時々、本当の深淵は私たちが直面している敵の中にあるのではなく、その反射が私たちに返す壊れた視線の中にあるのです。
力…その魅惑的な言葉は、恐れられると同時に望まれるものであり、さまざまな形で現れます。それは時には贈り物として、また時には呪いとしてやって来ます。そして、許可を求めることもなく、ただ押し付けられ、まだ支払う準備ができていない代償を要求することもあります。
本当に強力な存在を定義するものは何でしょうか?
彼の強さは?その由来は?目覚める恐怖?
それとも…彼が守ろうと選んだものの重さでしょうか?
多くの人は権力は腐敗をもたらすと信じているが、本当の毒は権力を持つことではなく、権力を使うことを恐れることにあると気づく人もいる。
なぜなら、身体からではなく、私たちが叫ばない沈黙から来る傷があるからです。救えなかった手から。
しかし、最も暗い痛みの真っ只中にも、火花が散ることがあります。
断片。
決断です。
力は私たちを英雄や怪物にするわけではありません。
それがどうなるかを決めるのは私たちです。
そしてすべてが崩壊するとき…
瓦礫と傷跡だけが残ったとき…
時には、恐怖を情熱に、罪悪感を目的に変えるには、たった一歩前進するだけで十分です。
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──ヒュウゥ──…
鋭い風切り音が空を裂いた。
その刹那、世界は静止する──
そして、岩の破片がエデンの胸を貫いた。
叫びはなかった。
ただ、濃密な沈黙だけが残る。
まるで、痛みさえも声を失ったかのように。
遠くを見つめるエデンの瞳。
その視線は傷を捉えることなく、過去へと彷徨っていた。
守れなかったもの。
失ったもの。
そして、まだ守ることすらできていないもの。
「……クソッ……」
血が大地を染めるのを感じながら、彼は呟いた。
「……やっぱり、俺は弱いのか……?
このままじゃ……誰も守れない」
脳裏に蘇る、数々の失敗。
──ゲン、シュウ、ユキ、アイザック、イース……
彼らは皆、己の力のせいで苦しんだ。
「……また……俺は、また……失敗した」
だが──
闇に飲まれかけたその時、
脳裏に浮かんだのは──
あの日々。彼らの笑顔。
被害者としてではなく、仲間として──
自分を信じてくれた者たちの姿。
「……そうだ……」
エデンは、かすかに微笑む。
「……彼らは、まだここにいる。
俺の……そばにいるんだ」
大地が震える。
彼の決意に呼応するように。
「……タカハシ……お前の言葉の意味、今ならわかる」
目を閉じ、心を澄ます。
「……俺は、ずっと間違っていた。
力を抑えることが、守ることだと……そう信じていた」
「でも違った。
守るためには……この力を、“制する”必要がある」
その時──
影の中から、巨大な存在が姿を現す。
「……久しぶりだな、ヴォラトラックス」
古の獣──漆黒の霧をまとい、鋭い眼光でエデンを見下ろす。
「……人間よ……
また力を乞いに来たか? 代償は、知っているだろう」
エデンは首を振る。
その顔には、静かな微笑み。
「いや……今回は、俺が“奪いに来た”」
ゴォォン……!
宇宙の中心から鎖が断ち切られるような音。
どこか遠く──戦場の片隅で、光が震えた。
「……いまのは……何だ?」
エデンの身体から、紫のオーラが滲み出す。
熱波のように周囲を揺らし、世界を染める。
「……ありがとう……二人とも……」
囁くように言い、空を見上げる。
その瞬間──
地面が崩れ、
そして──空が、咆哮した。
ズドォォォン!!
雷が天より落ち、エデンの体に直撃。
衝撃波は戦場全体を包み、全ての戦士たちの動きを止める。
誰もが、息を呑んだ。
──タカハシの目が見開かれる。
「……これは……何の力だ……?
こんな気配……感じたことがない……
一体、何が起きてる……?」
光の中──現れる影。
エデンの筋肉は極限まで鍛え上げられ、
右目は紅蓮のように輝き、
その髪の先には、燃えるような紫が宿る。
ジパクナが戦慄した。
「……冗談だろ……
あんなもの……どうやって封じ込めてたんだよ……?」
ヨウヘイが静かに目を細める。
「……やっと目を覚ましたか……“悪魔”」
エデンが森を抜けて現れる。
その歩みは、まるで炎のように揺れ、支配的で、神秘的。
タカハシが微笑む。
「……そうだよ……これを、待ってたんだ、エデン!」
言葉はいらなかった。
瞬間、両者の剣が交差。
轟音。
木々は蒸発し、大地が砕け飛ぶ。
タカハシは必死に踏ん張るが──押される。
「来いよ、エデン!!」
叫びながら笑う。
だが──間に合わない。
エデンが一瞬で懐に入り、
鋭い突きでタカハシを吹き飛ばす。
ズシャァアッ!!
地面に叩きつけられ、血を吐く。
「……失望したか?」
タカハシが笑いながら問う。
エデンは静かに歩み寄り、手を差し出す。
「……遅れてごめん。
──始めようか?」
その手を、タカハシは強く握り返す。
「……喜んで」
二人は立ち上がる。
風が吹いた。
髪を撫でるその風は、まるで祝福のようだった。
視線が交わる。
──もう、敵ではない。
──同じ道を歩む者として。
「ありがとう、エデン」
タカハシが真っ直ぐに言う。
「お前を縛っていたものが何だったか知らないが……
それを断ち切ってくれて、ありがとう」
「そして──
俺も、すべてを見せてやるよ」
大地が震える。
タカハシの身体が、赤く妖しく輝き始めた。
血管が浮かび上がり、
瞳は深紅に染まり、牙が鋭く伸びる。
エデンは目を丸くした。
「……おいおい……マジかよ」
「──さあ、始めようか?」
「……ああ」
そして──
二人は走り出した。
まるで、激突する流星のように。
雷鳴のような一撃。
死を踊るような動き。
世界が、彼らの戦いに震えていた。
世界は、もはや彼らに追いつけなかった。
エデンとタカハシ──
その動きは雷光のように速く、残像すら残さない。
だが、剣が交差するたびに、
大地には刻まれる。
傷跡。裂け目。轟き。
空すらも震える。
「──ダーク・フレア!!」
エデンが叫び、漆黒の炎を剣から放つ。
刃の軌跡は、まるで死神の鎌。
灼熱の闇がタカハシを飲み込もうと迫る。
しかし──
タカハシは瞬きすらせず、
静かに腕を振る。
完璧な軌道を描くその剣筋が、炎を霧散させた。
──シュウゥ……
無数の火花が闇に消える。
エデンは素直に笑った。
「……さすがだな」
言葉の返しはなかった。
代わりに、炎が応えた。
「──獄炎斬ごくえんざん」
紅蓮に染まる刃が、地獄の裁きを下すかのように振り下ろされる。
エデンは咄嗟に剣を構え、防御に成功するが──
ドォォォン!!!
爆ぜる熱波。
激しい炎が身体を包み、苦痛が肌を焼く。
「……クソッ……」
エデンが呻く。
皮膚は赤く爛れ、脇腹には火傷の痕。
「驚いたか?」
タカハシが挑発的に笑う。
「……範囲攻撃とはな……剣士には珍しい選択だ。見事だった」
だが──
エデンの目に、黒い閃光が灯る。
「……だが、驚きの種は、俺にもある」
言葉と共に──
ズシャッ!!
まったく同じ黒炎の斬撃が、タカハシの眼前に再び現れた。
回避する暇もなく、直撃。
バゴォォン!!
身体が吹き飛ばされ、地に叩きつけられる。
「……っ!」
タカハシが血を吐きながらも笑う。
「遅延攻撃……?いや、時差のある技……?
そんなの……バカな……」
地面に立つエデン。
静かに自問する。
「成功率は低かった。
威力も落ちたが──
迷わせるには、十分だった」
タカハシはゆっくりと立ち上がる。
苦しみの中に、喜びを宿した笑みを浮かべて。
「……やっぱり、お前って……面白いな」
「そっちこそな、タカハシ」
空気が変わる。
タカハシが剣を地に突き立てた。
「……降参か?」
「いや……準備中だ」
「……紅蓮獄ぐれんごく」
赤き魔法陣が地を包む。
五芒星の中心に、激炎の柵が立ち昇る。
「戦いの最中に剣を捨てるとは……意外だな」
エデンが言う。
タカハシが拳を構える。
「残念だが──俺は格闘戦も得意なんだ」
「……なるほど」
エデンは剣を落とす。
鎧を脱ぎ捨て、裸の上半身に刻まれた無数の傷をさらす。
──そして、駆け出す。
拳と拳。
骨と骨。
見えない衝撃波が空間を裂く。
音ではない何かが、彼らのぶつかり合いを叫ぶ。
──語るのは拳のみ。
どちらも恐れない。
自らが壊れることすら。
ズガン!!
タカハシの拳が腹に突き刺さる。
エデンが身を屈める。
──だが、すかさず──
ガッ!!
渾身の拳がタカハシの顔面をとらえる。
──憎しみなどない。
ただ、測り合いたい──それだけ。
タカハシが吠えるように拳を振り上げる。
防いだエデンの腕から、嫌な音が響く。
──バキィィン!!
骨が砕ける音。
吹き飛ばされるエデン。
炎の柵に叩きつけられ、悲鳴を上げる。
血を吐き、よろけながら立つ。
だが──笑う。
タカハシも笑う。
そして──無言で剣を拾う。
炎の牢獄は消えた。
もはや、閉じ込める意味などなかった。
「……いよいよ、だな」
(エデンの心)
「……ついに来たな」
(タカハシの心)
──二人、同時に。
「終幕の舞を──!!」
____________________
遠くから、それを見つめるジパクナ。
「……悔しいだろう?」
ヨウヘイが彼を横目で見る。
「……何がだ?」
「自分より強い相手に、出会うことさ」
風が吹き、ヨウヘイの髪を揺らす。
「……かもしれないな」
____________________
エデンとタカハシのオーラが爆発的に高まる。
戦場が震える。
エデンが目を閉じる。
「全てを懸ける。今しかない……!」
「──黒月審判こくげつしんぱん」
「──紅龍爆こうりゅうばく!!」
運命を裂く一撃を放とうとした、その時──
背後に、影が忍び寄る。
エデンの目が見開く。
タカハシが振り返る。
だが、遅かった。
「──Bonjour」
聞き覚えのある声。
パペット。
そして──
ズシュッ!!
その腕が、静かに、鋭く──
タカハシの胸を貫いた。
術式が消える。
音も、色も、時間も──止まる。
タカハシが崩れ落ちる。
「……タカハシ──!!」
エデンの絶叫が、空を裂いた。