その日の晩、草薙たち「ヘイムダルの剣」は師団長に集合するように言われていた。
師団長の元に行くと、簡易的なテーブルに地図を広げて待っていた。
「今の状況を整理する。現在我々がいるのはここだ」
そういって銀のコインを地図の上に置く。
「先の懲罰部隊からの情報にあった魔王城がこの周辺」
そういってペンで大きな円を書く。
「そして、魔王城と思われる人工物があるのがこの辺りだ」
金のコインを地図に置く。金のコインがあるのは、円を書いた内側になる。
「懲罰部隊からの情報が正しければ、あの人工物は魔王城である可能性が十分に高いと?」
「その通り。今、斥候が人工物周辺の調査に向かっているところで、もうすぐ戻ってくるはずだ」
すると、タイミングよく斥候が戻ってきた。
「師団長、魔王城と思われる人工物の周辺で、懲罰部隊が使用していた軍服や装備、そして遺体が多数見つかりました」
「分かった。全員無事か?」
「はい。一人も欠けることなく」
「ならよい。疲れているだろう、十分休んでくれ」
「はっ」
師団長は草薙たちの方に向き直る。
「そういうことだ。あの人工物は魔王城と見て間違いない」
「では、明日はあそこに突入するということですね?」
「そうだな。本当なら魔王城の周辺を取り囲みたいところだが、そうしている時間も人的余裕もないからな。入口と思われる場所を発見次第、順次突入と言う形でよいだろう。まずは我々第十一師団が突入し、安全を確認できてから君たちが侵入する。問題ないか?」
「はい。大丈夫です」
師団長とミゲルが合意する。
「他に質問は?」
「じゃあ、私から一ついいでしょうか?」
ナターシャが手を上げる。
「私、戦うことに関しては門外漢でして、何人か護衛の兵士が欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
「カルナス子爵の御令嬢でしたな? それなら問題はないかと思います」
「それはどういうことでしょう?」
その時、魔王城の近道のほうから誰かが登ってくる。どうやら男性二人のようだ。
「お嬢様ー! ナターシャお嬢様ー!」
聞いたことのある声。なんとマシューとアニスが登ってきたのだ。
「マシュー!? アニス!? 一体どうしたの!?」
「どうしたもこうしたもありませんよ! お嬢様が勝手に魔王城に乗り込むとギルド本部から連絡が来たもので、急いで装備を整えて追っかけてきたんです」
「お嬢様は衝動的に動く時があるのは存じ上げていましたが、まさかここまで大胆な行動をなされるとは思いませんでした……。ご主人がお聞きになれば、なんとおっしゃられることやら……」
「それはごめんなさい……。でも仕事の一環なの」
「仕事でも適性というものがああるでしょう?」
マシューやアニスから説教を食らうナターシャ。珍しくショボンとしている。
「まぁそのあたりにしましょう。彼女だって悪気があってついてきた来たわけではないですから」
師団長がナターシャの肩を持つ。これにより、ナターシャの説教は有耶無耶になった。
「とにかく、明日の早朝にここを出発し、魔王城へと向かう。本日は以上。各自休憩に入ってくれ」
こうして草薙たちは自分のテントへと戻る。草薙は明日に向けてさっさと寝ることにした。
翌朝。時折雲が山頂付近を覆っており、天気が崩れるかもしれない予兆を示す。
「諸君! 我々はこれから魔王城へと向かう! 多くは言わない! だがこれだけは言わせてほしい! 魔王を討伐し、生きて帰ろう! 王国に栄光あれ!」
「「栄光あれー!」」
兵士たちの士気が上がったところで、「ヘイムダルの剣」を先頭に集団が移動していく。
ほんの小一時間程度で、魔王城と思われる人工物に到着した。魔王城自体はそこまで大きくはなかった。城壁の高さが二メートル程度しかなく、面積も五十メートル四方くらいしかない。王都にあるアウステンバーグ城に比べれば、遥かに小さいだろう。
「これが本当に魔王城なのか……?」
「にしては小さいのです」
「城の要素と言ったら屋根くらいなんじゃないか?」
ミゲルたちがそのような話をする。
「師団長。周囲を捜索しましたが、入口と思われる場所は正面の一つしかありません」
偵察に出ていた兵士が戻ってきて、そのように報告する。
「うぅむ……。なら仕方ない。原因、ここから突入するぞ」
師団長の指示通り、兵士が動いて城壁についている外門を強引に開く。鍵などの類いはついていなかったようで、簡単に開くことが出来た。
そのまま城壁内部に突入し、次は城の門を開く。ここも鍵がついていなかった。
そして雄叫びと共に城内に突入するものの、中は大きな空間が一つあるだけだった。
「なんだこれ? 城を外装とした巨大な体育館か?」
草薙がそのような感想を残す。ミゲルたちや師団長、一般の兵士も困惑している。
その時、ドーンという雷に似た音が鳴り響くと、草薙たちの周囲にいた兵士たちが一斉に消え去った。
「な、なんだ!?」
何故か草薙たちと、魔王城の外にいた兵士や師団長は無事だった。
そこに、どこからともなく声が響き渡る。
『よく来たな、人間どもよ』
すると天井部分から黒い何かが現れる。それはスーッと降りてくると、視線くらいの高さで止まり、人型実体へと変貌した。黒い外套に対して白い肌が見えるそれは、まさしく人智を超えた存在であることを示唆している。
『余が魔王である。人間の分際でよくここまで来たな』
「最初に僕たちを倒さなかったのは何故だ?」
ミゲルが剣を抜きながら聞く。
『貴様らは余の配下である四天王を殺した。貴様らには生きたまま彼らの苦しみを味わってもらう』
「なるほど、趣味がワリーな」
ジークもダガーナイフを抜いて戦闘態勢に入る。アリシア、草薙、ミーナも構える。
『さぁ、どこからでもかかってこい』
魔王との戦いが始まる。