任務の終了が必ずしも安堵をもたらすわけではない。時には、最も困難なのは生き残ることではなく、叫び声が止んだ後に残る静寂に直面することなのです。心がまだ戦っている状態で平静に戻るというのは、とても不安なことです。
何が起こったかについては、それぞれが自分なりの見解を持っています。誇りを持つ人もいれば、罪悪感を持つ人もいます…そして、単に疑問が増える人もいます。表面的に達成されるものは、内面で燃えている真実を反映することはほとんどない。
少なくとも表面上は敵は敗北した。しかし、誰も声に出して言わないのは、剣で戦われない戦いや、爆発で勝てる戦いもないということだ。それは、疑う者の視線、沈黙を続ける者の声、そして一瞬、他者を守るために世界に立ち向かう勇気を持つ者の決断によって形成されるものである。
このミッションに隠された秘密が信頼の基盤を揺るがし始めている。明白なことはもはや真実ではなく、隠されたものが形をなし始めます。権力者のチェスの世界では、すべての動きに代償が伴う...そして今、駒たちは自分たちが監視されていることを知っている。
今日、一つの章が終わります。しかし歴史は止まらない。なぜなら、終わりを祝う人がいる一方で、自分たちの存在の真の目的を理解し始めたばかりの人もいるからです。
そして、その中で、ある約束が絶えず響き渡っています。
「彼らに何かが起きないようにする」
たとえそれを果たすためには...神々にさえ立ち向かわなければならない。
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ポータルの低い唸り声が消えていく。
その中へと、バルバ・ネグラの姿も飲み込まれていった。
残されたのは、波が静かに海岸を舐める音だけ。重く、張り詰めた沈黙が場を支配していた。
「……まあ、これで作戦終了ってとこだな」
シュンが淡々と呟く。その声はまるで日常の業務を終えたかのようだった。
エデンは横目でその桃髪の男を見た。
――こいつ……本気で怖い。
何を考えてるか、まったく読めない。
「これから……どうする?」
アレックスボールドが荒い息を吐きながら尋ねた。
「何の話だ?」
シュンの表情は変わらない。
「任務報告だよ。どうやって今回の件をまとめるつもりだ?」
「バルバ・ネグラは戦闘中に死亡」
「……そんな曖昧な報告で、クラリレオが納得すると思うか?」
「任せろよ」
シュンは軽く肩をすくめて背を向けた。
「……わかった」
アレックスボールドの体を覆っていた血の結晶が、ゆっくりと崩れていく。
それは湿った灰のように剥がれ落ち、彼の体は膝から崩れた。
「くそ……体が動かねぇ……」
目の前に差し出された手。
それはエデンのものだった。優しい笑顔が添えられている。
「立てるかい、ヒーロー?」
アレックスボールドは顔を上げて、ため息混じりに手を取った。
「ヒーローって呼ぶの、やめてくれないか?」
「無理だね、ヒーロー」
アレックスボールドの唇がわずかに持ち上がる。
弱々しくも、確かな微笑だった。
「……ったく、もう……」
一行はゆっくりと海岸へ向けて歩き出した。
潮風が傷口を撫で、彼らの壊れかけた思考を静かに包む。
そこに立っていたのは――アレス。
腕を組み、彼らを見下ろしていた。
「状況は?」
「任務完了。成功だ」
シュンが淡々と答える。
「……さすがだ」
アレスの口元が誇らしげに歪む。
その瞬間、拍手が響いた。
クラリレオが現れる。影の中から、ゆっくりと姿を現す。
「おめでとう、実に素晴らしい。さすがは“自称”最強の男だ」
「久しぶりだな、牙付き野郎」
シュンが笑いながら返す。
クラリレオの視線が鋭くなる。
「……で、バルバ・ネグラはどこだ?」
「死んだ。完全に消したよ」
「君が? フッ……君があの小動物を殺すなんて、信じがたいな。本当に?」
シュンは鼻で笑う。
その笑みには、皮肉と殺意が込められていた。
「ふざけるのはやめろ」
クラリレオが一歩踏み出す。
「本当はどうした? バルバ・ネグラをどこにやった?」
「言っただろう? 死んだ。それだけだ。信じようが信じまいが、勝手にしろ」
クラリレオの目が不気味な赤に染まり、視線がアレックスボールドへと向けられる。
「母親から情報が取れなかったら……子供から取るまでだ」
「……真実を言え、クソネズミ」
アレックスボールドの体が硬直する。口を開こうとしても声が出ない。
そのとき――
剣の刃が、クラリレオの首元すれすれで止まった。
それを握っていたのはエデン。鋭い目で相手を睨む。
誰もが凍りついた。
空気が、時が、止まったようだった。
「……アレックスボールドには手を出すな」
その声は、静かだが決して揺るがなかった。
「……何してるつもりだ、ガキがぁ!」
アレスが怒鳴り、前に出る。
「エデン、やめてくれ!」
アレックスボールドが叫ぶ。
だが――クラリレオは笑っていた。
「面白いな……お前、本当に面白い。なるほど、あいつが目をつけた理由が分かった」
「もう一歩でも動いたら、本気で斬る」
エデンは剣を下ろさない。
その横でシュンが前に出た。
「……行こう。報告なら、俺が直接やってやるよ、“牙付き野郎”」
「もし嘘だったら……どうなるか、分かってるな?」
「ふん。俺に罰を与えるだって? やめとけよ。何億年経っても、お前如きじゃ俺に触れられねぇよ」
クラリレオの体から、どす黒いオーラが滲み出す。
その圧が空間を揺らす。
「……このクソ野郎が……」
「もし仲間に手を出したら、容赦しない。殺す。そして、お前と俺の“差”を、思い知らせてやる」
二人の視線がぶつかる。
世界が震えた。
だが――先に引いたのはクラリレオだった。
オーラを収め、くるりと背を向ける。
「その報告、楽しみにしてるぞ、シュン」
そう言い残し、船に乗り込み――霧の中へと消えていった。
潮風が、疲れ果てた一行の頬を優しく撫でていた。
船は静かに波を切り、ポート・ロイヤルへと向かって進む。
その穏やかな沈黙は、わずか数秒しか続かなかった。
「おい、てめぇ一体何してたんだ!? 誰に剣を向けたか分かってるのか!?」
アレスが怒鳴り、エデンに向かって指を突きつけた。
シュンは腹を抱えて笑っていた。
その笑い声は空気の緊張を無遠慮に切り裂く。
「ははっ……あの顔、見たか? あの牙付き野郎、唖然としてたな……まさか誰かに逆らわれるとは思ってなかったんだろうよ」
エデンは視線を落とし、気まずそうに呟く。
「ごめんなさい……」
だが、ヨサが前に出て優しく微笑んだ。
「謝る必要なんてないさ。仲間のために立ち上がる、それが本当の強さだよ」
その瞬間、ヨサの頭にアレスの拳が落ちる。
「バカ野郎! それでどれだけ面倒なことになるか分かってんのか!? 今や、十二家の一人に命を狙われてるんだぞ!」
「まあまあ、そんなに怒るなって」
シュンが肩をすくめて茶化す。
「そうだよ、グチグチ言うなよ、グチ司令官〜」
ヨサが笑いながら加勢する。
「グチグチ隊長〜! グチグチ隊長〜!」
二人が声を揃えてふざけ始める。
アレスの怒りが限界に達し、二人を同時に拳で黙らせた。
「黙れ、バカども!」
だが、次の瞬間、シュンの表情が変わる。
笑顔は消え、彼の声には静かな決意が宿る。
「心配するな。絶対に、誰一人傷つけさせはしない。それができないなら……俺は死んでる方がマシだ」
船の上に静寂が戻る。
ヨサは涙を浮かべながら、シュンに抱きついた。
「隊長……隊長……!」
シュンは微笑み返す。
「俺って、最高だろ? なあ、アレス?」
「黙れ……」
アレスはそっぽを向いたが、その声にはどこか温かさがあった。
操縦席では、ドレイクとティレシアスがその様子を見守っていた。
「楽しそうな連中だな」
ドレイクが呟く。
「ええ、本当に……」
ティレシアスが懐かしげに笑う。
ドレイクの視線は海へと向けられる。
――昔の俺たちも、ああだったな……
心には懐かしい光景が浮かんでいた。
仲間、笑顔、歌声、そして……別れ。
「到着まで、あとどれくらいだ?」
シュンが近づき、尋ねた。
「嵐が来なければ、夜明けには着く」
「それは良かった……」
シュンは一拍置き、声を低くした。
「それと……呪いの原因は見つけられなかった。すまない」
「気にするな」
ドレイクは穏やかに答えた。
「これはこれで、俺にとっての記憶だ」
すると、シュンが突然ドレイクの腕を掴む。
「おい、何を……」
「俺たちだけの秘密だぞ」
ドレイクの腕を包んでいた暗黒の瘴気が、温かな光へと変わり始める。
その呪いは、砕けたガラスのように消えていった。
「……嘘だろ……なんで……」
「これは、あなたの功績に対する礼だよ」
「言葉が……出ない……」
「過去に囚われるな。未来を見ろ」
気づけば、シュンの姿はそこになかった。
残されたのは、彼の言葉だけ。
「……ありがとう……」
やがて船は、ポート・ロイヤルに到着した。
街はいつもと変わらぬ喧騒に包まれ、彼らの任務の重さには気づいていなかった。
「ありがとう、キャプテン」
シュンが手を差し出す。
「久々の航海だったが、悪くなかった。こちらこそ、礼を言う」
ドレイクはその手を力強く握る。
「また会いましょう、キャプテン・ドレイク」
「ああ、必ずな」
「じゃあ、行くか?」
「まだだよ」
フワナが口を挟む。
「君の弟子がいない」
「え? あのバカ? どこ行った?」
「ポート・ロイヤルの中央広場だよ」
アレックスボールドが答える。
「広場か……なるほどな」
◆
エデンは一人、広場の中央に立っていた。
手には花束。
静かに、目の前を見つめていた。
――あんたが経験した苦しみ、想像もできない。
ゼロとの会話が蘇る。
革命に加わった理由、正義と悪の狭間で揺れる心。
――兄さん……これが世界の真実ってやつなのか?
――俺も、同じ問いにぶつかってるのか?
――本当に……俺は正義の側にいるのか?
エデンの目が鋭くなる。
体内に、力が流れ始めた。
――でも……そんなことはどうでもいい。
――正義か悪かなんて関係ない。
――俺は、俺の大事な人を取り戻す……
――たとえ化け物になろうとも、必ず取り戻す!
そっと花束を広場の中央に置き、彼は去っていった。
◆
街の別の場所――
アレックスボールドは、イセリとルキアを抱きしめながら、声を上げて泣いていた。
「ごめん、ごめん……俺が弱かったせいだ……守れなかった……!」
「もう、大丈夫だから……」
イセリがそっと彼を抱きしめる。
「バカ……いつまでも泣いてたら、ぶっ飛ばすぞ……」
ルキアの目にも、涙があふれていた。
「ルキアだって、泣いてるじゃん」
イセリがくすっと笑う。
「泣いてない! 汗が目に入っただけ!」
三人は、泣き笑いの中で肩を寄せ合った。
そんな彼らを、遠くから見つめるフード姿の影――
静かに、その場を去っていく。
◆
街の酒場。
シュンは最終報告書をクラリレオに手渡していた。
二人は対峙する。まるで、決して交わらぬ駒同士。
「どうやら……俺たち、考えを改めさせられたようだな」
「俺が殺したって言っただろ? バルバ・ネグラには、もう何も残っちゃいない」
「そうか……なら、ひとまずおめでとうと言っておこう」
クラリレオの声は曖昧だった。
「だが忘れるな。お前はいくらでも逃げられる……だが、大切な者たちは違う」
「忘れてねぇよ」
シュンの目が鋭く光る。
「だから言っておく。誰かに手を出したら……お前も、他のジジイどもも、全員まとめて殺す。覚えとけ」
左目は深紅に染まり、右目は太陽のように金色に輝く。
「またな、“牙付き野郎”」
◆
数週間後。
体の傷は癒えた。だが心の傷は、まだ――
各チームは日々の訓練を続けた。限界まで、ひたすらに。
ついに、クラス1が一堂に会す。
第二ラウンドの代表を選ぶときが来たのだ。
アフロディテが前に立ち、凛とした空気を放つ。
「まずは、皆さんの努力に心から敬意を表します。
この数週間、皆さんは限界まで己を鍛え抜きました。そして、その努力は――確実に結果として現れています」
一度、息をつく。
その声は優しく、だが芯がある。
「ですが……選ばれるのは八名のみ。では、発表します。第二ラウンドに進む代表は――」