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第三話 ニーサン

「ナナさんすみません。まさかナナさんが冒険者を志願するなんて思ってもみなかったものですから」


 ナナは応接室を出て、パレスにギルド内を案内してもらっていた。


「いいんですパレスさん」ナナは微笑みをつくった。


「見習い期間が終了したら給料の前借りができるようにサブマスターに交渉してあげますよ」


「ありがとうございます」


 最上階には応接室のほかはギルドマスター(ギルマス)とサブマスター(サブマス)の部屋があった。ギルマスの名前はエルドランド・ガブリエル。ソフィーの父親である。


 二階は宿泊施設、医務室、売店、図書室。一階のホール裏の敷地には資料保管庫を兼ねた倉庫、レンタル武器施設、魔獣の解体部屋、訓練所、ランク試験場などがあった。


「すでにお分かりでしょうが、ギルドの受付嬢というのは世間で言うところの受付嬢とはちょっと意味合いが違います」ふたりは一階のホールに降りる。一階には酒場も併設されている「そうですねぇ、一般社会でいえばハローワークのような感じでしょか」


「職業安定所?」


「まあそんなところです。一般の会社の受付嬢は来訪者の対応、アポイントの有無を確認して社内の担当者へ取り次ぐのが主な仕事でしょう?でもここに来る来訪者はアポなど取ってきません。まずはギルド登録して仕事を斡旋して出来高によって報酬を与えるのです。ここの収入源は国や企業、地方自治体、市民などからの仲介手数料です。そして仕事が成功した暁には登録者に報酬を分配します」


「はあ」


「でもここからが問題です。ギルドはうちだけではありません。最大手のトヨエツ、最近人気急上昇中のボンタがライバルです。トヨエツは国からの仕事の依頼が多いのが利点です。そのかわり報酬額が低い。ボンタは一流企業からの依頼が多い。なぜなら報酬額の率が高く設定されているからです」


「それでニーサンはどうなんですか?」


「トヨエツとボンタに挟まれて厳しい状況下にあります。どっちつかず・・・・・・というのでしょうか。トヨエツほどの歴史もなければボンタほど革新的なこともできない。最近ではボンタへの身売り話しもチラホラ出てきている始末でして・・・・・・あ、これは失言。あくまでもただの噂に過ぎません」


「革新的というのはどういうことをなさっているのかしら?」


「受付嬢が人じゃないのです。人形です。彼らは魔力で人形を操って受付嬢に使っているのです。そしてその人件費を報酬額に反映させている。ニーサンはそんなことはしません。あくまでもビジネスは人対人。冒険者は報酬の多い所だけに集まるわけではありません。かわい子ちゃん・・・・・・失礼、自分の気に入った受付嬢に会いに来るのも楽しみなのです。明日をも知れぬ命ですから」


「あら新人さん?」


 手が空いた受付嬢のひとりがにこやかに笑いかける。ナナとほぼ同年代に見える。ちいさな目に低い鼻。おさげにした赤毛がよく似合っている。これでそばかすでもあったなら赤毛のアンにそっくりだったろう。


「うんそうなんだロミイ。こちらはナナさん。たしかキミと同じ年だな。いろいろ教えてあげてくれると助かるよ」


「わたしロミイっていうの。お友達になりましょう」


 ロミイがウィンクしてナナの手を握る。瞬時にロミイのひととなりがナナの体内に流れ込んできた。


 その光景を最上階の踊り場からふたつの影が見つめていた。


「よかった。あの子、無事に生きていてくれたのですね」


「大きくなったな」ギルマスのエルドラドが豊かなあごヒゲをなぜながら目を細める「しかも美人に育った」


「まさかこのソドムに隠れていたなんて思いもよらなかったわ。もっと遠い国にいるものとばかり・・・・・・」


「すぐに見つかりそうなところの方が、かえって安全だと考えたのだ。なにしろ相手は魔界の王だからな」

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