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第65話 邂逅した

 草薙の意識は、深い深い闇の底へと落ちていった。


(この感覚……。自分が自分じゃないような感じだ……)


 まるで夢の中にいるような、非現実的で体の制御が効かないあの感覚である。


(このまま眠ったら、死んだことになるだろうか……)


 そういって目を閉じる。


 だが、そうはいかなかった。


『目を覚ませ』


 突如、脳に直接語りかけてくるような声が頭の中で響く。それに驚いた草薙が目を覚ますと、そこは真っ白な部屋だった。草薙はその部屋の床に倒れていたようだ。


 そしてそこには、草薙以外に二人の人型実体がいた。一人は人間そのもので、もう一人は人の形を保った霊のようなものだ。


「ここは……? あなた方は……?」

『焦ることはない。まずは我々の自己紹介をしよう』


 そういって人型実体が話す。いや、脳内に響く感じだ。


『こっちにいる君にそっくりな生命体。彼はボブという名前だ』

『どうも、僕がボブです』


 そういってボブは気さくな挨拶をする。


『そして私だが、名前はない。都合上神を自称している』


 自称神はそのように自己紹介する。


「ボブに、神……」

『そして君の疑問の一つ。ここはどこという話だが、他でもない天の川銀河だ』

「天の川銀河……!? それって地球が存在する……?」

『そう。君の故郷がある銀河系だよ、草薙武尊君』

「どうして自分の名前を……」

『簡単な話だ。無作為に君を選んで、あの異世界に飛ばしたというわけだ』

「ということは、異世界に飛ばしたのは神がやったことなんですか……?」

『いいや、それは僕がやった』


 ボブが間に割って入る。


『というのも、あの異世界を作ったのは僕なんだ』

「え? 作った?」

『そう。話が逸れるが、君はカルダシェフスケールというものを知っているかい?』

「えぇ、まぁ」

『僕はカルダシェフスケールで言うところのタイプⅤ、マルチバース文明の技術力を持つ地球人だ』

「地球人……?」

『そう。草薙武尊君から見たら、ここは遥か未来の天の川銀河で、僕は地球人の子孫ってわけ』

「そんな……、そんなことがあり得るのか……?」

『まぁ、僕からしたら常識の範疇だけど、草薙武尊君から見たらあり得ないことが起きているだろう。混乱するのは分かる』


 ボブはそういって草薙の肩を叩く。


「……待てよ。じゃあそっちにいる神って……」

『察したか。私はカルダシェフスケールタイプⅦ、創造主文明の者だ。今はこうしてタイプⅣ以上の文明に創世技術を教えている』

『彼は僕の師匠だよ』


 神とボブはそのように言う。

 その言葉に、草薙はグツグツとあることも思い出していた。


「それじゃあ、あの異世界に飛ばした元凶は神ってことですか……!」


 草薙は怒りに打ち震えていた。


『そういうことになるな。その点は申し訳なかったと思っている』

「いや、一発殴らないと気が済まないですよ……!」

『そのお詫びとしてはなんだが、君にある力を付与したいと思う』

「力……?」

『実のところ、自害阻害の呪いとプロパティが同時に発動し、「死ねない」と「死ぬ」の二つが作用し合って値がオーバーフローした結果、君はここに来た。そのお詫びも兼ねて力を与えようと思う』


 ここまで言われてしまい、草薙は一旦振り上げた拳を下ろさざるを得なかった。


「……それで、どういう力なんですか?」

『一言で言うなら、奇跡そのものだ。君は現在、魔王と戦っているだろう?』

「そうですね」

『その魔王を一瞬で消し去り、死んだ仲間の命を助けることが出来る。そういう力だ』


 そういって神は、手のひらから小さな光り輝く何かを生み出す。その光は神の手から離れ、草薙の胸辺りから体に吸収される。


『これで君は神に等しい力を手に入れた。だがこれはあまりにも強大な力だ。なので制限をかけさせてもらう。君がこの力は不要になったと判断したら、その瞬間消滅する』

「じゃあ、ずっと使うことも出来る、と?」

『そういうことも出来るが、あまりにも酷い場合はこちらから削除する』

「でも、そうはならないでしょうね」


 そういって草薙は一つ息を吐く。


「もし、あの異世界に戻らないって言ったら、どうなりますか?」

『その時は強制転移だよ。君は僕の作った実験世界の被験者第一号なんだから』


 ボブは少し興奮して言う。


「ま、別に戻りますけど。自分だって後味悪いですから」

『うんうん。その心意気だよ』

『では転移させる。またどこかで会おう、草薙武尊よ』


 神はそう言って手を振る。そして草薙の意識は暗い深い闇に落ちた。


 次に意識が目覚めた時には、草薙は魔王の足元にいた。魔王の右手は消滅しているようで、左手で血が噴きだすのを抑えていた。


『き、貴様……! 一体何者だ……!?』


 魔王が後ずさりしているのを見て、草薙は自分の状態を確認する。体全体が淡く光っていた。体の奥から力が沸き上がり、万能感で満ち満ちていた。


「そうだな……。俺は草薙武尊。この世界の創造主にお会いした男だ」


 そういって草薙はミゲル、ジーク、アリシアの方に手をかざす。すると彼らの周りに光が集まり、完治不能なレベルの傷すら治していく。


「ぐ……、俺は一体……」

「僕は確か、血を吐いて……」

「私も、死んだような……」


 それを見た草薙は、さらに力を行使する。彼らの記憶と感情を少し操作して、死んだ時の不和が生じないようにした。


『こ、この人間風情がぁ!』


 魔王は剣を出現させ、草薙に向かって振りかざす。しかし、その攻撃は草薙に命中しなかった。


 魔王の剣が空中で止まったからだ。それどころか、魔王自体の体も止まっている。


『ぐぅ……、この……!』


 そんな魔王の前で草薙はフワリと宙に浮かび上がり、右手を前に出す。


「浄化スキルレベルマックス」


 そういって草薙はフィンガースナップをする。


 その瞬間、魔王の身体全部が霧散し、塵へと化した。断末魔すら聞こえずに、魔王は消失したのだ。


 その様子を「ヘイムダルの剣」は後ろから、ただ呆然と見ていた。

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