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第56話 激闘をした

 作戦の概要は次の通りだ。王都に存在する、大陸軍と憲兵が共同で使用している運動場で草薙が一人で待つ。そこに現れたカリシュエルに対してミゲルとジークが不意打ち攻撃をし、加えて草薙も攻撃に加わるというものである。


「こんな単純な作戦でいいのかよ?」


 運動場に向かう道中で、ジークが尋ねる。


「本当だったら大陸軍の魔法兵にも来てほしい所だけど、こんな天候じゃどうしようもないし、大勢いたらこっちの作戦がバレる可能性もあるからね」

「ま、ミゲルがそういうならいいんだが」


 雪にまみれながら、草薙たちは運動場に到着する。


「それじゃあ、作戦通りに頼むよ。タケル」

「分かりました」


 そういって草薙は運動場の真ん中に移動し、他の四人は近くの小屋の物陰に隠れる。


 草薙が運動場の中心に移動すると、風雪は強くなってくる。一メートル先も見通せないような猛吹雪になった。


 そんな中、聞き覚えのある声が響く。


「ぬけぬけと出てきよったな、人間よ」


 カリシュエルの声だ。空を見上げてみると、そこには青いドレスを着た女性のような怪物が空中に立っていた。ヒラエルと同じように角が生えており、足は逆関節になっている。


「お前がカリシュエルか?」

「そうだ。かくいう貴様がヒラエルの魂を浄化した人間だな?」

「そういうことになっている」

「ならば、貴様を葬り去ってやる!」


 その瞬間、カリシュエルは草薙に向かって突進する。草薙は防御体勢を取り、カリシュエルの初撃を受け止めようとした。


 その瞬間、カリシュエルはクルリと身を翻し、草薙のことを蹴り上げる。


「グアッ!」


 草薙はそのまま吹き飛ばされ、新雪の上に落ちる。


「タケル!」


 草薙が新雪の上に落ちる所を見たミゲルは、急いでカリシュエルの所へと走る。


『流れ斬り!』


 そのままスキルを使用し、連続攻撃を行った。いくらか攻撃は通用しているものの、切り傷を増やす程度であった。


「貴様、あの人間の仲間か?」

「そうだ」

「ならば貴様も死ね!」


 ミゲルを頭上から切り裂くような攻撃が入ろうとしていた。


『デトネーション!』


 カリシュエルの手の辺りで指向性の爆発が発生する。ミーナの攻撃だ。


『アガスト・ミギー!』


 カリシュエルの体がミゲルから離れた所で、ジークのスキルが発動する。幾千ものダガーナイフが降り注ぎ、カリシュエルの体を突き刺す。


「クソ、最近攻撃が通用しているようには見えないぜ……!」


 雪煙の中、倒れることなく攻撃を受け止めたカリシュエルを見て、ジークが愚痴をこぼす。


「タケルさん! 大丈夫なのです!?」


 草薙の様子を見に行ったアリシアが、雪の中をかき分けて草薙に近づく。草薙は頭に雪をかぶった状態で出てきた。


「えぇ、なんとか……」


 草薙は今の状況を確認し、攻撃体勢を取る。


「貴様ら、全員殺してやる!」


 なぜかカリシュエルの怒りが頂点に達し、ブチ切れた。そのまま草薙のほうへと飛んでくる。


「うぉぉぉ!」


 草薙はカリシュエルの突進に合わせて、拳を振るう。二人の拳同士がぶつかり、周囲にあった雪が吹き飛んでいく。


「オ゙ラオ゙ラオ゙ラオ゙ラァ!」


 カリシュエルの野太い声が響くと同時に、拳を連続して草薙に打ち込んでくる。草薙は自己防御スキルで防御力を上げ、防戦一方となる。


 そこへジークがスキルを使用せずに、自分の腕前だけで攻撃を仕掛けてくる。ジークのダガーナイフはカリシュエルの首元へと向かっていた。


「食らえッ!」

「甘いッ!」


 草薙のことを拳で吹き飛ばし、距離を確保したところで、ジークのダガーナイフにも反応する。カリシュエルは腕でダガーナイフを受け止めるが、そこにジークの姿は無かった。


「こっちだ!」


 ジークはいつの間にかカリシュエルの背後に回っており、再度首元に向けてダガーナイフを振る。


 今度こそ入ったと思われたが、ジークのダガーナイフは何か硬い物に阻まれる。カリシュエルの首には鱗が生えていたのだ。


「クソッ!」


 ジークはダガーナイフを振るった反動で、カリシュエルから距離を取る。


 その直後、カリシュエルの真下で魔法陣が展開する。


『デトネーション』


 ミーナの攻撃により、カリシュエルは爆炎に包まれる。


「やったか……!?」

(やったか禁止)


 ミゲルの発言に、草薙は心の中でツッコミを入れる。


 そして案の定、カリシュエルは立っていた。しかし、ミーナのデトネーションによってかなり痛手を負っているようだ。


「なかなかやるな、人間……! だが、まだだ!」


 そういってカリシュエルは、草薙に向かって飛んでいく。あまりにも素早い動きであったため、誰も動けずにただ視線で追うだけしか出来なかった。


「タケル!」


 ミゲルが思わず声を上げる。そんな草薙は、すでに集中しており、右手を前に出していた。


「食らえッ!」


 カリシュエルが拳を出した瞬間だった。草薙がその拳を右手でキャッチする。


「コイツッ……!」

「悪いけど、戦いはここまでだ」


 そう言った瞬間、草薙が握っていた右手からカリシュエルの体が蒸発していく。


「ぎぃやぁぁぁ! あ、熱い!」


 カリシュエルは草薙から逃げようと必死に手を引くが、逆に顔面を掴まれてしまう。


 そのままカリシュエルの体は蒸発しつつ、灰のようにサラサラと溶けていく。


「このスキル……、ただの後天的特異技能ユニークスキルじゃないね……!」

「ご明察。ご褒美に地獄行きのチケットをあげるよ」


 そういって草薙はさらに力を込める。


「ぎゃあぁぁぁ!」


 そうしてカリシュエルは全身灰となって散った。すると、あれだけ悪かった天候が回復し、暖かな日差しが降り注ぐ。


「ふぅ、何とかなったかな……」


 激闘だったものの、損傷は少なかった。良い勝ち方をしたと草薙は感じた。

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