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第37章: 呪われた少女の目覚め

時々、暗闇がすべてを覆っているとき、答えるのは光ではなく、別の暗闇です。


それは憎しみからではなく、痛みから生まれたもの。


復讐ではなく保護を求める者。


破壊するためではなく、世界がこれ以上壊れるのを防ぐために燃える闇。


神の犠牲の響きがまだ空中に響き渡っていた。巨人の倒れ方と伝説の台頭を静かに目撃した戦場は、空っぽになり始めていた。しかし、勝利の叫びが消えたとき、本当の怪物が生まれ、そして本当の奇跡も起こるのです。


なぜなら、すべての英雄が栄光のために生まれるわけではないし、すべての呪いが破壊のために生まれるわけではないからです。


絶望の淵で、すべてが失われたように思えるとき、自らの選択で目覚めるのではなく、世界がもはや彼らなしでは重荷に耐えられないために目覚める人々がいる。


そのため、過去にしがみつく人がいる一方で、自分たちが本当は何なのかを理解し始めたばかりの人もいる。


戦いが終わった。


しかし、痛み、目覚め、そして古代の怒りに彩られた新たな物語は、まだ始まったばかりです。


————————————————————————————————————————————————————————————————


トールの亡骸は、未だに拳を空へと突き上げたまま、蛇の死体の上に立ち尽くしていた。


まるで、死してなお倒れることを拒んでいるかのように。


周囲では、風が静かに囁く。まるで神々さえ、言葉を失ったかのようだった。




「ありがとう、トール……」


スランゲモルダーは声を震わせながら呟いた。


「君の遺志は、僕が継ぐよ」




兵士たちは少しずつその場を離れ始めた。


足取りは遅く、振り返る者は誰一人いなかった。


戦争は終わっていない。ただ、舞台が変わっただけだ。




スランゲモルダーは動けなかった。


もしこの場を去れば、自分の中の何かが壊れてしまう気がして。




だがその時——


空気が重くなった。異様に、圧倒的に重く。




霧と煙の中から、暗い気配が現れた。


それは濃密で、粘つくようで……まるで「恐怖」が形を持って歩いてきたようだった。




「いやあ、いやあ……」


演劇のような口調で、ふざけた声が響いた。


「まさかここまで立派な死に様とはね……トール、お前にはもったいないくらいだ」




スランゲモルダーは顔だけをわずかに向けた。




(誰だ、こいつ……?)




体が動かない。


(なぜ……動けない……!?)




その男は笑みを浮かべた。


鋭く細い牙が覗く。胸元には脈打つ黒い星。


そして、その体を包むマントは、生きているかのように揺れていた。




「おやおや……まだ誰か残ってたとは。てっきり皆逃げたかと思ってたのに。まったく……面倒だな。手を汚すか」




男が指を軽く上げた瞬間、見えざる力がスランゲモルダーを包んだ。




(死ぬ……?)


思考が霞む。


呼吸すら痛みを伴う。




男がゆっくりと近づく。


その歩みは、まるで勝利を味わうかのように余裕に満ちていた。




だが、その手が振り上げられた瞬間——




カンッ。




何かがその手首を打った。


「はあ? マジで?」


男は不機嫌そうに顔を上げた。




そこにいたのは、明らかに異質な存在。


軽装の猿のような姿。無造作な表情。だが、その目だけは……違っていた。




「それはこっちのセリフだよ」


その男は、如意棒をくるくると指で回しながら言った。


「ブラック・ライツの幹部が、こんな場所で何してんの?」




「……俺を知ってるのか?」




「黒い星なんか見たら、馬鹿でも気づくよ」


悟空の目が鋭くなった。


「……つーか、お前、臭いんだよ」




男はさらに笑みを深くした。




「……ふぅん。どうやら俺たちが思ってたより、情報が漏れてるらしいな。これはちょっと面倒だ」


その声が低くなった。


「仕方ないな……殺すか」




黒いオーラが一気に爆発した。


大地が震え、石が舞い上がる。




(こいつ……ただの敵じゃない……これは……)




スランゲモルダーは息をするのもやっとだった。


それほどまでに、その力は異質だった。




「下がってろ、人間」


悟空は視線を向けずにそう言った。




その声には、山よりも重い威圧感があった。




(……やっぱり、こいつら……)


悟空の気配が高まり、スランゲモルダーは確信する。


(神と同格……いや、それ以上の存在だ)




その瞬間——空が裂けた。




天より、神聖な光が降り注ぐ。




そして、響く。


数多のラッパの音。




「はあ……やっぱりかよ」


男は舌打ちした。




「……マジかよ。今は勘弁してくれって時に限って」




唇を舐め、一歩後退する。


「悪いね、猿王さん。遊びたいのは山々だけど、今はタイミングが最悪だ」




「そうかい?」


悟空が牙をむくような笑みを見せた。


「だったら教えてやろう。神より上の存在がいるってな」




「……何?」




男が振り返る。




そこには、空からゆっくりと降りてくる一人の戦士。




白と金の鎧に包まれたその姿は、まさに“神を超える者”。




——




そして、戦場の別の場所では。




「ナイ! シュウ!」


サラが走りながら叫んでいた。




「……サラ?」


二人が同時に声を上げる。




「なんでお前がここに!?」




「こっちの台詞よ!」


サラは腕を組みながら叫んだ。


「なんであんたたちがここにいるの? それに……こんな地獄に子供を連れてるなんて、正気なの?」




シュウはすぐには答えなかった。


視線は、彼のマントにしがみついている少女に注がれたままだ。




「長い話だ」


ようやく口を開きながら、少女から目を離さずに言った。


「でも今は説明してる時間がない」




「で、あのバカな悪魔はどこ?」


ナイが周囲を警戒しながら言葉を挟む。




サラは一瞬だけ目を伏せた。


その声は、わずかに重くなっていた。




「それなんだけど……」




静寂が走った。


そしてサラは、知っていることを全て語った。


その一言一言が、まるで裏切りの刃のように重く響いた。




「……嘘だろ」


シュウは信じられないという顔で呟いた。


「アイザックが?」




「ふうん」


ナイは皮肉を込めた声で言った。


「犯人はすぐそばにいたってことか」




「黙れ」


シュウが唸るように言った。


「理由があるはずだ。アイツがそんなことをするはずがない……!」




「理由があったとしても」


サラが肩をすくめながら口を挟む。


「私には分からない。ただ、聞いたことを伝えただけ」




「くそっ、アイザック……どうしてなんだよ」




ナイは顔をそむけた。空気が変わった。何かが近づいている。




「今はそれどころじゃない気がする」




「どこに連れていかれたか分かる?」


シュウは無視して詰め寄る。




「言ってなかった。ごめん」




シュウは拳を握りしめ、深く息を吸った。


「探しに行く。お願いだ、少女のことは頼んだ」




「……シュウ」


ナイが低く呼びかける。




「なんだよ」




「気をつけろよ、このバカ」




シュウは微笑んだ。


「ありがとう」




そのまま彼は廃墟の影へと消えた。


重い沈黙が残る。




「ちょっと意外ね」


サラがナイを横目で見る。




「言いたいこと言っただけさ」




「ふーん……」




「行こう。あのヨトゥンどもと鉢合わせはごめんだからな」




三人は瓦礫と死体の中を静かに進む。


空は灰に覆われ、風には焦げた灰が舞っていた。




「避難所の場所、分かる?」


ナイが尋ねた。




「大体は……でもこのペースじゃ時間がかかるわね」




「仕方ない。他に道はない」




その時、ナイの胸に不穏な気配が走った。




(なんだ、この感じ……?)




「危ないっ!」


ナイは反射的にサラと少女を突き飛ばした。




金属のドリルのようなものが飛来し、少女の頬をかすめた。


直撃は避けたが、ナイの腕を貫いた。




「ぐっ……!」


ナイは歯を食いしばって後退した。




屋根の上に、敵が姿を現す。


冷たい金属のように輝く鎧をまとったヨトゥンだった。




「三人まとめてやれると思ったんだが……まあいい」




ナイはその男を睨みつけた。




(今の……反応がギリギリだった。あと一瞬遅れてたら……)




サラの目が細まる。




(金属技……? 最悪の相手を選んだわね)




「雷!」


ナイが叫び、片腕を突き出した。




雷鳴が轟き、敵を直撃する。地面が揺れ、煙が立ち上る。




「終わった……はず」




だが、声が返ってきた。


落ち着いた、嘲るような声。




「なるほど、さすがトールの息子だ」




煙の中から、無傷の姿が現れた。




ナイは一歩後退した。




「……嘘だろ?」




「驚いたか?」


ヨトゥンは不敵に笑った。


「俺は金属の種族だから、本来なら雷には弱い……だがな。俺の鎧は、特殊なセラミック製。電気は通さないんだよ」




その瞬間、金属の槍が放たれ、ナイの腹を貫いた。




「がはっ……」


ナイは血を吐き、膝をついた。




「ナイ!」


サラの叫びが響く。




「……ガッカリだな」


ヨトゥンはゆっくりと屋根から降りてきた。


「トールの息子って聞いて少し期待したが、まるで違う。奴なら、こんな状況でも笑ってただろうよ」




ナイの体は動かない。


血が止まらず、視界がにじむ。




(俺は……ここで死ぬのか……? 何もできずに……)




少女は震えながらナイの横に立つ。


敵はゆっくりと、だが確実に歩み寄っていた。


まるで、勝利はすでに決まっているとでも言わんばかりに——




「……君、後ろに下がってなさい」


サラは敵から目を逸らさず、低く命じた。




「は、はいっ……」


少女は震えながら後退し始めた。




サラは深く息を吸い、そっと目を閉じた。


まるで、自分の中の何かに別れを告げるように。




(大嫌いよ……心の底から)


拳を握りしめながら思った。


(でも、それでもあんたは私の兄。役立たずでも……絶対に誰にも触れさせない)




彼女の目が開かれた瞬間、真紅に燃えていた。




「殺してやる」




その言葉と同時に、体から膨大な力が解き放たれた。


空気が震え、地面が低く唸った。


そのオーラは古く、濃く、まるで何世紀も封じられていた存在が今、目を覚ましたようだった。




「誰にも……」




瞳の形が裂け、獣のように鋭くなっていく。


耳は伸び、尖り、伝説のエルフのように変わっていった。




「……私の家族に触れさせない」




その髪は、月のように白くなびいた。




ナイは息を呑んだ。


「その姿……まさか……!」




オトゥンは目を細めながらその変化を見定めていた。


「……ダークエルフ。ふむ、面白くなってきた」




「お前を……粉々にしてやるッ!」




サラは予告もなく、猛然と突撃した。




その動きはもはや別次元の速さ。


白い残光が空を裂き、怒りと誓いが込められた一撃一撃が嵐のように襲いかかる。


一発一発が命を削る覚悟そのもの。


風が唸り、空気が引き裂かれ、オトゥンはかろうじてかわしていたが――




(クソッ……このままだと……!)


顔を歪めながらオトゥンは後退した。




(マズい……こいつ、いずれ俺に当ててくる。仕方ないな……)




一瞬の隙を突き、オトゥンは横へと回り込み、サラの腹に拳を叩き込んだ。


衝撃で彼女の体は宙に浮き、すぐさま蹴り飛ばされて壁に激突した。




骨の砕ける音が、沈黙の戦場に響き渡った。




「サラァァァッ!!」


ナイの叫びが響く。




金属の槍が彼女の腕を貫き、壁に固定した。


その悲鳴は、心を切り裂くほどに痛ましかった。




「認めざるを得ないな」


ゆっくりと近づきながらオトゥンは言った。


「最初は少し驚かされたが……お前ら二人じゃ、俺には勝てない」




そのとき、彼の足元で火花が散った。




「ん?」




次の瞬間、巨大な雷がオトゥンに直撃し、煙と電撃の柱が彼を包んだ。




ナイは必死に顔を上げようとした。


(誰だ……? 今のは彼女か……?)




サラは肩で息をしながら立ち上がっていた。


その身体は震え、腕からは血が流れていたが――その目には、確かな意志が宿っていた。




痛みに顔を歪めながら、サラは自らの腕に刺さっていた金属を引き抜いた。


その傷口は酷かったが、彼女は構わず前を向いた。




(いつの間にか……目覚めていた。雷神の力が、一瞬だけ流れ込んだ気がした)




ナイは呆然と彼女を見つめていた。


恐怖と尊敬が心の中でせめぎ合う。




(俺も……このままじゃいけない。何かしなきゃ……何でもいい……!)




だが、その時だった。


オトゥンが突如現れ、サラの両腕を一撃でへし折った。




「グアァァァッ!!」




サラは人形のように崩れ落ちた。




容赦なく、オトゥンの蹴りが炸裂する。


サラの体は、いくつもの壁を突き破りながら飛ばされていった。




「サラァァァァッ!!」


ナイは這いながら叫んだ。




オトゥンはゆっくりとナイへと歩み寄る。


その足音が、石畳に重く響く。




「正直、ここまで生きてるとは思ってなかったよ。驚きだな」




彼はナイの首を片手で掴み、持ち上げた。




「でもな、それも無駄だ。何もできないんじゃ、意味がない。やっぱり、お前は何の価値もない」




ナイはもがこうとするが、腕はもう動かせなかった。




「クソ野郎が……」




オトゥンはニヤリと笑う。




「今度こそ……もう回復はできないぞ」




その腕が変形し始める。


金属が伸び、鋭く尖った刃となってナイの胸を狙った。




「じゃあな」




刃が振り下ろされる――その瞬間だった。




背後から、まばゆい光が差し込んだ。




「お前……一体何者だ?」




オトゥンの声には、もはや傲慢さはなかった。


それは恐怖を隠そうとする、獣のような咆哮だった。




ゆっくりと、戦場の霧の中から一つの影が姿を現す。


その鎧は天界の如く輝き、純金と白銀が織り交ざった神聖な光を放っていた。


まるで太陽が人の姿を取ったかのようだった。




「俺か?」


その男は口元に微笑を浮かべながら言った。


「さあな。ピンク頭のバカって呼ぶ奴もいれば、世界最強って呼ぶ奴もいるし、全種族の頂点だなんて言う奴もいる。」




一歩、前へ。


その眼差しは魂を凍らせるほど冷たく鋭い。




「だが、お前は……“処刑人”って呼べばいい。」




ナイの視界はぼやけていたが、その姿を見てすぐに理解した。




(あれは……)




シュンはウインクしてみせた。あまりに余裕のある態度に、場違いなほどだった。




「それと一つ、忠告をやろうか。若者に手を出すなよ。彼らが……未来なんだ。」




シュンの背後では、サラが少女を抱きかかえ、ナイは意識を保つのがやっとだった。


だがもう、誰一人としてオトゥンの攻撃範囲にはいなかった。




「な……?」


オトゥンは自分の手を見た。ナイの姿は、すでに消えていた。


「いつの間に……くそっ!」




次の瞬間、耳元で囁きが響いた。




「遅すぎる。」




ドンッ!!


炸裂音とともに、シュンの一撃がオトゥンを地に膝つかせた。


血を吐き、震えるオトゥン。




(こいつ……何者だ!?)




シュンは一歩下がり、三人の状態を確認する。




(二人は重傷。少女は衰弱……長くはもたないな。ここで終わらせる。)




「危ないっ!」


サラが叫ぶ。




オトゥンが飛び上がり、刃を振りかざす。




「死ねぇぇぇっ!!」




だがシュンは、わずかに振り向いただけで、顎へと蹴りを叩き込んだ。


オトゥンは数メートル吹き飛び、遠くの壁に叩きつけられた。




「背後から攻撃するなと言っただろ」


静かに呟く。




荒い息をつきながら、オトゥンの体が揺れる。




「大丈夫か?」


シュンは後ろを見ずに問いかけた。




「まあ……なんとか。でも、助けを待ってる友達がいるの」


サラが静かに答える。




「大丈夫。ちゃんと対応する奴がいる」


シュンは断言した。




遠く、黒い鎧を纏い巨大な剣を背負った影が彼らを見つめていた。




(早く終わらせる。……あいつらのためにも)




「隠れていろ」


シュンが命じた。




「は、はいっ」


三人は急いで物陰に身を潜めた。




オトゥンは喘ぎながら立ち上がる。




「くそが……誰に背中を見せてるんだ……?」




シュンは振り向かない。




「黙れ。弱者に話しかけられる筋合いはない。」




「なに……っ!? 俺の“本気”を見せてやる!」




空気がうねり、巨大な力が炸裂する。


オトゥンの体が変異し、鋼と憤怒の怪物へと姿を変えた。




「これが俺の真の姿だッ! 感謝しろ! 生きて見た奴は数えるほどだ!!」




シュンは表情を変えずに見つめていた。




「……それだけか?」




「はァ!? なめるなァッ!!」




「強敵を期待したんだが……場所を間違えたようだ」




オトゥンが怒り狂い、吠える。




「ぶっ殺してやるッ!!」




シュンは静かにため息をついた。




(こんな奴に10%も使いたくなかったが……やらなきゃ誰かが死ぬ)




空へと舞い上がる。




オトゥンは混乱する。




「な……なんだと……?」




天から、神のラッパが響く。


聖なる光がシュンの体を包み、まるで天が彼を認めているかのようだった。




「感謝しろ」


彼は冷静に告げた。


「お前は……この“10%”を目にする、最初の存在だ」




オトゥンの喉が動いた。




(10パーセント……? この力……こんなの、ありえない……!)




シュンが剣を抜く。


それは千の太陽を宿すかのように、神々しい輝きを放っていた。




「安らかに眠れ」




天より降り注いだ光は、純粋で、巨大で、まさに神の裁きだった。




(俺には……見る資格すら……)


そう思いながら、オトゥンは光に飲まれた。




轟音。大地は揺れ、山々が崩れ、建物が吹き飛んだ。


世界が、震えた。




遠くでは、孫悟空、スラングモルダー、ロキ、そしてオーディンが無言で見つめていた。




「信じられん……」


オーディンが呟く。




爆発の後、世界は不気味なほど静かになった。




シュンはゆっくりと地に降り立ち、優雅に剣を収めた。




(つまらない……また、無力な敵か)




サラは震えながら見ていた。




(何……今の力……あの男……祖父でさえ比べ物にならない……何者……?)




シュンは三人の方へ向き直った。




「行くぞ。まだ、片付けが残ってる」




「は、はいっ」


サラが返事をした。




そして次の瞬間、白と金の光が彼らを包み――


ナイ、サラ、少女と共に、シュンはその場から消えた。



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