時々、本当の恐怖は叫び声や爆発を伴わないことがあります。それは沈黙を伴います。すべてが止まる瞬間…そして何かが壊れようとしていることがわかります。
神々によって、神聖な規則と約束によって築かれた世界は、壊れることのないものに思えた。しかし、神々でさえも、どんなに神聖なものであっても、あらゆる構造は信頼によって支えられているということを忘れています。そしてその信頼が崩れると、他のすべても一緒に崩れてしまいます。
今日、信仰は揺らぎ始めています。
内部から発生する戦争ほど危険な戦争はない。救済を装った裏切りほど致命的なものはない。そして、自分は高次の目的のために行動していると信じている者ほど恐ろしい敵はいない。なぜなら、その敵にとっては、あらゆる犠牲が正当化されるからだ。
街が炎に包まれ、空が静寂の中で見守る中、運命の歯車が激しく動き出す。
もう後戻りはできません。
真実は嘘の隙間から漏れ始めます。
そしてブラックライトは…もう影ではない。
それらは裁判の始まりです。
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夜は、まるで刃のようにGODSに降り注いだ。
かつて澄んでいた高地の空気は今や黒い煙に満ち、
わずかな光すらも貪り喰うようだった。
星々は姿を消し、天は戦の帳に覆われる。
エデンは丘の上に立ち、
眼下で燃え盛る都市を見下ろしていた。
遠くでは、市民の悲鳴と爆発音が混ざり合い――
その混沌は、まるで精密に設計された破壊の楽譜のようだった。
「……どうして、こんなことを……」
声は震え、かき消されそうなほど小さかった。
「……この街を壊して……人を殺す権利が、
お前たちにあるっていうのか……?」
その前に立つ影――カイ。
無表情のまま、乾いた笑みを漏らす。
「……俺も、昔は同じ疑問を抱いたよ」
その声は、どこか諦めの響きを持っていた。
「……なぜあいつらは、俺の街を破壊したのか。
なぜ、俺の大切な人たちを殺したのか」
沈黙。
遠くから、火の音だけが届く。
「……小さい頃には、理解できなかった。
でも今も、答えなんてないんだ。
俺たちは何もしてない。
それでも、“ただ燃やされる側”だった」
「……ふざけるな」
エデンの怒声が闇を裂く。
「……俺の仲間も、コーチも……
あそこにいたみんなが、何をしたっていうんだ!?
俺は見たんだ、カイ……
お前が、死体を見ながら笑っていたのを……
……お前は、あいつらと何も変わらない!」
シュッ――
金属の音。
カイの刀が、いつの間にかエデンの首筋にあてられていた。
その動きは、人の域を超えていた。
「……あいつらは、死ぬべきだった」
低く、冷たく告げる。
「……ただの人間にすぎない。
神の計画には、必要なかった」
「“神の計画”……だと……?」
エデンの目に、怒りと困惑が混じる。
そのとき――
背後にいた“フードをかぶった者17号”が割って入る。
「……キャプテン、それ以上は……
その情報は“機密”です」
カイはわずかに目を伏せ、刀を下ろす。
「……すまない。そうだったな」
エデンは荒い息を吐きながら、目の前の男の顔を睨みつける。
「……その顔の傷。相当痛かったろうな」
吐き捨てるように言った。
「……やったやつには感謝してるよ」
カイの目が、怒りに燃える。
「……黙れ」
「……図星か」
エデンは微笑む。
「やっぱり、痛かったんだな」
怒号とともに、カイが飛びかかる。
だが――
ガシンッ!
刃は鎖に阻まれた。
鋼鉄の音が、処刑の鐘のように響く。
「……逃げられない」
フードの者が、鎖をさらに強く引き締める。
その瞬間だった。
空から雷光が落ちた。
――昼よりも明るく、空気を引き裂くような閃光。
地面が割れ――
エデンは、地に伏したユキを抱きしめる。
「……ありがとう……ヨウヘイ」
彼は呟く。
「……黙れ」
その隣に、稲妻のごとく現れたヨウヘイ。
「……喋るな。見つかる」
丘の上で、フードの者17号が無線を取る。
「……人質が逃げた。遠くには行っていない。
すぐに追跡を――」
だが、それを遮るように。
通信機から低く、落ち着いた声が響く。
「……その必要はない。
もう、見つけた」
森の影から現れた――“巨影”。
その圧倒的な存在感に、地面が震える。
「っ……!」
エデンとヨウヘイは即座に逃走。
木の枝が肌を裂き、地面にたたきつけられる。
エデンの腕には、まだユキがいた。
彼の胸は、大きく、大きく波打つ。
「……すまない……」
その場に残ったカイが、ぽつりと呟く。
「……感情に、流された」
「……言い訳は後にしろ」
隣のフードをかぶった“18号”が、鋭い眼光を放ちながら言う。
「……今は、“始末”が先だ」
つい数時間前まで、
神々の評議会の到来を祝っていたこの都市は――
今や、戦場だった。
宙を舞っていた花々と黄金の旗は、
今では血に濡れた遺体の上をはためいている。
その混沌の上空――
アフロディーテが天から舞い降りる。
その身のこなしは、戦女神のように美しく、冷たく、速い。
炎の光に照らされた金髪が、
重力を無視するかのように揺れる。
「……これは、虐殺よ」
目の前の光景を見下ろし、静かに呟く。
刹那、フードをかぶった男が短剣を手に突進してきた。
だが――
ドッ!
アフロディーテの手から放たれたエネルギーの槍が、
その胸を貫いた。
彼女は一度も、その男を見ることすらしなかった。
「……これ以上は許さない」
その言葉とともに、手首の封印を解く。
一方その頃――
オリビオは手のひらを一振りするだけで、
三人の敵を吹き飛ばしていた。
穏やかな顔には珍しい、怒りと苛立ちの混じった表情。
「……せっかくの休暇だったのに」
ぼやくように呟く。
「毎回、邪魔が入る」
街全体を濃い煙が覆い始める。
その空気は、喉を焼くように重く、苦しい。
突然――
アフロディーテが膝をつき、激しく咳き込む。
「……この煙、ただの毒じゃない……」
喉を押さえながら言う。
「……呪詛の魔法、だわ」
その横で、オリビオも倒れ込む。
体が痙攣し、瞳孔が広がっていく――
明らかに、毒に侵されていた。
そのとき、どこかから響く冷笑。
「……あまりにも、簡単だったわ」
その声は細く、鋭く、針のように空気を刺す。
屋根の上から、フードの者が静かに降りてくる。
その目は、病的な紫に光っていた。
「……尊き女神が、
ただの人間が仕込んだ霧に屈するなんて――恥ずかしいわね」
火の中から、別の気配が現れる。
「……それを“霧”と呼ぶか」
アレスだった。
その声は低く、重く、煙を押しのけて響いた。
「……俺には“臆病者の罠”にしか見えない」
フードの者が振り向く。
「なぜ……? 貴様も動けないはず……!」
アレスは一歩、また一歩と歩み寄る。
「……戦の神が、小細工で倒れると思ったか?」
その瞳は、敵の目を正面から見据えていた。
「……お前が、これを仕組んだ主犯か?」
「……俺はただの“使者”だよ」
フードの男が歯を見せて笑う。
「俺たちの“預言者”の名のもと、
ここにある死は全て――計画されたものさ」
アレスの目が細く鋭くなる。
一歩、また一歩と近づきながら言う。
「……“計画”と呼ぶには、
あまりにも……この死体たちは哀れすぎる」
槍を構える。
その瞬間――
地面の血が震え始める。
波紋のように揺れ、呼応するかのように集まり出す。
その血は、アレスの全身にまとわりつき――
瞬く間に、“紅の鎧”と化す。
そして――
月が、紅く染まった。
「……聞け、彷徨える魂たちよ」
アレスが低く語りかける。
「我、アレスが命ず。
汝らに、新たな使命を与えよう」
その時。
GODSの大地が、震えた。
封じられていた十二の神々が、一斉にその気配を察する。
「……あれは……」
アマテラスが眉をひそめる。
「まさか……」
オーディンが杖を地に突き立てる。
「……アレスが、“紅血の覚醒”を使った。
……禁じられし技だ」
戦場では、フードの者が後退りしていた。
「……な、なんだその力は……?」
「……敬え」
アレスはゆっくりと進む。
「……お前が呼び起こした、この“怨嗟”を。
今こそ、その器となれ」
敵が影の爆破、鎖、投射を放つが――
何一つ、アレスを止められない。
その槍が振るわれた一瞬。
敵の右腕が、空を舞った。
「ぐああああっ!!」
「……まだ終わりじゃない」
アレスは冷たく笑う。
紅い雨が降る。
祭壇なき“儀式”が、始まった。
「……この命にかけて誓おう。
魂一つ残らず――必ず、報いる」
その言葉と共に、槍が敵の胸を貫いた。
霧が晴れていく。
敵の体が崩れ落ち、血の鼓動も止まる。
静寂。
アレスは血に濡れたまま、深く息を吐く。
「……他の神々も、まだ戦っている。
急がなければ……」
そして、煙の中へ――その姿を消した。
視点が切り替わる。
再び、エデンとヨウヘイ。
闇深き森の中にいた。
突如、首にかけた無線機から声が響く。
「……必要ない。もう、見つけた」
次の瞬間――
大地が震えた。
影が、彼らの上に落ちた。
――巨人だった。
全貌を目にした瞬間、エデンは息を呑む。
三メートルを超える異形。
皮膚には金属の装甲が埋め込まれ、
目は燃える炭火のように赤々と光っている。
一歩踏み出すたびに、地面にクレーターが刻まれた。
「……やばいな」
重力そのものが倍になったかのように、体が重くなる。
「……ユキを守れ」
ヨウヘイが振り返ることなく言い放つ。
「デカブツは俺がやる。ついでに――あの刀野郎もな」
エデンが反論しようとしたが、
ヨウヘイの一瞥がすべてを止めた。
冷たい。だが、確かな覚悟が宿っていた。
「……あいつだけは……」
ヨウヘイの目に憎しみが宿る。
「……カイは俺の獲物だ」
稲妻がヨウヘイの体を走り抜ける。
空の怒りが、地上に降りてきたかのようだった。
「バカ野郎」
エデンが歯を食いしばりながら立ち上がる。
震える脚。
だが、立った。
「それでも……やらなきゃいけない。
……俺自身のために、
……あいつに殺されたすべての人のために」
剣が闇に包まれる。
光を吸い込むような黒――脈動する影。
「……邪魔していいぞ」
ヨウヘイがそう言って、雷光のごとく駆け出す。
「……だが、死ぬなよ。
終わるまでは」
その言葉の直後――
カイが一閃。
抜刀と同時に、紅い閃光が宙を裂いた。
――ガキン!
エデンの剣とぶつかり合う音が、森を震わせる。
「……やめておけ」
カイの声は冷静だった。
「これ以上の怪我はさせたくない。……降参しろ」
エデンは血を吐きながらも、目を逸らさなかった。
「……これはもう、俺とお前だけの戦いじゃない。
お前らが殺した全員のために、
……絶対に許さない」
その影が、地に伸び――裂けた。
「闇の技・シャドウ」
カイの背後にもう一人のエデンが現れる。
影そのものから生まれた分身が剣を振るう――
だが。
その刃は、指で止められた。
「……成長はした」
カイは静かに言う。
「……だが、足りない」
分身が霧のように散り、
本物のエデンが――
腕に斬撃。
脚に斬撃。
そして――腹に蹴り。
――ドンッ!!
木に叩きつけられる。
カイは一歩も動かず、きれいな刀を構えたまま立っていた。
「……お前は、俺の“領域”には届かない」
その頃――
雷鳴が森を揺らしていた。
ヨウヘイの拳が、雷を纏いながら巨人を撃ち抜く。
――ズドン! ズドン!
一発ごとに地面が陥没する。
だが――相手は倒れない。
その肉体は、痛みを無視して作られた“兵器”だった。
「……できれば、刀の野郎と戦いたかったが……」
ヨウヘイが毒づく。
「……まあ、お前らで十分、準備運動にはなる」
彼の全身が、雷となった。
次なる衝突の音が――森を切り裂いた。
戦いは、まだ終わっていなかった。
折れた木々と焦げた大地の中、
エデンの体が、ゆっくりと起き上がる。
背後にはユキがまだ気を失ったまま横たわっていた。
ヨウヘイは前方に立ち続けていた。
右腕は崩壊していたが、彼の誇りはまだ砕かれていない。
17番目のフードの者が静かに前へ出た。
「仲間と離れたのが、間違いだったな」
ヨウヘイと目を合わせながら言う。
――ピシッ…
ヨウヘイの目に雷光が走る。
「……あの悪魔は、俺の仲間じゃない」
歯の隙間から吐き捨てる。
「ただの足手まといだ」
言葉の直後、雷鳴と共に地面が震える。
ヨウヘイが全残りの力で跳躍――
18番を胸に一撃で吹き飛ばし、岩に叩きつけた。
17番がカウンターを仕掛ける……が、その前に現れた影。
エデン。
「一人でやらせない」
剣の柄を強く握りしめながら、静かに立つ。
17番が一歩退いた。
「……お前、立てるはずがない。もう限界を超えている」
「関係ない」
エデンは、目を逸らさず言い放つ。
「まだ戦える。誰も、もう俺のせいで死なせない」
その時、空が鳴いた。
ヨウヘイがしゃがみ込み、肩を押さえる。
――ズズン…
18番が瓦礫から立ち上がる。
「ほう、いい度胸だ……だがそれだけでは足りん」
拳を構えた瞬間――
「……終わりだ」
重圧が空気を押し潰した。
音も、風も、動きも止まる。
木々の間から、20番目のフードの男が現れた。
名乗ることすら必要ない。
その“気配”がすべてを語っていた。
「……な、何者だ」
ヨウヘイが冷や汗を流す。
カイは、すでに刀を収め、頭を垂れていた。
「……隊長」
「任務は完了だ。引くぞ」
その声は淡々と響く。
カイは素直に従い、歩を退いた。
「はい、隊長」
「逃がさない!!」
エデンの叫びが森に響く。
黒い闇を纏った剣が振り下ろされる――
だが、その一閃は。
17番に軽々と止められた。
「……すまないな、エデン」
その声――どこか懐かしい。
フードが落ちる。
現れたのは、ミヤだった。
時が――止まった。
「な……なんで……?」
答えはなかった。
代わりに、エデンの腹部へ一撃。
視界が黒に染まる。
「……かわいそうな子羊だ」
20番が笑う。
「すべてを教えてやる時は来る。だが今ではない」
そして――
闇に飲まれるように、彼らの姿は消えた。
森に静寂が戻る。
やがて、世界が音を取り戻す。
――木々のざわめき。風のうなり。微かな放電音。
ヨウヘイが膝をつき、崩れ落ちる。
直後、都市を覆っていたバリアが消え去る。
その遥か上空――
神々の評議会が一斉に解放され、急速に地上へ降りていった。
街はまだ燃えていた。
煙が立ち上り、灰が空を舞う。
破壊された街。誰も勝者などいない戦場。
ゼウスが降臨した。
焦げた地を踏みしめ、鋭い目で周囲を見渡す。
――血、瓦礫、破壊の跡。
やがて、中央で倒れている三人を見つける。
エデン。ユキ。ヨウヘイ。
重傷だが――生きていた。
「……生き残ったか」
安堵と怒りの入り混じった声。
空気に残る“あの力”の痕跡。
ゼウスの顔が険しくなる。
間もなく、アレスが現れた。
槍に血を滴らせ、険しい表情のまま。
「父上……何があった?」
ゼウスはすぐに答えなかった。
手には、折りたたまれた一通の手紙。
それをしばらく見つめ、内ポケットへしまう。
「……戦争が始まった。
だが、今までとは違う」
ゼウスはアレスに視線を向ける。
「シュンを探せ。そして王に伝えろ。
我らは今、シュンよりも強大な存在と向き合っている。
神一人一人では勝てない――
“一つの意思”として戦うしかないと」
アレスは一瞬、動きを止めた。
「……シュンより強い? そんな馬鹿な……」
「命令だ」
ゼウスの声は鋼鉄のようだった。
アレスは黙って頷き、三人を抱え――光と共に消える。
ゼウスは一人残った。
空を見上げる。
まだ、ポータルが開いている。
“奴ら”が言った言葉が、再び脳裏に響く。
――「新たな世界を創るには、旧き世界を壊さなければならない」
……誰もが一度は思ったこと。
だが、それを実行に移す者は、ほんの一握り。
その目が再び開いた時――
すでに神々はオリュンポスに集っていた。
誰もが、何が起きたかを悟っていた。
説明は不要だった。
「皆、わかっているはずだ」
ゼウスの声が重く響く。
「……巻き込んでしまったことは謝る。
だが、もう認めなければならない。これが現実だ」
オーディンが腕を組む。
「……弱さを見せるわけにはいかん。
今、迷えばすべてを失う」
「同感ね」
アマテラスが冷たく答える。
「市民に知らせるべきではない。
……恐怖は、崩壊を招く」
ゼウスは黙ってから、頷いた。
「では、我らは強く在ろう。
……退くことはない。だが――忘れもしない」
「この夜の犠牲は、決して無駄にはしない」
「預言者」とやらが我らを屈服させようと考えているなら――
とんだ見誤りだ。
パチャママが、小さく笑って言う。
「……やっとまともなこと言ったじゃない、ゼウス」
神々の評議会は続く。
だがその遥か下――
エデンは眠っていた。
だが、夢ではなかった。
それは、彼自身の中にある奈落。
悪魔の鎖が震え、
天使が腕を組んで、ただ彼を見下ろしていた。
その間に漂う、より深き闇。
そして、その中から……声が響く。
「……世界を壊せ」
「嘘を壊せ」
「真実を壊せ」
意味はまだ掴めない。
だが、彼の内側で――何かが、確かに目覚め始めていた。
なぜなら――
恐怖が怒りに変わったとき。
内なる光さえも、闇へと堕ちるのだから。