天候ではなく魂に従う季節もあります。
冬は雪や風ではなく、喪失とともにやってくることもあります。時間の特定の片隅では、寒さは大地から湧き出るのではなく、空虚な視線と壊れた沈黙から湧き出るのです。
この感情的な冬の真っ只中にあっても、まだ前進しようと奮闘している人々がいます。準備ができているからではなく、じっとしていては諦めてしまうからです。痛みは太陽や言葉で溶けることはないけれど、凍えた足で、しかし燃える心で歩みを進める人がいる。
今日、世界は凍てつく夏に染まっています。
希望、怒り、記憶、そして意志が、どんな戦いよりも深い葛藤の中で絡み合う物語。
熱だけでは不十分で、氷は容赦のない場所です。
すべてが壊れ始めると、本当の挑戦は戦うことではないからです...
…しかし、それによって魂が傷つけられないようにしなければなりません。
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冷たい風がアルフヘイムの廃墟を駆け抜けた。ロキは目を細め、その風に違和感を覚えた。それはただの風ではなかった……何かが近づいていた。
「エルシフ……お前も感じたか?」
ロキの声は乾いていた。
エルフは無言でうなずいた。その圧力、間違いなかった。
「今すぐ出発したほうがいい」
エルシフはシュウに向かって歩き出しながら言った。
「了解」
シュウは迷うことなく準備を整える。
だがロキが手で制した。
「俺が奴らを引きつける。その間に逃げろ」
エルシフは一瞬だけためらったが、その声色から覚悟を読み取った。
「わかった」
ロキの身体から暗黒のエネルギーが噴き出した。それは凶悪で、重く、異質な力だった。
「…こわいな」
シュウは思わず後退した。
ロキは一歩前に出て、苦々しい笑みを浮かべた。
「かかってこい……化け物ども」
霧の中から、怪物たちが咆哮とともに現れた。ロキは一瞬も躊躇せず飛び込んだ。目で追うことすらできない連撃が放たれる。
「今だ!」
エルシフの合図で、シュウとサラはすぐに駆け出す。サラは最後にロキの背中を振り返り、名残惜しそうに視線を残したまま、廃墟に消えた。
怪物たちを次々と粉砕しながら、ロキは歯を食いしばり、呟いた。
「……すまないな。お前たちにこんなことをするとはな……古き友よ」
彼は両手を空に掲げた。
「絶望の渦ゼツボウノウズ」
天に暗黒の渦が生まれた。そのエネルギーが雨のように降り注ぎ、生きとし生けるものを消滅させていく。
その時、どこかから子供の笑い声が響いた。ロキの顔に激しい怒りが浮かぶ。
「殺してやる……全員、この俺の手で」
次の瞬間、さらに多くの怪物たちが現れた。ロキの瞳は完全に闇に染まり――
「苦悩の鎖クノウノクサリ」
地面から鎖が這い出し、怪物たちを拘束した。悲鳴が空を裂く。その命が、ロキの中へと吸われていった。
離れた廃墟の陰から、シュウはその光景を見つめていた。
「……本当に、手助けしなくて大丈夫か?」
エルシフは微かに首を振る。
「……たぶん。でも今近づけば、俺も消される」
「こっちだ」
サラが指をさした。
地面に突き刺さったままの剣――それは、ヘイムダルの剣だった。
「ありがとう」
シュウが素直に礼を言った。
「どういたしまして。さあ、アスガルドへ戻れ」
「わかった」
サラがシュウの隣に立つ。
エルシフは最後にもう一言だけ、静かに告げた。
「そして……今日の出来事は誰にも話すな」
「約束する」
エルフはどこか寂しげに微笑んだ。
「また、どこかで会えるといいな」
「うん、またね」
剣が光を放つ。虹の橋が開かれ、二人の姿が光に飲まれた。
静かになった廃墟の中で、エルシフは一人つぶやいた。
「さて……次は何だ?」
冷たい刃が背中に当たる。
「次にすることは……俺たちをロキの元に案内することだ」
ゆっくりと振り返るエルシフ。
「……お前たちは?」
フードを被った男は淡々と答える。
「説明しても無駄だろう」
背後から、さらに二人。計三人の影が廃墟の闇から現れた。
エルシフはわずかに視線を落とした。
「……彼らを救えてよかった」
ヘルヘイムの黒曜石の壁に、戦いの残響がまだ響いていた。舞い上がる塵が、戦場の静かな証人のように空中を漂っている。
ガルムの前に立つエデンは、息を切らしながらも姿勢を崩さずにいた。互いに激しく拳を交えた後、少し距離を取る。空気には、依然として緊張が漂っていた。
「悪くない……随分と強くなったな」
ガルムが荒い呼吸をしながら認める。
「ありがとう……でも、これで終わりじゃない」
エデンは肩で息をしながら応える。
暗黒のエネルギーが、まるで訓練された槍のように、彼の拳に精密に集中していく。拳と拳の衝突、何度繰り返しても決着はつかない。
(もう十秒以上経ってる……普通なら、とっくに消耗しているはずだ)
そう思いながらも、ガルムは目の前の拳がまだ強く光を放っていることに驚いていた。まるで決して消えない頑固な炎のように。
「おいおい……マジかよ……」
思わずガルムが呟く。
遠くからヘラが腕を組んで彼らを見つめていた。
(悪くない……彼の進化は凄まじい。バルドルが語った潜在力、あれは誇張じゃなかった)
(危険だ……もう牙に力を留めるのも限界だ。ほんの一瞬でも気を抜けば……)
ガルムの全身が徐々に緊張で固まっていく。
(あと少し……あと少しだけ……)
エデンの瞳が強く光る。
彼は再び猛スピードで突進する。ガルムはその拳を必死に避けるが、動きが徐々に追いつかなくなる。エデンのエネルギーが今度は脚へと流れた。
空を切るような蹴り。ガルムはそれを受け止めたが、衝撃は体全体に響いた。
(……危なかった)
バランスを取り戻そうとするが、もう遅い。気づけば、目の前にエデンがいた。
「クソッ……」
そう言った瞬間、拳を受け、ガルムの体は壁を貫通して飛ばされた。舞い上がる塵、血に染まった牙。
(何だ今の……動きが……獣みたいだ)
ガルムは咳をしながら、思考が混乱する。
エデンの瞳は赤く染まり、呼吸も、放たれるエネルギーも、不安定で荒々しい。彼の存在そのものが変わっていく。
「ふぅん……」
ヘラが静かに片眉を上げる。
ガルムは本能で悟った。
(これは……ただの力じゃない。殺意だ……今動かなければ……殺される)
だがその瞬間、ひとつの手がエデンの肩に触れた。
「もう十分だ」
それは、静かだが逆らえぬ力を持ったヘラの声。
一瞬で、殺気は霧のように消えた。エデンの瞳が元に戻り、息を切らしながらも、拳を下ろした。
ガルムはその場に膝をつく。
「やった……やったぞ!」
エデンが震える笑顔で叫ぶ。
「ついに……倒せたんだ……!」
(信じられない……短期間でここまで技術を安定させ、しかも本能で完全に使いこなしてる……あとは……あと一歩)
ヘラは視線を逸らさずにいた。
「ごめん……ちょっとやりすぎたかも」
エデンが息を整えながら謝る。
「謝る必要なんてないさ」
ガルムは心からの笑みを返した。
「君は……強いよ、エデン」
深く頭を下げるエデン。
「今までの訓練、本当にありがとう」
ヘラがゆっくりと歩み寄る。
「どうやら……最初の一歩は超えたようね」
「それで……次は?」
エデンが息を整えながら尋ねる。
「次の相手は……私よ」
ヘラが静かに言い放つ。
「え……もう? まだ遅延攻撃も習得できてないのに……」
「予定が狂ったのよ。三日後が、最終試験よ」
(三日後……!? 無理だろ、あの人は……化け物じゃないか……)
エデンの喉が乾いた。
「試験の内容は……私に一撃を加えること。ただ、それだけ」
「簡単に言うね……」
「“一撃”って言ったわ。触れる程度じゃなく……“本気”の一撃をね」
「了解……」
エデンは一歩前へ出た。その瞳に、炎が灯る。
「じゃあ……今日、試しに一度やってみる」
「本気なのね? 休まなくていいの?」
「今の自分の力を……知っておきたいんだ」
「ふふ……面白い子」
剣を手に取るエデン。
「武器の使用は?」
「自由よ」
ヘラは即答した。
「なら……本気でいく」
「来なさい」
エデンの体が爆発するように動き出す。剣は稲妻のように振るわれ、刃は正確無比に襲いかかる。
だがヘラは、わずか二本の指でその刃を止めた。そして脚で彼の腹を蹴り上げ、次に顔を蹴る。エデンの体が吹き飛び、壁に叩きつけられた。
(……本当に、噂通りだ)
血の混じった笑みを浮かべながら、エデンは立ち上がる。
剣が炎に包まれた。
「闇の炎……!」
燃える刃を構え、瞳を燃やして突進する。
(悪くないけど……エネルギーの限界が近いわね)
ヘラが冷静に見極めていた。
そのとき、エデンは剣を遠くから投げた。
「……!?」
ヘラの目がわずかに見開かれる。
だが次の瞬間、背後に現れたエデンを捕らえ、足で地面に叩きつける。
「いいアイディアだったけど……まだまだ、遅い」
エデンの動きが止まる。呼吸も……止まりかけていた。
ヘルヘイムの空気は重かった。漂うエネルギーの密度だけでなく、師と弟子の間に張り詰めた緊張が空間を圧迫していた。
最後の戦いの残響だけが、沈黙の中に微かに響いていた。
砕けた石の床から、エデンがゆっくりと身を起こす。体は震え、筋肉は悲鳴を上げ、乾いた血が戦いの証のように顔を彩っていた。
「今回はいつもより疲れてるみたいだな」腕を組みながら、ガルムが言った。
「負けたのか……?」エデンがぼそりとつぶやく。
「ああ。女王様に完全に叩きのめされたよ」
エデンの顔にかすかな笑みが浮かんだ。
「随分と優しい言い方だな」
「彼女に触れることすら考えてるなら、ただの力任せじゃどうにもならないぞ」
ガルムの眼差しは真剣だった。
「分かってる……今日は、どれだけ差があるかを知りたかっただけだ。正直、怖い。彼女の力の底が見えない」
重く頷くガルム。
「俺の女王は、ダイヤランク級の実力だと言われてる」
エデンはうつむき、ため息をついた。
「圧倒的な差だな……」
「だが、それでも使命を果たせないわけじゃない」
ガルムは視線をエデンに突き刺すように送った。
「使命?」
「ヘラ様が君を鍛えることにしたのは、誰かに頼まれたからじゃない。彼女自身が、君の中に何かを見たからだ。だから信じろ。ほんの一瞬でも、彼女に届くと」
エデンは黙って目を伏せた。だが次の瞬間、決意に満ちた目で顔を上げ、しっかりとうなずいた。
「……そう願いたい」
* * *
三日後。
ヘルヘイムの訓練場は、いつにも増して陰鬱に包まれていた。空間の縁で影がねじれ、不穏な気配が渦巻いている。
ヘラの前に立つエデン。その姿は、失敗を許されない戦士のように揺るぎなかった。
「ついにその日が来たか……本当にやれるのか?」
腕を組みながら、ヘラが問いかける。
「やれないなら、ここに立ってない」
エデンの声は迷いなきものだった。
ヘラはわずかに口元をつり上げた。
「いい返しね。言葉だけじゃないといいけど」
二人は同時に気を放ち始めた。地面が震え、宮廷の骸骨たちは怯え、柱の陰に身を隠す。
エデンの剣は闇のエネルギーに包まれ、その体から放たれる圧は一瞬ごとに増していく。
「へえ……本気みたいね」
ヘラが眉をひそめる。
「手加減する気はない」
そう宣言したエデンが、黒い稲妻のように火炎をまとって突進した。
「黒炎!」
爆発するごとに訓練場が赤黒く照らされる。
ヘラはわずかに後退し、目を細めた。
(今のは……惜しいわね)
だがその身はまだ軽やかに舞い、エデンの攻撃を難なく見切っていく。
(前と同じミスを繰り返してる……)
「黒き烈火!」
地面の下から炎が噴き出し、ヘラの衣の一部を焼いた。驚きに目を見開くヘラ。
(いつの間にそんな技を……成長が早すぎる)
(あと少し……)
エデンの全身が黒炎に包まれた。荒い息。足元の大地が砕ける。
「闇の技――闇の刃やみのやいば!」
その斬撃は、肉眼では捉えられない速度だった。
遠くの山が、一瞬で真っ二つに裂けた。
ヘラはその場に立ったままだったが、腕に一筋の血が滲んでいた。
(今の……見えなかった……)
遠くから見ていたガルムが震えた。
(やったな……だが、師として応える時だ)
ヘラが覚悟を決めた。
彼女の気が爆発した。目に見えぬ嵐が場を襲う。岩が砕け、空間が歪む。
その手には、骨と結晶化した血で編まれた杖が現れた。
その存在は神々しく、畏怖を抱かせるほどに威圧的だった。
骸骨たちは逃げ惑い、ヘルヘイムの壁が軋む。
だが――
エデンは笑っていた。
「面白くなってきたな……」
闇の炎に燃える瞳で、彼はつぶやいた。
ヘルヘイムの空気は重苦しかった。漂うエネルギーの濃さだけでなく、師と弟子の間に張り詰めた緊張が、空間を押しつぶしていた。
静寂が辺りを包み、先ほどの戦闘の残響だけがわずかに響いている。
ひび割れた石の床から、エデンがゆっくりと体を起こした。震える身体、痛む筋肉、そして乾いた血が頬を染め、まるで戦いの印のように刻まれていた。
「今回はずいぶんと疲れていたみたいだな」
腕を組んだまま、ガルムが呟いた。
「……負けたのか?」
まだ意識が朦朧とする中、エデンがかすれた声で尋ねた。
「ああ。女王様に完膚なきまでにやられたよ」
エデンの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。
「優しい言い回しだな」
「本気で彼女に触れたいなら、ただの力押しじゃ通じないぞ」
ガルムの声は厳しく、真剣だった。
「分かってる……今日は自分との距離を知りたかっただけ。正直、怖い。彼女の力の限界が見えないんだ」
「俺の女王は“ダイヤランク”に匹敵すると言われている」
エデンは俯き、重く息をついた。
「圧倒的すぎる差だな……」
「だが、それでもお前には使命がある」
ガルムの視線が鋭くなる。
「使命……?」
「ヘラ様が訓練を引き受けたのは、頼まれたからじゃない。お前の中に何かを見たからだ。信じろ。ほんの一瞬でも、彼女に届くと」
しばらく黙っていたエデンは、やがて目を上げ、強く頷いた。
「……そう願うよ」
* * *
三日後。
ヘルヘイムの訓練場は、いつにも増して暗く沈んでいた。空間の端では影がうごめき、不穏な気配が渦巻いている。
ヘラの前に立つエデン。その姿は、失敗が許されぬ戦士そのものだった。
「ついにこの日が来たわね……果たしてやれるかしら?」
腕を組んで、ヘラが問いかける。
「やれないなら、ここには立っていない」
エデンの声は揺るぎなかった。
ヘラはわずかに微笑む。
「いい返しね。言葉だけじゃないといいけど」
二人の気が解き放たれ、地面が揺れ始めた。骸骨の従者たちは柱の陰に逃げ込み、恐れを隠せない。
エデンの剣には闇の気がまとわりつき、その圧力は秒ごとに強まっていく。
「ふふ……本気なのね」
ヘラが眉を一つ上げた。
「手加減するつもりはない」
そう言うや否や、エデンは黒い雷のように突進する。火炎を纏い、勢いは尋常ではなかった。
「黒炎こくえん!」
轟音と共に暗黒の爆発が連続し、訓練場が照らされる。ヘラがわずかに後退する。
(今のは……惜しかった)
だが彼女は軽やかに動き、すべての攻撃を読み切っていく。
(相変わらず同じミスを……)
「黒き烈火れっか!」
地中から突如炎が噴き出し、ヘラの衣を焼き払う。彼女の表情にわずかな驚きが走った。
(いつの間にあんな技を……進化の速度が異常ね)
(もう少し……!)
エデンの全身が黒炎に包まれる。呼吸は荒れ、足元の大地が悲鳴を上げた。
「闇の技――闇の刃やみのやいば!」
その斬撃は目に映らぬ速さで、遠くの山が一瞬で真っ二つに砕けた。
ヘラはその場に立ち尽くしていたが、腕には細い血の筋が流れていた。
(今のは……見えなかった)
遠くから見ていたガルムが震える。
(やったな……だが、師として応える時だ)
ヘラの気が爆発する。目に見えぬ嵐が吹き荒れ、大地が砕け、空気がねじれる。
その手には、絡み合う骨と結晶化した血でできた杖が現れた。
神のような威圧感が周囲を支配する。
骸骨たちは逃げ出し、ヘルヘイムの壁が軋む。
だが――
エデンは笑っていた。
「面白くなってきたな……」
闇の焔を宿す瞳でつぶやいた。
* * *
ズガァァァァン――!
武器がぶつかり合うたび、ヘルヘイム全体が震えた。壁が唸り、空は暗転し、戦いの残響は死の境界を超えて響いた。
ヘラとエデンの動きは人知を超え、光の閃きのように戦場を駆けた。
一撃ごとに衝撃波が走り、全てを破壊していく。
(目で追うのがやっとだ……これはもう訓練じゃない。本物の戦いだ)
ガルムが遠くから見守る中、二人は最後の交差でわずかに離れた。
「闇の技――闇の刃!」
「闇の裂け目さけめ!」
二つの斬撃がぶつかり合う。片や鋭く、片や深く裂ける――
爆発音が大地を貫き、二人の足元に巨大なクレーターが穿たれた。
黒いエネルギーと粉塵が宙を舞う。
「さすが……私の弟子ね」
ヘラが息を整えつつ微笑んだ。
「ありがとう……でも、まだ終わってない」
エデンもまた、息を切らしながら立っていた。
その瞬間、空間がひび割れる。
時間が一瞬だけ止まったように、ヘラの体が見えない一撃に貫かれた。
彼女の身体は吹き飛ばされ、訓練場の山に激突した。岩が崩れ、腹部から赤い線がゆっくりと流れ出す。
(今のは……遅れて発動した一撃!やったな……!)
ガルムの目に驚きが浮かぶ。
(反応できなかった……正確で、鋭くて……本物の一撃だった)
ヘラは岩に手をつきながら、力の流れが静かに消えていくのを感じた。
口元から血を吐き、空を見上げる。
エデンは膝をつき、荒く息をしながら言った。
「……やったのか?」
ヘラはしばらく無言のまま見つめていたが、やがてゆっくりと微笑んだ。
「やったどころか……私の期待を超えたわ」
「……よかった……」
安堵の息がこぼれた。
ヘラが静かに手をかざすと、赤いエネルギーがエデンを包み込んだ。
衣が変化し、深い黒と白の装飾が浮かび上がる。それは冥界で鍛え上げられた戦士にふさわしい、儀礼用の戦装だった。
「エデン・ヨミ――試練は合格よ。もう弟子ではない。今からは“ベテラン”として、私の認めた戦士として誇りを持ちなさい」
エデンは頭を下げ、かすれた声で答えた。
「……ありがとう……」
そして――意識を失い、その場に倒れ込んだ。
戦場の頂に、静かに風が吹く。
ガルムは黙って見つめ――微笑んだ。
新たな戦士が誕生したのだった。