イーヴァという美しい名をもらった、その日の朝。
お母さまから食事と、
マールの村は、本当に美しいところだった。
周囲を森に囲まれ、空気が
そして“マールの
畑に行くと、私と同じくらいの男の子が数人と、その父親と
そんな畑で、一人の男の子が私に顔を向けて、目を見開いていた。
同じ
「ん? あれが気になるか。あれはドレンのところのエセルだな。
「はい、そうします」
お父さまに言われて、私はエセルに目を細めて大きく手を
するとエセルは身体を
「とはいえ、イーヴァほど
はっはっは、と目を細めるお父さまに「そんなこと、ないです」と、顔を熱くして
「しかしイーヴァは、なにもかも忘れてしまっているんだろう?」
「……はい」
「では、今が
「そうですね。何年なのでしょう?」
ふむ、とお父さまは
「今日は双月暦五一四年、五月十日だ」
「……ッ!!」
その時。
頭がずきんと痛み、その場にしゃがみ
「どうした、
お父さまが
「だ、
「そうか。
「はい」
私は……
双月暦、五一四年。その数字を耳にした時、もの
そして、お父さまも、ほかの
こんな昼でも
「これは……マナ?」
「うん、なんだって?」
「あ、いえ、なんでもありません。ところでお父さま、市場はどこでしょうか? これから色んなお手伝いをしたいと思っておりますので、場所を知っておきたいのです」
「おお、それは
思わず口をついてしまって、
(お父さまにはマナが見えてない? わからないのかな……あれ? そもそも私はなんで、あれがマナだと知っているんだろう?)
日暮れの帰り道。
お父さまの家は、村の
「お父さま。あの坂の先には、なにがあるんですか?」
単純にそう思ったので
「さあなあ。なぜだか理由はわからんが、先代村長だった儂の父が、あの坂の上に行くことを固く禁じたのだ。だから、あの坂に行くものは
「なるほど」
では
村を一回りさせてもらったけれど、本当に湖にでも落ちない限り、あそこまでずぶ
禁じられた坂道で、ずぶ濡れで倒れていた上に、
自分の
この日の夜。
お父さまとお母さまから、マールの村の成り立ちを教えてもらった。
「先にも言ったが、この村は儂の父が引き連れていた商隊が、大都市カリーンから北東に進み、ラミナの街に
「幻惑の森、ですか?」
「うむ」
その時、お母さまがティーセットを持ってやってきた。
「この村に住んでいるのはみな、元はといえば義父の商隊にいた人たちなのよ。幻惑の森に入るとね、運が良ければ
幻惑の森を抜けて、外界に抜けられなくなって、仕方がないからここで暮らそうってなった時に、道具も穀物の種も売るほどあったのが幸いしたのさ。なんたって、あたしらの義父は商品をたんまり積んだでたからね」
「これ、儂がイーヴァに話して聞かせようと思っていたところだったのに!」
「あらあら、それは失礼」
お母さまはころころと笑い、お茶の準備をしてくれた。