帰宅する
「なな、なんじゃと!? あ、あのローマンの馬鹿連中が!?」
私はすぐ、お父さまとお母さまにローマンとそのほか二人の男の子に
「はい。マールの湖でエセルを待っていたところを、ローマンら三人の男の子に
「そ、そ、それで、無事じゃったのか!?」
お父さまが心配そうに声をかけてくる。
お母さまも、目を閉じて
「エセルがきてくれたので無事でしたけど……あの六人はなんなんです?」
「あ、ああ。ローマンの家であるデジールは早くから次期村長と決まっていたから、息子のあいつは自由気ままに育てられたんだろう。これまでも散々、
「よりによって、うちのイーヴァに手を出すなんて。それに今回の件は悪さじゃすまないことさね! あんたが
お母さまが
「そうだな、
「え、そこまでしなくても……」
私があわあわとお父さまを
「イーヴァ、すまんかった。あやつらには
そう言うお父さまの言葉に、私は
「本当に私は
「ほう、なにかな?」
私は、マールの湖で拾った枝を見せた。
あれからずっと手放さないで、持って帰ってきたのだ。
なにせ、ローマンのような手合いがいつまた襲ってくるか、わからなかったから。
「これくらいの長さのワンドで、なにか良いものはありませんか? よろしければ
お父さまとお母さまは
「イーヴァ、まずはお
「はい」
リビングのテーブルに手をつき、
木の香りが
お母さまはキッチンへ向かっていくと、すぐに冷たいハーブティーを持ってきてくれた。
「かわいそうに……
私の
「いえ、特には」
「無理しなくていいんだよ。この村は見ての通り
「あのう、本当になんにもなかったので」
「本当に? だってあのガキども、確かいつも六人くらいいるだろう?」
「ええ。男の子三人、女の子三人でしたね。どちらにも逆にきつ~いお仕置きをしておきました。あ、男の子の一人を
「エセルか。あの子はローランと違っていい子だよ。誠実で母親思いで正義感が強くて
「あ、あはは……」
お母さまはエセル
でも確かにエセルからは、土と草のいい香りがする。
これはただのカンだけどエセルみたいな男の子は、いい人な気がす――
【だ……めだ……やめ……】
「う、うわぁあああああああああああああああっ!」
不意に
「どうしたの、イーヴァ!
「うう、ううう……」
温かい水が
なにこれ、なにこれ!?
「と、と、とにかくお茶を!」
私はお母さまからカップを受け取り、ハーブの香り
全身からふき出す
息も
今の……声は?
知っている気がするけれど、全く思い出せない。
「う――――! う――――!」
「イーヴァ。あんたやっぱり、あの
「はあ、あ、そ、それは、違うん、です……」
ぐだっ、と、テーブルに力なく
「いやあ、すまん。なにせ古いものなんじゃが質は……ど、どうした!?」
お父さまが長い木の箱を持ってやってきて、それをすぐテーブルに置くと、お母さまの
「なにが起きた?」
お父さまがお母さまに
「それがよくわからないんだよ。急にこんなになって……」
「それは困ったな。よし、あの悪ガキどものことは
「ほ、本当に、だ、
私は頭を
「それより、な、なにか、ワンドは、ありましたか?」
痛いわけでもなく、気分が悪いわけでもない。
なんとも形容しがたい気持ちに
理由はわからないけれど、私は強くワンドを求めていた。
本当に、
「ああ、ああ。最高の品がある。これをイーヴァにあげよう」
お父さまは箱に手を伸ばし、それを開ける。
美しい布に、
「わあぁ……」
私はそのワンドの質に、
マホガニー製で
湖のほとりで拾った枝が小石なら、こちらは
そんな
さっきの声は気になるけれど、私にはこのワンドが、絶対に必要だと感じた。
でもこれは、いくらなんでも高価すぎる。
「お父さま、もっとお安いもので構わないのですが」
「気にいらんのか?」
「とんでもありません。私にはわかるんです。このワンドが
「ほほぉ……」
お父さまは感心しながら私の対面の椅子に腰を下ろし、
「イーヴァは目が高いな。これは“
「まさか、こんな
お父さまはにっこり笑ってワンドを箱に入れ、私に差し出した。
「
「あ、あ、ありがとうございます、お父さま」
深々と頭を下げる。
確かにこのワンドなら、もっと自在にマナを
「さあさあ、今日はもう
「いえ、特に嫌なことがあったわけでは……あ、でも、そうさせてもらいます」
私はお父さまの申し出を
なにせ、考えたいことがたくさんあったから。
「イーヴァにとっては、きつい一日だったな。あれだけの本を写し、午後には酷い目に
「はい、ありがとうございます」
私はワンドが入った箱を手にして、お父さまに再び頭を下げる。
「なにもなかったってイーヴァがそう言うなら、それを信じるよ。でも、あたしには必ず、正直に本当のことを言うんだよ!」
「はい、わかっております、お母さま」
お母さまにも頭を下げた後、私はテーブルの上の箱を手にして、部屋に向かった。
木の
お母さまが私のために用意してくれた部屋は、
こんな見ず知らずの、
……あの声、なんだったんだろ。
すっごく
きっと私が
思い出せないのがとても
ふと顔を横に向けると、お父さまから頂いた箱が視界に入った。
私には、
いや、きっとこの技術は私だけのものじゃない。
マナが見えれば、
少しコツがあるけれど、それさえ
この部屋にも、村中にも、無数に
これを集中して
私は身体を起こし、ベッドから身体を
「これだけ上質なワンドがあれば……自分のこと、なにかわかるかな?」
「これ……マナが、ワンドそのものに?」
このワンドから発していたのは、その辺に溢れている光の球形ではなく、炎のように
マールの村や湖では、青、緑、黄、茶、白、黒のマナを見た。
でも赤は、見たことがない。
ただひとつ確信できるのは、このワンドにはなにか、ほかのマナとは違う、強い力が
「もしこれで、赤いマナを使って
普通の色のマナを集めた木の棒だけで、力では絶対
なら、もしこのワンドで叩いたら?
私は
とにかく、今日はいろんなことがありすぎた。
村の人たちにはマナが見えていない
これらの法術をなんで操れるんだろう?
そして不意によぎったあの声の主はだれなのか?
「あーもう、アタマが
私は頭を