それから六日後。
商隊はいよいよ山道の下りに入っていた。
予定ではこの道の終わりで、私は商隊と離れる。
ヴァスト山脈の末端に位置するとはいえ、坂道はやはり険しい。
草木は少なく、右手は崖になっており、左側は高い岩山だ。ここで運良く得られる食料は、山の中腹で群れている
私はすっかり商隊に
「ああ、この坂を下り終えたら、マールとはお別れなんだな」
ルチルさんが寂しそうに言う。
「お互い旅人ですから、きっとまたどこかで会えます」
「そうだなあ、うん。マールの言う通りだな。その時のために、また
「そんな、お恥ずかしいです」
「はっはっは、本当に
ルチルさんが目を細めて、私の頭をぽんぽんと
恥ずかしかったけれど、胸がぽかぽかした。
それにしても……と、私はルチルさんから視線をそらして、顔色を変える。
マールの村。
ラミナの街。
この二つは、私が滞在して十日後に滅びた。
ここで一つ、疑問が沸いてくる。
私と関わって災厄に見舞われるのは、村や街だけなんだろうか。
本当はあと五日かけてフェイルーンまで行きたかったけれど、もしこの商隊やフェイルーンの街になにかがあったら……こんな悲しいことはない。
だから予定を変えて、フェイルーンの北にあるレゴラントの町を目指す。そこから更に北に向かって、タロン地方を抜け、ミスティカを経由し、西に向かおうと決めた。
その先のことまでは考えていないけれど、もしあの災厄が私のせいなら、私は一生、定住を許されず、旅を続けなくてはならない身であるということになる。
そんなの嫌だけれど。
でも、周りの人を不幸にしてまで、身を落ち着けたくはない。
「はぁ」
でも、この商隊の人たちは、みんな本当に明るくていい人ばかり。
絶対に、私の災厄に巻き込んじゃいけない。
私が肩掛け
「落石だ!」
後方から、叫び声が上がる。
「うそだろ、こんなところで落石なんて聞いたことがないぞ!?」
「いいから逃げろっ!」
「きゃあああああああ!」
商隊は一瞬にして、パニックに陥った。
震えながら見上げると、大きな岩が次々と落ちてきていた。
まさか……まだ六日しか
これも、私のせいなの!?
そんなことを考えていると、私の真上に、大きな陰が
「危ないっ!」
「ルチルさ――」
宙で目に入ってきたのは、ゆっくり動くルチルさんの、満面の笑み。
そして次の瞬間。
巨岩が馬車ごとルチルさんを圧し
「いやっ……いやああああああああああああああ――」
私は、気を失った。
気がつくと、山道の上で倒れていた。
「うう……いっ……」
身体を、ゆっくりと起こす。
右肩に鋭い痛みが走った。
どうやらルチルさんが御者台から私を投げた時、右側面から身体を打ちつけたらしい。
私は左手を地面について、身体を起こす。
ふと、その手に触れるものがあった。
幻惑の
どうして杖がここに?
そんな疑問はひとまず頭の奥に引っ込めて、杖を握りしめて岩の道に突き立て、身体を起こす。
そして目に飛びこんできた光景に、言葉を失った。
ルチルさんの商隊の姿が、ない。
変わりにあったのは、いくつもの巨大な岩石と、
そこから染み出ている、血。
この状況が、全てを物語っていた。
「うう……こんなの、
どうして、こんなことが起こるのか。
三回連続となると、もう偶然じゃ済まされない。
私は。
マールという、女は。
十日以上、街や村などの集落に滞在すると、その場に災厄を呼ぶ。
そしてそれらの外で仲良くしてくれたものには、
いや、おそらく……五日以上。
疑惑が、確信に変わった。
この命がつきる時まで、私は一人で旅をしなくてはならないんだ。
私を商隊に招いてくれたルチルさん。
本当のお母さんみたいな暖かさのある、ボーラさん。
指導力があり、商隊のまとめ役だったエランさん。
そして商隊で働く、気のいいみなさん。
全員まとめて、私が起こす、災厄に、巻き込んで、しまった。
「ああ……あああああああああああああああああああああああああ!」
天を仰ぎ、声をあげる。
商隊のみなさんには、なんの罪もないじゃない!
なにか罰を与えたいなら、私の命を取ればいい!
どうしていつも私だけを生かしておくのか!
私は、こんな宿命を背負わせたなにかを、深く、強く、恨んだ。