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第60話 また響いた

 草薙たちはシーラン総長と共に、アウステンバーグ城を訪れていた。理由はもちろん、国王との謁見である。


「━━結論としましては、魔王の配下にいた四天王は四人であり、全員を撃破したことになります」

「きちんと息の根は止めたのだな?」

「はい」

「そうか、よくやった。大義である」


 国王はそのように草薙たちを褒める。だが国王はすぐに難しい顔をした。


「しかし、四天王は倒しても魔王が残っている。こやつの脅威を取り除かなければ、真の平和は掴み取れないだろう」

「その通りでございます。ですが、現在に至るまでどこに身を隠しているのか、全く分かっておりません」


 シーラン総長は頭を下げながら報告する。


「うむ。昨日の懲罰部隊からの定期連絡も、未だ発見に至らずという報告だった。人海戦術を使用しているとは言え、広大な山岳地帯から見た目も分からない人物を探し出すのは困難だったな……」


 そういって国王は頭を抱える。不可能に近い捜索に多額の資金と人材を費やしたことを後悔しているようだった。


「もう少し、特徴的な物が見つかればいいのですが……」


 シーラン総長は願うように言う。


 そんな話をしている最中だった。軍事担当の侍従が国王の元にやってくる。


「陛下! 懲罰部隊から至急の連絡です」


 そういって侍従はメモを渡す。


「……なんと!」

「国王陛下、一体何があったんです?」


 ミゲルが国王に聞いた。


「懲罰部隊から、人気のない山岳地帯では考えられないような巨大な城を発見したそうだ。内部の探索はこれから行うらしい。大まかな場所も書かれている。どうやら、山岳地帯の中腹にあるようだ」

「これまた面倒な場所にありますね……」

「そうだな。今後の情報に期待しよう。情報がもたらされたら、諸君らにも共有する」


 こうして謁見は終了した。


「とにかく、魔王のいる場所が分かって何よりだな」


 ジークがそのように言う。それにミゲルが反論する。


「いや、その城が魔王の物であるかはまだ定かじゃない。もしかしたら数百年前に建てられた旧時代の遺跡かもしれない。それに、懲罰部隊はあくまで命と命令を天秤にかけられている状態だ。もしかしたらでっちあげの報告をした可能性も残っている」

「疑い深いねぇ、ミゲルは。少しは信用してみてもいいんじゃないか?」

「だが、それで被害を被るのは僕たちのほうだ。慎重になってしかるべきだろう」

「なんでも疑ってたら、生活が成り立たないと思うのです」


 そんな話をしながら、一行は帰路に着くのだった。


 そして謁見及び懲罰部隊からの報告が上がって一週間が経過した。その間、現場にいる懲罰部隊からは一切報告が上がっていない。


「というわけで、ギルド本部に所属している冒険者に、山岳地帯での懲罰部隊の様子を確認して来るように依頼し、この後すぐに出発する」


 冒険者ギルド本部の総長室で、シーラン総長は草薙たちに話す。


「しかし、僕たちに話す必要があったんですか?」

「君たちは魔王が王都に出現した時の切り札だ。なにせ四天王全員を倒しているんだ、実力は十分にあるだろう」


 ミゲルの質問に、シーラン総長が答えた。


「とにかく、このまま放置していれば魔王は次なる手を打ってくる可能性がある。それを阻止するためにも、君たちには王都に留まっていてほしい」

「そういうことなら、承知しました。極力ギルド本部にて待機し、戦闘態勢を維持します」「すまないが、よろしく頼む」


 そうして草薙たちが部屋を出ようとした瞬間だった。突如として激しい頭痛が、部屋にいた全員に襲い掛かってくる。


「ぐぅ……っ!」

「こ、この痛み……! 知っているぞ……!」


 草薙をはじめ、全員が身に覚えのある頭痛でだった。


『余は魔王ベルベガサス。王国にいる人間どもに告ぐ! 余の怒りは今まさに最高潮に達しようとしている! 余の配下であった四天王は全員魂を浄化され、もうこの世にいない! その上余の城を土足で踏み荒らす始末! 踏み荒らした不届きものは全員始末したが、余はこれほどの屈辱を味わったことはない! そこで、一週間の猶予を与える。一週間後、貴様ら人間を全員抹殺する! この時代には勇者がいないからな、簡単に踏みつぶせる! 絶望と悲しみの一週間を過ごすがよい!』


 そういって魔王の高笑いが残響のように響き、消えていった。


「……今のは?」

「おそらく魔王の声だろう……。これはまた面倒なことになった」


 シーラン総長がそのように言う。


「君たちはここで待機していてくれ。私はすぐに国王陛下の元へ行ってくる」


 シーラン総長は外套を羽織り、部屋を出ていった。


「こりゃまた面倒なことになったな……」


 草薙は小声でボソッと呟いた。

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