響と見て間違いないだろう。問題は、ヤツがどこにいるかということだ」
「現在、懲罰部隊による北部山岳地帯の調査を行っているが、めぼしい情報は見当たらない状態だ。引き続き捜索を続けるが、彼らの士気の問題もある。早急に発見をしなければならない」
草薙たちと一緒に招集されたドーニン伯爵が、そのように草薙たちに事情を説明する。
「前回のヒラエルの件を見るに、本体、もしくはそれに類する物体が王都に来ている可能性がありますね……」
ミゲルはそのように推察する。
「仮に本体が来ていたとして、どこに身を隠すかが問題ですが……」
草薙がミゲルに問う。
「それを考える時は、カリシュエルの仮想敵が何であるかを考えるのがいいよ」
「敵の仮想敵……」
それを想像する草薙。
「一番の敵は国王陛下自身。次に国王陛下の周辺人物……、王妃や王女、近衛師団や大陸軍のドーニン伯爵。その他にいるとすると……」
その時、草薙はハッとする。
「もしかして、俺たち……?」
「その通り。特に獄炎のヒラエルを倒したタケルに対しては、より強い殺意を向けてきているだろうね」
「んな馬鹿な……」
草薙は思わず嫌な顔をする。自分が標的になるとは思っていなかったからだ。
「でもタケルさんが目的なら、わざわざ王都全体に雪を降らせるなんてことしないと思うのです」
アリシアがそのような意見を述べる。
「確かに。タケルが標的なら真っ先に殺しにくれば解決なのにな」
ジークも同意する。
「それはおそらく、魔王の思惑があるのだろう」
そのように国王が話す。
「魔王が復活した時に、彼は自分がこの地を支配するって言っていた。つまり、そこにいる人間も一緒に排除しようとしている可能性がある。タケルを排除するついでに、王都にいる人々も排除しようと考えているのかもしれない」
「だからって、こんな回りくどいことするかぁ?」
ミゲルの解説に、ジークは率直な感想を述べる。
「問題はそこなんだ。なんでこんな回りくどいことをするのか、僕にもさっぱりで……」
ミゲルも悩んでいたようだ。
「でも方針は決まりましたね。ここは自分が囮になって、カリシュエルを引きずりだします」
「今の所、それが一番いい考えだ。しかし、タケルは大丈夫かい? 下手すれば死んでしまうような役目だぞ?」
ミゲルが心配する。
「まぁ、その時はその時ですよ。それに、死ねるのは本望なので」
こうして、四天王の一本釣りが始まろうとしていた。