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第68章:黒ひげ作戦

時々、最も危険な狩りは隠れた怪物を狩るものではなく、その影の下に埋もれた真実を狩るものである。


時間は、あらゆる悪事の沈黙の共犯者であり、代償を理解せずに正義を求める人々を許さない。敵が単なる顔ではなく、過去を共有している場合、完全な勝利はあり得ないからです。


名前が曖昧になります。理由が壊れています。そして、かつては崇高な目的であったものが、結局は戦い続けるための単なる言い訳になってしまうかもしれない。


しかし、怒りの瓦礫の中にあっても、私たちが誰であるかを定義する決断は存在します。義務感から戦う者もいれば、復讐心から戦う者もいる。守ろうとする者もいれば、ただ破壊しようとする者もいます。


そして、その中で、なぜ始めたのか思い出せなくなってしまった人たちもいます。


今日は単なる手術ではありません。それは古代の物語の反響であり、チャンスに偽装された警告です。幽霊を捕まえるには、力ではなく、目を見つめて、それが映し出すものを受け入れる覚悟が必要です。


問題は、時々、戻ってくる反射が、私たち自身の反射であるということです。


————————————————————————————————————————————————————————————————


夜は濃く、まるで空気そのものが息を潜めているかのようだった。


市の外れにある古びた倉庫を、何人ものフードを被った者たちが無言で取り囲んでいた。


闇の中に潜むその姿は、まるで現れかけの亡霊のよう——




アレックスボルドは先頭に立ち、鋭い視線と制御された呼吸で状況を見据えていた。




(何ヶ月も追い続けて……ようやく、追い詰めた。


今夜で終わりだ、バルバネグラ)




神経が張り詰め、体内を電流のような感覚が走る。




彼が一言も発しないまま、全員が同時に動き出した。


フードの者たちは、倉庫の両側から静かに侵入し、全ての逃走経路を完璧に封じていく。


アレックスボルドが倉庫の扉を開けて中に足を踏み入れた瞬間——


空気が、一気に粘りつくように重くなる。




「止まれ、バルバネグラッ!」




静寂の中、その声は鋼のように響き渡った。


だが、返ってきたのは……反響する自分の声だけだった。




倉庫内は空だった。


中央にポツンと置かれた箱が、一種の悪意ある皮肉のように見える。




(……ありえない。ずっと監視してた。誰も出てない。


なのに、奴の気配は残ってる……どういうことだ?)




背後から、ルキアが駆け込んでくる。




「アレックスボルド、B班からの通信が……来てない」




「いつからだ?」




「正確には分からないけど……ずいぶん前から切れてるみたい」




アレックスボルドの顎が強張る。




「……くそっ」




その時だった。


影の中から、空間が破れたかのように腕が飛び出した。




「危ないっ!!」




イセリの声が響くも、反応は間に合わなかった。




爆発——


倉庫全体が揺れ、天井が吹き飛び、火の舌が四方を飲み込む。


空気が焼け、地面が震え、現場は一瞬で混沌と化す。




そして——


その衝撃と共に、記憶が不意に胸を突いた。




_______________________




——フラッシュバック——




訓練場で、アレックスボルドとエデンの体がぶつかり合う。


拳、避け、受け止め、反撃——


激しい鍛錬の最中にも、どこかに尊敬と好奇心、そして妙な緊張感が漂っていた。




エデンの拳がアレックスボルドの顔面に迫る。


彼はそれをぎりぎりで受け止めたが、腕に重みが残る。




(……数週間で、こんなに?)




後退しながら、思考が揺れる。




(いや……まだだ。こいつは——)




その次の一撃が、その考えを打ち砕く。


力ではない。背後に揺らめく“何か”が、アレックスボルドの限界を引き出していく。




(……マジか。冗談だろ?)




腕は赤く染まり、感覚が鈍ってくる。




唸るように、彼は紅のエネルギーを解放した。


背中から無数の血の触手が現れ、まるで生きているかのように蠢く。




「遠慮するなよ、エデン……」




エデンの体からは、黒い闇が滲み出す。


内に秘めた全てが、いま解き放たれようとしていた。




少し離れた場所で、それを見守る者たちがいた。




「すごいな、どっちも……」


ルクスが感嘆の声を漏らす。




「……そう思うか?」


エリスは視線を逸らさない。




「何が言いたいんだ?」




「アレックスボルド、手を抜いてるよ」




黙っていたヨウヘイが、腕を組んで呟く。




「……両方だ。


アレックスボルドは自覚的に。


エデンは……無自覚に、だ」




その瞬間、ルキアが駆け込んだ。




「ストップ!」




ぶつかり合う二人のエネルギーが、雨に濡れた煙のように消えていく。




「何の用だ?」


アレックスボルドが苛立った声を向ける。




「隊長が呼んでるわ」




「……このタイミングでか。


悪いな、エデン。続きはまた今度だ」




「気にしない。次を楽しみにしてるよ」




そう言って笑うエデンに、アレックスボルドは頷いた。




「他は任せる」


彼はルキアに言い残し、その場を離れる。




別室には、エーテルの鏡が浮かんでいた。


そこに、シュンの姿が映る。




「久しぶりだな、アレックスボルド。……俺の顔が見れて嬉しいか?」




「いや。お前が連絡してくるときは、大体ろくでもない」




「……俺ってそんな印象か? もっとイメージ戦略頑張るべきかな」




「要件は?」




「来たよ、その時が。


バルバネグラ作戦、始動だ」




アレックスボルドの背筋が伸びる。




「今日か」




「そう。ジュアナとタイレシアスはすでに準備完了。


援軍も到着済み。


あとは……お前の一手だ」




「了解」




「ただし、油断するな。あいつは他と違う」




「……どういう意味だ?」




「十五年以上も逃げ続けてるんだぜ?


それだけでも、ただの雑魚じゃないってわかるだろ」




「強いのは認める。


……でも、それ以上の心配はいらない」




沈黙。




シュンはしばらく口を開かず、何かを押し殺すような目をしていた。




「……お前、軽く見すぎてるかもな。


何かが、妙なんだよ」




「深読みしすぎじゃないか?」




「かもな」


シュンが肩をすくめる。


「まあ……あとは頼んだ。アレックスボルド」




「任せろ。全力でやる」




「じゃあな」




映像がふっと消え、エーテルの光だけが残った。


静けさの中、アレックスボルドは再び目を閉じる。




これから訪れる現実を、確かに感じながら——




通話が切れた瞬間、バーに戻った静けさは、まるで重石のように場を支配した。


シュンは背筋を伸ばしたまま、皺だらけの紙を指先でなぞっていた。


もう何分も、ずっとその紙から視線を外していない。




「どうした? あんたがそんな顔するの、初めて見たな」


向かいに座る男が低く問いかけた。「まさか、バルバネグラを恐れてるのか?」




シュンは一瞬だけ顔を上げた。


その表情に焦りはなかった。ただ、片方の口角がほんのわずかに上がっていた。




「いや——」


彼は静かに答えた。


「むしろ……ワクワクしてる」




片手でコーヒーの最後の一口を飲み干す。


それはまるで、無言の儀式のようだった。




そのまま立ち上がる動きも、どこかゆっくりで落ち着いている。


急ぐ気配など微塵もない。




「どこに行く?」


男がさらに訊ねる。




「自分の手で、バルバネグラを倒しに」




「は? 何言ってんだ? 今日は作戦日だろ。もう奴は捕まるって——」




シュンは何も答えず、テーブルに小銭を置いて背を向けた。




「……さあな。


また会えるといいな。じゃあな」




呆然とした男は、その背をただ見送るしかなかった。




(……おい、シュン。何を企んでる?)




シュンは照明の薄暗い通路を歩きながら、再び指先の紙に目を落とす。




(なぜバルバネグラ?


あの子供たちとの関係は?


あの老人どもは……一体何を隠してる?)




その紙は焦げ、しわくちゃだった。


白黒の写真。


並んでいるのは、幼い子供たちの顔。


横にはコード、日付、不明な記号——


どれも意味を語らない。


ただ、時に忘れられ、声を奪われた命たち。




_______________________




——現在——




炎の熱が、すべてを覆っていた。


火花が散り、空気は煙と灰に満ちていた。




その地獄の真ん中で、アレックスボルドは倒れていた。


全身に裂傷、意識は揺れ、思考はぐるぐると混乱していた。




「な……何が、起きたんだ……?」




頭を振りながら、必死に視界を探る。


そして、ある倒れた影を見つけた。




「イセリィィィ!」




這いつくばるように彼女の元へ。


その体は重傷だった。火傷と裂傷で覆われ、かろうじて息をしているだけ。




アレックスボルドは歯を食いしばった。


胸の奥が、物理的な痛みを超えてきた。




その時、別の声が届いた。




「ア……アレックスボルド……」




ルキアだった。


立ってはいたが、今にも崩れそう。


腕は片方なかった。顔の半分が焼け焦げている。




「……無事で……よかった……」




そう呟いて、ルキアは倒れた。


静かに、冬の終わりに枯れる花のように。




アレックスボルドの胸に、裂けるような虚無感が広がった。


仲間たちの焼け焦げた遺体が視界に映る。




「……俺は……また……また守れなかった……


……俺なんか……何の役にも立たねぇ……」




そのとき——視線を感じた。


焼けた瓦礫の隙間から、一人の男が彼を見下ろしていた。




「……すまない」




その男——バルバネグラの頬に、一筋の涙が流れていた。




「バルバネグラァァァァアアッ!!!」




アレックスボルドが叫ぶ。


体内から嵐のようなエネルギーが噴き出す。




血の触手が爆発的に伸びた。


怒りに燃える鞭のように、バルバネグラに向かって襲いかかる。




だが——


彼は微動だにせず、片手を掲げるだけで、その触手たちは吸い込まれるように消えていった。




「……な、何だと……!?」




「何をしようが、俺には届かない」




「黙れぇぇっ!!!お前だけは許さない!!!」




そのとき、バルバネグラの片目が赤く光った。


奥底に隠された何かが、目覚めようとしていた。




「ならば……仕方ないな」




_______________________




遠くから、GODSの生徒たちが駆けつけてくる。




血の匂い。煙の臭い。絶望が漂うその場に、誰もが息を飲んだ。




「ここで……何が……?」


シュウが動けずにいた。




エデンがいち早く彼を見つけた。




「アレックスボルド!!」




若者は瀕死だった。


血まみれで、一本の触手だけが彼の体を支えていた。




バルバネグラは最後にもう一度彼を見た。




「……また会う気がする。じゃあな」




地面が彼を飲み込むように、スッと姿を消した。




「逃げるなぁぁぁっ!!


お前は罰を受けるべきだッ!!くそぉぉぉっ!!」




闇のオーラがアレックスボルドを包む。


それは狂気と絶望が渦巻く暴走状態だった。




「……もう止められないな」


ヨウヘイが呟く。




「殺す?」


ゼフがさらっと言った。




皆が一斉に彼を睨んだ。




「馬鹿か」


ヨウヘイが唸る。「気絶させるだけでいい」




「でも……本当に戦うのか……?」


ルクスが顔を引きつらせる。




「仕方ないみたいだ」


ユキが答える。




エデンの体からも、黒い光が放たれた。


覚悟の色だった。




「俺が行く。


……みんなはルキアとイセリを頼む」




「……ヒーロー気取りかよ」


ヨウヘイが苦々しく言う。




「うるせぇ。やれって言ってんだ」




ロワが笑いそうになったが、何も言えなかった。




そのとき——




「大丈夫。全部俺がやるから」




聞き覚えのある声が響いた。




「ピンク髪……?」


エデンが目を見開く。




「それが最初に思いついたのか?」


シュンが苦笑いする。




「……間違いない」


ヨウヘイの思考が走る。


(——最強の男、シュン)




シュンの目が細くなる。


思考が、戦略家のそれに切り替わる。




(間違ってなかった。奴は最初から俺たちの到着を予測してた。


でも……あの爆発は? 何のために目立った?


お前の狙いは何だ、バルバネグラ……)




(……いや、そんなことより、今はこれを止めないと)




一歩、二歩——シュンは静かに前に出る。




「アレックスボルド……すまんな」




次の瞬間——




シュンの拳が炸裂する。




アレックスボルドは一言も発せずに、気を失って倒れた。




「な……なんだ今の……?」


ヨウヘイは驚愕する。




(……動きが見えなかった……気配も読めなかった……)




「エデン、あとは任せた」


シュンは言った。躊躇はなかった。




「は、はい!」




エデンたちは、ルキア、イセリ、そしてアレックスボルドを運び始める。




その後ろで、シュンは立ち尽くしていた。


静寂と灰に包まれた破壊の中心で。




ふと足元で「パリッ」と音がした。


シュンは足を止め、下を見る。




焼け焦げた紙切れが一枚、足元にあった。




それを拾い上げ、彼は静かに呟いた。




「……これは——」

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