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第七話 燕雀いずくんぞ

「ねえきみ、見ない顔だけど、ひまなのかな?」


おれたちと楽しいことをして遊ぼうぜ!」


魚釣さかなつりなんかより、ずーっと気持ちよくしてやっからよ!」


 そんな声を耳にして、顔を上げる。

 黄色いマナが、かれらの周囲を不規則ふきそく軌道きどうで飛んでいた。三人の男の子の顔は日の光を背負っていて見えなかったけれど、その目ははっきりと私のひとみとらえていた。


 かれらからは“おのれの欲を満たしたい”という邪念じゃねんを強く感じた。

 そっか、黄色のマナは人の感情……欲望よくぼうなんだ。


「うわ、よく見たらこの子、すっげえ可愛かわいいじゃん!」


「やっべ、本気になりそう」


「バカ、おれが最初だぞ!?」


 好き勝手言っている男の子たちのすきき、木の下に落ちていた手頃な枝を手にして立ち上がった。

 すると男の子たちは、さっ、と広がって、私をがすまいと囲んできた。


「はあ。この村では、こんな昼間から女の子をおそうの?」


 私は面倒めんどうくさそうに、そう告げる。


「いやいや、こんな昼間だからなんだって。夜は静かすぎるから、こういうのには不向きなんだよなあ」


「悪いね、ちょっと我慢がまんしてくれれば、すぐ終わるから」


 ……何故なぜだろう。

 かれらはこれから私を陵辱りようじよくしようとしているのに、少しもこわくない。

 それどころか、憐憫れんびんの情すらわいてきていた。

 やっぱり私は、変な女だ。


「きっとたかつばめすずめを見ている光景って、こんななんだろうなぁ」


「はあ?」


 私の言葉に、反応する男の子たち。


 そう、私はたか

 そのたかに、三羽さんわの小鳥がいどもうとしている。

 怖いどころか、滑稽こつけいでならなかった。


 右手の枝を強くにぎると、かれらの後ろにいていた黄色いマナと、辺りに浮いていた緑、茶、青などのマナが、まれるように枝の先へと集まる。


 ここまでのやり方はなんとなく理解した。

 でも、ここからがわからない。

 まあ、このマナがめられた棒でたたくだけでも、かなり痛いんじゃないかな。


 なにせマナは、自然の力だから。


「おいおい、見かけない顔だけどよ、おれたちをあまんなよ?」


 男の子の一人がそう言う。

 ふと、後方に三人の女の子の姿が目に入った。

 私を見てくすくす笑っている。よく見ると、彼女かのじよらの周囲にも黄色いマナがいていた。


 そっか、このあわれな燕雀えんじやくらを解き放ったのは、あの子たちなんだ。


 近くにほかの人は見当たらない。

 どうやら、私を助けてくれる人はいなさそうだ。


「はあ。可愛かわいそうな小鳥さん。怪我けがをしないうちにお仲間であり、黒幕の彼女かのじよたちの元へともどりなさいな」


「……ッ! このっ、馬鹿にしやがっ――!」


 次の瞬間しゆんかん

 ぬっ、と目の前に足が出て、男の子の一人が後方に飛ばされていった!


だれだ……う!」


 そこに立っていたのは、亜麻色あまいろかみの男の子。

 エセルだった。


「お前らぁ、イーヴァになにをしようとしてた!」


「ハ、エセル!?」


 燕雀えんじやくの一人が、そうつぶやく。

 一人はエセルのりでたおされ、完全にのびている。残りの二人はエセルの姿を目にすると、後ずさりした。


「今日という今日は、絶対にゆるさないぞ!」


「うう……」


 エセルがすごんで前に出ると、二人の瞳が険しくなり、赤いマナが放たれる。赤いマナは他のマナと違い、まるで蒸気のように揺らめいていた。

 まさかあれって……殺意さつい!?


「こっちだってなあ、お前のことが前から気に入らなかったんだよ!」


 男の子が、ズボンの右ポケットからするどい木製のナイフを出した。

 いけない。

 金属のじゃないから、殺傷力がないとはいえない。木製でもするどみがけば、肉くらいは容易たやすけるものだ。


「いつも正義ぶりやがって! ゆるさねえってのは、こっちの台詞せりふだ! お、お、お前をして、その女をいたぶってやる!」


「お前にはあっちに彼女かのじよがいるだろ?」


「うっせぇ!」


 木のナイフを構えた男の子に対し、瞬時しゆんじにシャツをいで左手に巻くエセル。

 ナイフせん心得こころえているあかしだった。


「てめえ……死んじまえッ!」


 その時。男の子の身体から赤いマナがふき出した!

 やっぱりそうだ。

 赤いマナは殺意さつい憎悪ぞうお怨嗟えんさの色だったんだ。


 ということは、あの男の子は本気だ。

 このままじゃエセルが危ない。


 私は素早すばやく、男の子のナイフを握る手を、マナが凝縮ぎようしゆくされた棒で強くたたいた。


「いっ……ああああああああああああああああああああ!」


 ばきり。

 甲高かんだかい音と共に、男の子の手からナイフが落ちる。

 その手のこうが、いびつな形にへこんでいた。


「イーヴァ!?」


 エセルが私のとなりにきて、そしてもう一人の男の子が、右手首をにぎりしめてうずくまるナイフの男の子にっていた。


「無事!?」


 エセルが、優しい瞳を向ける。


「うん、平気へいき


 私はエセルには笑顔で、そして情けなく地を強姦魔ごうかんまには、キッと眉をつり上げた。

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