「ねえきみ、見ない顔だけど、暇なのかな?」
「俺たちと楽しいことをして遊ぼうぜ!」
「魚釣りなんかより、ずーっと気持ちよくしてやっからよ!」
そんな声を耳にして、顔を上げる。
黄色いマナが、彼らの周囲を不規則な軌道で飛んでいた。三人の男の子の顔は日の光を背負っていて見えなかったけれど、その目ははっきりと私の瞳が捉えていた。
彼らからは“己の欲を満たしたい”という邪念を強く感じた。
そっか、黄色のマナは人の感情……欲望なんだ。
「うわ、よく見たらこの子、すっげえ可愛いじゃん!」
「やっべ、本気になりそう」
「バカ、俺が最初だぞ!?」
好き勝手言っている男の子たちの隙を突き、木の下に落ちていた手頃な枝を手にして立ち上がった。
すると男の子たちは、さっ、と広がって、私を逃がすまいと囲んできた。
「はあ。この村では、こんな昼間から女の子を襲うの?」
私は面倒くさそうに、そう告げる。
「いやいや、こんな昼間だからなんだって。夜は静かすぎるから、こういうのには不向きなんだよなあ」
「悪いね、ちょっと我慢してくれれば、すぐ終わるから」
……何故だろう。
彼らはこれから私を陵辱しようとしているのに、少しも怖くない。
それどころか、憐憫の情すらわいてきていた。
やっぱり私は、変な女だ。
「きっと鷹が燕や雀を見ている光景って、こんななんだろうなぁ」
「はあ?」
私の言葉に、反応する男の子たち。
そう、私は鷹。
その鷹に、三羽の小鳥が挑もうとしている。
怖いどころか、滑稽でならなかった。
右手の枝を強く握ると、彼らの後ろに浮いていた黄色いマナと、辺りに浮いていた緑、茶、青などのマナが、吸い込まれるように枝の先へと集まる。
ここまでのやり方はなんとなく理解した。
でも、ここからがわからない。
まあ、このマナが込められた棒で叩くだけでも、かなり痛いんじゃないかな。
なにせマナは、自然の力だから。
「おいおい、見かけない顔だけどよ、俺たちを甘く見んなよ?」
男の子の一人がそう言う。
ふと、後方に三人の女の子の姿が目に入った。
私を見てくすくす笑っている。よく見ると、彼女らの周囲にも黄色いマナが浮いていた。
そっか、この哀れな燕雀らを解き放ったのは、あの子たちなんだ。
近くにほかの人は見当たらない。
どうやら、私を助けてくれる人はいなさそうだ。
「はあ。可愛そうな小鳥さん。怪我をしないうちにお仲間であり、黒幕の彼女たちの元へと戻りなさいな」
「……ッ! このっ、馬鹿にしやがっ――!」
次の瞬間。
ぬっ、と目の前に足が出て、男の子の一人が後方に飛ばされていった!
「誰だ……う!」
そこに立っていたのは、亜麻色の髪の男の子。
エセルだった。
「お前らぁ、イーヴァになにをしようとしてた!」
「ハ、エセル!?」
燕雀の一人が、そう呟く。
一人はエセルの蹴りで倒され、完全にのびている。残りの二人はエセルの姿を目にすると、後ずさりした。
「今日という今日は、絶対に許さないぞ!」
「うう……」
エセルが凄んで前に出ると、二人の瞳が険しくなり、赤いマナが放たれる。赤いマナは他のマナと違い、まるで蒸気のように揺らめいていた。
まさかあれって……殺意!?
「こっちだってなあ、お前のことが前から気に入らなかったんだよ!」
男の子が、ズボンの右ポケットから鋭い木製のナイフを出した。
いけない。
金属の刃じゃないから、殺傷力がないとはいえない。木製でも鋭く磨けば、肉くらいは容易く裂けるものだ。
「いつも正義ぶりやがって! 許さねえってのは、こっちの台詞だ! お、お、お前を刺して、その女をいたぶってやる!」
「お前にはあっちに彼女がいるだろ?」
「うっせぇ!」
木のナイフを構えた男の子に対し、瞬時にシャツを脱いで左手に巻くエセル。
ナイフ戦を心得ている証だった。
「てめえ……死んじまえッ!」
その時。男の子の身体から赤いマナがふき出した!
やっぱりそうだ。
赤いマナは殺意や憎悪、怨嗟の色だったんだ。
ということは、あの男の子は本気だ。
このままじゃエセルが危ない。
私は素早く、男の子のナイフを握る手を、マナが凝縮された棒で強く叩いた。
「いっ……ああああああああああああああああああああ!」
ばきり。
甲高い音と共に、男の子の手からナイフが落ちる。
その手の甲が、歪な形に凹んでいた。
「イーヴァ!?」
エセルが私の隣にきて、そしてもう一人の男の子が、右手首を握りしめてうずくまるナイフの男の子に駆け寄っていた。
「無事!?」
エセルが、優しい瞳を向ける。
「うん、平気」
私はエセルには笑顔で、そして情けなく地を這う強姦魔には、キッと眉をつり上げた。