日が沈んだ頃、「ヘイムダルの剣」と何故か一緒についてきたナターシャ、大陸軍一個師団は王都を出発した。魔王から期限が設定されているため、今回ばかりは素早い行動が求められる。馬の休憩と同時に食事や睡眠を取り、二日後には北部の山岳地帯の麓まで来ることが出来た。
「魔王が言っていた日まであと三日。それまでの間に魔王城を発見し、魔王を討伐しなければならない」
今回一緒に来た大陸軍第十一師団の師団長が、兵士たちに向かってそのように言う。当然その中には草薙たちもいる。
「大まかな場所はここに記載されている通りだ。場所はナカラシア山の王国側中腹とのことだ。この情報を元に、我々は登山と捜索を行う。もし魔王城を発見したら、我々は問答無用で魔王城に突入する。そのまま内部の攻略と魔王討伐に動く。魔王の力は強大だ。生きて帰れる保障はない。だが、この任務をやり遂げなければ、王国中が火の海に沈むことになるだろう。それだけは絶対に避けなければならない。我々が王国の命運を握っているのだ!」
師団長は力を入れて強調する。
「我々は決して負けてはならない! そのためにも、彼ら『ヘイムダルの剣』を何として守り通す! 我々なら出来る! 王国の未来に栄光あれ!」
「「栄光あれー!」」
兵士たちの心は一つになった。
草薙たちと第十一師団は徒歩で山の中腹へと向かう。だが、その道中で不思議なことが起きた。
なんと、何もない場所に突如として道が出現したのだ。傍らには道案内用の看板も立っている。
『魔王城はこちら』
なんとも怪しい雰囲気である。
「これ、信用していいのか?」
ジークが看板をジロジロと見ながら、ミゲルに尋ねる。
「本来なら信用してはいけないのだろうけど……。道の先を見る限り、僕たちが目指す山の中腹まで続いているようだね。おそらく、この看板に書いてあることは本当だと思う」
「でもでも、魔王が作った罠の可能性もあるのです」
アリシアが反論する。
「でも道があるなら、それに従うのも人生だと思うんですよ。だってそこに道があるじゃないですか」
ミーナは独特の感性でそのようなことを言う。
そんな中、ミゲルは草薙に尋ねる。
「タケルはどう思う?」
「……そうですね。この道が中腹まで続いているのなら、ショートカットには使えると思います。それに罠だったとしても、魔王の近くにまでいけるのなら利用しない手はないですね」
「そうだな」
ミゲルは草薙の意見に賛成し、師団長に進言する。
「我々はここから魔王城に行けると判断します。兵士の皆さんをこのまま連れて行きますか?」
「うむ……。この道が魔王城に続いていないのなら、兵士を分散させて捜索したほうが良い。しかし、それでは戦力が分散され、最大の攻撃力が減ることになる。このまま進むか、隊を分けて捜索するか、二者択一だ……」
師団長は少し悩んだ後、決断する。
「第十一師団は全員この道を進む。我々は誇り高き王国の軍人だ。罠があったとしても、前進あるのみ」
こうして一行と第十一師団は、看板が示す通りの道を進むことになった。
道とは言っているが、完全に登山道である。ところどころに岩があり、勾配が急になる場所もある。
そんな場所を、軍人でも冒険者でもないナターシャは必死になって登っていた。
「タケル~……、待ってぇ……」
呼吸を乱しながら、ナターシャは草薙のことを呼ぶ。
「ナターシャ、無理についてこなくてもよかったのに……」
「私は魔王の情報を集めているから、こういう場所にも行かなきゃいけないの……」
「うーん……」
草薙は少し考える。
(ここまで体力がないと、魔王と遭遇した時に逃げることも出来なくなるな……。俺が背負っていくにしても、かなり難しい……。こうなったら……)
草薙は前を歩いていたアリシアを呼ぶ。
「アリシアさーん。ちょっといいですかー?」
「はいなのです」
アリシアが戻ってくる。
「ナターシャに身体強化魔法をかけてもらってもいいですか?」
「大丈夫なのです」
そういってアリシアは杖を振って、魔法を発動する。
『キンター・カゲスト』
「おぉ、体が軽くなった! ありがとうございます、アリシアさん」
「このくらいお安い御用なのです」
こうして再び登山を行う一行。二時間ほど歩いたところで、日が地平線に隠れようとしていた。
「今日はこの辺りでいいだろう。夜間の登山は危険だ。テントを張って睡眠を取れ」
そんなことを師団長が指示しているときだった。ふと草薙が道を少し外れた方向を見る。するとそこに、明らかに人工物と思われる城を発見した。
「皆さん、アレを見てください!」
草薙は指を指して大声を出す。
「アレは……建物? 城のようにも見える……」
「もしかしたら、アレが目的の魔王城ってヤツか?」
「ふむ……、確かにそのように見えるな……。仮にアレを魔王城として、今夜は周辺に見張りを立てよう。総員、休憩に入れ!」
こうして、山の中腹で一晩を明かすことになった。