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第41章:希望の雨

時々、何か新しいものが繁栄するためには、古いものが根こそぎ燃え尽きなければならない。


世界の柱が崩れ、味方も敵も区別なく炎が燃え尽きるとき、生き残った人々の魂には、ただ一つの潜在的な疑問が残る。それは、続ける価値があるのか、ということだ。


はるか上空、荒廃した世界の最も高い山の上で、最後の目撃者たちの目が傷ついた空を見上げている。守るべき王国も、崇拝すべき神々も、従うべき命令ももうありません。残るのは彼らだけ...そして彼らが何であったかという記憶だけ。


しかし、灰の中、かつて九つの世界を繋いでいた木のくすぶる残骸から、思いがけない雨が降り始めます。寒くもなく、暑くもない。柔らかいですね。持続的。まるで宇宙そのものが生存者たちの叫びを静めようとしているかのようだった。


誰もがその意味を理解するわけではない。別れだと考える人もいるだろう。他の人にとっては、祝福です。


しかし、痛みや混乱、沈黙の先を見て、あらゆる一滴の中に新たな始まりの約束を見出す人たちもいる。


なぜなら、最も壊滅的な火災の真っ只中であっても、希望は消える道を見つけるからです。


雨のように。


————————————————————————————————————————————————————————————————


ヘイムダルの死体の隣で、エルシフの叫びが混沌を貫いた。




「ロキ!」




ビフレストは彼の足元できしみを上げていたが、それでも立ち止まることはなかった。彼はひざまずき、血にまみれた神の手を取った。




「くそっ……言っただろ、無茶するなって……」




ロキはわずかに顔を向けた。その笑みは弱々しいが、確かにそこにあった。




「こんなところで何してる、頑固なエルフ……」




「助けに来たんだよ、このバカ野郎」




苦々しい笑いがロキの唇から漏れた。




「無理だ……もう助かる見込みはない……」




「黙れ。方法は必ずある、いつだって……!」




「俺の心臓はあいつの刃の毒を吸い尽くした……戻る道はない」




エルシフは目を伏せた。その声は震えていた。




「本当に……こんな形で死ぬつもりか? 全部やりきった後で?」




「彼が約束してくれた世界……この目では見られないようだな……」




神の震える手が、エルフの胸に触れた。開かれた掌の上には、古代のルーンが刻まれた小さな石が乗っていた。




「でも……お前は見ることができる」




エルシフはそれを両手で受け取った。それはまるで、火の玉のように熱かった。




「これは……?」




「鍵だ。九つの世界を修復し……一つに統合するためのな」




「修復……統合……一体何を言ってる?」




「ユグドラシルの根に辿り着いた時、すべてが分かる……」




最後の力を振り絞り、ロキは自由な手を掲げた。空間がひび割れ、ポータルが開いた。エネルギーが軋むように脈動した。




「行け……この場所はもう長くもたない」




「でも……!」




「ありがとう……そして……すまなかった……何もできなくて」




エルシフは怒りをこめて胸を殴ったが、彼の瞳には涙が溢れていた。




「十分だ……もう十分すぎるほどだよ、バカ……ありがとう……ロキ」




神は微笑んだ。初めて、誇りも虚勢もなく涙を流した。




死にたくない……お願いだ……誰か、俺を……




エルシフはポータルをくぐった。渦は閉じ、沈黙が訪れた。




ビフレストは揺れた。




そして、静寂。




ロキは仰向けに倒れた。弱々しく。だが、彼は独りではなかった。




優しい腕が彼を包み込んだ。




「おかえりなさい、あなた」


シグンの声は限りなく優しく、穏やかだった。




驚きに目を開いたロキ。だが、そこに恐れはなかった。




「……こんな俺が……幸せになってもいいのか?」




「誰よりも……ふさわしいわ」


彼女の指が、そっと頬を撫でた。




嘘の仮面を脱ぎ捨てた神は微笑んだ。




「俺は……戻ってきたんだな……」




ビフレストは砕け散った。ロキとヘイムダルは奈落へと落ちていった。




その下で、世界は叫びを上げながら崩壊していった。




スルトは剣を掲げ、天空へと吠えた。その剣に込められた力が地上を切り裂き、古の傷のように大地を裂いた。




裂け目から現れたのは、すべてを飲み込む業火の川。




戦争は燃え上がった。




そして……神々の時代は、焼き尽くされていった。




地面の亀裂は病のように広がり続けていた。


先の混乱で息を荒くするハデスは、異形のエルフたちが空間そのものを引き裂く様子を緊張の面持ちで見つめていた。




「……なんだ、これは……」


一歩後ずさりしながら、そう呟く。




亀裂は次第に次元の境界を超え、暴力的に九つの世界を融合させていった。


移行などなかった。ただ破壊だけがあった。


一つの地、一つの歪んだ現実。




その中から、もはや原型を留めていないエルフのひとりが咆哮とともに飛びかかってきた。




ハデスは一歩も動かずに立ちはだかった。




しかし──




その攻撃が届く直前、足元の大地が崩れ、エルフの姿は地の底へと消えた。


あまりにも速く、あまりにも突然だった。




「……これのことだったのか?」


ハデスは眉をひそめた。「オーディンは、いったいどこまでやったんだ……?」




だが、その疑問よりも恐ろしい考えが頭をよぎる。




「それより……これを資金援助したのは誰だ?」




足元が再びきしみ始めた。


地からはマグマが、まるで死にかけた世界の血管のように噴き出していた。




「このまま進めば……死ぬな」


そう判断した彼は踵を返す。「戻らなければ」




視点が変わる。




業火の海の中、フレイの体が静かに横たわっていた。


焼け焦げた世界の中でも、その体は不思議と無傷だった。




空から、光をまとった猫に曳かれた戦車が降り立つ。


それはフレイヤだった。




「……フレイ!」




駆け下りる彼女の足取りは乱れていた。


兄のそばにひざまずき、そっと触れる。




動かない。




「そんな……」




だが彼の唇には、まだ微笑みが残っていた。




「……後悔してないのね、あんたは……。ほんと、バカな弟……」




涙をこらえて目を閉じるフレイヤ。


やがて顔を上げ、辺りを見回す。




「これは偶然じゃない……スルト……あの炎の巨人は、自分の力を完全に制御してる。これは攻撃じゃない、敬意よ……」




静かにフレイの体を抱き上げ、戦車へと戻る。


その直後、地面が崩れ、炎がすべてを飲み込んだ。




そして、遠く離れた山の頂。




スルトが立っていた。


その剣を高く掲げ、黒い空を見上げる。




「よかったな、ライバル……おまえはもう安全だ」


その声は静かだが、確かな響きを持っていた。




「だが、おまえだけじゃない……皆も無事だ。だから、最後の一歩だ──」




剣が変化する。


炎は深い青に変わり、知られざる力が溢れ出す。




「より良い世界のために──《世界破壊者ワールドブレイカー》」




剣が振り下ろされる。




地が裂け、マグマがすべてを飲み込む。


山も、都市も、大地の記憶すら……何もかもが消えた。




九つの世界は、炎の中で一つとなり──破壊という形で融合を果たした。




その光景を、ミズガルズの頂上から生き残った者たちが黙って見つめていた。




シュンは唇を噛みしめた。




「一度でいいから、あの男と戦ってみたかったな。きっと強かった……」




隣で、サラが囁いた。




「もう何も残ってない……これから、どうすれば……」




背後のナイは、ただ己の血に想いを馳せていた。




「父さん……おじいちゃん……本当に……終わったのか……?」




彼らの目の前で、世界樹ユグドラシルが軋む。


その根はマグマに飲まれ、幹が炎に包まれた。




ナイが一歩踏み出す。




「……嘘だろ……」




火は容赦なく迫る。




──その沈黙の中。


蒸気と灰の向こうから、一つの影が現れた。




それはハデスだった。




「久しぶりだな、冥府の王キング・オブ・ヘル」


シュンの声は変わらない。




「……シュン」


ハデスも目をそらさずに応える。




その瞬間、二人は悟った。




あの炎の雨の後、世界はもう──元には戻らない。




闇がすべてを包み込んでいた。またしても——。




エデンは、震える足取りで虚無の上を歩いていた。まるで、ただの習慣で足を運んでいるかのように。




「……ここは……また、ここか?」




その場に響いたのは、どこか懐かしく、掠れた声だった。空虚な空間を滑るようにして届く。




「おやおや、またお前か。まさか、こんなに早く再会するとはな。」




眉をひそめながら、エデンが返す。




「“また”って……お前が呼んだんじゃないのか?」




「違うな。私が誰かを呼ぶときは、必ずその者の意志でここへ来る。勝手に引きずり込む趣味はない。」




「そうかもな。」エデンは腕を組んだ。「じゃあ、ここに俺が来た理由、分かるのか?」




「さっぱりだ。」




その答えに、短く、そして乾いた笑いが漏れた。




「お前、本当に神なのか? 全知全能ってやつじゃないのかよ。」




「全部知ってたら、つまらないだろう?」


まるで子どもをからかうような声で返された。




久しぶりに、エデンは微笑んだ。




「初めて……お前に同意するかもな。」




彼は中央の台に近づいた。そこには、かつて混沌のリズムで踊っていた球体たちが、今は奇妙な調和を見せていた。




——ただ一つを除いて。




「火」と刻まれた球体だけが、静止していた。点滅もせず、ただ燃え続けている。




「……これは、何を意味してるんだ?」




「さあね。」




「ほんとに神なのか、お前。」




「さあ、それもお前が決めることだ。」




しばしの沈黙。そして、エデンが問う。




「もう一つ、聞きたいことがある。」




「何だ?」




「シュンって知ってるか? ピンクの髪のやつ。滅茶苦茶強い。技なんか一度も使わないのに……。」




返事はない。代わりに、迷うような吐息だけが返る。




「シュン……?聞いたことないな。でも、ここには毎日何千人も来るからな。」




その言葉に、エデンはただ無言で頷いた。




そして、周囲を包む声が再び戻ってきた。囁き、遠くの叫び、笑い声……現実の断片がエデンを引き戻す。




身体が消えていく。




「なんだ……?」




「時間切れみたいだな。」




「また……会えるか?」




「さあな。運命が望むなら……な。」




「そうだといいな……」




闇が砕け、痛みを伴う閃光の中で、世界が再構成される。




目を開けた瞬間——




「エデン!」


サラの声が響き、彼を抱きしめた。




「いってぇ……」




「ご、ごめん……!」安堵の笑みを浮かべながら、サラが体を離す。




混乱。痛む身体。霞む意識。




——俺は……勝ったのか? 母さんは……?




「やっと目を覚ましたか。」


低く、落ち着いた声が割って入った。




見上げると、そこには見知らぬ男。だが、その存在感は尋常ではなかった。




「……お前は?」




「ハデス。……お前の父だ。」




その言葉に、思考が止まる。イッスの言葉が脳裏に蘇る。




「……最低だな。」




神は何も言わなかった。




「許す気はない。消えてくれ。」




「エデン……」サラが間に入る。




「いいさ。」


ハデスは穏やかに言い残し、去っていく。




「……生きていてくれて、それだけで十分だ。」




サラも立ち上がり、皆に知らせに行くと部屋を出た。




一人取り残されたエデンは、呻くように思う。




——動けねぇ……全身が痛い……母さん……




「よぉ、よぉ」


からかうような声。




窓辺に佇む、見慣れた男。




「お目覚めか、眠れる王子様?」




「……シュン……?」




「本当はね…」とシュンが腕を組みながら言った。「君が父親と先に会うなんて思ってなかったよ。」




エデンは眉をひそめた。手がまだ震えている。




「全部知ってたのか?」




「うん、まあね。特別部隊の中では有名な話だったよ。何年も前の出来事だし。」




青年は力を振り絞って体を起こした。




「このピンク頭…なんで教えてくれなかったんだよ。」




シュンは喜びのない、乾いた笑いを漏らした。




「その質問、本気でしてるの?俺が話したとして、何か変わったと思う?彼らが君を抱きしめて迎えてくれたとでも?」




「そんなこと…でも、少なくとも…」




「エデン」と、シュンの声が少し鋭くなった。「君の母親は大陸で最も指名手配されてた人物の一人だった。そして父親は…まあ、存在する中でも最強クラスの神様だ。彼らが君と一緒にいれば…もっと危険な目に遭ってたはずだよ。」




数秒間、重苦しい沈黙が落ちた。




「“だった”って…どういう意味だよ?」




シュンはしばし黙り、言葉の重さを計るように目を伏せた。




「まだ聞いてないんだな…戦いで亡くなったよ。」




エデンの世界が止まった。だが、その余韻に浸る暇もなかった。




シュンの首筋に鋭い刃が当てられる。




「まだ話す準備はできてないって言ったはずだ」とハデスが唸り声混じりに剣の柄を強く握る。




「やれやれ、冥界の王様」とシュンは落ち着いた様子で返した。「彼がもう子どもじゃないことくらい、分かってるんじゃないのか?」




「だとしても、お前にあんな言い方をする権利はない。」




「親ってのはいつもそうだな」とシュンはため息をついた。「その“時”は、もう過ぎたんだよ。」




「この野郎…」




その緊張を裂くように、女性の声が響いた。




「二人とも、やめなさい。」




エデンが振り向くと、見覚えのある女性が近づいていた。だが、何かが違っていた。




「アフロディーテ…?」




彼女は微笑んだが、その表情には見えない重荷があった。




「目を覚ましてくれて嬉しいわ、エデン。」




彼は信じられないという表情で彼女の姿を指さした。




「その腕は…」




女神は残された腕を軽く上げて、あっけらかんと笑った。




「これ?長い話になるわ。でもその前に、あなたたち二人」彼女はハデスとシュンを鋭い目で見た。「子どもみたいに争うのはやめて、彼に呼吸させてあげなさい。」




シュンは降参するように両手を上げた。




「はいはい…言う通りにするよ、おばあちゃん。」




二人は冷たい視線を交わしながら、それぞれ離れていった。




「彼らって…仲悪いのか?」




「それも長い話よ」とアフロディーテはエデンの隣に腰を下ろした。「いつか話すわ。」




エデンは深く息を吸った。痛みは肉体だけではなかった。




「俺が寝てる間に…何があった?その腕は?」




「ブラックライツのメンバーと戦った時に失ったの。」




青年は体を強張らせた。




「その人…目が…おかしかった?」




「ええ。ほんの数秒見ただけで、もう床に倒れてたわ。シュンが来てくれなかったら、私は…」




「そいつ、本気出した時は…俺なんて一撃だった。」




「エメラルド級の力を持ってるわね。…でも、あれが本当の力だったとは思えない。」




エデンは唾を飲み込んだ。胸が苦しい。




「みんなは…無事?」




アフロディーテは目をそらした。




「無事よ。ただし…アイザックは…」




彼は目を閉じた。




「予想してた…」




遠くには、鎖に縛られた影がぼんやりと揺れていた。




「戦争の後、何が起きたか…教えてくれない?」




アフロディーテは静かに頷いた。




「もちろんよ。」




そして、空から降る不思議な雨音の中で、物語は再び動き始めた。




回想




風の音が、空気に響く低い唸りをかすかにかき消していた。




「どうやってここまで来たの?」アフロディーテが尋ねた。額には汗が浮かんでいたが、もはや暑さのせいではなかった。




「最後の戦闘以来、ノークとは連絡が取れなかった」とシュンは険しい表情で答えた。「何かがおかしいと思って、特別部隊の仲間を数人呼んで調査に来たんだ…でも、想像以上に酷かった。」




彼らの目の前には、都市全体を覆う巨大なバリアが、まるでドームのように広がっていた。その表面は膜のように波打ち、ほとんど幻のように揺れていた。




「これは…何なんだ…?」とピンク髪の青年が呟く。




そのとき、孫悟空が軽快な足取りで近づき、地面に如意棒を突き立てた。




「どうやら内側から展開されたものらしい。外からだと抵抗はほとんど感じない。でも…中がどうなってるかは分からない。」




ハデスは腕を組み、沈黙のままバリアの根元を見つめていた。そして視線で一点を示す。




「あそこだ」彼が言った。「誰かがもう入ったらしい。穴がある。しかも…比較的新しい。」




シュンは頷いた。その眉間の皺はより深くなっていた。




「…やばいな。これは本当にまずい。」




迷うことなく、彼らはバリアの内側に足を踏み入れた。かつて都市だった場所には、今や煙と瓦礫しか残っていなかった。




「中に入ってから、三つのグループに分かれた」とシュンは廃墟の回廊を進みながら続けた。「それぞれ監視区域を任された。運が良かったよ、君に会えたんだから。」




アフロディーテは警戒しながら周囲を見回した。




「つまり、今は二人きりね…」




「そう。でも長くは続かない。特別部隊の何人かの隊長がすでにこちらに向かっている。」




彼女はぴたりと足を止めた。




「…隊長たち? なぜそこまで?」




シュンは振り返り、まっすぐに彼女を見つめた。




「そうするしかない状況なんだ。神々の評議会の一員が倒れたんだぞ。それに…特別部隊のメンバーも、他の神々も多数犠牲になった。これはもう戦争じゃない。崩壊だ。」




アフロディーテは深く息を吸い込んだ。




「…なるほど。」




「今、一番の課題は…何がこれを引き起こしたのか。それを突き止めることだ。」




その瞬間、鋭い鐘のような声が静寂を破った。




「それについては…俺が話せるかもしれない。」




二人は同時に振り返った。




半壊した扉の影に、鎖につながれ、傷だらけの顔をしたアイザックが立っていた。




その目は、光を失いながらも確かな意志を宿し、真っ直ぐにシュンを見つめていた。




そのとき、一滴の雨が空から落ちた。続いてもう一滴。さらにもう一滴。




雨が激しく降り始め、血と埃、そしてそれ以外の何かを洗い流していった。




アフロディーテは曇った空を見上げ、目を細めた。




シュンは目を逸らさず、アイザックを見据えた。




「…なら話せ」と言った。「全部教えてくれ。」

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