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第五話 ランク認定試験

 休憩時間になった。ナナたち受付嬢は午後三時になると、三十分ごとに交代制で休憩をとることになっている。


 いつものナナなら食堂でお茶をする時間だ。でも今日はホールの裏庭に足を向けた。


 裏庭に繋がる通路の左手には魔獣の解体室。白いペンキを塗った鉄の扉が重々しく閉じていた。


 右手に鉱石や武具類の保管室。古い歯医者の受付のような小窓から、ひとの良さそうな職員のおじさんが顔を出している。ここはレンタル武具の窓口。


「やあ、べっぴんの新人さん。見学かい?」


「こんにちは」ナナも気さくに話しかける。「まだ昇進試験やってます?」


「あと二組。あんたの推薦した若者は最後だよ」


「合格者は出てますか?」


「今日はひとりもおらん。おかげで医務室から苦情の嵐さ。ところで新人さん」


「ナナです」


「あんたがここに来ると、ここの武器たちが騒ぎだすんだがなんでなんじゃろうな?」


「さあ。わからないわ」ナナは肩をすくめた。


 裏庭に出る。曇った空。時々雲のすき間からお日さまが顔を出す。風が吹いている。砂埃が舞う。


「はじめ!」試験官の号令がかかる。


 受験者は二メートルはありそうな巨漢。黒光りするヤリを持っている。ホウキのような細い人形が相手のようだ。


 細長い人形が消えた。いや消えたのではない。動いたのだ。もの凄い速さ。細長い身体から、触手のような武具がトンボの羽のように拡がる。左右に四本。


「かっ!」


 巨漢は鋭く横殴りにヤリを振った。こちらも速い。ヤリの先端がアメンボウのような人形の身体をかすめる。


 当たったのか?いやほんの数ミリで人形はヤリのほこさきをかわしていた。左右の剣は縦横無尽なつむじ風のように巨漢に襲いかかる。


 男はその巨体には想像もつかないほどの身軽さで天高く舞い上がる。そして振り上げたヤリは一直線に人形の脳天めがけて降りてきた・・・・・・かに見えた。


 上空から落ちてきたヤリは鉛筆の削りカスのよう粉々に砕け散った。男の鎧兜が早鐘を打ったかのような音を立てて地面に落ちる。そして着地した男は放心したような顔をして棒立ちとなった。


「それまで!ゾーマ・クリスの負け」試験官がバインダーに失格の印を付ける。人形は武具を収納してスイッチが切れたように動きを止める。


「次、タイザー・フランクリン。Aランクの挑戦」


 ナナは検定場の隅の鉄柵から身を乗り出した。まさか・・・・・・あれに勝てると言うの?


 タイザーは悠然と前に歩み出る。五指をなだらかにグリップにかける。


「はじめ!」


 眠っていた人形がゴム風船に空気が入れられたかのようにピンと背筋を伸ばす。タイザーはまるで親しい友達に挨拶でも交わすかのように人形との間合いを詰めはじめた。


 人形は左右に小刻みに揺れている。微笑むタイザー。


 人形の身体から今度は六本の触覚のような武器が扇状に拡がった。きっと武具の本数はランクによってかわるだろう。


 チューリップの花のように近づいたタイザーを武具が包み込む。それはイソギンチャクが小魚を素早く飲み込む仕草に似ていた。一瞬のスキだった。やられた。


 ナナは目を瞑った。次の瞬間。人形は竹を立てに割ったかのように、真っ二つになって左右に倒れ落ちていた。


 カランと乾いた音がした。いつの間にかタイザーは人形の背後に回っていたのだ。そんな。瞬間移動テレポーテーション


「勝負あり!タイザー・フランクリン合格」


 タイザーが振り向く。そしてナナに向かって親指を立てた。


※※※


 終業後、ナナは一階の資料保管庫にいた。ロミイの言ったことが本当なら、父ははめられたことになる。だれが?なんのために?


 ギルドには過去百年間の依頼票と報告書の保管が義務づけられていた。保管庫はほこりっぽくて薄暗い。天井まで届く整理棚が整然と並んでいる。


 ギリスの依頼請負書は最近なのですぐに見つかった。


 討伐レベルA。報酬額五万ギャザー・・・・・・?いやこれは実際には五千ギャザーだったに違いない。ナナはミサンガを解いた。


 ナナが請負書に手をかざす。忽然と丸がひとつ消えた。討伐対象は魔王タエロン・・・・・・攻撃レベル五十・・・・・・これも違う!これも一が巧妙に魔法で消されているのだ。本当の攻撃レベルは・・・・・・百五十!

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