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第64話 魔王を攻撃した

 魔王と敵対した草薙たち。そこからはピリピリとした空気が漂ってくるだろう。


 一方、魔王城の外にいたことで魔王の初撃から難を逃れたナターシャは、マシューとアニスの手によって魔王城の外に連れ出されようとしていた。


「待って! 中にタケルが、皆が!」

「駄目ですお嬢様! 先ほどの魔王の攻撃を見なかったのですか!?」

「でも! 皆が死んじゃう!」

「お嬢様が飛び込んで何が出来るのですか!?」

「それは……」


 一瞬ナターシャの力が抜けたところで、マシューとアニスは一気に魔王城の敷地からナターシャを引きずりだす。


「タケル……!」


 ナターシャは泣きそうな表情で、その場を後にさせられた。


 その草薙たちは、ジークの先制攻撃から始まった。


『アガスト・ミギー!』


 幾千のダガーナイフが魔王に降り注ぐ。それらのうち数十本が魔王に命中した。


「当たった!」


 珍しくジークの攻撃が当たる。しかしそれでも魔王は怯まない。


『ふん、人間の攻撃はこの程度のものか……』


 すると、魔王の体に刺さっていた魔力のダガーナイフが文字通り蒸発してしまった。


「なっ……!」


 魔王は床に降り立ち、一本の剣を生成する。


『本物はこのようにやるのだ』


 そういって剣を振るう。


『アガスト・ダリー』


 魔王が剣を掲げる。すると、魔王が持っているのと同じ剣が空中に数十本も生成された。


 そのまま魔王は剣を振るう。空中にある剣が草薙たちに襲い掛かる。


『流れ斬り!』

『バリアン・ヘキサゴ!』


 降り注ぐ剣を、ミゲルは流れ斬りで弾き、アリシアとミーナはバリアで防御し、草薙とジークはそれぞれ自力で受け流していた。


 ミゲルは剣を弾きながら、魔王のほうへと突進する。最後の一本を弾いたところで、さらにスキルを使用する。


『流れ斬り!』


 魔王に直接複数回攻撃するが、魔王はそれを防御しようと思ってないのか、自然体のままだった。


 ミゲルの攻撃が入るが、衣服に傷一つすらついていなかった。


「こんなに攻撃が入っているのに、傷すらつかないだと……!?」

『そうだ。余は万能。この世の神すら上回る存在なのだ』


 そういってミゲルの攻撃を受け止め、そのまま弾き返してしまう。


 ミゲルは床の上を滑りながら、体勢を立て直す。


「意外と厄介だな……!」

「なら私が行きます……!」


 そういってミーナが前に出る。


『デトネーション!』


 魔王の前に巨大な魔法陣が出現し、直後巨大な指向性の爆轟が魔王を襲う。


「熱と音による多重攻撃……! これなら魔王とて耐えられない……!」


 草薙はデトネーションから発せられる輻射や壁などの反射した衝撃波から身を守りつつ、そう確信した。


 辺り一帯が煙に覆われていたが、それが晴れる。するとそこには、変わらず立っている魔王の姿があった。


「嘘……。あれだけの攻撃をしたのに、傷一つすらついてないのです……」


 デトネーションの攻撃力すら上回る魔王の防御力に、アリシアは思わず床にへたり込む。ミーナもデトネーションを使った反動で座り込んでしまった。


『これが人間の限界か? なんともか弱い』


 そういって魔王は左手をジークの方にかざす。すると、ジークは自分の首をひっかきだした。


「ぐっ……、苦しい……!」


 まるで首を掴まれているようで、そのまま空中へと体が浮いていく。そのままゴキリと嫌な音を立てて、ジークの体は脱力する。そして地面へと落下した。


「ジーク……?」


 ジークは何も反応しない。ミゲルが近寄って体を揺する。しかし、ジークはまるで肉塊にでもなったかのようだった。


 その時、草薙たちは理解した。ジークが死んだと。


「ジークが……死んだ……?」


 その事実は簡単に受け入れられない。ミゲルは怒りに震え、剣を取る。


「この……、外道がぁ!」


 するとミゲルの剣から光り輝く巨大な剣身が出現する。詠唱もなしに「ディフェンディアー」を発動したのだ。


「食らえ魔王……! これが人間の、力だぁー!」


 そういってミゲルは剣を頭の上に掲げ、振りかざす。


『ディフェンディアー!』


 その瞬間、ミゲルの口から大量の血が噴きだす。光り輝く巨大な剣身は消え去り、ミゲルは力なくその場に倒れた。


「……え?」


 草薙は何が起こったのか理解できなかった。いや、理解しようとしなかったのかもしれない。


 つまり、ミゲルは死んだ。


『つまらん連中だ。大層なことを言えば実現するものと思っている』


 魔王は剣を消失させ、ミゲルのほうへと歩いていく。


 その前に、アリシアが立ちふさがった。


『バリアン・ヘキサゴ!』


 アリシアは防御魔法でミゲルの亡骸を守る。


 それに対して魔王は防御魔法に手をかざす。その瞬間、防御魔法ははじけ飛び、跡形もなくなくなった。


「あ、あ……」

『例え死んでいたとしても仲間を守る。その心意気は褒めたたえよう。しかし無駄だ』


 魔王は人差し指を出して、空中で横に振る。その瞬間、アリシアの頭だけ ・・が吹き飛び、壁へと衝突した。


 壁一面に血の跡がつき、残骸すら残さなかった。


『何故こんなにも脆い生き物がこの世に蔓延っているのか、余にはそれが不思議でならん』


 そういって魔王はミーナのほうへと移動する。ミーナは恐怖と悲しみで顔面がグチャグチャになっており、床には失禁した跡が残っていた。


 そしてミーナは思わず魔王城から逃げ出す。しかし唯一の出入り口の扉が勝手に閉まり、ミーナの行く先をなくす。


『貴様が一番人間らしい行動を取っているな。気に入った。殺すのは最後にしてやる』


 その光景を一歩も動けずに見ていた草薙だったが、何かスイッチが入ったように動き出す。


「うぉぉぉ!」


 草薙は魔王に突進し、拳を振るう。


「浄化しろぉ!」


 拳が魔王に命中すると、拳が命中したほんのわずかな布が煙のようになって蒸発した。


『ほう……。余の肉体を蒸発させるとは……。貴様が四天王を葬り去った人間か』


 魔王は草薙の方を向く。


「まずっ……」


 草薙は短地スキルを使用して、その場から逃げようとした。しかし、短地が発動したにも関わらず、草薙の頭部は魔王の手に収まっていた。そして空中に持ち上げられる。


『貴様は逃さん』

「ぐっ……!」

『貴様には世話になったからな。同じことをして返そう』


 そういうと、草薙を掴む手が光り輝きだす。


(これはっ、マズい!)


 草薙は必死になって、この状況を打開するための策を考える。


(ここから短地で逃げようとしても、空中じゃ上手く移動出来ないし、頭を持っていかれる……! 自己防御で魔王の攻撃を凌ぐ? 魔王の攻撃は防御を上回るかも……! ならここで浄化スキル……? 掴まれている手だけでも浄化出来れば……)


 草薙は浄化スキルを発動して、魔王の右手の浄化にかかる。しかし、全力でスキルを発動しても、全く浄化出来ているようには見えない。


『残念だったな。貴様の魔法は完全に見切った。もはや何も通用しないだろう』


 そういって草薙の頭を握る力を強くする。


「ぐぅぅぅ……!」


 草薙は痛みの中、解決策を見出そうとする。


(ステータス!)


 草薙は反射的にステータス画面を開いた。


『身体強化レベル三十二

 短地レベル二十九

 自己防御レベル二十八

 放出魔法レベル二十七

 浄化スキルレベル二十』

『自害阻害の呪い』


 これのみしか書かれていなかった。


(あと何が残っている……!? 身体強化、放出魔法……。どっちも駄目だ!)


 必死に痛みに耐えながら、策を講じる草薙。


 その時、ある考えが電撃のように脳裏を巡った。


(もしかしたら、いやでも……)


 しかし悩んでいる暇はなかった。草薙は心の中で叫ぶ。


(プロパティ!)


 その瞬間、心臓を鷲掴みにされた感覚と、眩暈や吐き気、そして視界一杯に広がる「本当によろしいですか?」の警告ウインドウ。


 草薙は選択した。


(決定!)


 その瞬間、草薙は意識を手放した。

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