「ねえセレニィ、本当にこっちに村があるの?」
「あるよ」
屈託のない笑顔を見せるセレニィ。
「でも地図には、この辺りに村なんてなかったわよ?」
「そう言われても、あるものはあるんだもん」
ぷーっ、とむくれるセレニィが、とても
「それにしても、あんな危険な場所にどうして一人でいたの?」
「お兄ちゃんたちと一緒だったんだ。冒険者ごっこって言って、どんどん村から離れていって、気づいたらあそこにいた」
「で、鼠人に見つかっちゃったお兄ちゃんたちだけ、先に逃げた、と」
「うん」
「なるほどね」
事情はわかった。
この子も怒られるとは思うけれど、これより先は村で解決してもらおう。
そうこうしているうちに、左側はヴァスト山脈、右側は深い森になっている境目にある、小さな村に
そこは地図にも記されていないほど、小さな集落だった。
私がセレニィと手を
大人たちが、鉄製の農具や
穏やかではなかった。
「あ、おかあさんだ!」
セレニィは私の手を
この子の姿を目にした村人らは、歓喜の声をあげた。
「……ッ、馬鹿ぁ!」
女性がばしり、と、セレニィの
「本当に、心配かけて!」
泣きじゃくりながら、セレニィを抱きしめる。
セレニィも「ごめんなさい」を連呼しながら、泣いていた。
そして奥には、三人の子供たちが正座させられていた。
状況から察するに、あの三人がセレニィの言う“冒険者”なのだろう。
「時に、君は誰かな?」
不意に、殺気がこもった声をかけられた。辺りは黄色いマナで
筋骨隆々で身体も大きく、立派な
「私は旅人のマールと申します。山道を通っていたところ途中であの子の泣き声を聞き、保護しました。近くに鼠人が五匹いて、動けなかったようです」
「な、なんだって!?」
鼠人と聞いて、村人たちが声を交わした。
「あいつら、この辺にも現れるようになったのか」
男性が拳をばしり、と
「すいません、逆に聞かせていただけますか。この村は?」
私が言うと、男性は先ほどの殺気が
「ああ、ここはソリトスの村という。俺が初代村長のオーウェル・ソリトスだ」
がっはっは、と、豪快に笑うオーウェルさん。
そっか、この村はまだできたばかりなんだ。
「しかし、鼠人は下級とはいえ魔物だ。それを、君のように小さなお嬢さんが倒したなんて、到底信じられんな」
「そうでしょうね」
もっともな話だ。
「どうやって五匹もの鼠人を倒したんだ。教えてくれないか?」
「いいでしょう。なにか壊してもいいものはありますか?」
「ああ、ちょうど壊れた
オーウェルさんが村人に命じると、三つの樽が私の十メルくらい先に置かれた。
「こんな感じでいいか?」
「ええ、充分です。それでは」
腰からワンドを抜いて、辺りのマナを確認した。
白、緑、青、茶、紫。
ここにはこれらが入り交じって飛んでいる。
炎の法術の場合、太陽のマナである白だけか、そこに緑と黄色を合わせられるが、白と緑だけでも充分な火力に変換できる。
鼠人を焼いた火球の法術は、白と緑だけだった。
私はあの時と同じようにワンドを樽に向けると、白と緑のマナを集めた。
「おお、おおおっ、これは!」
オーウェルさんらが、驚嘆の声をあげる。
そのまま私はマナで円を描いて詠唱し、火球を繰り出して樽三つを
「お……」
村の人たちも、目の前で起きたことに驚きを隠せないようだ。
「私は何故か、特殊な術が使えるのです。この力で鼠人三匹を撃退し、セレニィを無事に救出しました」
きっと、私がなにをしたのか理解してもらえないだろう。
それでもいいと思った。
私はルチルさんたちの商隊の件で、自暴自棄になっていた。
しかし、これが思わぬ方向に話が流れていくとは、想像もできなかった。
「君はマナが見えるのか!?」
「しかも今、マナを使ったぞ?」
「マナにこんな使い道があるとは!」
村人たちが、口々にそう言って私を取り囲んだ。
え……?