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第四話 受付嬢初日

「登録のご希望ですね」


 それから数日後。ナナは受付カウンターに座っていた。


「ギルドカードを発行いたしますのでこちらの登録票にご記入お願いします」愛想のいい笑顔を作ってひとりの若者に登録票を渡す。


 男の名前はタイザー・フランクリンという。その瞳は深い緑で湖の底を思わせる。黒い甲冑を身につけ、腰には剣を差している。


「タイザーさま。ご宿泊はいかがなさいますか?」


「宿を探す手間が省ける。宿泊もお願いしたい」


「個室と大部屋がございますが。お値段は個室で一日六百ギャザー。大部屋が三百ギャザー。連泊割引はございません。食事は二階の食堂でバイキング形式になっています。朝は六時から八時。夕方は七時から九時です。裏庭の井戸は共同でご自由にお使いいただけます」


「個室で。それからこの仕事をしたいのだが」


 タイザーは壁のクエストボードに貼り付けてあった依頼票をナナの前に滑らせた。それは父が請け負った魔獣討伐の依頼票だった。レベルはA。


「残念ですがタイザーさま。このご依頼はレベルA以上の冒険者でないとお受けすることができません。失礼ですが登録後のレベルはFからになります」


「レベルF。このオレが?」タイザーの端正な顔に影が宿る。「レベルFだとどんな仕事があるのかな?」


「ダンジョン内の薬草やマジックきのこの採取。山に入って鉱石の採掘とかですね。もしも討伐パーティに参加したいのであれば荷物持ちという手もございます」


「荷物持ち?」


「タイザーさまでしたら実績を積んですぐにCランクぐらいに昇進できそうですね。がんばってください」


 ナナがファイトのポーズを取る。タイザーは苦笑した。


「こんなこと言っちゃなんだけど、ボンタじゃ少しは名が知れたファイターだったんだぜ。ほかに手っ取り早くランクをあげる方法はないのかい?」


 タイザー・フランクリン。何度も瀕死レベルを経験したソードファイターのひとり。


「ないことはないのですが・・・・・・」


「そう、キミはプロバレンと言うのか」タイザーはナナの胸の名札に目をつけた。「ギリス・プロバレンとは何か関係があるのかい?」


「ギリスはわたしの父ですが」


「ほう。あんたギリスさんの娘さんだったのか。ぼくは昔ギリスさんに助けられたことがあってね。ギリスさんが行方不明になったと訊いて助けにきたのさ」


「そうだったのですか。ありがとうございます。それであの討伐依頼票を?」


「そういうこと。だけどなぜギリスさんはパーティーを組まなかったのだろう。いくらなんでもソロは危険じゃないのか?」


「わかりません。腕に自信があったらからだと思います」パーティーのメンバーに報奨金を分配するのをケチったからだとは言いにくい。「それではまずIDカードの発行に必要になりますので血液を一滴ちょうだい致します」


 ナナはタイザーの左人差し指に針を刺す。血液の粒がパラフィンカードに挟みこまれる。


「このIDカードをお持ちください」


 タイザーはナナに差し出されたブロンズ色のカードを受け取った。このカードはランクによって色が変わるのだ。FからDランクはブロンズ。Cランクはシルバー。Bランクはゴールド。Aランクはブラック。S以上だとプラチナカードになる。


「午後にギルドの裏庭に来て下さい。今日はたまたまランクアップ認定試験がございます」


「おれも受けられる?」


 ナナがこっくりと肯く。


「推薦しておきしょう。ですが本当はお薦めはできません。試験とはいっても危険がともないます。それなりに覚悟が必要になりますよ」


 タイーザーは軽く手を振って踵を返す。ナナはそのたくましい後ろ姿を見送った。


「あのう。鉱石の換金をお願いしたいんじゃが」


 小さな老人がカウンターの下からナナを見上げていた。


「あ、お待たせしました。それでは鑑定員に査定をしていただきますのでお預かりしますね」


※※※


「ナナ。午前中の彼、すっごくカッコ良くなかった?」


 ナナは食堂でロミイとお弁当を食べていた。


「タイザーさんのこと?なんか父の知り合いなんだって。ダンジョンに行って父を探してくれるっていうのよ」


「心配よね。お父さん」


「パレスさんが最後まで希望は捨ててはいけないって。でもウィザードが生命反応を感知できない場合、救援隊も組織できないらしいのよ」


「ふうんそうなんだ。だけどちょっと変な噂を聞いちゃったんだけど」


「なあに」


「ギルメン(ギルドメンバー)のララさんが資料保管室で偶然目にしちゃったらしいんだって」


「どうしたの?」


「ギリスさんの依頼書の報酬額がちょっとね」


「報酬額がどうかしたの?」


「誰かに書き換えられていたみたいだって」


「書き換えられた?」


「て言うか、丸がひとつ足されてたっていうのよ」


「それ具体的に教えて」

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