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第42章:新世界の出現

破壊が頂点に達すると、残るのは沈黙だけ…それはあまりに深い沈黙で、まだ果たされていない古代の約束をささやくかのようだ。


かつて神々は運命を支配していると信じていた時代がありました。戦争が神聖な名前で戦われ、血が均衡の通貨であった時代。しかし、最も強力な者でさえ、世界は自分たちのものではないこと、そしてそれを無視することの代償が壊滅的なものになり得ることを学んでいます。


今、かつて 9 つの世界であったものの瓦礫の中から、何か別のものが現れ始めています。輝かしい復活でもなければ、大勝利でもない。しかし、ちょっと立ち止まって…嵐の後の深呼吸。喪失と復興の間にある瞬間。


それを目撃できるほど生きていない人もいる。しかし、生き残った人々は、何か新しいものの種を手に持っています。うまく植えられるかどうか、腐らずに育つかどうかは分かりません。しかし、彼らは挑戦しなければならないことを知っています。


この荒廃した地を今も歩く人々の目には、確かに恐怖が映っている。しかし、火もあります。全てを失い、それでもなお生き続けることを決意する者たちの炎。


なぜなら、天が裂け、世界の柱が倒れ、真実が根こそぎにされたときでさえ、小さな炎が生き続けていたからです。


そしてその炎は…希望です。


————————————————————————————————————————————————————————————————


雲はまだ完全には晴れていなかったが、空気の中には何かが変わり始めた気配があった。戦争によって崩壊した文明の残骸の中で、新たな会話が世界の運命を揺るがそうとしていた。




「…信じられないわ」アフロディーテが呟いた。視線はアイザックから離れなかった。




「本気で言ってるのか?」シュンが低く鋭い声で問いかけた。「これは遊びじゃない、アイザック。」




「わかってる」若者はうつむいたまま答えた。「すべての責任は取るつもりだ。」




シュンはしばらく無言で彼を見つめ、やがて手を伸ばした。すると地面から淡い鎖が現れ、穏やかに、だが確実にアイザックの身体を縛った。




「自ら出頭するつもりでも、自由にはできない。しばらくここで待ってもらう。」




「承知している。」




アフロディーテは腕を組んだまま、いまだに信じられないというような表情を浮かべていた。




「それでも、あなたがあんなことをしたなんて…信じられないわ。」




「受け入れ難いことだが…」とシュンが言った。「でも、もし彼の言う通りロキが関わっていたのなら、驚くほどのことでもない。あいつなら、目的のためならなんだってやる。」




「ええ…」アフロディーテは遠い記憶に沈んでいるようだった。




「今はただ、増援が来るのを待つしかないな。」シュンは背を向けながら言った。




「そうね…」アフロディーテも頷いた。




その時、確かな足取りで誰かが近づいてきた。銀色の髪、尖った耳、揺るぎない表情。その姿は明らかにエルフの血を引いていた。




「あなたがシュンか?」とエルシフが訊いた。




ピンク髪の男は彼を一瞥し、答えた。




「ああ。何の用だ?」




エルフが…生き残っていたとはな。もう誰もいないと思ってた、とシュンは内心で呟いた。




エルシフは布に包まれた何かを取り出し、彼に差し出した。




「ルーンが読めると聞いている。ロキから君に渡してくれと頼まれた。」




シュンは布をほどき、沈黙のまま中身を見つめた。その表情が、ほんの一瞬だが、確かに緊張に染まった。




「これは…」




***




数日後——




嵐が去り、雨が異様な静けさをもたらした日。彼らはユグドラシルの残骸の前に集まっていた。




「何のためにここへ?」アフロディーテが眉をひそめて訊いた。




「俺もだ、何でここにいるのか分からん」ナイが不機嫌そうに言った。




「黙れ。今考え中だ」シュンは木の幹を見つめながら呟いた。




「はいはい…ご立派な賢者さまのご思索ね」アフロディーテが鼻で笑った。




その様子を傍らで見守るエルシフは、腕を組んだまま口元に微笑を浮かべていた。




本当にこれが、あんたが話してた“あのシュン”なの?ロキ。どう見てもただの運のいいバカにしか見えないんだけど、と心の中で呟いた。




「なあ、誰か説明してくれよ?」ナイが再び口を開いた。




「黙ってな、坊や」アフロディーテがそっけなく返す。




「…はいはい…」




その時、指を鳴らす音が響いた。シュンがゆっくりと指を鳴らしたのだ。




「…わかった。」




「何がわかったっていうの?」アフロディーテが腕を組み直した。




返事はない。シュンはユグドラシルの枯れた幹へと歩を進めた。幹を静かに見下ろし、そして拳を掲げた。




「おい、何しようとしてるの!?」アフロディーテが声を上げた。




乾いた一撃が幹を砕いた。無数の破片が舞い上がり、そこに現れたのは――




木の根の奥深くに隠された、完璧に彫られた地下通路だった。




「やったな…当たりだ」シュンは満足げに笑った。




アフロディーテは額に手を当てた。




「バカじゃないの…」




シュンはくるりと振り返り、片眉を上げて言った。




「で、来るのか?」




ひとり、またひとりと、ユグドラシルの幹が暴いた穴へと降りていった。初めは闇に包まれていたが、やがて柔らかな緑の光が彼らを導き、ついにその底へとたどり着いた。




そこには、忘れ去られた聖域のような洞窟が広がっていた。内部では、この崩壊した世界とは思えないほどに生命力にあふれた未知の花々が光を放ち、岩からはシダが垂れ下がっていた。そして中央には、装飾の施された二つの大きな木棺が静かに佇んでいた。




「…これって一体?」エルシフが戸惑いを隠せずに呟く。




シュンは一歩前に出て、その光景を敬意と諦めの混じった眼差しで見つめた。




「人類の未来だ。」




アフロディーテが眉をひそめた。




「未来って…どういうこと?」




「どうやら、オーディンはこうなることを想定していたらしい。だからこの二人を、残していったんだ。」




「知ってたっていうの…?」アフロディーテの声には怒気が混じっていた。「それなら、なぜ止めなかったの?」




「止めようとしたさ」シュンは苦々しく答えた。「ただ、選んだ道が間違っていただけだ。正しいと思っていたことが…正しくなかった。」




エルシフは黙っていたが、その視線は鋭さを帯びていた。




オーディンは本当に世界を守ろうとしていたのか…?それだけじゃない気がする、と彼は内心で思った。




「で?」アフロディーテがため息をついた。「解放するには、どうすれば?」




シュンはグループの中で一番若い少年に向き直り、にやりと笑った。




「ここからは、お前の出番だよ、雷の坊や。」




「は?俺?」ナイが眉をひそめる。




「他に雷出せる奴いるか?」とシュンは言いながら、小さな短剣を取り出して近づいた。




「な、なにするつもりだよ…って、おい!」ナイが叫ぶも、彼の手のひらに素早く切り傷がつけられた。




「安心しろ、ちょっと切っただけだ」シュンは気軽に言った。「ルーンによると、封印を解けるのはオーディンの血を引く者だけらしい。そして今ここにいるのは…お前だけだ。」




「お、俺だけじゃないぞ!まだ他にも生きてる奴いるし!」ナイは手を押さえながら抗議した。




「そっか、忘れてた。悪い悪い」シュンはまったく悪びれずに笑った。




全員が彼を無言で睨んだ。アフロディーテでさえ目を伏せ、肩をすくめた。




「ほんとにもう…」




「さ、行け。手を棺に当ててみろ」




「はいはい…」ナイは不満げに唸った。




棺に手が触れた瞬間、刻まれたルーンから光があふれ、目に見えない鎖が「カシャン」と音を立てて砕けた。空間全体がかすかに震えた。




「やったな」シュンが言った。




棺の蓋がゆっくりと滑り開き、光の靄があたりを包んだ。




そこから現れたのは、裸の肌に包まれた二つの人影。彼らは数歩よろめきながら進み、まるで千年の眠りから目覚めたかのように、苦しそうに息を吸った。




***




—あの瞬間にね、とアフロディーテが静かに語った— リーヴとリーヴスラシル…オーディンが最後に残した命と出会ったのよ。




エデンは黙って聞いていた。一つ一つの言葉が胸に落ちていく。




「なるほど…僕が意識を失っていた間に、そんなことが…」




「ええ」アフロディーテが頷いた。「その通りよ。」




「アイザックに…会わせてくれる?」




「もちろん。きっと彼もあなたの顔を見たがってるわ。」




「エデン!」シュウが入り口から走り寄り、勢いよく彼を抱きしめた。「よかった…ほんっとに生きてて…バカ!」




「…痛いってば!」




「ご、ごめん、ごめん!ハハ…運ぶ?」




「うん…まだちゃんと歩けそうにない」




シュウはエデンをそっと支え、腰に手を添えて立たせた。




「アイザックのこと、信じられないよな」シュウが小声で言った。




「…うん。でもさ、聞いていい?」




「ん?なに?」




「君は、本当に彼が“悪”だと思う?」




「え?急にどうした?」




「いや…なんでもないよ」




歩きながら、エデンはポケットに手を入れた。そして、ふと何かを思い出す。




***




ロキのあの笑み。奇妙なほど穏やかだった。




「幸運を祈るよ、神の子」


そう言って、ロキは何かをポケットに忍ばせていった。




***




現在——




エデンはその物を取り出した。小さなペンダント。




…なんで、これを渡したんだ?




開いてみると、それはただの装飾品ではなかった。




「まさか…」と彼は呟いた。




「え?どうした?」シュウが尋ねた。




「…いや、大丈夫。」




「着いたよ」




「ひとりにしてくれる?」




「うん、わかった」




シュウが去ると、エデンは独房の前に立った。そこには、疲れ切ったような微笑みを浮かべたアイザックの姿があった。




「久しぶりだな、悪魔くん。無事でよかったよ。」




「…アイザック。」




乾いた音が鳴った。それは、まるで水晶がスローモーションで砕けていくような音だった。




その音と共に、区域を覆っていた巨大な魔法障壁が、無数の見えない破片となって崩壊し、音もなく消え去った。そしてその輝きの中から三つの人影が現れた。その存在感はあまりに重く、空気すらも動きを止めたかのようだった。




イサクは顔を上げた。青白い顔に戸惑いが浮かぶ。




「……な、なんだこれは……? こんな力、感じたことない……」




アフロディーテは思わず一歩後ずさった。




「この気配……まさか……」




朽ちた建物の上から、シュンが険しい表情で三人を見下ろしていた。




「おいおい……」彼は面倒そうに吐き捨てた。「俺は“隊長クラス”を呼んだだけで、“あのクソ野郎”までは頼んでないぞ?」




三人はぴたりと同時に地面に降り立った。ついにその顔が明らかになる。シヴァ、ラファエル、そして……アレス。




シュンは鼻を鳴らした。




「最悪だ。どうやら誰かが注文を間違えたらしいな」




その隣に孫悟空が現れ、大きく手を振った。




「久しぶりだな、隊長たちよ」




しかしシヴァは応えなかった。




「混乱の元はどこだ。詳細をすべて報告してもらおう」




「相変わらずお堅いな」シュンは頭をかきながら言った。「世界が崩壊するなんて、そう毎日あることじゃないんだ。もうちょっと楽しめよ」




ラファエルが一歩前に出た。その目は、何年経っても変わっていなかった。




「お前は相変わらずだな、ちっぽけな人間。軽蔑に値する存在だ」




その挑発に、シュンは嬉しそうに微笑んだ。




「第一部隊の隊長自ら出てくるとはな。お前って、王の命令がないと動かないタイプだっただろ」




「これは高危険度の案件だ。私が立ち会うのは当然」




「また到着直後にフルパワー解放してんのか? 周囲の連中、息するのもやっとなんだけど」シュンは遠くで震える兵士たちを指さした。




ラファエルは目を細めた。そして次の瞬間、まるで何もなかったかのように、彼の気配は完全に消え去った。




「……珍しくまともなことを言ったな」




「どーも」シュンは肩をすくめた。




次に、アレスが前に出た。その視線はシュンを貫いていた。




「……私の息子はどこだ?」




「情報通だな」シュンは微動だにしなかった。




「すまん、それは俺だ」孫悟空が小さく手を挙げた。




「ついてこい」シュンは背を向けて歩き出した。「案内するよ」




数分後、一行はイサクの前に立っていた。彼は依然として魔法の鎖に縛られたまま座っていた。




アレスは何も言わずに彼を見つめた。イサクも見返した……が、やがて視線をそらした。




「父さん……」




シヴァがうなずいた。




「処置に入るぞ」




ラファエルが書類を取り出し、厳粛な声で読み上げる。




「イサク・ヨイ。アレスの息子にして弟子。近月における多数の犯罪――殺人、テロ行為、王への反逆――により、Prison Dynastyへの終身刑を科す」




イサクはごくりと唾を飲み込んだ。その目はラファエルからシヴァへ、そしてアレスへと移る。しかし、父の眼差しには、慈悲も失望もなかった。ただ――虚無。




「父さん……妹に、愛してるって……伝えてくれ」




その答えは、刃よりも鋭かった。




「……お前は、私の息子ではない」




その瞬間、イサクは動けなくなった。目を見開いたまま、空気が凍る。




シュンが一歩前に出る。彼の影がアレスにかかる。




「なぁ、戦の神さんよ……」




「……俺に話しかけてるのか、虫けら」




だが返事の前に、拳が飛んだ。




シュンの右拳がアレスの顔面を直撃し、彼はその場に膝をついた。




「自分の息子にその態度かよ。クズ野郎」




アレスは立ち上がり、怒りに満ちた拳を振り上げた――が、その腕を止める者がいた。




「やめろ」ラファエルの声は静かだったが、絶対だった。「次は、俺がお前を止める」




シュンは一歩も退かなかった。




「脅しか? やるならやれ。けど、勝てるとは思うなよ」




「強さで勝てるとは限らんが……お前はうるさすぎる」




その瞬間、両者からエネルギーが噴き出し、大地が軋む。




「やめろ、二人とも」ハデスの声が雷のように響いた。




その威圧感により、空気が一変した。




「そろそろ引き上げる時間だ。彼らに任せろ」




シヴァはイサクに近づき、光の鎖で手錠をかけて片手で持ち上げた。




「行くぞ」




三人の隊長たちは無言で去っていった。アレスは最後まで一度も振り返らなかった。




「感謝されると思うなよ」シュンはハデスに言った。




「お前のためじゃない。彼のためだ。あのまま戦ってたら、どちらかが死に、どちらかが……壊れてた」




「選択肢として最悪だな」




「他に思いつくか?」




「……いや、ない」




ハデスは腕を組んだ。




「よし、ギリシャに戻るぞ」




「その前に…みんなを呼びに行ってくる」




シュンはゆっくりと歩き、居住区のひとつへ向かった。




ノックしながら言った。




「おい、エデン。そろそろ……」


ドアを開けた。




――中は空っぽだった。




シュンは目を細めた。そして、久しぶりに、彼の顔から笑みが消えた。



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