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第87章: 恨みと再生

「生まれながらに憎しみを持つ人はいない。憎しみは、癒えない傷、影に隠された真実、裏切られた愛、そして花開く前に打ち砕かれた夢の結果である。」


どの時代にも、時間が消せない傷を負っている人たちがいる。


笑顔でそれを隠す人もいます。他の人はそれを火に変える。


しかし、それを受け入れる人々もいます…


そして、それらが何か新しいものになるようにします。


光の中で生まれた魂は闇の中で生まれ変わることができるのでしょうか?


恨みは新たな意志を生み出すことができるのか?


そして、神々を鍛えた設計が崩れ始めると何が起こるのでしょうか?


裏切りと犠牲が当たり前になった世界では、


アイデンティティが牢獄となり、信仰が武器となる場所では、


破壊されるべきものと保存されるべきものの境界線はますます薄くなっています。


今日はマスクが外れるでしょう。


恨みが本性を現すだろう。


そしてその混沌から… 決して存在するはずのなかった何かが生まれるでしょう。


————————————————————————————————————————————————————————————————


大地が震えていた。




轟音のような衝撃波が地面を走り、戦場の隅々を震わせる。




シュンとヨゲン──


そのぶつかり合いは、もはや神すら追えぬ速さ。


一つひとつの打撃が暴風のような交響曲。




ゴォン!!




激突とともに、両者が後方へ跳ね飛ばされた。




そして、睨み合う。




──恐れはない。疑いもない。


ただ、絶対の覚悟がそこにある。




「……残念だが、ここまでだ」


シュンが息を整えながらも、穏やかに告げる。


「この勝負、終わりにしよう、ヨゲン」




ヨゲンが冷ややかに笑った。




「ハッ、冗談はやめろ。今さら“本気じゃなかった”なんて言い訳するのか?」




わずかに間を置き、目つきが鋭くなる。




「たとえ“最強の男”でも──俺の足元にも及ばない。お前は……俺に傷ひとつ付けられなかった」




一歩、前に踏み出す。




「残念だったな、シュン。お前の負けだ」




その瞬間──


シュンが皮肉げに笑い出す。




「……何がおかしい?」




──それは。




「……あの野郎……」




その時だった。




何かが“来る”。




それは──




空気すら圧迫する、底なしの“力”。




ヨゲンが振り返った。




「……これは……!?」




脳が警告を鳴らす。




未知の“存在”が、戦場の理を破り現れた。




「──何だこれは……?」




ゾクッと、背筋に冷たいものが走る。




「……この力……異常だ。恐ろしい……」




思考を研ぎ澄ましながら、ヨゲンは歯を噛み締める。




「このまま戦えば……死ぬかもしれん」




──その刹那。




ブラック・ライツの全メンバーの脳内に、


共通の“命令”が響いた。




緊急招集。




_________________________




それより少し前──




別の戦場にて。




「──ッッッ!!」




エデンの咆哮が、夜を裂く。




ドォォン!!




凄まじいエネルギーが身体から噴き出し、地面を崩壊させる。




パペットがその様子を目を細めて見つめていた。




「──素晴らしい……なんて美しい暴力だ」




「これは……面白い人形になりそうだ……」




ジパクナはすぐに動いた。




「タカハシ!!」




倒れた仲間へと飛ぶが──


パペットの“糸”が行く手を阻む。




シュッ!!




鋭い斬撃で糸を断ち切るが、進むには一歩遅い。




「……あの野郎、簡単には近づかせてくれねぇな……!」




苦しげに呼吸しながら、ジパクナがパペットを睨む。




そして、首元の紋様に気づいた。




「──あの刺青……」




「そうだ」


ヨウヘイが低く答える。




「アイツは──ブラック・ライツの一員だ」




敵の姿を睨みつける。




「……以前戦った奴らとは雰囲気が違う。だが、あの“リーダー”級と同じ匂いがする。アイツは……“怪物”だ」




「──ヨウヘイ、頼む。早く、タカハシを救わないと……!」




「分かってる」




ふたりのオーラが激しく立ち上がる。




黄金と白銀の光柱が空を貫く。




「──全力で行くぞ!」




「──ああっ!!」




一方、エデンは一歩も引かずパペットを見据える。




「──あの日……いたな」




記憶の片隅に浮かぶ、


イッスの冷たい亡骸──




「……思い出した」


パペットが冷笑を浮かべながら言う。




「君は──あの女の息子か」




ドォン!!




エデンのオーラが爆発する。




「貴様……母さんの名前を口にするなッ!!」




瞬間移動の如き速さで肉薄。


凶暴な拳がパペットに迫る。




「……執念深かったな、あの女は。『君を取り戻す』だの、うるさかった」




「……黙れと言っただろうがァ!!」




ドカァァァン!!




激昂したエデンの攻撃が、ついにパペットの糸を砕き、後退させる。




パペットの目が興奮で輝く。




「──すばらしい。怒りに呼応して力が伸びる……」




「分かったぞ。なぜ君が“鍵”と呼ばれているのか」




だが──




ズバッ!!




ヨウヘイの閃光が飛び、パペットの防御を強制。


その隙を、ジパクナが突く。




「──今だ!!」




二人は一瞬でタカハシの元へ。




「……まだ息はある……心臓は無事だ」




「……惜しいな」


いつの間にか背後にいたパペットが、呟く。




ズシャァァッ!!




鋭い糸が襲い掛かり、ヨウヘイとジパクナを貫く。




「──くっ……!!」




ふたりは地に崩れ落ちる。




「──やめろッ!!」


エデンの叫びが響く。




パペットが空中に浮かび、


全身から異様なエネルギーを放つ。




「もういい。来い、鍵よ」




その瞬間、エデンの思考が錯綜する。




──誰を助ける? 誰を見捨てる?




動けば、誰かが死ぬ。




だが、逃せば……全てが終わる。




その時──




「──動け、今すぐ!!」




──幻影のような声。




「ジイちゃん……?」




振り返る。




「……アレックスボルト!?」




霧の中から現れたのは──師匠。




険しい表情のまま、エデンに叫ぶ。




「……パペット。逃げてばかりか、貴様」




「また余計なヤツが……」




「エデン、迷ってる暇はない! 今すぐ三人を連れて逃げろ!!」




「でも……一人じゃ……!」




「お前が言ったんだろ。“俺は英雄だ”って──」




エデンは動けなかった。




その言葉が、胸に突き刺さる。




師の瞳を見つめ──




「……分かった」




エデンはヨウヘイ、ジパクナ、そしてタカハシの身体を背負う。




──その瞬間。




「……どこへ行くつもりだ?」




パペットが現れる。


殺意を込めた一撃。




だが──




ガキィィィィン!!




「邪魔だって言ってんだろ!」




アレックスボルトが剣で受け止める。




「行け!! 今だッ!!」




エデンは走る。




誰よりも速く。




己の命、そして仲間の命を背負って──


走り出した。




「──つまり、今ここに残ったのはお前と俺だけってことだな、パペット」




アレックスボルトが静かに剣を構え、真っ直ぐに敵を見据える。




パペットは──


あの甘ったるくも不気味な笑みを浮かべた。




「悪いけどさ……」




──ゴゴゴゴゴン!!




空が、裂けた。




影の裂け目、地中の隙間、屋根の上、空間の歪み。


ありとあらゆる“隙”から、それは湧き出した。




──数千の人形たち。




その場を包み込むように現れた“軍勢”は、一息で包囲網を完成させた。




エデンとアレックスボルトは、その中心に立たされる。




「これはな、一対一なんかじゃないんだよ──」




両腕を広げるパペットは、まるで病的な神のように言い放つ。




「──やれ。俺の可愛い人形たちよ!!」




キィィィ──ッ!!




金属と機械が軋む異様な咆哮が響く。


怪物じみた傀儡たちが一斉に飛びかかる──




……が、その瞬間。




世界が“止まった”。




圧が降りた。




目に見えぬ“重さ”が空気を支配し、空が縮み、糸が静止する。




そして響いたのは、魂を貫くような“命令”。




『──全員、撤退だ!』




ヨゲンの声が、ブラック・ライツの意識全体に直撃する。




「……なに?」




パペットの瞳が大きく見開かれる。




_____________________________




同時刻。




別の戦場では、二人の“巨人”が死闘を続けていた。




──ベスティアとティレシアス。




その拳一撃ごとに地面が裂け、空気が歪み、世界がうねる。




「ぉぉおおおっ!!」




ベスティアの怒号とともに放たれた拳がティレシアスを吹き飛ばし、老戦士はよろめいた。




だが──


そこで、ベスティアは拳を下ろした。




彼の体が波打ち、やがて本来の姿へと戻っていく。




「……残念だな。もうちょい遊びたかったぜ、じいさん」




牙を見せて笑う。




「──またな」




そう言って、ベスティアは姿を消した。




打ちひしがれたティレシアスは、傷まみれの腕を見つめながら、つぶやいた。




「……隠していたのは、あれか……?」




_____________________________




また別の場所──




ウィロックが静かに立っていた。




彼の前に立ちはだかるのは、三柱の神々。




ケツァルコアトル、アフロディテ、ゼフ。




──ウィロックは微笑む。




「……どうやら、ここまでが私の役目のようです」




「──次は俺ひとりで倒すからなッ!!」




ゼフの叫びとともに、巨大な水の奔流が襲う。




ドォォォン!!




ウィロックの身体は、その波に呑まれた。




「──追えッ!!」


怒りを露わにするケツァルコアトル。




「やめて」


アフロディテの言葉は冷静だった。




「……何だと?」




「今の私たちに、それを止める力はない」




「ふざけるなッ!! 今こそ叩くべき時だろうが!!」




「師匠の言う通りです……」


息も絶え絶えのゼフが言った。




「……他の戦場でも、同じことが起きている気配がします」




「……くそ……っ!」




ケツァルコアトルが歯噛みする。




_____________________________




近くの戦場。




──絶望のただ中。




ヨーサの足は震え、体中から血が流れ落ちていた。




「クソ……もう動けねえ……でも、ジュアナを……!」




「死ねえええぇぇっ!!!」




59番の“知られざる者”が叫ぶ。




彼が放った巨大な火球が、ヨーサへと直撃──!




「……くそ……!」




──動けない。




──死ぬ。




その時。




「──空間術・夜の帳」




柔らかな声とともに、黒い結界がヨーサを包んだ。




全ての炎を、飲み込んで。




「……お前か……」


敵がにやけた。




「……お前の匂いは……他の奴らとは違う。お前は……くっせぇな」




──ゴッズの生徒か……?




ヨーサは驚いた。




「……さっきまで、気づけなかった……」




「……お前、マジでクサいな」




その嗅覚に狂気が混じる。




「殺さなきゃ」




彼女──エリスは硬直した。




その時。




「……アッザウン、何をしている」




ウィロックの声が飛ぶ。




「……ウィロック」




「撤退だ。今すぐに」




「だが……」




「命令だ」




「……了解」




二人は姿を消す。




ヨーサは、ただ見ていた。




「……終わったのか……?」




そのまま、意識を失った。




_____________________________




その頃。




別の場所では、何か“巨大な力”が集結しようとしていた。




「……まさか本当に……あの人の部隊に配属されるとは……」




兵士たちは震える声で言い合う。




「……まだ信じられねぇ……」




「だが……間違いない。あの方の力は、本物だ」




「無駄口を叩くな! 気を引き締めろ!」




アレスの怒声が飛ぶ。




「──はい!!」




「まったく……世話が焼けるぜ……」




「まぁまぁ、アレス。新人たちには優しくしてやらなきゃ」


穏やかな声の主──シヴァが笑った。




「キャプテン・シヴァはお優しい」


そう思った新兵たちの心が、わずかに和らいだ──が。




「──すぐ死ぬけどね」




シヴァの笑みが凍りつく。




──一瞬の静寂。




「──冗談だよ♪ 期待してるからね」




遠くから、それを見守る者がいた。




──ドレイク。




「……特別部隊の隊長たちがこれだけ集まるなんてな……」




「しかも……あいつまで来てるとは」




──現れた。




天使。




金色の髪。




血のような赤い瞳。




その瞳は、万象を裁くような威厳を放っていた。




_____________________________




そして──




ヨゲンは理解した。




全てが……崩れ去ったのだと。




シュンは静かに腕を組み、微笑んでいた。




「──これが……お前の“計画”か?」




「さあな」


シュンの瞳には、信念の光が宿っていた。




「……俺は、信じた。ただ、それだけだ」




「次は……必ず貴様を倒す」




──最強の男、シュン。




「楽しみにしてるぜ、ヨゲン」




ヨゲンは姿を消す。




──その瞬間、シュンは呟いた。




「……これでようやく……狩りが始められるな」




_____________________________




ブラック・ライツの撤退は、まるで呪いのようだった。




敗北という現実が、彼らの肌にまとわりつく。




ヨゲンは拳を震わせる。




「……どうしてだ……?」




「……まさか、すでにこの襲撃を予期していた……?」




それだけではない。




「──空間も封じられている……!」




「転移術も使えない……!!」




「クソが……クソが……クソがッッ!!!」




パペットの懐で、光が点滅した。




小さな装置。




──追跡装置。




全てが……




掌の上だった。

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