戦争は人間を変えると言われますが、戦争が人間を裸にしてしまうということについては誰も言及しません。彼らの衣服でも武器でもなく、彼らのマスクです。
痛みが静まり、怒りが習慣になると、各人の本当の顔が明らかになります。それは、震える臆病者の顔、前進する勇敢な顔、沈黙を守る賢明な顔、または叫ぶ衝動的な顔です。深淵に直面すると、あなたの夢がどれだけ大きかったか、あなたの理想がどれだけ高尚だったかはもはや重要ではなくなります。残る質問はただ一つ。戻って来られないかもしれないとわかっていても、歩き続けるつもりですか?
街は最近の悲劇の余韻に包まれながら、激しく息づかいを続けていた。瓦礫の下には、まだ希望が脈打っていた。しかし、それは以前と同じではありませんでした。それは血と灰にまみれた砕けた希望であり、より脆く、しかしより決意に満ちたものでもありました。
多くの人が、そろそろ前進すべき時ではないかと考えている一方で、すでに一歩前進している人たちもいました。なぜなら、戦うことは選択肢ではない人もいるからです。それは、もうこの世にいない人々を敬う唯一の方法です。
そして、傷がまだ血を流していて、魂が叫び続けているとき、手を挙げて「私は行きます」と言うだけで十分な場合もあります。
—————————————————————————————————————————————————————————
広場に満ちる沈黙は、これまでとは異なるものだった。
それは敬意でも期待でもない――恐怖だった。
アフロディーテとゼウスの前に集められた生徒たちは、ここ数日の出来事の重みに押し潰されそうになっていた。
包帯を巻いた者もいれば、目に見えぬ傷を隠す者もいた。
口を開いたのはアフロディーテだった。
いつも以上に硬く、澄んだ声。
「なぜここに集められたか、皆わかっているはずよ」
「……数日前の悲劇。誰にとっても、簡単には乗り越えられないことだと思うわ」
「友を失った者もいる。家族を失った者もいる。けれど――私たちは決断を下したわ」
彼女は一度言葉を止め、全員を見渡した。
「――トーナメントは続行する」
ざわ…という小さな動揺が広がった。
腕を組み、鋭い目をしていたラックスが叫ぶ。
「ちょっと待て……本気で言ってるのか? あんなことがあったのに? 死んだ奴らはどうなるんだよ! こんなの、普通じゃない!」
ゼウスが一歩前へ出た。
その視線は重く、その声は岩のように沈んでいた。
「起きたことを無視するつもりはない。だからこそ、我々は強制しない」
「参加者が三人見つからなければ、ノルク戦は辞退する。以上だ」
バイオレットは、無言のまま目を伏せていた。
死体の記憶、血に染まった手、まだ耳の奥に残る悲鳴――彼女の心は遠く、遠くへ彷徨っていた。
ユキは眉をひそめ、両手を強く握りしめていた。
(……もしまた現れたら? もし、これが罠だったら?)
いつも強気なヨウヘイでさえ、微かに震えていた。
ゼフはすぐに気付いた。
(……震えてる? あいつ、一体あの日何を見たんだ?)
セバスチャンは地面を見つめながら、心でつぶやいた。
(……誰も手を挙げねぇよ。強い奴らでさえ、口を開けねぇ)
アフロディーテは、その沈黙の意味を理解していた。
それは畏敬ではない。空虚だった。
……そして、一つの手が挙がった。
全員の視線が向けられる。
エデンが一歩前へ出る。
「俺が行く」
その一言は、沈黙を切り裂く雷鳴のようだった。
シュウが驚きに目を見開く。
アイザックが微笑む。
「じゃあ、俺も行こうかな」
「……その勇気、嫌いじゃないぜ、悪魔くん」
エデンが顔を向ける。
眉をひそめて問う。
「……なんだって?」
「聞こえただろ」
シュウがため息をつきながらも、微かに笑う。
「仕方ねぇな。じゃあ俺も行くよ。
お前ら二人のバカを放っておくわけにはいかないからな。誰かが面倒見ないと」
「誰がバカだって?」
アイザックがにやりと笑う。
アフロディーテは、ほっとした様子で頷いた。
「では決定ね。
アイザック・ヨイ、エデン・ヨミ、シュウ・サジェス――
あなたたち三人が代表者となるわ。残りは解散していいわよ」
生徒たちは静かに立ち去る。
英雄を見るような目。あるいは、自殺志願者を見るような目。
三人だけが残った時――ゼウスが近づく。
「知っていると思うが、形式は一対一だ」
「ただし、前回のような事態が再び起きても、お前たちを守る保証はない。完全に、単独行動となる」
エデンは即答した。
「……助けなんて、最初から期待していない。
俺は、俺自身の力であいつらに立ち向かう」
ゼウスは次にシュウに視線を向けた。
「お前があとの二人を見張れ。無茶はさせるな」
「了解」
「君に任せる」
神の声は重く、責任を託すものだった。
アフロディーテも一歩前へ出る。
「私も同行するわ。
守れるかどうか分からない。あの連中は、私の百倍強い……でも、それでも――命を賭ける覚悟はある」
シュウが目を細める。
「これだけ話してくれるってことは……ノルクにあいつらが現れる確率、高いんだな?」
ゼウスがうなずく。
「九割の確率でな」
「なら、なんで神々全員で行かないんだよ?
十二神が動けば、奴らを潰せるだろ」
「無理だ」
ゼウスが即座に遮る。
「奴らには間者がいる。もし我々が動けば、他の都市が襲撃されるかもしれない。
それは、避けねばならん」
「……じゃあ、リーダーは?」
シュウの声は低かった。
「……奴には勝てない」
答えたのはアフロディーテだった。
「十二人でかかっても、勝ち目はない」
沈黙。
ゼウスが最後にエデンに向き直る。
「特に、お前には期待している。
……お前こそが、鍵を握る存在だ」
拳を握るエデン。
「――止まらない。絶対に奴らを捕らえてみせる」
あの女神の言葉は、空気に残響のように残っていた。
その重みは、エデンにはまだ抱えきれないものだった。
「祖父は…神のことなんて一言も話さなかった」
ゆっくりと剣を納めながら、エデンは言った。
「なぜ黙っていたんだろう?」
女神はすぐには答えなかった。
その瞳には、あまりに古く、もはや彼女自身にも届かぬほど遠い記憶が揺れていた。
「わからないわ」
正直に答える声。
「でも、理由があったはずよ。ゲンは…自分の過去について、あまり語らない人だったから」
「何があったんだ?」
囁くような声でエデンが訊いた。
「ブラック・ライツの連中に連れ去られたんだ。ちょうど、シュンと出会ったあの日…」
女神の顔が一瞬で引き締まった。
一歩、彼に近づく。
「誰がやったの? あの組織のトップ?」
「いや…」
首を横に振る。
「二人の構成員だけだった。でも、異常なほど強かった」
「ありえない…」
女神は眉をひそめてつぶやいた。
エデンは彼女の表情を読み取った。
「どういうことだ?」
「ゲンが負けるなんて…そんなはずがないのよ」
彼女の声に戸惑いが混じる。
「ただの下っ端に負けるような人じゃない」
言葉が落ちるたび、空気が重くなる。
「じゃあ…まさか、俺が…」
「違う」
きっぱりと遮る声。
「お前のせいじゃない。ゲンが負けたとすれば、それは命よりも大切なものを守ろうとしたから。それが、お前だった」
エデンは視線を落とし、拳を固く握った。
「どうして…そこまで信じてるんだ? 祖父は一体、何者なんだよ?」
女神は、誇りと寂しさの混ざった眼差しで答えた。
「お前の祖父は…ゲン・ヨミ。
伝説の《炎の獅子》だった」
心臓が跳ねる音が、自分でも聞こえた。
「……伝説の《炎の獅子》? 本気で言ってる?
ラーメンを目を閉じて作ってた、あのじいさんが!?」
彼女は微笑んだ。
「間違いないわ。私が、彼にその剣を授けた」
エデンは思わず半歩後ずさった。
信じられないという思いが、全身を巡る。
「ずっと…ただの日本に住む老人だと思ってた。
どうして…どうして、あの日突然、あの戦場に現れたんだ?」
「まだ知らないことが、たくさんあるのよ」
女神の声は静かだった。
「彼が語らなかったのは、守るためか…もしくは、いつかお前自身が答えを求めるとわかっていたから」
エデンは彼女を見つめた。
その瞳には懇願が宿っていた。
「全部…教えてくれ」
その時、遠くから男の声が届いた。
「アマテラス。時間だ」
黒髪の高身長の男が、ゆっくりと近づいてくる。
「今なの? もう少しぐらい…!」
彼女は振り向いて抗議する。
「申し訳ない。戻らなければ」
アマテラスは小さくため息をついた後、再びエデンの方を向いた。
「ここで終わってしまうのが残念だけど…
本当にゲンのことを知りたいなら、私たちの地へ来なさい。
あの人には借りがある。私は…できる限りのことをしてあげたい」
エデンは深くうなずいた。感謝と、希望と、少しの焦燥。
「ありがとう。ところで…あなたの名前は?」
彼女は、朝日のような優しい笑みを浮かべて答えた。
「私はアマテラス。太陽の女神よ」
エデンは一瞬、固まった。
「アマテラス……!? す、すみません! そんな…知らなくて…!」
「いいのよ」
彼女はくすっと笑った。
「久しぶりに、普通の会話ができて楽しかった。人間との会話も、悪くないわね」
二人は光に包まれ、消えていった。
その場に残されたエデンは、海風を受けながら、しばらく空を見上げていた。
やがて、目を閉じて呟く。
「――じいちゃん……あんたは、一体何者だったんだ……?」
――――――――――――――――
数日後。
復興の進む街に、再び朝日が差し込む。
傷は癒えていない。
けれど、人々の歩みは止まらない。
丘の上に立つエデン。
その瞳には、決意の光が宿っていた。
「……今日が、その日だ」
「ノルクへ向かう。そして、あの二人に――もう少しだけ近づく」
風が衣をなびかせる。
彼は静かに、祖父から受け継いだ剣を抜いた。
「絶対に、見つけ出す。
そして…俺たちを傷つけた全てに、決着をつける」
その瞳には、力だけでなく――
揺るがぬ“目的”が宿っていた。