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第65章:「GODS」研究所の三大天使 (第5巻:Port Royal)

戦争では、復讐のために戦う者もいれば、栄光のために戦う者もおり、正義のために戦う者もいる。しかし、行き先を知っている川に漂う木の葉のように、大きな流れに流され、理由も分からずもがいている人々もいる。


エデンはさらに一歩進んだ。おそらく小さなものですが、深い意味があります。あたかも、不安な歩き方で、ようやくしっかりとした地面に足を踏み入れたかのようだった。そして彼は一人ではなかった。彼の周りでは、盤上の他の駒も動き始めた。知られざる名前、隠された顔、まだ語られていない過去。


その瞬間、始まろうとしていたのは単なるトレーニングセッションではありませんでした。それは静かなテストであり、隠された試練でした。なぜなら、権力者の目が弱者に向けられるとき、それは単なる偶然によることはほとんどないからだ。


選ばれることは名誉なことのように思えるかもしれません。しかし、時には、監視されることは、裁かれる、あるいは破滅することへの第一歩に過ぎないのです。


そして、重い視線、気まずい沈黙、そして許可なく増大する力の間で、日々は次々に整列し、誰もが新たな深淵の端へと近づいていきます。


もはや、強くなるだけでは十分ではない時代。


私たちはなぜ立ち上がるのかを示さなければなりません。


————————————————————————————————————————————————————————————————


教室の扉が、軋むような音を立ててゆっくり開いた。


だが、そこを通ったのは、ただの生徒ではなかった。


それは…空気を震わせるような重圧。まるで地獄そのものが息を吐いたかのような、圧倒的な存在感だった。




エデンの体が、反射的に強張る。


(なんだ…この圧力は? これが…あいつの力? こんなの、生徒のレベルじゃない…)


額にはうっすらと汗が滲む。




隣のシュウも無言で喉を鳴らし、その姿を注視していた。


(あいつ…普通じゃない。筋力だけならエデンの方が上かもしれない。でも、あの力の制御の仕方は異常だ。まるで…その力自体が敬意をもって従っているみたいだ)




その少年は教室の中央で立ち止まり、冷ややかな視線を一同に向けた。


制服は一分の隙もなく整えられ、シワ一つない完璧さ。


その場にいるだけで、教室全体が静まり返るほどの気迫だった。




「やれやれ……」


アフロディーテが微笑むが、その目にはわずかな苛立ちもあった。


「下級生たちに恐怖を植え付けるのが好きなのかしら、アレックスボルド?」




「申し訳ありません、先生」


彼は一歩も引かず、完璧な態度で応じた。


「少し…気持ちが入りすぎました」




アレックスボルド ー 二年生


ランク:ルビー


役職:特別戦力部隊・第五部隊 隊長




その言葉と共に、空気を支配していた邪気が霧のように消えた。


座り込む生徒、安堵の吐息、汗を拭う者。


そのすべてが、彼の異常さを物語っていた。




彼の後ろから、さらに二人の影が現れる。




「バカが……少しは加減しろと言っただろ」


最初の声は不機嫌そうに眼鏡を直す少女。




イセリ ー 二年生


ランク:ダイヤモンド


役職:特別戦力部隊・第五部隊 兵士




「まあまあ、初めての社交場なんだし、許してあげてよ」


二人目の声は優しく、しかしどこかからかうようだった。




ルキア ー 二年生


ランク:プラチナ


役職:特別戦力部隊・第五部隊 兵士




シュウは三人をじっと見つめる。


(力を隠している……だが、それでも感じる。あいつらは強い。危険なほどに。そして何より、アレックスボルド……彼は、この場にいるべき存在じゃない。学生の皮をかぶった怪物だ)




アフロディーテは雰囲気を改め、厳しい声で告げる。




「ご存じの通り、“Torneo of GOD”の第二ラウンドが迫っています。任務と成績に基づき、選ばれた十名が、今からこの三人の指導を受けます。


フイツィロポチトリ神から、次の試練はチーム戦であると通達がありました。六対六、条件なしの正面衝突です」




ゼフが眉を上げ、ヨウヘイと視線を交わす。




「つまり、訓練だけでなく……選抜でもあるってことか」


「その通り」アフロディーテが頷いた。


「この三人が、誰を戦わせるかを決定し、その判断はゼウスたち評議会に提出されます。理解できましたね?」




「光栄です」アレックスボルドが静かに応じた。




アフロディーテは名簿を開き、名を読み上げた。




「ヨウヘイ・アクティナ、ゼフ・ミズシマ」


二人は軽く拳を合わせ、言葉は不要だった。




「ロワ・マッチ、セバスチャン・グリアン」


「やった! 今回も一緒だね!」


ロワは両隣を力強く抱きしめた。




「…どうして僕だけいつも空気なの…」


セバスチャンは虚空を見つめながら心の中で呟いた。




「シュウ・サジェス、ユキ・ツカ、エデン・ヨミ」




「足を引っ張るなよ、バカ」


ユキが腕を組みながら吐き捨てる。




「すまん、弱すぎて聞こえなかった」


エデンがにやりと返す。




「はあ!? なに言った!?」


ユキの目に火が灯る。




「まあまあ、殴り合いは後にしようぜ」


シュウが両手を上げて制止する。




「ヴァイオレット・レカルツ」


「みんなと一緒だなんて…うれしいなあ」


胸に手を当てて微笑むヴァイオレット。




「ルクス・レインボウ、エリス・オネニヒド」




教室が凍りついた。




「えっ……?」


声が漏れる。




「なに?」


エリスは無表情のまま首を傾げる。




「いや…君ってこういうのに興味なさそうだから…」


アリスが首をかしげると、他の生徒たちも同意するように頷いた。




「興味はない。努力もしてない。だから選ばれなかったやつらは退場していい。…哀れだな」


エリスの吐き捨てるような言葉が、沈黙に響いた。




「ちょっとは気を使えよ、エリス…」


アリスが苦笑するが、その言葉は形式的なものに過ぎなかった。




アレックスボルドが鋭く目を細めた。


(嘘だ。その体に刻まれた傷……あれが努力してない人間の証のはずがない)




だが、口には出さなかった。理由などどうでもいい。彼に必要なのは――力、それだけだ。




アフロディーテもその様子に気づいていた。


(やっぱり…彼も気づいたのね)




「それでは、これから彼ら三人の訓練が始まります。出発までは、彼らに任せます」




アレックスボルドが一歩前に出て言った。




「イセリ」




「…はあ。はいはい。説明通り、我々三人が皆を訓練します。


それぞれ異なる能力を伸ばす。


厳しくなる。痛みもある。


でも、ここにいるなら、耐える力があるはず。わかった?」




「はい!」




「よし。今日中にクレタ島へ出発する。楽になるとは思うな。止まる気もない」




生徒たちの間にざわめきが走る。


不安、希望、期待――それぞれがその胸に抱いて船へと向かった。




その出発直前、アフロディーテがアレックスボルドに声をかける。




「本当にいいの? 特別部隊にいるあなたがここまでするなんて、義務じゃない」




「義務じゃない。…これは、シュンへの恩返しだ」




「やっぱり、あのバカが頼んだのね」




「彼は言った。“面白いものが必ず見つかる”と。悔しいが……あいつの直感に、外れはない」




「でも、もし何かあったら――私があんたを殺すわよ」




「承知の上です」


彼は穏やかに微笑んだ。




「アレックスボルド、早くー!」


ルキアが船の上から叫ぶ。




「はいはい、今行く」


彼は一度も振り返ることなく、静かに歩を進めた。




アフロディーテは、船が水平線の彼方へと消えていくのを静かに見送っていた。


太陽の光が甲板を優しく照らし、生徒たちの笑い声が微かに風に乗って届く。


だが、その微笑ましい光景の中で、彼女の表情は硬いままだった。




「……頑張って、アレックスボルド」


そう小さく呟いたが、視線は微動だにしなかった。




——だが、世界の反対側では。


陽の光さえ届かない、朽ちた路地と崩れた建物が並ぶ暗黒の街で、運という言葉は贅沢な幻想に過ぎなかった。




石畳の地面を、一つの影が這っていた。


その後ろには、濃い血の跡。




「くそが…異端者め、悪魔の息子が……」


ぼろぼろの法衣をまとった男が呻く。


顔は腫れ上がり、鼻は折れ、呼吸は断続的だ。


「……指導者たちが我々の帰還を待っている…必ず貴様を殺しに来るだろう」




かすかな光を反射して、刃が一瞬だけ光る。




次の瞬間、腕が音を立てて地面に落ちた。




「ギャアアアアアッ!!」


男の叫びが夜に響き渡る。




目の前に立つのは、フードを被った謎の人物。


無言のまま、血を滴らせる剣を下げている。




「来るなら来い」


その声は低く、錆びた鉄のように荒れていた。


「一人残らず、泣き叫ばせてやる。正義のためじゃない。快楽のためにな」




「貴様の母親は娼婦だった…」


男は血を吐きながら言い放つ。


「悪魔に孕まされ、生まれた貴様など…我らの神、ゼンカの炎で焼かれるべきだった…それが意志だったのだ」




沈黙。




その目は、虚無で満たされていた。


怒りではない。


ただ、耐え続けた者だけが抱く、冷たい諦めの光。




「……反吐が出る」


フードの男がつぶやく。


「いつもそうだ。“神の意志”の陰に隠れて、自分の憎悪や変態性を正当化する。信仰じゃない。ただの臆病者の言い訳だ」




男は狂ったように笑う。




「お前にはわからんさ……我らの神の愛を知らぬからだ。


やがて彼が戻られる時、すべてを支配する。


貴様のような悪魔は、真っ先に焼かれる運命だ」




フードの男が、わずかに一歩前へ。




「悪魔……だと?」




その影が伸び、ねじれ、分裂し始めた。




ぞくり、とした音が空気を裂く。




男の足が震え始める。


逃げ出そうと手を突くが、筋肉が動かない。




叫び声が上がる。


人間の声とは思えない、純粋な恐怖の絶叫。


壁に、地面に、辺り一面に血飛沫が散る。




静寂が戻るまで、そう時間はかからなかった。




その男…いや、“それ”は、無惨な肉塊の中に立っていた。


呼吸は重く、体の一部はまだ人間の形を取り戻していない。


赤く濡れた床の向こうを、虚ろな目で見つめていた。




(……どうやら、追ってくるのは教団だけじゃなくなったようだな)


脳裏で低く鳴る、自分自身の声。




(今は、ブラックライツも……そして王までも。


まあ、無理もない。派手にやりすぎた)




彼はゆっくりと剣を納める。


その影が、再び一人の男の姿に戻っていく。




(だが…あれさえ手に入れば、すべてが終わる)


(静かに引退できる。……ポート・ロイヤルの海辺で。彼女の隣で)




手が、ぎゅっと握りしめられる。




(それまでは——


たとえこの世界中に憎まれようと。


吐き捨てられようと。


俺は…悪として歩き続ける)




そして彼の背後で、静かに足音が消えていく。




(——地獄も…俺と共に歩む)

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