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第13章:神々の盤

歴史には、時間が息を止めているように見える瞬間があります。現在が止まり、これから起こることの反響を注意深く聞く場所。混乱の前の静けさ、崩壊の前の優雅な輝き。文明社会ではこうした瞬間を「祝賀」と呼ぶが、実のところ、彼らは新しいサイクルの始まりなのか、それとも一つのサイクルの終わりなのかを知らずに祝っているのだ。


今日、通りは光で満たされ、人々は笑顔で、屋根の上には、まだ本当の顔を見せていない空の下、なびく旗がいっぱいです。神々の到来は、あたかも現実が自らを超えて現れ、その形を作った者たちを見ているかのような、壮大な行為のように感じられます。


しかし、光るものすべてが太陽から来るわけではありません。


神の玉座の威厳を見つめる視線が上がる一方で、影に隠れたまま、辛抱強く適切な瞬間を待つ人々もいます。なぜなら、何世紀にもわたって世界を支配してきたあらゆる構造物は、その基礎の下に秘密、恨み、そして炎を隠しているからです。


そして、その中で、一人の少年が見守っています。彼は周囲で何が起こっているのか完全には理解していないが、この祝賀会はパーティーどころか、宣言となるだろうと感じている。神々の世界は見た目ほど完璧ではない…そして、もうすぐ、触れられない場所ではなくなるだろう。


結局のところ、神々でさえも…責任を負わなければなりません。


—————————————————————————————————————————————————————————


街は、かつてないほどの輝きを放っていた。




宙には色とりどりの提灯が浮かび、


通りには風になびく金の布が敷き詰められていた。


建物の壁面には装飾が施され、夕陽の光に照らされて煌めいている。




――GODS全体を包むのは、五十年ぶりの“祭典”への、抑えきれない期待。




「……すっかり、お祭り気分だな」


シュウがポケットに手を突っ込み、賑やかな通りを見渡す。




エデンは静かに頷く。


その口元には、わずかな微笑みが浮かんでいた。




こんなにも“人の気持ち”がひとつにまとまる光景を、再び目にする日が来るとは――


彼自身、思ってもいなかった。




「……五十年も、JuntaがGODSに来なかったのか?」




その問いに、シュウは落ち着いた声で答える。




「ああ。


“神々の評議会”――通称ジュンタは、千年前の“大戦”後に設立された。


この街に彼らが来たのは、過去に数回だけ。


今日は……特別な日だよ」




そのとき、群衆の間を優雅に歩く影が現れた。




アフロディーテ。


その気品ある佇まいと視線が、飾り付けられた街をゆっくりと見渡す。




「……随分、綺麗に仕上がってきたわね」


彼女は足を止め、二人の前で言った。




エデンは、空にかかる無数の旗を見上げた。




「……みんな、頑張ってるな」


まるで独り言のように、静かに呟く。




「当然よ」


アフロディーテは柔らかく応える。


「ジュンタに良い印象を与えれば、支援、資金、注目……つまり、“力”を得られる」




「……そんなに大きな存在なのか?」




「想像以上よ。


あの方たちは、王の意思を代弁する存在。


彼らが注目すれば――世界は動く」




そう言って、彼女は軽く手を振る。




「……もう行っていいわよ。しっかり休んでおいて。


今夜が、本番だから」




「……了解です」


シュウとエデンは同時に返事をした。




***




数分後――




第4グループの寮に戻ったシュウは、鏡の前で服を整えていた。




「……で、結局俺たちは何をすればいいんだ?」




エデンが部屋の扉にもたれながら尋ねる。




「別に何もしないよ」


シュウは苦笑しながら、服の襟を直す。




「ジュンタに直接会えるのは、ゴールドランクの三人だけ。


俺たちは……広場の巨大スクリーン越しに見るだけさ」




エデンは眉をひそめた。




「……じゃあ、なんでこんなにフォーマルなんだ?」




「さあな。


でもアフロディーテの言うことは、聞いといた方がいい。


怒らせたくないしな。……この前の件、マジで痛かったし」




「……まだ痛むのか?」




「たまにな。


夢にまで出てくるんだよ、あの人がフライパン持って追いかけてくるの……」




そのとき、廊下から柔らかな声が届く。




「……お二人とも、時間ですよ」




バイオレットだった。




「……行くか」




シュウが部屋を出る。




「先に行ってくれ。


俺はもう少し……一人になりたい」




「分かった。


でも、遅れるなよ?


あの人、怒ると怖いからな」




「……気をつける」




エデンは一人残った。




窓の外には、煌めく街と、どこか懐かしい“ざわめき”があった。




彼は、もう一度だけ息を整える。




そして――静かに、歩き出した。




街の中心――中央広場には、かつてない熱気が満ちていた。




頭上には光の粒が舞い、


まるで魔法にかけられたホタルたちが浮かんでいるかのようだった。


風は穏やかで、しかし空気には、何か“特別なもの”が近づいている気配があった。




「……何度も映像で見てきたけど、こうして“生”で見ると、本当にすごいな」


シュウが装飾された空を見上げながら言った。




「……ええ、本当に」


バイオレットは、いつになく柔らかい表情で答える。


「こんな光景を直接見られる私たちって……恵まれてるのね」




「間違いないな」




そのとき――




ざわめく群衆の中から、見知った声が届いた。




「……おい、シュウ。ヨウヘイ、見なかったか?」




ゼフだった。やや息を切らせながら近づいてくる。




「ヨウヘイ? お前ら、ロワと一緒じゃなかったのか?」




「最初はそうだった。


でも、“ちょっと探し物がある”って言って、さっきから戻ってこない」




数秒後、ロワが姿を現す。


落ち着いた呼吸のまま、眉をひそめていた。




「……こっちにも来てないの?」




ゼフは首を横に振る。




「……ってことは、今の時点で“行方不明者が二人”だな」


シュウが頭を掻きながら呟く。




「二人……?」


ロワが怪訝そうに尋ねる。




「エデンもまだ、寮から出てきてない」




その直後――




空が、変わった。




重く、濃く、まるで“天”そのものが落ちてきたかのような暗黒が、街をゆっくりと覆っていく。




そして、雷鳴。




遠く、だが確かに響く――“神の気配”。




群衆全員が、一斉に空を見上げた。




シュウの胸に、押し潰されそうな圧力がのしかかる。




「……この気配は……」


握りしめた拳が、微かに震えた。




ゼフがぽつりと呟く。




「……ゼウス……だ」




空に、一筋の光の裂け目。




その亀裂から――“神の戦車”が降りてきた。




青白い雷光と、黄金の閃光の中を、浮遊する“次元の乗り物”が舞い降りる。


それぞれが純粋なエネルギーで構成され、側面には、誰も読めない――だが誰もが“畏れる”印章が刻まれていた。




「……来たな」


シュウが小さく呟く。




「――神々の評議会ジュンタだ」




***




その頃、オリュンポス宮。




街の熱気とは正反対――


荘厳で、古代の重みを纏った空間。




主殿の壁には、目には見えぬ“時の力”が脈打っている。




半円状に並んだ玉座――


その一つ一つが、徐々に埋められていく。




ヘルメスは落ち着きなく歩き回り、額に汗を浮かべていた。




「……なあ、本当に俺で良かったのか?」


彼はゼウスに視線を向ける。




「……人前で話すの、死ぬほど苦手なんだけど」




雷の神は、悠然と玉座に腰掛けたまま、肩をすくめる。




「……お前しかいない。なんとかなるだろう」




抗議しようとした瞬間――




扉が、音もなく開いた。




風のような気配とともに、最初の神が姿を現す。




――オーディン。




漆黒のローブに、脈打つようなルーンの光。


その一歩ごとに、部屋の光が薄れていくかのようだった。




「……老けたな、古き友よ」


ゼウスが笑みを浮かべる。




「……そうか? 俺の世界の女たちは、日に日に若くなるって言ってくれるが?」




「……目が悪いんだろ」




そのやり取りを、冷ややかな声が遮る。




「……どっちも年寄り。しかも、美しくもない」




アマテラス。




流れるような黄金の髪。


気品と傲慢を纏いながら、しなやかに歩く。




続いて現れたのは――アヌビス。




静かに頭を下げ、低く重い声を響かせた。




「……ここに招かれたこと、光栄に思います」




「……お前が、ラーの代わりか」


ゼウスが鋭く見つめる。




「王の命令だ」




空気が張り詰める。




次に姿を現したのは――ウィツィロポチトリ。




蛇の剣を腰に下げ、不機嫌な表情のまま歩く。




「……また同じ面子か」




「そして、また同じ愚痴」


ペルーンが微笑みながら返す。




「文句はやめろ、小鳥」




「……その呼び方をするな、“雷神の劣化コピー”」




抜かれかけた剣。


互いに顔を寄せ合い、睨み合う。




「……毎年この雰囲気、大好きだわ」


オグンが穏やかな声で言った。




「低位神が騒いでるのを見ると……年の実感が湧く」


ヴィシュヌがため息をつく。




「その口で、よく言えるな」


シャンディが呆れたように笑う。




「人間の真似をする神が、よく言うわ」




「……いい加減にしろ」


マフイカが目を上げて唸る。


「……忍耐にも限界がある」




最後に現れたのは、スケルス。




ルーンで飾られた杖をつきながら、静かに頭を下げる。




「……ふぅ。どうやら俺が最後の到着か」




ゼウスが立ち上がり、声を張る。




「……これで、全員そろった。


ヘルメス、出番だ」




震える喉で、ヘルメスは頷いた。




「……は、はい……注目を――」




誰も聞いていない。




彼は指を鳴らし、魔術で声を強制拡張させる。




「――静粛に!!!」




場が、一瞬にして凍る。




「……やるな」


オーディンがにやりと笑う。


「鍛えた甲斐があるな、ゼウス」




玉座が、一つずつ埋まっていく。


それぞれが異なる光、色、象徴に包まれながら。




その様子は、巨大スクリーンを通じて、街にも――他の世界にも、同時に中継されていた。




ヘルメスは深く息を吸う。


その胸に、今、無数の目が注がれている。




「……神々の評議会に出席するすべての者、そして我々を見守る全ての者へ。


今をもって――


“ジュンタ・オブ・ゴッズ”を、正式に開始する!」




街の松明が、重く湿った風に揺れていた。


それは、ただの風ではなかった。どこか、雷を含んだ“予兆の風”。




中央広場では、学生たちや市民が詰めかけ、


巨大な魔法スクリーンに映し出される“評議会”に見入っていた。




――だが、その喧騒から離れた路地裏で。




エデンは静かに歩いていた。




足取りは迷いなく――だが、心はそうではなかった。




「……アフロディーテに怒られなきゃいいけどな」


頭を掻きながら、苦笑する。




寮に戻ると、すべての灯りが消えていた。




「……もう全員、出たのか?」




ユキの部屋の前で立ち止まり、そっとノックする。




……応答はない。




何気なく、扉の隙間から中を覗き込んでみる。




「……誰もいないか」




溜息とともに、その場を離れようとした――その瞬間。




ゾクリ、と背中を駆け抜ける寒気。




思わず振り返る。




……だが、そこには何もなかった。




「……気のせい、か?」




次の瞬間。




ひやりとした金属が、首筋に触れる。




「――動かない方がいいぜ」


低く、ざらついた声。


刃の冷たさが、皮膚を震わせた。




エデンは、息を呑んだ。




「……誰だ、お前」




「……それは言えない。だが――ついてきてもらう。


抵抗しなければ、友達の首は切らずに済む」




「……ユキ、どこだ!何をした!」




「落ち着け。すぐに会える。


協力さえしてくれれば、何も起きない」




怒りが、胸の内側を焼いた。


だが、刃は少しずつ背中へと滑り――エデンは前へ歩かされる。




「……嘘だったら、絶対に許さない」




彼の歩みは、不確かな闇へと向かっていた。




***




同時刻、街の中心では――




天を震わせる轟音が、建物全体を揺らした。




人々が一斉に空を見上げる。




そして――




空に、巨大なポータルが開かれた。




異なる神話体系の紋章を掲げた、神々の戦車が次々と現れる。




「……来たな」


シュウの声には、畏敬と緊張が混じっていた。




隣のゼフが、拳を握りしめる。




「……ヨウヘイはまだか」




ロワが現れ、顔をしかめながら首を振る。




「こっちにも気配はない。……でも、エデンも消えた」




「最悪だな。


こんな大事な日の直前に、二人も行方不明とは……」


シュウが腕を組んで嘆く。




そのとき。




地面が震えた。




空気が重くなり、息をするのも苦しい。




「……この力、なんだ……?」


ゼフが呟く。




オリュンポスから映し出されるゼウスの顔。


その視線は、いつもの傲慢さではなかった。


張り詰めた表情。そして、隣のヘルメスも、冷や汗を隠しきれない。




そして――




それは起きた。




無音の“爆発”。




空気が、一瞬だけ歪む。




スクリーンからゼウスの姿が消え――


すぐに戻る。




そして、見えない何かに拳を叩きつけながら叫ぶ。




「……ふざけるな!」




アマテラスが即座に立ち上がる。




「……何があったの?」




ゼウスは振り返らずに答える。




「……包囲された。結界だ」




アヌビスが動く。


その力が、部屋全体に広がり――そして誰もがそれを“視認”する。




――漆黒のドーム。


街全体を覆う、“異質な闇”。




「……こんなの……ありえない」


ヴィシュヌの顔が青ざめる。




パチャママは、胸に手を当てる。




「……これは、ただの罠じゃない」




「……違うな」


ゼウスが静かに、だが明確に言い切った。




「これは――宣戦布告だ」




***




その頃。




街から遠く離れた、忘れられた山の頂。




激しい風が吹き荒れる小さな台地に、エデンは押し込まれていた。




眼下に広がる都市の灯り――


そして、その一部が崩れている様子が、はっきりと見えた。




そこに――




一人の男が立っていた。




エデンの心臓が、一瞬で凍りつく。




「……カイ……」




傷跡のある少年が、闇色のローブをまとい、静かに微笑んでいた。




「……俺の名前を覚えていたか。エデン・ヨミ」




空気が一気に冷え込む。




「……何のつもりだ、お前は」




「すぐに殺気立つなよ。


久しぶりの再会なんだから」




エデンの背後にいた男は、距離を取りながらも刃を下ろさない。




「……もっと劇的な再会を想像してたんだが……


これはこれで、悪くない」




エデンの掌に、黒いオーラが集まりはじめる。




しかし、カイは動かない。




「安心しろ。


……まだ、お前を奪いに来たわけじゃない」




そして――




地面に、一人の少女が投げ出される。




「ユキ……!」




「心配するな。眠ってるだけだ。


彼女には、今は“用がない”」




エデンは歯を食いしばる。




「……目的は、なんだ」




カイの目に、一瞬だけ“哀しみ”が灯る。




「……すぐに分かるさ。


でも、心配しなくていい。


お前は――確実に、その“変革”の一部になる」




その瞬間。




山の向こう、街のあちこちで火の手が上がる。




――光ではない。




それは“破壊”の火。




内部から砕かれたかのように、都市が燃えていた。




エデンは絶句する。




「……お前ら、何をした……?」




カイの声は静かで、どこか優しさすら含んでいた。




「……新しい世界を創るにはな。


まず、古い世界を――壊さないとな」

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