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第78章: 金級の真の力

本当の強さは、数字や、大地を揺るがすような打撃の轟音で測られるものではないことがあります。


他者の重荷を背負おうと決心した瞬間に生まれるある種の力があります。叫びや自慢ではなく、落ち着いた視線と確固たる姿勢、そして深淵に屈しない意志で自らを明らかにする者。


名前が称号となり、階級が栄光へのステップとなる神々の世界では、真の力は自分の弱さを認識することにあると理解する人はほとんどいません。


拳は天を突き通すことができるが、その拳が恐れられるのは、その拳の背後にある目的によるものである。


そして、二人の巨人が対決するとき...誰が勝つかは問われません。


彼らは、その後に世界がどれだけ残るのか疑問に思う。


駒が動き、名前が響き渡る中、論理を命綱として頼りにする者もいる。しかし、人間の魂の混沌の前には、最も計算された論理さえも崩壊してしまうのです。


今日では……「金級」という称号は飾り物ではなくなる。


それは宣戦布告となるだろう。


————————————————————————————————————————————————————————————————


「おいおい……マジかよ?」


ヨウヘイは足を止め、目の前に立ちはだかる二人の相手を見据えた。




空気は張り詰め、大地が静かに震えていた。


曇り空の下、鎧を光らせるシュナーンと、剣に火花を宿すテプツトリ──


その構えは、戦う覚悟をはっきりと示していた。




ヨウヘイは目を細め、状況を冷静に分析する。




少しばかり──即興でいくか。




──フラッシュバック──




「なんだと?あの悪魔と一緒だと!?」


ヨウヘイが声を荒げると、シュウは落ち着いた声で返した。




「もう説明しただろ。お前がエデンの側にいる必要があるんだ。


 奴が早い段階で戦うことになれば……僕たちは終わりだ」




「なんでだよ?」




「お前も分かってるはずだ。エデンの力を、タカハシとジパクナに集中させる以外に、勝機はない」




ヨウヘイは鼻で笑うように吐き捨てる。




「俺一人で十分だ。あの二人くらい、片手でやれる」




しかし、シュウの目は冷たく、空気を刺すほどの真剣さを帯びていた。




「……違う。お前も分かってる。


 確かに、お前は誰よりも強い。僕たち全員を足しても敵わない。


 でも、タカハシは……金ランクというだけじゃない。


 エデンもだ。お前はそれを認めたくないだけだ。


 自分より強い存在がいることを……な」




ヨウヘイの顔が歪む。


それは──どんな一撃よりも痛かった。




「……頼む」


シュウは声を落とし、頭を下げる。




「お前の力が必要なんだ」




長い沈黙のあと、ヨウヘイは重たいため息をついた。




「……分かった。で、俺は何をすりゃいい?」




「お前は前へ進め。


 エデンとタカハシが戦う時まで、誰にも邪魔をさせるな。


 タカハシはエデンが現れるまで動かない。


 それを利用するんだ」




ヨウヘイの口元に、獣のような笑みが浮かんだ。




「任せとけ」




──フラッシュバック終了──




今、彼の瞳は青白い稲妻に包まれ、獣じみた本能が溢れ出していた。




──チッ……やるじゃねぇか、あの天才坊主。




「おい、お前ら。あの赤毛のチビはどこだ?ぶっ飛ばしてやりたいんだけど」




シュナーンが前へ出て、盾を構える。




「お前には関係ない」




「教えねえなら、まとめて潰すだけだ」




「自分が勝てるとでも思ってるのか?」


テプツトリが冷ややかに言う。




「勝つ?違うな。俺の辞書に“勝機”なんて単語はねぇ」


ヨウヘイがニヤリと笑う。


「ただ、てめぇらをぶちのめせば、それでいい」




「なめるなよ、このクソ野郎!!」


テプツトリの剣が炎をまとって燃え上がる。




「俺たちも金ランクなんだ。甘く見るな」




「悪いな。お前らじゃ俺の足元にも及ばねぇよ」




その一言が、テプツトリの怒りに火をつけた。




「てめぇぇぇっ!!」




「落ち着け」


シュナーンが遮った。


「挑発してるだけだ。奴がどれほど強くても、二人でかかれば倒せる」




「……ああ。やるしかねえ」




ヨウヘイは二人を観察する。




──シュナーン。金ランク20位。鉄壁の防御、盾、対多様戦に優れた制圧と反撃のスペシャリスト。


──テプツトリ。25位。火属性の剣士。突撃型、守りは薄いが破壊力は凄まじい。




なるほど、なかなか良いコンビだな。でも──壊せる。




──その時。空気が変わった。




空が一気に暗くなり、大地が揺れた。


ヨウヘイの体から、まるで雷神が宿ったかのように、火花が走る。




「う、嘘だろ……」


シュナーンの鎧が震えた。


──こんなの聞いてない……この力、計算外だ……




少し離れた場所で、エデンが静かに様子を見ていた。


胸の奥に不安が広がっていく。




──俺は、何をしてるんだ……


──もう……信じてもらえてないのか?


──戦ってはならない……恐れられるだけだ……




シュウとの戦い。ノークで暴走した記憶。祖父の顔。


──あの時の視線。あの……恐怖の眼差し。




「もう、誰も傷つけたくない……」




だが、次の瞬間。


轟音と共に、ヨウヘイの拳がシュナーンの盾に叩き込まれた。




「どけェ!」




背後から現れたテプツトリが、高速の斬撃で応戦し、ヨウヘイを一歩下がらせる。




「なめんなって言っただろ!!」




ヨウヘイは笑う。




「悪かったな。蟻かと思ったが……せいぜいゴキブリだな」




「この野郎!!」


テプツトリが感情を抑えきれずに突っ込む。




「待て!罠かもしれない!」


シュナーンが叫ぶが──遅かった。




ヨウヘイが足元に仕込んだ電気が、テプツトリの足元に炸裂する。




「なっ……」




天から落ちたのは、巨大な雷撃だった。




大地が震え、辺りが閃光に包まれる。




「ふう……一人減ったか?」




ヨウヘイは息を吐き、戦況を確認する。




だが──目を見開いた。


雷の中心には、シュナーンが盾を掲げて立っていた。




「……言っただろ……落ち着けって」


体を震わせながら、彼は叫んだ。




「シュナーン……」


テプツトリの声が震える。




ヨウヘイの頬にかすり傷が走る。


それは盾で逸れた雷の余波だった。




背後の森が爆ぜ、炎と煙が舞い上がる。




ヨウヘイは頬を押さえ、そして──笑った。




「すげぇ……すげぇ……すげぇぞ……!」




彼の身体を包む稲妻が激しくなり、地面にも青白い雷が走る。




テプツトリが一歩引いた。




「な、なんなんだこいつ……?」




シュナーンも、つばを飲む。




「おい……ふざけんなよ……」




──遠くの丘。ジパクナとタカハシがその光景を見下ろしていた。




「なあ……あれ、本当に人間か?」


ジパクナが口元を歪めて笑う。




だがタカハシは、目を閉じたまま動かない。




「……黙ってていいのかよ?お前が見下してた奴、化け物じゃねえか」




「……お前の方が強い」


タカハシがぽつりと呟く。




「そう思うのか?」




「関係ない。もう、運命が決めたんだ。


 俺の相手は……あいつだってな」




ジパクナは彼を横目で見た。




──へえ、あいつが……お前の“本気”を引き出す相手かよ。




空気がピリピリと軋む。


森の丘から、ジパクナはタカハシの隣に腰を下ろし、まるで嵐が一人の男を中心に渦巻いているかのような光景を見つめていた。




「勝つさ」


ジパクナは口元に薄く笑みを浮かべながら呟いた。


「俺たちなら、きっとな」




その視線の先では、ヨウヘイがシュナーンの盾を何度も何度も叩きつけていた。


その度に地面が震え、盾にひびが入り始めていた。




その後ろ、テプツトリは必死に立っていた。




──どうしてだ……


──あんなに打ち込んで、全然疲れてないのか?


──反撃の隙がまったく見えない……


──足が……震える……


──……死にたくない……


──もし一撃でもくらったら……俺は……




「テプツトリ!!」




その叫びは、雷鳴のように彼の意識を呼び戻した。




「……えっ?」




「今だ、動かないと……このままじゃ、負けるぞ!」




「でも……!」




「俺が攻撃を受ける」


シュナーンは汗に濡れた顔で、かすれた声を振り絞った。




「はっ!?死ぬぞ、お前……!」




「これしかねぇ!」


シュナーンの声が鋭く響いた。


「その一瞬で、お前がアイツに一撃食らわせれば──」




「無理だ、俺には……」




「できる!自分を信じろ!」




テプツトリは歯を食いしばり、剣の柄を強く握った。


その目が、戦士のものに変わった。




「……分かった!」




次の瞬間、シュナーンの盾がすっと消えた。




「なっ──」




ヨウヘイの拳が、シュナーンの腹にめり込んだ。




凄まじい衝撃音と共に、彼の身体は木々の間を跳ね飛び、地面に激突した。




だが、そこへ──テプツトリが背後から現れ、剣を高く掲げ、叫んだ。




「──もらったァ!!」




──だが。




空から、雷が神の鞭のように彼を包み込んだ。




「……え?」




まるで世界が光に呑まれる。




──無理だ……なんで……こんなの……




次の瞬間、煙と稲妻に包まれた彼の身体は空中に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。




ヨウヘイはゆっくりと腕を下ろし、足元に残る火花を見下ろす。




「危なかった……一つでも穴があったら、終わってたな」




首筋のかすかな傷跡に指をやる。




──もし、もっと強い相手だったら……


──俺は……死んでたかもしれない……




地に伏すシュナーンとテプツトリの姿。




《参加者4番、ズターツチーム・テプツトリ、戦闘不能》


《参加者1番、ズターツチーム・シュナーン、戦闘不能》




「よっしゃああああ!!」




アフロディータの叫びが、管制室に響いた。




その頃、対面のクエツァルコアトルの表情が険しくなる。




──なんだこのバカ共は……なぜ動かない?




何かがおかしい。




「何言ってるのよ」


アフロディータが皮肉交じりに返す。


「負け惜しみ?」




「いや……なんで……この映像、同じ場面が二十回は流れてるぞ?」




アフロディータが目を細めた。




画面には、ローアとシュウがジャングルを走る姿が映っていたが──


──枝の配置、足音のリズム……全く同じだった。




「まさか……!」




「おい!!」


クエツァルコアトルが叫ぶ。


「映像班と連絡を取れ!!一体どうなってる!?」




「無理です!応答がありません!」




「クソッ……配信を全部切れ!!」




「はあ!?配信は全世界に流れてるんだぞ!?今さら──」




「やれって言ってんのよ!!」




一瞬の沈黙の後、クエツァルコアトルは頷いた。




全モニターがブラックアウトする。




会議場に静寂が落ちた。




「──何が起きているのだ?」


ゼウスの怒声が響く。




「おいおい……マジかよ」


シュンが目を細めた。




「隊長、どういうことですか?」


フアナが戸惑いながら問いかける。




シュンは耳に手を当てた。


通信機が作動したばかりだった。




「──今、出動許可が下りた」




「え?今?」




──最初から、待っていたのか?


──まさか……知っていた……?




「どこへ向かうべきですか、隊長?」


ティレシアスが問いかける。




「ズターツだ。今すぐ向かうぞ」




「えっ!?なぜそこに!?」


アレクスボルトが青ざめる。




「説明は後だ!遅れれば全てが終わる!」




「──了解!!」




全員が動き出す。




クエツァルコアトルが横目でアフロディータを見る。




「……何か知ってるのか?」




「いいえ。でも──すぐに介入しなきゃ、間に合わない気がする」




その時、二人は同時にそれを感じた。




──重く、圧倒的な気配。空間そのものが裂けていくような異様なエネルギーが……迫ってきた。




アフロディータの背中が凍りつく。




──これは……あの時と同じ……




グレック襲撃の記憶が蘇る。


引き裂かれた空。神々を閉じ込めたドーム。死と混沌の匂い。




──ブラック・ライツ。




「……奴らが、戻ってきた」




地面は血に濡れていた。


ローアは泥の上に倒れたまま動かない。手足は無防備に広がり、顔は汗と土、そして乾いた血で覆われていた。


その傍らで、シュウが辛うじて立っていた。


胸には深い切り傷、片腕はぶら下がり、息も絶え絶え。体が震えている。




「まさか……こんな奴に出会うとはな……」


そう呟くと、血を吐きながら前を見据える。




その前には、筋骨隆々の男が一冊の本をゆっくりと閉じる姿。


破壊された戦場には不釣り合いなほど整った姿。


血もなく、傷一つもない。


しかしその表情には、苛立ちしかなかった。




「さっさと終わらせよう」


男は本の表紙を払いながら、無感情に言い放つ。


「子供の遊びに付き合うのは、時間の無駄だ」




シュウはわずかに笑った。


もはや傲慢さの欠片もない、砕けた笑みだった。




「なぁ……遊びはやめねぇか?」




男は無関心な目を向ける。




「何の話だ?」




「どうせここで死ぬんだ。せめて全力で来いよ、クソ野郎」




その言葉に、男の瞳がわずかに変化した。


本をパチンと音を立てて閉じ、背中に収める。


一つ、静かな吐息。




「……後悔しても知らないぞ」







数十メートル離れた森の奥。


そこは、さらに悪夢じみた光景が広がっていた。




逆十字が刻まれた黒い法衣を纏う少年。


彼は、ズターツの学生の切り裂かれた死体を前に、恍惚とした表情でそれを見つめていた。


その瞳は狂気に染まり、信仰と快楽が混ざり合った光を放っていた。




「これは……素晴らしい」


その声は甘く、幼い。


「本当に素晴らしい……人間って、本当にすごいね……」




死者の虚ろな瞳は、彼に何の反応も返さない。


だが、そんなことは彼には関係ない。


血で濡れた指を舐め取りながら、病的な微笑を浮かべた。




「人間って……美味しいね……」




遠くの木の陰で、エリスは震えながら口元を押さえていた。


叫びを必死に堪え、涙が止まらない。




──これが現実……?


──こんなの、人間じゃない……


──こんなの……地獄だ……




だが、一歩も動けなかった。







ズターツの森の高台。


そこに立つゼフは、黙って前方を見据えていた。




彼の目の前には、脈動するエネルギーのドーム。


中には、かすかに四つの影が閉じ込められていた。




「……こりゃ厄介なことになったな」


独り言のように呟く。




目を細め、ドームの表面を観察する。




──普通の結界じゃない……


──まるで気づかれないまま、あいつらを閉じ込めた。


──空間の制御……高度すぎる。




その時、背後で枝の音がした。




木々の間から、ゆっくりと一人の老人が現れる。


その歩みはゆったりしていたが、時間そのものを従えるような風格があった。


氷のように澄んだ青い瞳。その片目には縦に走る傷跡。


質素な服装にも関わらず、その所作にはかつて王の間を歩いた者の品があった。




ゼフはすぐに悟った。




「……お前か。この結界を張ったのは」




老人は穏やかに笑う。




「どうしてそう思うのかね?」




「どこにいても……アトランティスの者は見分けがつく」




「陛下」


その声には、皮肉と敬意がないまぜになっていた。


「さすがだ。まだその勘は衰えていないようだ」




ゼフは顔をしかめる。




「なぜアトランティスの者がここに?」




「今日は特別な日だ」


老人は両手を背中に回しながら、静かに言った。


「我らが神が力を得る日。十二家の不浄なる者ども、そして偽りの王を滅ぼす日。今日からその終わりが始まるのだ」




ゼフの眉が跳ね上がる。




「神? 不浄? 偽りの王だと? 一体何を言っている?」




「いずれ分かります、陛下。ですが今は──」




鋭い一撃が胸に突き刺さった。


避ける暇もなかった。




ゼフの視界が、闇に包まれる。




「少し、眠っていてください」







ズターツの首都の上空。




黒く染まった空。


血に染まった通り。


響かないはずの悲鳴、崩壊した建物。




──新たな地獄が、生まれようとしていた。




その混沌の中心で、一人の男が死体の間を優雅に舞っていた。


まるでそれが、美しく構築された舞台であるかのように。




パペット。




微笑み。静けさ。


そして、狂気の優雅さ。




「──さあ、遊びの時間だ」



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