カリシュエルが灰になったことで、ギルド関係者の間では彼女は死亡した扱いになっていた。
「憲兵の捜索も入ったが、タケル君の言っていた灰から高い魔力が検出された。怪物化に匹敵するくらいの魔力だ。憲兵と大陸軍は、これを四天王の残骸として認定することが決まった。国王陛下にも、四天王が撃破された旨の報告がなされるだろう」
冒険者ギルド本部総長室にて、シーラン総長がそのように草薙たちに言う。
「正式に四天王を倒したという実績が出来て良かったー……」
草薙は深い溜息と共に、そのような感想を残す。
「タケル、お疲れ様」
「ありがとうございます、ミゲルさん。皆の力が無かったら、正直どうなっていたことやら……」
「それはこっちのセリフさ。タケルがいなかったら、四天王はいつまでも浄化されずに残っていただろうからね」
ミゲルは感謝の言葉を述べる。
「その通りだな。タケルのおかげで、四天王を倒せた」
「私たちだけだったら、どうすれば良かったのか、検討もつかないのです」
「それだけ、タケルさんは十分仕事を果たしたんですから」
ジーク、アリシア、ミーナが口々にそのようなことを言う。
そんな中、一人むくれている人物がいた。ナターシャである。
「むぅ。私だってタケルの活躍を見たかったのに……」
「いやまぁ、ナターシャは……さ?」
「私だって、対魔王の情報管理官になってなければタケルの応援に行ってたのにぃ!」
ナターシャは怪物化の調査からそのままスライドし、魔王に対する情報の収集・管理を任されることになっていたのだ。いくら子爵令嬢とは言え、二十歳に届かない若者に任せるには荷が重すぎる役職だ。
「もう書類仕事から解放されたいよぉー……」
そういって草薙に泣きつく。
「まぁまぁ、ナターシャのやっていることも無駄じゃないよ。大丈夫、ナターシャの集めてくれた情報は俺たちがちゃんと使うからさ。ね?」
「うん……。頑張る……」
駄々をこねた後の子供のように、ナターシャは大人しくなった。
「とりあえず、今はこのくらいか。また情報が入ったらナターシャ嬢から連絡が行くはずだ。それまではしばらく待機という形になる」
「わかりました。それでは、僕たちは失礼します」
総長室から出て、一行はギルド本部一階にあるカフェテリアでお茶をすることにした。
「しかし、少なくともあと二人の四天王がいるということだよな?」
ジークは紅茶を飲みながら、ミゲルに確認する。
「そのあたりの情報も全くないに等しい。ナターシャ嬢は何か聞いているかい?」
「いいえ。そもそも情報がないのですから、聞いても何も答えられませんわ」
「それはそうなのです。だから今は懲罰部隊の人たちが山岳地帯に行っているのではないのです?」
「えぇ。しかし、定期連絡では何も見つからなかったばかりですわ。正直こっちもお手上げですの」
「そうなると、やっぱり俺が行くしかないのかなぁ……」
コーヒーの入ったマグカップを見ながら、草薙はボソッとそのようなことを呟く。
「そうだなぁ。今の四天王は、タケルに対してヘイトを向けている状態にある。実際二人も殺した状態にあるんだから、タケルが前線に出るのは理にかなっているともいえるぜ」
ジークがそのように言う。
「しかし、北部の山岳地帯は厳しい環境だ。まだタケルは冒険者になって一年も経っていない。そんな人間を過酷な環境に出すのは、正直言ってオススメしないな」
ミゲルは反対する。
「しかしよぉ、いつまでも王都にとどまっていたら、街に被害が出るのは間違いないぜ?」
「そこが問題だな。場合によっては、王都の外で野営することも検討に入れないといけない」
そんな話をしている最中だった。外で吹いていた風がどんどん強くなっていく音がする。
「今日はなんだか風が強いな……。春の嵐でも近いのか?」
「そうですねぇ。でも、嵐にしてはちょっと土埃が多いように見えます」
ミーナの指摘通り、確かに土埃の量が多い。向かいにある建物が見えなくなるほどにだ。
「この近くって土が露出している場所なんてあったか?」
「……いや、見たことないな。大体草原しかないような印象だが……」
ジークとミゲルはお互いに顔を合わせる。そして一緒に立ち上がった。
「もしかしたら緊急事態かもしれない。皆、外に出てみるぞ」
「え、この状態で?」
草薙は思わず声を出してしまう。
「最悪の可能性を取り除くためだ」
そういってミゲルはカフェテリアを出る。ジークとアリシア、ミーナも続く。ナターシャはすでに会計をしていた。
「ま、待ってください!」
草薙はミゲルたちの後を追う。
草薙たちがギルド本部の扉を開けて外に出てみると、台風並みの暴風が吹き荒れていた。
「うわわわ、目が開けられないのです!」
「こんな土埃、一体どこから……?」
そんな時、草薙たちの頭上から声が響く。
「俺たちのことをお呼びかぁ!?」
その瞬間、風がやんだ。草薙たちが上を見上げてみると、そこにはこれまでの四天王と同じように、角の生えたヒト型実体が二体いた。