「そうだ、かかってこい」
ゴーレムに乗ったナミクシエルは、そのまま少しこぶし大の岩を複数飛ばしてくる。草薙たちはそれを回避しながら、ゴーレムに接近していく。
『流れ斬り!』
ミゲルが投石された岩を流れるように切り刻む。その隙を突いて、ジークがゴーレムに接近する。
『アガスト・ミギー!』
下から幾千ものダガーナイフを上方に打ち出し、ナミクシエルへ命中させようとする。しかし、それらはゴーレムによって簡単に止められる。
それに反撃するように、エドラエルは殺傷性のある小さなつむじ風を複数送り出す。
「ちぃっ!」
ジークはスキルで召喚したダガーナイフを、つむじ風のほうに飛ばす。つむじ風とダガーナイフが相殺されている横で、草薙は短地スキルでエドラエルとの距離を詰める。
「届け……っ!」
空中にいるエドラエルを捕まえるため短地スキルで壁を駆けのぼり、一気に距離を詰めていく。草薙のほうが動きが早いため、簡単にエドラエルに接近でき、もう少しで手が届きそうな所まで来る。
「ふんっ」
しかしエドラエルもただでやられる訳ではない。自身の体の回りに強力な竜巻を発生させ、草薙の体を押し出す。これにより草薙の軌道がわずかにズレて、エドラエルの体に触ることが出来ない。
「ぐっ……! 短地ッ!」
無駄は承知だが、空中で短地スキルを使用する。しかしそれでも、ズレた分の軌道を修正出来るほど移動出来なかった。
草薙は一度そのままエドラエルの横を通り過ぎ、近くの建物の上に降り立つ。そして状況を確認するため、一瞬ミゲルたちの方を見た。
ミゲルは投石とつむじ風両方の攻撃に流れ斬りで対応している。ジークはスキルでエドラエルの本体を攻撃しており、それにアリシアが身体強化魔法で補助している。ミーナは少し遠くからデトネーションでゴーレムを攻撃しているが、上手く攻撃が通っているようには見えない。
(このままじゃ、俺たちのほうが先に体力を消耗して負ける……!)
そんな判断をした瞬間、草薙の元に空気の螺旋流が飛んでくる。草薙は身体強化で自身の脚力を増加させ、回避に専念する。
「オラオラァ! そんな鈍い動きじゃすぐに捕まっちまうぞ!」
エドラエルは草薙に対して煽る。だが、草薙は回避に必死でそれどころではない。しかし、考えることは止めなかった。
(何か、何か策はあるはず……! 現状を打破できるような何かが……!)
その時、ふと視界の端でデトネーションが発動する。それを見た草薙の脳裏で、何かがつながった音がした。
(これならいけるか……? いや、やるしかない!)
そういって草薙は、短地スキルを連続で使用し、超人的な加速で広場を駆け回る。
「ちっ、ちょこまかと……!」
エドラエルとの距離が開いたところで、草薙は一目散にミーナのところに行く。
「ミーナさん! お願いがあります!」
「え? はい」
「あそこに自分が来たら、容赦なくデトネーションをぶち込んでください!」
そういって草薙は、広場にある石碑を指さす。
「じゃ、お願いします!」
「え、ちょっ……!」
それだけ言うと、草薙は再びエドラエルから逃げるために短地で移動しだす。
(後はミーナさんに狙ってもらうだけ……! その間に、俺は上げられるだけ速度を上げる!)
草薙は自身の体を身体強化で保護しつつ、殺人的な加速度で増速を繰り返す。
「このっ……! ちょこまかとこざかしい!」
そういってエドラエルは、速度を増す草薙についていく。草薙はそれを確認すると、さらに加速して石碑へと向かっていく。
息をするのも苦しくなるほどの速度が出ているが、それでも落とすことはできない。
やがて石碑の横を通過する草薙。その直後に、エドラエルが石碑の横を通った。
その瞬間、エドラエルの体が爆散した。
「あぇ?」
エドラエルは浮力を失って落下し、地面へ叩きつけられた。地面を滑り、止まった先にいたのは草薙だ。
「はぁ、はぁ……。身を呈した仲間の攻撃、かなり効いただろ?」
「お前、コレを狙っていたのか……!」
「そうだ。じゃ、成仏してくれ」
そういって草薙は、浄化スキルを使用してエドラエルに触れる。
「うがぁぁぁ!」
エドラエルはかなり早い速度で浄化され、やがて全身が灰へと化した。
「一丁上がり」
それを見ていたナミクシエルは驚愕する。
「なんだと……! あのエドラエルがやられるとは……!」
「よそ見している場合か!?」
ナミクシエルにダガーナイフの雨を降らせるジーク。ミーナもゴーレムの対処に入った。
「このっ、下等生物どもがぁ!」
ナミクシエルは冷静な姿勢から一変し、怒りをあらわにする。ゴーレムを介して地面を操作し、アリシアやミーナに攻撃を加える。地面からせり上がった土柱によって二人は打撃と共に空中へ放り出されてしまう。
「きゃあ!」
そのまま落下してダメージを負うかと思われたが、その前に動いた人物が一人、草薙である。短地スキルを使用して、二人を空中でキャッチしたのだ。
「二人とも無事ですか?」
「ちょっと痛むけど……」
「だ、大丈夫なのです」
それを見たナミクシエルは、激高する。
「このっ……!」
さらに攻撃を仕掛けようとしたところで、ジークのスキルによる攻撃を受けて、追撃を止めてしまう。
「まずは自分の身の安全をした方がいいんじゃないか?」
ジークはある方向を指しながら、ケラケラと言う。ナミクシエルがその方向を見ると、そこではミゲルが詠唱をしていた。
『やがては朽ちていく世界を見つめよ。あらん限りの力を我に授け、今解放せん!』
ミゲルの剣から、巨大な光の剣が出現する。
『ディフェンディアー!』
そのままゴーレムもろとも、ナミクシエルのことを斬る。
「ぐあぁぁぁ!」
ナミクシエルは左肩から右わき腹にかけて斬られ、その大部分を消失させられた。地面に落ち、そこへ草薙が接近する。
「最後に聞きたいことがある。他の四天王はいるか?」
「……四天王だから四人しかいない」
「そうなると、残るは魔王だけか?」
「……そうだ」
「分かった」
そういって草薙は、ナミクシエルの額に人差し指を触れさせ、そのまま浄化させる。ナミクシエルは抵抗することなく、自分が浄化されることを受け入れた。
こうして、甚大な被害を出したものの、無事に四天王全員を倒すことができたのだった。