強さが全てであるこの世界では、「最強」という称号は風に漂う幻影に過ぎない。征服した山頂ごとにさらに高い山が現れ、かつて怪物として恐れられていた者たちも、やがて他人の梯子の上の段に成り下がることになる。
生まれながらに力を持つ者もいれば、力が尽きるまでそれを追い求める者もいる。苦痛によって形作られる人もいれば、野心によって形作られる人もいます...しかし、それ以上のことを成し遂げられるのはほんの一握りの人だけです。優れていることは力の問題ではなく、不屈の意志の問題であることを理解している人はわずかです。
伝説は伝説の形で生まれるのではない。まず彼らは敗北する。屈辱を受けた。 2位、3位、あるいは単に目立たないことにうんざりしています。そして、敗北の中にこそ、人間の精神の最も純粋な部分、つまり、二度と倒れないという静かな約束が芽生えるのです。立ち上がる決心。立ち上がるものが何も残っていなくても。
この章は最初から誰が選ばれたかについては述べていません。それは神々や血統に関するものではありません。勝てないとわかっていても、全力を尽くす人たちの話です。それは本当の怪物を見た人たちについてです...彼らは逃げるのではなく、前に進み出ます。
なぜなら、最も暗い瞬間には、運命のない男でさえ星のように輝くことができるからです。
そして巨人の世界では、諦めることを拒む者だけが…伝説となるのです。
————————————————————————————————————————————————————————————————
太陽の轟音が、燃える裂け目のように空を引き裂いた。
太陽の核にも等しいほどの熱線が、ジパクナの上に容赦なく降り注ぎ、彼の体を浄化の炎の柱に閉じ込めた。
タカハシは目を細め、その光景に思わず息をのんだ。
「……ジパクナ」
炎は彼を焼き尽くすことはなかった。
彼を──変えたのだ。
額からは神聖な炎の冠が浮かび上がり、背後には魂が燃え上がるような巨大な太陽が描かれた。
そこから生まれたのは、炎の翼。荘厳で、巨大で、生きているかのように脈動していた。
大地が震え、空気が歪む。
ジパクナから放たれるエネルギーは、ただ照らすだけでなく──焼き尽くす。
「ラック・ヘリオス」
その声は揺るぎなく、まばゆい光に包まれていた。
彼を取り巻くオーラは、風景を変容させていく。岩は溶け、朝露は蒸発した。
タカハシは微笑んだ。
嘲笑ではない。誇りに満ちた笑みだった。
「……これが五年間の訓練の成果か、タカハシ。見ているか?」
言葉にしなくとも、ジパクナの心は叫んでいた。
「もう遠慮はいらなさそうだな?」
ヨウヘイが歩み寄る。
「ああ」
ジパクナが応える。
「ここにすべてを置いていこう、ヨウヘイ」
「……いい提案だ」
ヨウヘイも笑みを返す。
次の瞬間、両者は迷いなくぶつかり合った。
炎と電撃を纏った拳が激突する。足元の大地が砕け、宙に裂け目が走る。
一撃ごとに雷鳴が轟き、防御の度に爆音が響いた。
まるで、爆発寸前の恒星の上で踊っているかのような光景だった。
ジパクナは一歩後退し、背中の太陽に腕を伸ばして叫ぶ。
「──太陽の審判」
その背後に、燃え盛る円が形成される。
穴の空いたその輪からは、純粋なエネルギーが凝縮されていった。
そして次の瞬間──
太陽の雨が、猛烈な勢いでヨウヘイへと降り注ぐ。
「プラズマの壁!」
ヨウヘイが両手を掲げ、電気のドームを展開。
その身を守りながら、攻撃の一部を吸収するが──
「……長くは保たない。使うしかないか……!」
「スパーク・プリズム」
地面と空から、電気の破片が無数に現れ、ダイヤモンドのように輝き始めた。
ドームが崩壊した瞬間、ジパクナの攻撃はそのプリズムに反射し、拡散。
爆発は戦場全体に広がり、無数のクレーターが生まれる。
「なに……?」
ジパクナが言葉を失う。
「クソ……これでしばらくはお互い技が使えねえな」
「──よし、俺の土俵に引きずり込んでやる」
ヨウヘイが雷光のように目の前に現れる。
──ガキィッ!
拳が激突するが、ジパクナはそれを受け止めた。
ヨウヘイの拳を強く握り込み、自らの元へ引き寄せ、膝を腹に叩き込む。
さらに胸への蹴りで、ヨウヘイの体を空高く弾き飛ばし、地面に激突させた。
「……お前には負けない。絶対に」
ヨウヘイは血を吐き、咳き込みながらも立ち上がる。
「まだ……やるしかない」
ジパクナが拳を振り、連打が飛ぶ。
その一撃一撃は凄まじく、空気が焦げる音が響く。
そのうちの一撃が、ヨウヘイの体を再び宙へ吹き飛ばす。
その衝突先には、別の人物が倒れていた。
崩れた瓦礫の中で、ヨウヘイが目を開ける。
「……まだ動かねぇのかよ、腰抜け」
視線の先には、膝をついたまま、濁った瞳のまま動かないエデンがいた。
「……何を怖がってるのか知らねぇけど、そのままじゃ何もできねぇぞ」
エデンは微動だにしない。
脳裏には、過去の声が囁き続ける。
「……あいつらはお前を信じてた」
ヨウヘイの声が届く。痛みと真実に満ちていた。
「お前に賭けてた。命を懸けるほどにな」
エデンが震えた。
記憶が、あの夜へと彼を引き戻す。
──カイ。リュウ。祖父の顔。すべてが──終焉の前にあった。
「……何があったかは知らねぇ。だけど、お前はきっと、大事なものを失った」
「だからこそ、お前にしかできねぇんだよ」
「そこに座ったまま負けを受け入れるのか……それとも、全てを賭けて戦うのか」
ヨウヘイの体から、最後のエネルギーが放出される。
瞳に宿るのは、決意と覚悟。
「俺はもう決めてる。──命が尽きるその瞬間まで、戦い抜くってな」
「ジパクナァァァ!!」
その叫びは、戦場を揺らす戦鼓のように響いた。
ジパクナもまた、応える。
「ヨウヘイィィ!!」
二人は、残されたすべての力を高め合う。
天が燃え、大地が新たな破滅に備える。
空が──裂けた。
天から降り注ぐように、燃え盛る球体が膨れ上がる。まるで二つ目の太陽。
その中心に立つのは、灼熱のオーラを纏ったジパクナ。
両腕を広げ、その太陽を支えながら、静かに宣言した。
「──スーパーノヴァ」
その声は揺るぎなく、神々しさすら宿していた。
圧倒的な熱と光が、一点に凝縮されていく。
その瞬間。
ヨウヘイの心臓が──止まった。
音が消えた。
世界が静止した。
まるで、時さえも彼の決断を待っているかのように。
震える手を胸の前に掲げ、指を円の形に結ぶ。
そして──
鼓動が、ひとつ。
もうひとつ。
さらに、ひとつ。
体が光を放ち始める。
静寂の中で、雷のようなエネルギーが目覚めていく。
「……雷鳴の共鳴」
その囁きとともに、天が鳴いた。
魂の全てを込めた二つの技が、互いに向かって放たれる。
炎と電撃。
太陽と嵐。
過去と現在。
その衝突は、世界を揺るがすほどの衝撃だった。
山々が軋み、木々が倒れ、空気が刃のように裂かれた。
破壊の輪のような衝撃波が広がり、全てを薙ぎ払っていく。
タカハシはその場から黙って見つめていた。
無表情のまま──だが、その目は熱く燃えていた。
煙と粉塵が視界を覆い、光はその灰色の雲にかき消される。
沈黙が辺りを包む。
──誰が、勝ったのか。
それは、煙が晴れていくまで分からなかった。
そこにいたのは、
地に伏したヨウヘイとジパクナ。
血と土にまみれ、エネルギーの残滓すらない。
動くことすらできず、戦いの代償が全身を蝕んでいた。
「……クソ……勝てなかった……」
ヨウヘイのかすれた声が風に溶ける。
そして、意識を失った。
ジパクナもまた、歯を食いしばりながら呻く。
「……動けねぇ……チクショウ……」
その隣に、足音が響く。
タカハシが静かに歩み寄る。
見下ろす彼の視線に、ジパクナは目を逸らした。
「……情けねぇな、俺」
だが──差し出されたのは、優しい手だった。
「……え?」
「本当に、強くなったな。ジパクナ」
タカハシの表情は、穏やかで誇らしげだった。
驚きに目を見開くジパクナ。
「……二人とも、驚かされたよ。あんな戦い、誰が想像した?」
「……ありがとう」
ジパクナは、静かに微笑んだ。
「……戦えなかったこと、すまん」
「構わないさ」
タカハシが返す。
「……さあ、戻ろう。他のみんなの様子も気になる」
「……ああ」
ジパクナは彼の肩に寄りかかりながら、ゆっくりと歩き始める。
その時──
地面が震えた。
背筋に走る戦慄。
それは、ただの揺れではなかった。
「な……なんだ……?」
ジパクナが呟く。
タカハシの顔も険しくなる。
「……冗談、だろ……?」
彼らの前に──
地平線から、影が立ち上がる。
巨大な、暗黒の──影。
溢れ出るエネルギーは、圧倒的。
その全てが、憎悪そのもののようだった。
別の戦場では、シュンとパペットがその姿を見つめていた。
「……バカ野郎……今は遊んでる場合か……!」
歯を噛み締めるシュン。
その隣で、ヨゲンが微笑む。
「……美しいな」
全ての戦いが止まった。
叫び声も、衝突も──世界が息を止めたかのように。
そして──
静かな丘の頂にて。
ゆっくりと、誰かが目を開ける。
エデン。
その瞳は、もう揺れていない。
もう、迷っていない。
しっかりと前を見据えていた。
「……次は、俺の番だ」
そう呟いた瞬間──
運命の歯車が、動き出した。