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第63章: 兄弟

目に見えない絆、時間、空間、記憶さえも越える目に見えない糸があります。同じ子宮から生まれる子もいます。他にも同じ苦しみを抱える人たち。しかし、最も深いもの...最も真実なもの...は、失われたものの沈黙と、回復されるために残されたものへの希望の中に織り込まれています。


離ればなれになっていた二つの魂の再会は、単なる肉体の再会ではありません。それは岐路であり、過去と現在、かつての子供と戦士となった彼との交差点です。そしてその岐路に立つとき、言葉は重みを持つ。沈黙はより重い。そして見た目...それがすべてを物語っています。


兄弟であるということはどういう意味ですか?血を分け合う?思い出は?あるいは、方法が矛盾していても、目的は同じなのでしょうか?


歴史の中に答えを求める人もいる。他の人は自分の行動によってそれらを作成します。そして、それを十分に理解せずに、自分よりもはるかに大きな何かに巻き込まれていることに気づく人もいます。なぜなら、時には、世界を理解することではなく、すべてが崩壊しつつあるときに何を守るかを決めることが大切なからです。


戦争、裏切り、隠された真実が渦巻くこの世界では、名前を覚えるだけですべてが変わる可能性があります。


————————————————————————————————————————————————————————————————


風は、まるで嵐の後の大地を慰めるかのように、優しく吹いていた。


空に漂っていた黒雲も、少しずつ姿を消し始めていたが――


真の混乱は、まだ彼の内に息づいていた。




エデンは、瓦礫と死の痕跡に覆われた戦場を、ふらつきながら歩いていた。




身体が震える。


脚が重い。もう、まともに動かない。




「…くそ…動けねぇ…


…ボロボロじゃねぇか……」




苛立ち混じりのため息を吐き出す。




その瞳がわずかに輝き、纏っていた闇のオーラがゆっくりと消えていく。




――元の姿に戻っていた。




だが、それは初めての感覚だった。


意識を保ったまま、あの力を使いこなせた。




闇に呑まれず、自分を保てた。




だが同時に――




「…まだまだ使いこなせるレベルじゃないな…」


額の汗を風が冷やす。


「…結局、何も掴めないまま…ここを去るのかよ…」




その時。




背後で、焦げた大地を踏む、軽やかな足音が響いた。




「へえ…思ったよりすごかったね」


リラックスした声が空気を切る。


「強いとは聞いてたけど、ここまでとは」




エデンは振り返る。警戒しながら。




「……お前は…誰だ?」




男は、にやりと眉を上げた。




「…ああ、自己紹介忘れてたね。


俺の名前はゼロ。革命軍の一員だ」




「革命軍……?」




その言葉に、頭の中で何かが弾けた。




「……待って。今、“ゼロ”って言ったか?」




瞳が大きく見開かれる。




「まさか……ゼロ・ヨミ……!?」




空気が変わった。




目の前の男の表情が、一瞬で硬くなる。


その名前が、過去を呼び起こしたかのように。




「……誰に、その名前を聞いた?」




だがエデンは――


何も言わず、ゼロを強く抱きしめた。




「……よかった……生きてたんだな、兄さん……」




ゼロは動けなかった。




抱き返すべきか、突き放すべきか。


答えが出なかった――だが、心はもう決めていた。




「……エデン」




「……どうして、分かったんだ?」




ゼロの脳裏に疑問がよぎる。




(…じいさんの頼みで、あいつの記憶は封じたはずだ。


…なのに、どうして……?)




「ひとつ、聞いていいか?」




「……ああ」




エデンはまだ、彼を離さなかった。




「…どうして、俺が兄だって分かった?」




エデンは、ゆっくりと離れ、真っ直ぐにその目を見た。




「正直に言うと……確信はないんだ」




「……は?」




「少し前、ノークでの戦いで……イースと戦ったんだ。


あの時、頭の中の“何か”が壊れた気がする」




「それから……ずっと混乱してて。


でも、少しずつ思い出してきた。


……兄がいたことも。そして、名前が“ゼロ”だったことも」




ゼロは視線を落とす。




怒りはない。ただ――静かな諦め。




「……そうか」




「…もし間違ってたら、ごめん……」




だがゼロは、ゆっくりと首を振った。




「間違ってなんかないよ。


俺の本当の名前は、ゼロ・ヨミ。


……そして、俺は――お前の兄だ」




ふたりは、再び抱き合った。




今度は――何の迷いもなく。




(……間違ってなかった……)


ゼロは、そっと目を閉じた。




風だけが、その場を優しく包み込む。


時間が、止まったようにさえ思えた。




やがて、彼らは語り合い始める。




失われた時間。


思い出。


未来――そして、痛み。




笑い合い、時に沈黙し、それでも言葉は溢れていった。




ふと、エデンの目が変わった。




「……あの日から、全部変わったんだ」




「……どの日のことだ?」




「……俺の誕生日さ。


“ブラック・ライツ”って名乗る奴らに襲われた」




ゼロが身を乗り出す。




「……ブラック・ライツだって?」




「何もできなかった……


……でも、じいさんが助けに来てくれた。


なのに、俺のせいで……連れて行かれた。


だから、強くなったんだ。


助け出すために。ぶっ潰すために。


それだけを……ずっと支えにしてきた」




ゼロは静かに彼を見つめた。




「……それが、本当にじいさんの望みだったのかな?」




「……なに?」




「お前の気持ちは分かるよ。


でも、じいさんはいつだって……俺たちに“平穏”を望んでた。


……それでも、お前も俺も……どうしても、逆らっちゃうよな」




エデンの表情が険しくなる。




拳を握りしめる。




「……俺は、一体……何を守るべきなんだ……?」




ゼロは首を横に振り、苦笑を浮かべる。




「……さあな」




「……え?」




「答えなんて、最初からないんだよ。


正義も悪も、絶対なんてありゃしない。


みんな……自分が正しいと思うものを、守ろうとしてるだけさ」




二人の兄弟の間に流れる沈黙は、もはや心地よいものへと変わっていた。


先程までの戦場が、まるで遠い記憶のように思える。


そして一瞬だけ、世界の熱も痛みも――消えていた。




「なあ……」


エデンが問いかける。


「なんで“革命軍”なんかに入ったんだ?」




ゼロは視線を遠くの地平線へ向けた。


まるで、そこに“それらしい”答えが転がっているかのように。




「さあな……」


しばらくして、曖昧に答える。


「格好いい理由を言いたいとこだけど――嘘になるな。


“誰かを守りたかった”とか、そんなヒーロー気取りの話じゃないんだ」




「……じゃあ?」




「ただ、知りたかっただけさ」


ゼロは肩をすくめてため息をつく。


「この世界の“本当”をな。


種族の意味、世界のルール、裏にある仕組み……


それを知るには、ここが一番近い道だったんだよ。


だから、止まる気はない。全てを知るその日まで」




エデンは言葉もなく、それを聞いていた。


彼の言葉には傲慢もなければ、誇示もない。


あるのは――理解したいという飢えだけだった。




「……真実……」


その言葉を、ただ呟く。




「悪いけど――今はまだ教えられない」


ゼロは静かに微笑んだ。


「その時が来たら、お前は自分で選ぶことになる。


何を守るか。誰を守るか。な」




エデンは小さくため息をついた。




「……分かったよ。


気長に待つさ」




「じゃあ、俺からも聞いていいか?」




「うん。どうぞ」




「なんで“グレク”にいたんだ?」




エデンは気まずそうに視線を逸らし、小さく笑った。




「……長い話なんだけどさ。


ざっくり言うと、ピンク頭の変な奴に脅された」




「……は?」




ゼロが眉をひそめる。




「……え? どうしたの?」




ゼロの顔が一気に険しくなる。




「……そいつって……もしかして……」




「知ってるの?」




「……まぁな」


腕を組みながら、過去の地獄の特訓を思い出し――背筋に寒気が走る。




ふたりは一瞬沈黙し――




同時に、ふっと笑い合った。




「……どうやら、俺たち二人とも“あいつ”に苦しめられたようだな」




「……うん。そんな感じ」




その和やかな空気を切り裂いたのは――


茂みから現れた二つのフードの影だった。




「隊長」


その一人が、静かに告げる。


「そろそろ移動の時間です。新たな任務が待っています」




ゼロは眉をひそめて振り向く。




「……兄弟と感動の再会中って見えねえのか?」




「申し訳ありません、隊長。……え? 兄弟?!」




「隊長に兄弟が!?!」


もう一人も驚きに目を見開く。




エデンは、照れくさそうに手を挙げた。




「どうも」




「紹介するよ、エデン」


ゼロは肩をすくめながら言った。


「彼女たちはランドイスとエリエル。俺の部下だ」




「よろしく」


エデンは少し興味深げに見つめながら挨拶を返す。




ゼロは小さく息を吐いた。




「……悪いな。もう行かないと」




「大丈夫。


会えて嬉しかったよ、兄さん」




ゼロは、心からの微笑みを浮かべる。




「……俺もだよ、弟。


またすぐ会える気がする」




「楽しみにしてる」




そう言い残し、ゼロたちは風のように姿を消した。




――木々の間に、音もなく。




エデンはその場にしばらく佇み、遠くを見つめ続けた。




「……俺は……


何を守ればいいんだろうな……」







一方その頃――




ゼロは森の中を走っていた。


その両脇には、ランドイスとエリエルが並ぶ。




「失礼ですが、隊長……」


ランドイスが口を開く。


「なぜ……弟さんを誘わなかったんですか?」




ゼロは視線を逸らさず、一定の速度を保ちながら答えた。




「今は……あいつは、あの場所にいたほうがいい。


世界の真実を知るには、まだ早すぎる」




「いつか……彼は準備が整うと思いますか?」




「……ああ。必ずその日は来るさ」




その声には、確信があった。




エリエルが前へ出る。




「隊長。次の任務の詳細が届いています」




「場所は?」




「エルドリア地方。


……“科学の都”です」




ゼロの目が細くなり、わずかに笑った。




「……面白くなりそうだな」




「了解です、隊長!」




そして、三つの影は森の中へと――


新たな旅路へ消えていった。

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