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第43章: 帰国

時々、戻るということは同じ場所に戻ることではなく、同じ名前のまったく異なる場所に戻ることを意味します。あらゆる戦争、あらゆる犠牲、あらゆる暗闇の中でなされた決断の後に、一つの疑問が残る。それは、崩壊を目の当たりにしたのと同じ心で、世界を再建できるのか、ということだ。


グレックへの帰路は、荒涼とした道を行く旅であるだけでなく、象徴的な帰還でもありました。ノークで流された血、灰と炎の層の下に埋もれた秘密、そして表面の下で今も脈打つ隠された真実が、目に見えない影のようにそれぞれを追いかけていた。誰もそのことについて語らなかったが、誰もがそれを感じていた。何もかもが、二度と同じではなくなるのだ。


不確実性の霧と神々のささやきの中で、新たな時代が幕を開けようとしていた。まだ名前も形もないが、ある目的が力強く鼓動し始めていた。彼らが戻った家は彼らが去った家ではなく、戻ってきた人々も以前と同じではなかった。


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空には、未だに消えきらぬ炎の残滓が漂っていた。重く沈んだ雲は、まるでもう戻らない者たちへの黙祷を捧げているかのように動かなかった。誰もが出発の準備を終えていたが、別れというものは、いつもそう簡単には済ませてくれない。




「――待って!」


その声は、サラのものだった。凛としたその響きが空気を裂く。




シュウが驚いて振り向く。他の者たちも同様だった。




「サラ? ナイ? どうしてここに?」と、困惑気味に尋ねる。




ナイは静かに数歩前に出た。




「まだ行かせるわけにはいかない。ひとつ、大事なことが残ってる」




「大事なことって、何のことだ?」




「戦争はあった。けど――君たちは正々堂々と、あのトーナメントに勝った」ナイはまっすぐに言い切った。「そして…あのルール、まだ守られていない。なぁ、アフロディーテ?」




女神は頬に手を当て、疲れの中に笑みを浮かべた。




「ええ、そうだったわね。あまりに混乱していて、すっかり忘れていたわ。各ラウンドの勝者は、相手チームから一人――たとえ戦っていなくても――選ぶ権利があるの」




シュウは眉をひそめた。




「マジで言ってんのか?」




「そうよ」ナイは再びサラへ視線を向けた。「でも今は事情が事情だから、選べるのは二人だけ。レイ……か、サラだ」




サラは一歩前に出て、迷いなく口を開いた。




「私は志願する。あなたたちの仲間になりたい」




短い沈黙。だがその空白には、驚きと敬意が満ちていた。




「ならば――」アフロディーテはシュウへと視線を送る。「決めるのはあなた。今ここにいる唯一の学生だから」




彼はサラを見つめた。そこにあるのは同情ではなく、確かな意志。




「サラを選ぶ。きっと良い戦力になる」




ナイは頷き、穏やかに言った。




「決まりだね。サラ、健闘を祈るよ」




「ありがとう、ナイ」サラはその言葉に、微かな涙と誇りを混ぜて返した。




アフロディーテもうなずく。




「よし、これで全員……あとは……」




「エデンはどこ?」


その問いが静寂を破る。




「ピンク髪のアホが探しに行ったさ」ハデスが腕を組んで答えた。




「……遅いわね」アフロディーテも不安げに辺りを見渡す。




やがて、シュンが戻ってきた。その顔には珍しく影が差していた。




「……いない」




「いない?」ハデスの声は低く、鈍く唸った。「それはどういう意味だ」




「そのままの意味。痕跡すら残さず、消えてる」




一気に空気が重くなる。皆の視線が交錯する。




「まさか……」




「安心しろ」シュンはいつになく真剣な口調で遮る。「ブラックライツの仕業じゃない」




「なら、居場所は分かるのか?」ハデスが詰め寄る。




シュンはため息をついた。




「……何となく心当たりはある。でも、ここで話すようなことじゃない」




アフロディーテは頷いた。今は詮索すべき時ではない。




「……分かったわ。出発しましょう。ナイ、皆を頼んだわよ」




「うん……任せて」ナイの声がわずかに震えた。「良い旅を……サラ」




彼女は微笑んだ。その唇はわずかに揺れていたが、目は力強く輝いていた。




「また、会おうね、ナイ」




皆が馬車に乗り込む。ノークの廃墟を最後に一瞥し、旅路が始まる。




沈黙を破ったのは、シュンだった。




「……最初に、ひとつだけ言っておく」


全員の注目を集めてから、彼は言った。




「王からの正式な書簡が届いた。――ここで起きたすべての出来事は、“なかったこと”にされる」




「――はぁ!?!?」


複数の怒号が響いた。




だが、その問いに返る言葉はなかった。




そこに残されたのはただ、これから背負うべき“秘密”の重みだった。




「もし無許可の者に知られたら…大混乱になる」


シュンは前方を見据えたまま、馬車の中で言葉を続けた。


「この情報が広まれば、王国の均衡が崩れる。王はそれを絶対に許さない。そして、エデンに関する件も――機密指定された」


彼は目を細め、向かいに座る二人を見た。


「……悪いけど、君たちはまだ学生だ。これ以上は話せない」




シュウは唇を噛み、拳を握った。


「でも…」




その抗議を、シュンは穏やかに遮った。




「信じてくれ。エデンは無事だ。近いうちに、また戻ってくるだろう」




沈黙のあと、シュウは小さく頷いた。


「……わかったよ」




旅は何日にも及び、戦争で削られた山々と、わずかに緑を取り戻そうとする荒野を越えていった。


やがて馬車は、滑るようにギリシャの首都――グレクへと到着した。


扉が開くと、そこには待ち受ける大勢の民衆がいた。




「……どうやら着いたみたいね」


アフロディーテが優雅に馬車を降りる。




次々に降りる一行を、群衆は歓声と拍手で迎えた。中には即席で作ったような応援の旗も見える。




「何だこれは…?」


シュウは呆然とした。




「歓迎よ」アフロディーテが言った。「少なくとも、彼らにとっては、私たちがまだ“希望”なの」




その群衆の中を割って、ゼウスが現れた。大きな笑みを浮かべている。




「よくやってくれたな、皆」




「ありがとうございます、ゼウス様」


シュウは軽く頭を下げた。




「どうやら、報告すべき重大な話があるようだ。オリュンポスへ来てくれ」




「ええ」アフロディーテが頷く。




だが、その厳かな空気はすぐに崩れた。突如、シュンが黄色い声援に囲まれたのだ。




「キャー! シュン様ーっ!!」「サインください!」「結婚してぇぇぇ!」




「や、やめろぉぉ! 助けてぇぇっ!!」


まるでアイドルのように持ち上げられる彼の悲鳴が空に響いた。




「……楽しそうだな」


ゼウスが笑いをこらえながら言う。




「……久しぶりだな、弟よ」


重々しい声が背後から響く。




「冥界の王か……」ゼウスが振り向き、目を細めた。「まさか、お前がここまで出てくるとは。よほどのことがあったらしいな」




「案内する。詳しく話そう」


ハデスがうなずいた。




一方その頃、城門付近では、馴染みある姿が駆け寄ってくる。




「シュウーッ!!」


ユキが叫びながら彼に飛びつく。




「ユキ…」




「で、あのバカは? エデンはどこ?」




シュウは少し迷ってから答えた。


「……一人で修行に出た」




「修行? ……あいつらしいっちゃ、らしいけど」


ユキは怪訝そうに眉を上げた。


「で、そっちの子は?」




「初めまして」サラが一歩前に出る。


「サラ・ブリクストと申します。GODSの一時的な学生です」




「一時的ぃ!? 何それ!?」




「あとで全部話すよ…」


シュウは苦笑いを浮かべた。




少し離れたところで、ヨウヘイは黙ってその様子を見つめていた。




(……戻ってきたのはシュウだけ。ノークで何かがあった。ナイが選ばれなかった理由も、これで納得がいく)




ローアも群衆の中にいた。視線は、ただひとりを探していた。




(アイザック……どこなの?)




数時間後――


神殿オリュンポスの大広間には、再び戦の記憶と報告の声が響いていた。




「……つまり、そういうことだったのか」


すべてを聞き終え、ゼウスが静かに言った。




「はい」アフロディーテが答える。「ですが、まだひとつ――未解決の謎があります。エデン・ヨミのことです」




そのとき、シュンが前に出てきた。


頬には口紅の跡、髪は乱れきっている。




(……10分で何があったのよ)


アフロディーテは眉をひそめながらも、どこか楽しげだった。




「その謎、お前が解くつもりか?」


ゼウスが尋ねる。




「ええ」シュンは身なりを整えつつ答える。


「どうやらエデンは…一通の手紙を受け取っていたようです。送り主は…“革命派”」




一斉にどよめきが走った。




「革命派だと!? まさか…!」




「そうです」


シュンの声には確信がこもっていた。


「その内容によると――エデンは“かつて失ったもの”を取り戻すため、サンタイ王国へ旅立ったと」




「“失ったもの”……?」


ゼウスが問い返す。




シュンはうつむき、小さく笑った。




「彼の……」




* * *




場面転換。




熱帯の密林。葉と根が空を覆い隠す下、ひとりの青年が歩いていた。


灰色の瞳が静かに前を見据え、確かな足取りを刻んでいく。




その胸には、小さな布に包まれた“何か”が抱きしめられていた。




「――必ず見つけ出す。どんなことがあっても」


エデンの声は、風のように静かだった。

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