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第61話 決まった

 二度目の魔王の声が響いてから二日が経過した。王都のみならず、王国全体が混乱に陥っていた。


「国民の多くが、自分たちの力で生き残るための行動を取り始めています。食料品や水、酒、武器になりそうな農耕具が大量に買い占められ、市場は混乱を極めています」

「貴族たちも独自に防衛策を講じ始めました。自身の領土から出ることを禁じ、一般市民も貴族の私兵とする動きがあるようです」

「近隣にある帝国、公国、連邦から兵士の派遣の打診を受けました。現在のところは好意でやってきているのでしょうが、そのうち王国を征服するための口実にするものと思われます」


 国王の元には、頭が痛くなる情報ばかり上がってくる。


「こんな時に限って国民が分断されるような情報ばかりで困るな……。しかし、そういった悪い情報が上がって来なくなるほうがもっとマズい。こればかりは耐えるほかない」


 そういって国王は、魔王対策を近衛師団長に相談する。


「懲罰部隊とは連絡が途切れたままです。定期連絡はおろか、緊急の連絡すら来ません。おそらく魔王の言う通り、懲罰部隊とそれの監督していた部隊は一網打尽にされたと考えるのがよろしいかと」

「懲罰部隊の士気が低く、呆気なくやられたというのは考えられないか?」

「可能性はありますが、監督部隊までやられたことを鑑みれば、魔王の戦闘能力は強大なものと推測されます」

「数を揃えたところで、勝算は低いままということか……」


 国王と近衛師団長は頭を抱えた。現状、魔王に勝てるシナリオが一切思い浮かばないからだ。


 しかし、近衛師団長はある人物を思い出す。


「もしかしたら……。彼らならなんとかしてくれるのではないでしょうか?」

「彼らとは……?」

「陛下もよく知っているでしょう? 『ヘイムダルの剣』ですよ」


 こうして草薙たちは、王宮の謁見の間に呼び出された。


「こちらで色々と検討した結果、諸君らに魔王を討伐してもらおうと考えている」


 この言葉に草薙たちは顔を見合わせ、当然とも取れるような表情をする。


(四天王全員を倒した上、魔王の影響てあろう怪物化現象に対処してた俺らを指名するのは当然だわな)


 そんなことを草薙は考える。


「ついては、大陸軍の一個師団を自由に使ってもよい。大まかな位置は知っているだろうが、改めて共有しよう」


 そう言って国王は少し悲しそうな顔をする。


「一国の長が前線に出ず、一組のパーティに国の命運を握らせるのは非常に心苦しい。本来なら、我も一緒に同行するべきなのだろうが……」


 国王の言葉を遮るように、クリスタシアが口を開く。


「何を言っているのですか、お父様! お父様がしなければならないのは、国民を安心させ、『ヘイムダルの剣』の皆さんを善良でサポートすることです!」

「その通りだ、クリスタシア。だからこそ、我はここに残り、吉報を待つしかない」

「では僕たちは、吉報をもたらせることができるように全力で戦ってまいります」


 ミゲルがそのように言う。


「うむ、期待しておるぞ」


 こうして謁見は終了し、草薙たちは冒険者ギルド本部に移動する。そこでは、シーラン総長とドーニン伯爵が草薙たちのことを待っていた。


「国王陛下からの下命は聞いただろう。改めて説明するが、依頼は魔王の討伐。その際に大陸軍の部隊を動員することは許可されている。期限は、魔王が指定した一週間後、つまりあと五日だ。ここまでで何か質問はあるか?」

「まぁ魔王城を発見してからが実質の期限だから、魔王攻略に費やせる時間は一日くらいだろうな」


 そのようにジークは考えを示す。それにミゲルも同意する。


「そうだな。魔王の力は強大だ。根城を発見次第、僕たちと兵士全員を魔王城に突入させて攻略する。いかに魔王を素早く発見し、討伐できるかが鍵だ」

(上手くいけるかなぁ……)


 草薙は魔王を倒せるか不安になる。しかしすぐにその考えを止める。


(いや、倒せるか倒せないかじゃなくて、倒さなければならないんだ。そうじゃなきゃ、最悪の場合王国だけじゃなくて周辺国家も消滅する可能性がある。それを止められる可能性があるのは、俺たちなんだ)


 そういって草薙は何か視野狭窄のような状態になる。


「すぐにでも準備に取り掛かってくれ。二時間後には山岳地帯に向けて出発する」


 ドーニン伯爵がそのように告げる。魔王討伐のために、草薙たちは覚悟を決めた。

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