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第27章: 凍てつく冬

天候ではなく魂に従う季節もあります。


冬は雪や風ではなく、喪失とともにやってくることもあります。時間の特定の片隅では、寒さは大地から湧き出るのではなく、空虚な視線と壊れた沈黙から湧き出るのです。


この感情的な冬の真っ只中にあっても、まだ前進しようと奮闘している人々がいます。準備ができているからではなく、じっとしていては諦めてしまうからです。痛みは太陽や言葉で溶けることはないけれど、凍えた足で、しかし燃える心で歩みを進める人がいる。


今日、世界は凍てつく夏に染まっています。


希望、怒り、記憶、そして意志が、どんな戦いよりも深い葛藤の中で絡み合う物語。


熱だけでは不十分で、氷は容赦のない場所です。


すべてが壊れ始めると、本当の挑戦は戦うことではないからです...


…しかし、それによって魂が傷つけられないようにしなければなりません。


————————————————————————————————————————————————————————————————


冷たい風がアルフヘイムの廃墟を駆け抜けた。ロキは目を細め、その風に違和感を覚えた。それはただの風ではなかった……何かが近づいていた。




「エルシフ……お前も感じたか?」


ロキの声は乾いていた。




エルフは無言でうなずいた。その圧力、間違いなかった。




「今すぐ出発したほうがいい」


エルシフはシュウに向かって歩き出しながら言った。




「了解」


シュウは迷うことなく準備を整える。




だがロキが手で制した。




「俺が奴らを引きつける。その間に逃げろ」




エルシフは一瞬だけためらったが、その声色から覚悟を読み取った。




「わかった」




ロキの身体から暗黒のエネルギーが噴き出した。それは凶悪で、重く、異質な力だった。




「…こわいな」


シュウは思わず後退した。




ロキは一歩前に出て、苦々しい笑みを浮かべた。




「かかってこい……化け物ども」




霧の中から、怪物たちが咆哮とともに現れた。ロキは一瞬も躊躇せず飛び込んだ。目で追うことすらできない連撃が放たれる。




「今だ!」


エルシフの合図で、シュウとサラはすぐに駆け出す。サラは最後にロキの背中を振り返り、名残惜しそうに視線を残したまま、廃墟に消えた。




怪物たちを次々と粉砕しながら、ロキは歯を食いしばり、呟いた。




「……すまないな。お前たちにこんなことをするとはな……古き友よ」




彼は両手を空に掲げた。




「絶望の渦ゼツボウノウズ」




天に暗黒の渦が生まれた。そのエネルギーが雨のように降り注ぎ、生きとし生けるものを消滅させていく。




その時、どこかから子供の笑い声が響いた。ロキの顔に激しい怒りが浮かぶ。




「殺してやる……全員、この俺の手で」




次の瞬間、さらに多くの怪物たちが現れた。ロキの瞳は完全に闇に染まり――




「苦悩の鎖クノウノクサリ」




地面から鎖が這い出し、怪物たちを拘束した。悲鳴が空を裂く。その命が、ロキの中へと吸われていった。




離れた廃墟の陰から、シュウはその光景を見つめていた。




「……本当に、手助けしなくて大丈夫か?」




エルシフは微かに首を振る。




「……たぶん。でも今近づけば、俺も消される」




「こっちだ」


サラが指をさした。




地面に突き刺さったままの剣――それは、ヘイムダルの剣だった。




「ありがとう」


シュウが素直に礼を言った。




「どういたしまして。さあ、アスガルドへ戻れ」




「わかった」


サラがシュウの隣に立つ。




エルシフは最後にもう一言だけ、静かに告げた。




「そして……今日の出来事は誰にも話すな」




「約束する」




エルフはどこか寂しげに微笑んだ。




「また、どこかで会えるといいな」




「うん、またね」




剣が光を放つ。虹の橋が開かれ、二人の姿が光に飲まれた。




静かになった廃墟の中で、エルシフは一人つぶやいた。




「さて……次は何だ?」




冷たい刃が背中に当たる。




「次にすることは……俺たちをロキの元に案内することだ」




ゆっくりと振り返るエルシフ。




「……お前たちは?」




フードを被った男は淡々と答える。




「説明しても無駄だろう」




背後から、さらに二人。計三人の影が廃墟の闇から現れた。




エルシフはわずかに視線を落とした。




「……彼らを救えてよかった」




ヘルヘイムの黒曜石の壁に、戦いの残響がまだ響いていた。舞い上がる塵が、戦場の静かな証人のように空中を漂っている。




ガルムの前に立つエデンは、息を切らしながらも姿勢を崩さずにいた。互いに激しく拳を交えた後、少し距離を取る。空気には、依然として緊張が漂っていた。




「悪くない……随分と強くなったな」


ガルムが荒い呼吸をしながら認める。




「ありがとう……でも、これで終わりじゃない」


エデンは肩で息をしながら応える。




暗黒のエネルギーが、まるで訓練された槍のように、彼の拳に精密に集中していく。拳と拳の衝突、何度繰り返しても決着はつかない。




(もう十秒以上経ってる……普通なら、とっくに消耗しているはずだ)


そう思いながらも、ガルムは目の前の拳がまだ強く光を放っていることに驚いていた。まるで決して消えない頑固な炎のように。




「おいおい……マジかよ……」


思わずガルムが呟く。




遠くからヘラが腕を組んで彼らを見つめていた。




(悪くない……彼の進化は凄まじい。バルドルが語った潜在力、あれは誇張じゃなかった)




(危険だ……もう牙に力を留めるのも限界だ。ほんの一瞬でも気を抜けば……)


ガルムの全身が徐々に緊張で固まっていく。




(あと少し……あと少しだけ……)


エデンの瞳が強く光る。




彼は再び猛スピードで突進する。ガルムはその拳を必死に避けるが、動きが徐々に追いつかなくなる。エデンのエネルギーが今度は脚へと流れた。




空を切るような蹴り。ガルムはそれを受け止めたが、衝撃は体全体に響いた。




(……危なかった)




バランスを取り戻そうとするが、もう遅い。気づけば、目の前にエデンがいた。




「クソッ……」


そう言った瞬間、拳を受け、ガルムの体は壁を貫通して飛ばされた。舞い上がる塵、血に染まった牙。




(何だ今の……動きが……獣みたいだ)


ガルムは咳をしながら、思考が混乱する。




エデンの瞳は赤く染まり、呼吸も、放たれるエネルギーも、不安定で荒々しい。彼の存在そのものが変わっていく。




「ふぅん……」


ヘラが静かに片眉を上げる。




ガルムは本能で悟った。


(これは……ただの力じゃない。殺意だ……今動かなければ……殺される)




だがその瞬間、ひとつの手がエデンの肩に触れた。




「もう十分だ」


それは、静かだが逆らえぬ力を持ったヘラの声。




一瞬で、殺気は霧のように消えた。エデンの瞳が元に戻り、息を切らしながらも、拳を下ろした。




ガルムはその場に膝をつく。




「やった……やったぞ!」


エデンが震える笑顔で叫ぶ。


「ついに……倒せたんだ……!」




(信じられない……短期間でここまで技術を安定させ、しかも本能で完全に使いこなしてる……あとは……あと一歩)


ヘラは視線を逸らさずにいた。




「ごめん……ちょっとやりすぎたかも」


エデンが息を整えながら謝る。




「謝る必要なんてないさ」


ガルムは心からの笑みを返した。


「君は……強いよ、エデン」




深く頭を下げるエデン。


「今までの訓練、本当にありがとう」




ヘラがゆっくりと歩み寄る。




「どうやら……最初の一歩は超えたようね」




「それで……次は?」


エデンが息を整えながら尋ねる。




「次の相手は……私よ」


ヘラが静かに言い放つ。




「え……もう? まだ遅延攻撃も習得できてないのに……」




「予定が狂ったのよ。三日後が、最終試験よ」




(三日後……!? 無理だろ、あの人は……化け物じゃないか……)


エデンの喉が乾いた。




「試験の内容は……私に一撃を加えること。ただ、それだけ」




「簡単に言うね……」




「“一撃”って言ったわ。触れる程度じゃなく……“本気”の一撃をね」




「了解……」




エデンは一歩前へ出た。その瞳に、炎が灯る。




「じゃあ……今日、試しに一度やってみる」




「本気なのね? 休まなくていいの?」




「今の自分の力を……知っておきたいんだ」




「ふふ……面白い子」




剣を手に取るエデン。




「武器の使用は?」




「自由よ」


ヘラは即答した。




「なら……本気でいく」




「来なさい」




エデンの体が爆発するように動き出す。剣は稲妻のように振るわれ、刃は正確無比に襲いかかる。




だがヘラは、わずか二本の指でその刃を止めた。そして脚で彼の腹を蹴り上げ、次に顔を蹴る。エデンの体が吹き飛び、壁に叩きつけられた。




(……本当に、噂通りだ)


血の混じった笑みを浮かべながら、エデンは立ち上がる。




剣が炎に包まれた。




「闇の炎……!」




燃える刃を構え、瞳を燃やして突進する。




(悪くないけど……エネルギーの限界が近いわね)


ヘラが冷静に見極めていた。




そのとき、エデンは剣を遠くから投げた。




「……!?」


ヘラの目がわずかに見開かれる。




だが次の瞬間、背後に現れたエデンを捕らえ、足で地面に叩きつける。




「いいアイディアだったけど……まだまだ、遅い」




エデンの動きが止まる。呼吸も……止まりかけていた。




ヘルヘイムの空気は重かった。漂うエネルギーの密度だけでなく、師と弟子の間に張り詰めた緊張が空間を圧迫していた。


最後の戦いの残響だけが、沈黙の中に微かに響いていた。




砕けた石の床から、エデンがゆっくりと身を起こす。体は震え、筋肉は悲鳴を上げ、乾いた血が戦いの証のように顔を彩っていた。




「今回はいつもより疲れてるみたいだな」腕を組みながら、ガルムが言った。




「負けたのか……?」エデンがぼそりとつぶやく。




「ああ。女王様に完全に叩きのめされたよ」




エデンの顔にかすかな笑みが浮かんだ。




「随分と優しい言い方だな」




「彼女に触れることすら考えてるなら、ただの力任せじゃどうにもならないぞ」


ガルムの眼差しは真剣だった。




「分かってる……今日は、どれだけ差があるかを知りたかっただけだ。正直、怖い。彼女の力の底が見えない」




重く頷くガルム。




「俺の女王は、ダイヤランク級の実力だと言われてる」




エデンはうつむき、ため息をついた。




「圧倒的な差だな……」




「だが、それでも使命を果たせないわけじゃない」


ガルムは視線をエデンに突き刺すように送った。




「使命?」




「ヘラ様が君を鍛えることにしたのは、誰かに頼まれたからじゃない。彼女自身が、君の中に何かを見たからだ。だから信じろ。ほんの一瞬でも、彼女に届くと」




エデンは黙って目を伏せた。だが次の瞬間、決意に満ちた目で顔を上げ、しっかりとうなずいた。




「……そう願いたい」




* * *




三日後。




ヘルヘイムの訓練場は、いつにも増して陰鬱に包まれていた。空間の縁で影がねじれ、不穏な気配が渦巻いている。




ヘラの前に立つエデン。その姿は、失敗を許されない戦士のように揺るぎなかった。




「ついにその日が来たか……本当にやれるのか?」


腕を組みながら、ヘラが問いかける。




「やれないなら、ここに立ってない」


エデンの声は迷いなきものだった。




ヘラはわずかに口元をつり上げた。




「いい返しね。言葉だけじゃないといいけど」




二人は同時に気を放ち始めた。地面が震え、宮廷の骸骨たちは怯え、柱の陰に身を隠す。




エデンの剣は闇のエネルギーに包まれ、その体から放たれる圧は一瞬ごとに増していく。




「へえ……本気みたいね」


ヘラが眉をひそめる。




「手加減する気はない」


そう宣言したエデンが、黒い稲妻のように火炎をまとって突進した。




「黒炎!」




爆発するごとに訓練場が赤黒く照らされる。


ヘラはわずかに後退し、目を細めた。




(今のは……惜しいわね)




だがその身はまだ軽やかに舞い、エデンの攻撃を難なく見切っていく。




(前と同じミスを繰り返してる……)




「黒き烈火!」




地面の下から炎が噴き出し、ヘラの衣の一部を焼いた。驚きに目を見開くヘラ。




(いつの間にそんな技を……成長が早すぎる)




(あと少し……)


エデンの全身が黒炎に包まれた。荒い息。足元の大地が砕ける。




「闇の技――闇の刃やみのやいば!」




その斬撃は、肉眼では捉えられない速度だった。


遠くの山が、一瞬で真っ二つに裂けた。




ヘラはその場に立ったままだったが、腕に一筋の血が滲んでいた。




(今の……見えなかった……)


遠くから見ていたガルムが震えた。




(やったな……だが、師として応える時だ)


ヘラが覚悟を決めた。




彼女の気が爆発した。目に見えぬ嵐が場を襲う。岩が砕け、空間が歪む。




その手には、骨と結晶化した血で編まれた杖が現れた。


その存在は神々しく、畏怖を抱かせるほどに威圧的だった。




骸骨たちは逃げ惑い、ヘルヘイムの壁が軋む。


だが――




エデンは笑っていた。




「面白くなってきたな……」


闇の炎に燃える瞳で、彼はつぶやいた。




ヘルヘイムの空気は重苦しかった。漂うエネルギーの濃さだけでなく、師と弟子の間に張り詰めた緊張が、空間を押しつぶしていた。


静寂が辺りを包み、先ほどの戦闘の残響だけがわずかに響いている。




ひび割れた石の床から、エデンがゆっくりと体を起こした。震える身体、痛む筋肉、そして乾いた血が頬を染め、まるで戦いの印のように刻まれていた。




「今回はずいぶんと疲れていたみたいだな」


腕を組んだまま、ガルムが呟いた。




「……負けたのか?」


まだ意識が朦朧とする中、エデンがかすれた声で尋ねた。




「ああ。女王様に完膚なきまでにやられたよ」




エデンの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。




「優しい言い回しだな」




「本気で彼女に触れたいなら、ただの力押しじゃ通じないぞ」


ガルムの声は厳しく、真剣だった。




「分かってる……今日は自分との距離を知りたかっただけ。正直、怖い。彼女の力の限界が見えないんだ」




「俺の女王は“ダイヤランク”に匹敵すると言われている」




エデンは俯き、重く息をついた。




「圧倒的すぎる差だな……」




「だが、それでもお前には使命がある」


ガルムの視線が鋭くなる。




「使命……?」




「ヘラ様が訓練を引き受けたのは、頼まれたからじゃない。お前の中に何かを見たからだ。信じろ。ほんの一瞬でも、彼女に届くと」




しばらく黙っていたエデンは、やがて目を上げ、強く頷いた。




「……そう願うよ」




* * *




三日後。




ヘルヘイムの訓練場は、いつにも増して暗く沈んでいた。空間の端では影がうごめき、不穏な気配が渦巻いている。




ヘラの前に立つエデン。その姿は、失敗が許されぬ戦士そのものだった。




「ついにこの日が来たわね……果たしてやれるかしら?」


腕を組んで、ヘラが問いかける。




「やれないなら、ここには立っていない」


エデンの声は揺るぎなかった。




ヘラはわずかに微笑む。




「いい返しね。言葉だけじゃないといいけど」




二人の気が解き放たれ、地面が揺れ始めた。骸骨の従者たちは柱の陰に逃げ込み、恐れを隠せない。




エデンの剣には闇の気がまとわりつき、その圧力は秒ごとに強まっていく。




「ふふ……本気なのね」


ヘラが眉を一つ上げた。




「手加減するつもりはない」


そう言うや否や、エデンは黒い雷のように突進する。火炎を纏い、勢いは尋常ではなかった。




「黒炎こくえん!」




轟音と共に暗黒の爆発が連続し、訓練場が照らされる。ヘラがわずかに後退する。




(今のは……惜しかった)


だが彼女は軽やかに動き、すべての攻撃を読み切っていく。




(相変わらず同じミスを……)




「黒き烈火れっか!」




地中から突如炎が噴き出し、ヘラの衣を焼き払う。彼女の表情にわずかな驚きが走った。




(いつの間にあんな技を……進化の速度が異常ね)




(もう少し……!)


エデンの全身が黒炎に包まれる。呼吸は荒れ、足元の大地が悲鳴を上げた。




「闇の技――闇の刃やみのやいば!」




その斬撃は目に映らぬ速さで、遠くの山が一瞬で真っ二つに砕けた。




ヘラはその場に立ち尽くしていたが、腕には細い血の筋が流れていた。




(今のは……見えなかった)


遠くから見ていたガルムが震える。




(やったな……だが、師として応える時だ)




ヘラの気が爆発する。目に見えぬ嵐が吹き荒れ、大地が砕け、空気がねじれる。




その手には、絡み合う骨と結晶化した血でできた杖が現れた。


神のような威圧感が周囲を支配する。




骸骨たちは逃げ出し、ヘルヘイムの壁が軋む。


だが――




エデンは笑っていた。




「面白くなってきたな……」


闇の焔を宿す瞳でつぶやいた。




* * *




ズガァァァァン――!




武器がぶつかり合うたび、ヘルヘイム全体が震えた。壁が唸り、空は暗転し、戦いの残響は死の境界を超えて響いた。




ヘラとエデンの動きは人知を超え、光の閃きのように戦場を駆けた。


一撃ごとに衝撃波が走り、全てを破壊していく。




(目で追うのがやっとだ……これはもう訓練じゃない。本物の戦いだ)


ガルムが遠くから見守る中、二人は最後の交差でわずかに離れた。




「闇の技――闇の刃!」




「闇の裂け目さけめ!」




二つの斬撃がぶつかり合う。片や鋭く、片や深く裂ける――


爆発音が大地を貫き、二人の足元に巨大なクレーターが穿たれた。




黒いエネルギーと粉塵が宙を舞う。




「さすが……私の弟子ね」


ヘラが息を整えつつ微笑んだ。




「ありがとう……でも、まだ終わってない」


エデンもまた、息を切らしながら立っていた。




その瞬間、空間がひび割れる。




時間が一瞬だけ止まったように、ヘラの体が見えない一撃に貫かれた。




彼女の身体は吹き飛ばされ、訓練場の山に激突した。岩が崩れ、腹部から赤い線がゆっくりと流れ出す。




(今のは……遅れて発動した一撃!やったな……!)


ガルムの目に驚きが浮かぶ。




(反応できなかった……正確で、鋭くて……本物の一撃だった)


ヘラは岩に手をつきながら、力の流れが静かに消えていくのを感じた。




口元から血を吐き、空を見上げる。




エデンは膝をつき、荒く息をしながら言った。




「……やったのか?」




ヘラはしばらく無言のまま見つめていたが、やがてゆっくりと微笑んだ。




「やったどころか……私の期待を超えたわ」




「……よかった……」


安堵の息がこぼれた。




ヘラが静かに手をかざすと、赤いエネルギーがエデンを包み込んだ。




衣が変化し、深い黒と白の装飾が浮かび上がる。それは冥界で鍛え上げられた戦士にふさわしい、儀礼用の戦装だった。




「エデン・ヨミ――試練は合格よ。もう弟子ではない。今からは“ベテラン”として、私の認めた戦士として誇りを持ちなさい」




エデンは頭を下げ、かすれた声で答えた。




「……ありがとう……」




そして――意識を失い、その場に倒れ込んだ。




戦場の頂に、静かに風が吹く。


ガルムは黙って見つめ――微笑んだ。




新たな戦士が誕生したのだった。

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