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第80章:優れた者たち

強さが全てであるこの世界では、「最強」という称号は風に漂う幻影に過ぎない。征服した山頂ごとにさらに高い山が現れ、かつて怪物として恐れられていた者たちも、やがて他人の梯子の上の段に成り下がることになる。


生まれながらに力を持つ者もいれば、力が尽きるまでそれを追い求める者もいる。苦痛によって形作られる人もいれば、野心によって形作られる人もいます...しかし、それ以上のことを成し遂げられるのはほんの一握りの人だけです。優れていることは力の問題ではなく、不屈の意志の問題であることを理解している人はわずかです。


伝説は伝説の形で生まれるのではない。まず彼らは敗北する。屈辱を受けた。 2位、3位、あるいは単に目立たないことにうんざりしています。そして、敗北の中にこそ、人間の精神の最も純粋な部分、つまり、二度と倒れないという静かな約束が芽生えるのです。立ち上がる決心。立ち上がるものが何も残っていなくても。


この章は最初から誰が選ばれたかについては述べていません。それは神々や血統に関するものではありません。勝てないとわかっていても、全力を尽くす人たちの話です。それは本当の怪物を見た人たちについてです...彼らは逃げるのではなく、前に進み出ます。


なぜなら、最も暗い瞬間には、運命のない男でさえ星のように輝くことができるからです。


そして巨人の世界では、諦めることを拒む者だけが…伝説となるのです。


————————————————————————————————————————————————————————————————


太陽の轟音が、燃える裂け目のように空を引き裂いた。


太陽の核にも等しいほどの熱線が、ジパクナの上に容赦なく降り注ぎ、彼の体を浄化の炎の柱に閉じ込めた。




タカハシは目を細め、その光景に思わず息をのんだ。




「……ジパクナ」




炎は彼を焼き尽くすことはなかった。


彼を──変えたのだ。




額からは神聖な炎の冠が浮かび上がり、背後には魂が燃え上がるような巨大な太陽が描かれた。


そこから生まれたのは、炎の翼。荘厳で、巨大で、生きているかのように脈動していた。




大地が震え、空気が歪む。


ジパクナから放たれるエネルギーは、ただ照らすだけでなく──焼き尽くす。




「ラック・ヘリオス」


その声は揺るぎなく、まばゆい光に包まれていた。




彼を取り巻くオーラは、風景を変容させていく。岩は溶け、朝露は蒸発した。




タカハシは微笑んだ。


嘲笑ではない。誇りに満ちた笑みだった。




「……これが五年間の訓練の成果か、タカハシ。見ているか?」


言葉にしなくとも、ジパクナの心は叫んでいた。




「もう遠慮はいらなさそうだな?」


ヨウヘイが歩み寄る。




「ああ」


ジパクナが応える。


「ここにすべてを置いていこう、ヨウヘイ」




「……いい提案だ」


ヨウヘイも笑みを返す。




次の瞬間、両者は迷いなくぶつかり合った。




炎と電撃を纏った拳が激突する。足元の大地が砕け、宙に裂け目が走る。




一撃ごとに雷鳴が轟き、防御の度に爆音が響いた。




まるで、爆発寸前の恒星の上で踊っているかのような光景だった。




ジパクナは一歩後退し、背中の太陽に腕を伸ばして叫ぶ。




「──太陽の審判」




その背後に、燃え盛る円が形成される。


穴の空いたその輪からは、純粋なエネルギーが凝縮されていった。




そして次の瞬間──


太陽の雨が、猛烈な勢いでヨウヘイへと降り注ぐ。




「プラズマの壁!」


ヨウヘイが両手を掲げ、電気のドームを展開。


その身を守りながら、攻撃の一部を吸収するが──




「……長くは保たない。使うしかないか……!」




「スパーク・プリズム」




地面と空から、電気の破片が無数に現れ、ダイヤモンドのように輝き始めた。




ドームが崩壊した瞬間、ジパクナの攻撃はそのプリズムに反射し、拡散。


爆発は戦場全体に広がり、無数のクレーターが生まれる。




「なに……?」


ジパクナが言葉を失う。




「クソ……これでしばらくはお互い技が使えねえな」


「──よし、俺の土俵に引きずり込んでやる」




ヨウヘイが雷光のように目の前に現れる。




──ガキィッ!




拳が激突するが、ジパクナはそれを受け止めた。


ヨウヘイの拳を強く握り込み、自らの元へ引き寄せ、膝を腹に叩き込む。




さらに胸への蹴りで、ヨウヘイの体を空高く弾き飛ばし、地面に激突させた。




「……お前には負けない。絶対に」




ヨウヘイは血を吐き、咳き込みながらも立ち上がる。




「まだ……やるしかない」




ジパクナが拳を振り、連打が飛ぶ。




その一撃一撃は凄まじく、空気が焦げる音が響く。




そのうちの一撃が、ヨウヘイの体を再び宙へ吹き飛ばす。


その衝突先には、別の人物が倒れていた。




崩れた瓦礫の中で、ヨウヘイが目を開ける。




「……まだ動かねぇのかよ、腰抜け」




視線の先には、膝をついたまま、濁った瞳のまま動かないエデンがいた。




「……何を怖がってるのか知らねぇけど、そのままじゃ何もできねぇぞ」




エデンは微動だにしない。


脳裏には、過去の声が囁き続ける。




「……あいつらはお前を信じてた」


ヨウヘイの声が届く。痛みと真実に満ちていた。




「お前に賭けてた。命を懸けるほどにな」




エデンが震えた。


記憶が、あの夜へと彼を引き戻す。




──カイ。リュウ。祖父の顔。すべてが──終焉の前にあった。




「……何があったかは知らねぇ。だけど、お前はきっと、大事なものを失った」




「だからこそ、お前にしかできねぇんだよ」




「そこに座ったまま負けを受け入れるのか……それとも、全てを賭けて戦うのか」




ヨウヘイの体から、最後のエネルギーが放出される。




瞳に宿るのは、決意と覚悟。




「俺はもう決めてる。──命が尽きるその瞬間まで、戦い抜くってな」




「ジパクナァァァ!!」




その叫びは、戦場を揺らす戦鼓のように響いた。




ジパクナもまた、応える。




「ヨウヘイィィ!!」




二人は、残されたすべての力を高め合う。


天が燃え、大地が新たな破滅に備える。




空が──裂けた。


天から降り注ぐように、燃え盛る球体が膨れ上がる。まるで二つ目の太陽。


その中心に立つのは、灼熱のオーラを纏ったジパクナ。


両腕を広げ、その太陽を支えながら、静かに宣言した。




「──スーパーノヴァ」




その声は揺るぎなく、神々しさすら宿していた。


圧倒的な熱と光が、一点に凝縮されていく。




その瞬間。


ヨウヘイの心臓が──止まった。




音が消えた。


世界が静止した。


まるで、時さえも彼の決断を待っているかのように。




震える手を胸の前に掲げ、指を円の形に結ぶ。




そして──




鼓動が、ひとつ。


もうひとつ。


さらに、ひとつ。




体が光を放ち始める。


静寂の中で、雷のようなエネルギーが目覚めていく。




「……雷鳴の共鳴」




その囁きとともに、天が鳴いた。




魂の全てを込めた二つの技が、互いに向かって放たれる。




炎と電撃。


太陽と嵐。


過去と現在。




その衝突は、世界を揺るがすほどの衝撃だった。




山々が軋み、木々が倒れ、空気が刃のように裂かれた。


破壊の輪のような衝撃波が広がり、全てを薙ぎ払っていく。




タカハシはその場から黙って見つめていた。


無表情のまま──だが、その目は熱く燃えていた。




煙と粉塵が視界を覆い、光はその灰色の雲にかき消される。


沈黙が辺りを包む。




──誰が、勝ったのか。




それは、煙が晴れていくまで分からなかった。




そこにいたのは、


地に伏したヨウヘイとジパクナ。




血と土にまみれ、エネルギーの残滓すらない。


動くことすらできず、戦いの代償が全身を蝕んでいた。




「……クソ……勝てなかった……」


ヨウヘイのかすれた声が風に溶ける。




そして、意識を失った。




ジパクナもまた、歯を食いしばりながら呻く。




「……動けねぇ……チクショウ……」




その隣に、足音が響く。


タカハシが静かに歩み寄る。




見下ろす彼の視線に、ジパクナは目を逸らした。




「……情けねぇな、俺」




だが──差し出されたのは、優しい手だった。




「……え?」




「本当に、強くなったな。ジパクナ」




タカハシの表情は、穏やかで誇らしげだった。




驚きに目を見開くジパクナ。




「……二人とも、驚かされたよ。あんな戦い、誰が想像した?」




「……ありがとう」




ジパクナは、静かに微笑んだ。




「……戦えなかったこと、すまん」




「構わないさ」


タカハシが返す。


「……さあ、戻ろう。他のみんなの様子も気になる」




「……ああ」




ジパクナは彼の肩に寄りかかりながら、ゆっくりと歩き始める。




その時──




地面が震えた。




背筋に走る戦慄。


それは、ただの揺れではなかった。




「な……なんだ……?」




ジパクナが呟く。


タカハシの顔も険しくなる。




「……冗談、だろ……?」




彼らの前に──




地平線から、影が立ち上がる。


巨大な、暗黒の──影。




溢れ出るエネルギーは、圧倒的。


その全てが、憎悪そのもののようだった。




別の戦場では、シュンとパペットがその姿を見つめていた。




「……バカ野郎……今は遊んでる場合か……!」


歯を噛み締めるシュン。




その隣で、ヨゲンが微笑む。




「……美しいな」




全ての戦いが止まった。


叫び声も、衝突も──世界が息を止めたかのように。




そして──


静かな丘の頂にて。




ゆっくりと、誰かが目を開ける。




エデン。




その瞳は、もう揺れていない。


もう、迷っていない。




しっかりと前を見据えていた。




「……次は、俺の番だ」




そう呟いた瞬間──




運命の歯車が、動き出した。

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