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第40章:カウントダウン

かつて堅固だった空は、今や断片的に呼吸している。


戦いの後には休息はない。ただ、端よりも痛い一時停止です。体は動くが、魂は...残る。


灰と廃墟の中、エルシフは最後の生存者を導きます。彼の目はもはや敵を探しているのではなく、終わりがまだ来ていないという兆候を探している。彼はしっかりと歩いているが、心の中では、ある疑問が影のように彼を悩ませている。本当にここまで極端にならなければならなかったのだろうか?


地平線上で、2つの体を腕に抱えた人物が近づいてくる。まるで冥界自体が降伏を拒否したかのように、ハデスのシルエットが霧を突き破って現れます。


言葉は残りません。エルシフは彼を見つめる。ハデスはうなずく。そして彼は道を進み続けます。


栄光はない。賛美歌はありません。


ただの開いた傷。


しかし、残されたものを救おうとする人がいる一方で、生命と深淵の間にすでに最後の線を引いている人々もいます。バランスが崩れ始めています。


そして今回は、彼女を止める者は誰もいないだろう。


————————————————————————————————————————————————————————————————


ヘルヘイムの瓦礫と静まり返った呻き声の中、エルシフはまだ歩けるわずかな生存者たちを導いていた。右腕には即席の旗――白い布に血がにじんだものを掲げていた。それは誇りの象徴ではなく、霧の中で彼らが迷わないようにするためのものだった。




「こちらへ、皆さん……」


声を張る力ももう残っていなかった。




廃墟の間を進みながら、エルシフの心には一つの疑問が突き刺さっていた。




――本当に、ここまでやる必要があったのか?




あの戦争、あの炎……この沈黙。


いつからすべてが壊れ始めたのだろうか?




その思考を、新たな震えが断ち切った。黒い影のようなシルエットが地平線から現れたのだ。


ハデスだった。そしてその腕には、意識を失ったアイザックと、かろうじて息をしているエデンの姿が。




「何があったんだ?」


駆け寄りながら、エルシフは声を荒げた。「その傷……普通じゃない。」




「説明してる時間はない。彼らを頼む。まだ助けを待っている者たちがいる」


ハデスの声は、彼自身が思っていた以上に壊れていた。




エルシフは黙って頷いた。それで十分だった。




風に消えるように姿を消すハデス。だが数秒後、見えない力が彼を打ちのめした。


その身体は吹き飛ばされ、かつて街だった焼け跡に叩きつけられる。




「なんだ……今のは……」




彼が立ち上がると、空間そのものが裂けているのが見えた。そこから出てきたのは、すでにエルフとは呼べない存在だった。


捻じ曲げられ、腐敗し、何か別のものへと変わり果てた姿。




――空間が……裂けている……




そして、それは一箇所だけではなかった。


空を見上げたハデスはすべてを理解する。


空の亀裂はただの歪みではなかった。


それは九つの世界を映し出す窓、そしてそこから血を流す「傷」だった。




「まずい……これは、本当にまずい……」




裂け目からはさらに現れる。数十体、数百体。


時の始まりすら拒むような、古の力に蝕まれた歪んだエルフたちが。




そしてその中、光り輝く松明のような存在が現れた。


スルト。炎の巨人。




彼の剣には、すべての世界の力が宿っていた。空気さえも焼き叫ぶような、強烈な力。




彼は空を見上げた。


その眼差しには憎しみはない。ただ、覚悟だけがあった。




「これは、お前に捧げる……宿敵よ」




スルトは剣を掲げる。


宇宙のすべての脈が、その刃へと集まるかのように。




「この戦争に……終止符を打つ時だ」




そして、咆哮と共に力を放つ。


大地が裂け、蛇のような炎があらゆるものを喰らい尽くしていく。




――その頃、ビフレストでは――




「ようやく現れたな、クソ野郎」


双剣を握りしめるヘイムダルが睨む。




「久しいな、親愛なるヘイムダル」


ロキは死など気にも留めないような態度で、歩いてきた。




「てめぇ……自分がどれだけの被害を出したかわかってるのか!」




「もちろん。でも君たちは?」




「……は?」




「オーディンのやることがすべて正しかったと思ってたのか?」


ロキは苦笑いを浮かべる。


「命令通りに動いて、恐怖にかられて種族を滅ぼして、それで神面して……お前たちこそ、嘲笑の対象だ」




ヘイムダルは怒りに拳を握った。




「バルドルを殺したのはてめぇだろうが!」




「君たちは、それ以前に何千人も殺してきたじゃないか。神でなければ、命の価値はないと?」




「黙れ、クソヨトゥンが!」




ロキはため息をついた。


「結局、お前たちは……誰も信じるに値しなかった」




二人の間に流れる力が爆発する。




ヘイムダルの光が槍のように天へ伸び、ロキは時の始まりから続く闇で応じる。




――ラ……ついにこの時が来たか……




そう心の中で呟いたロキは、躊躇なく前へと跳んだ。




この戦争は、もはや「出来事」ではなかった。


それは、「終わり」へ向けたカウントダウンだった。




ビフレストの空気が激しく震えた。ロキが刃を構えて突進し、その動きは死を呼ぶような鋭さを持っていた。一撃ごとにハイムダルの防御を破ろうとしたが、刃と刃は等しく激突し、火花を散らしながら奈落の橋へと吸い込まれていった。




(こいつ…速すぎる)


ロキは一歩引き、呼吸を整えた。


(このままじゃ奴の防御を突破できない…ギアを上げるしかない)




咆哮とともに、彼の体から黒いエネルギーの奔流が広がる。それはまるで生きているようにうねり、双剣に刻まれたルーンが恐ろしい光を放ちはじめた。




一方、ハイムダルは歯を食いしばった。


(一瞬でも迷えば…殺される)




彼は力を解放した。体が拡張し、筋肉が爆発的に膨れ上がり、古代のビフレストの力が全身を駆け巡る。そして、そのまま予告もなく突進。




轟音とともに、ロキの骨が砕けた。


その衝撃で彼は宙に舞い、橋の端にやっとのことでしがみついた。




「くそっ…」




だが、時間は与えられなかった。ハイムダルが目の前に現れ、影のように巨大な姿を見せる。ロキは直感的に身をかがめ、足を使って膝を蹴り上げた。ハイムダルは膝をつき、すかさずロキの連続蹴りが腹部を叩いた。




だが…倒れない。




ロキが渾身のハイキックを放とうとした瞬間、ハイムダルが彼の足を掴み、地面に叩きつけた。


橋が軋む。轟音が響く。




ロキは体を捻って逃れ、反射的に喉元に蹴りを入れた。


ハイムダルはふらついたが…崩れはしない。




二人は距離を取る。


互いに息を切らし、血を流し…だが、口元には笑みが浮かんでいた。




(このままじゃまずい)


ロキは内心で叫んだ。


(奴は時間が経つほど強くなる…もう打つ手は一つしかない)




「絶望の渦ゼツボウ・ノ・ウズ」




彼の背後に闇の渦が生まれる。虚無そのものが呼応したかのように、黒いエネルギー球が空間に出現し、不気味な音を立てて収束していく。




「なんだそれは…?」


ハイムダルは警戒しながら構える。


「その程度の小細工で俺を倒せると思うな」




「…死ね」




弾丸のように、闇の球体が次々と降り注ぐ。橋が裂け、爆風が霧のように広がった。




煙が晴れたとき、ハイムダルは立っていた。


だが――彼の右腕は遠くに転がっていた。




「どうやら…ただの小技じゃなかったようだな」


彼は歪な笑みを浮かべる。




ロキは目を細めた。


「驚いたよ…本当は殺すつもりだったのに」




「俺は、そこらのやつとは違うってことさ」


ハイムダルは後退しながら考える。


(このまま長引けば…俺の負けになる。今、決着をつける)




彼は息を吐き、再び突撃。


ロキは双剣を構えるが、複数の斬撃を防ぎきれず、顔、胸、腕が斬り裂かれる。




戦いはさらに激化する。


剣と剣がぶつかり、後退し、また攻める。


ビフレストが震えるたび、空の裂け目が光を漏らした。




(やばい…奴にペースを握られた)


ロキの動きが鈍る。


(このままじゃ…)




「行くぞ!これは命を懸けたナイフバトルだ!」




再び突撃――


だが、その瞬間、世界が暗転した。




「なっ…!?」




冷たい刃が腹を貫く。鋭く、静かに、致命的に。




「お前だけが切り札を持っていると思うなよ」


ハイムダルの声が耳元に落ちる。




(毒…? いつ…?)


ロキは膝をつき、腹に突き立てられた刃を見た。




「いい戦いだった…とでも言いたいところだが」


ハイムダルは血を吐きながら吐き捨てる。


「お前はただの病原菌だ」




顔に唾を吐きかけ、立ち去る。




(橋の中心じゃなくてよかった…あの攻撃が橋を壊していたら…)




地面に伏すロキ。


指先すらまともに動かない。血が大地を濡らす。




(こんな…終わり方…あるかよ…)




そして、意識の底に、灰のような記憶が舞い始める――。




ロキの声が頭の中に響く。「なんだと……王子だと?」




「そうさ。闇の中に生まれ、この世界の運命を最初の呼吸から変える子だ」とフードを被ったあの人物――かつて友と呼んだ存在、第三十五番が答えた。




「お前、本気でそんなことを信じてるのか? 馬鹿げてる……」




「俺がお前に嘘をついたことがあったか?」




「この世界を変えた奴なら、もう出たじゃないか」とロキが睨む。「力で全てをねじ伏せた神が、な」




「だがこの子は、恐怖ではなく、希望で人々をまとめる。種族も、世界も、信仰も超えて、争いのない秩序を築く。そんな存在だ」




「……それって、諦めた奴の幻想だろ?」




「違う、これは俺の父が……最期に残した言葉だ」




「お前の……あの男のか?」




「ああ」




「それが本当なら……いつ、その子が現れるんだ?」




「分からない。ただ、現れる時が来る。だが……一つだけ、伝えておく」




「何だ」




「その時が来る頃……俺はもういない。代わりにお前がやらなきゃならない」




「ふざけるな。お前に勝てる奴なんて、いねぇよ」




「それが運命さ。変えられない」




「運命だと? そんなもの知るかよ。俺の人生を決めるのは、俺だけだ」




「……そのうち分かるさ」




「運命なんて、俺がぶっ壊してやるよ。絶対にな」




――――――――――――――――――――




現在。




ロキの身体を稲妻のような衝撃が貫いた。




「ふざけんなよ……!」ロキは血を吐きながら立ち上がる。「王子は……もう現れたんだ!」




前方にいたヘイムダルが、一歩後退する。「な、何を言ってる……?」




運命……ロキは静かに思う。もしこれがあいつの言った未来なら……俺は喜んで死を受け入れるさ。だが、その前に……勝たせる。




遥か彼方、エデンの身体が微かな光に包まれ、癒されていた。




ロキはふらつきながらも立ち上がり、牙を剥く。




「……毒に長く晒されてると、気づくことがあるんだよ」




彼の左腕が黒く染まり、紫に変色していく。




「何をした……それは……?」ヘイムダルが目を見開く。




「解毒の方法さ」




ロキは迷いもなく、自らの左腕を斬り落とした。




「もう、邪魔はねぇ」




「そんな……馬鹿な……!」




ロキは再び飛びかかった。双刃が闇のように舞い、ヘイムダルも全力で応じた。鋼がぶつかり合い、光と闇が火花を散らす。




もはや技ではなかった。本能の戦い。生き残りたいという、ただそれだけの渇望。




限界を超えたその瞬間――




刃が、互いの心臓を貫いた。




ヘイムダルは呻き、血を吐いた。「ば、ばかな……」




ロキは膝をつき、笑った。




「……俺の勝ちだ」




二人の身体が同時に倒れる。微かな呼吸だけが残った。




「運命なんて……クソくらえだ」




そして、神々の戦いは石碑に刻まれた。




フェンリル vs オーディン。




トール vs ヨルムンガンド。




ロキ vs ヘイムダル。




最後の瞬間、ロキは天を見上げて、微笑んだ。




「……あとは任せたぞ、王子」




ビフレストが静かに崩れ始める。




天から落ちる光の石の中、遠くから誰かが叫んだ。




「ロキィィィ!」




それは、エルシフの声だった。




だがロキは、もう答えなかった。




彼の残したものは、血と刃と――未来だった。

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