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第11話 君が好きだ

 ユーリエが倒れてから、二日目の深夜。


 僕はずっと、ユーリエのそばにいた。

 石碑の文章は消し飛んでしまったけれど、あの魔法陣はなんとなくおぼえている。


 あることを思い出した。

 聖神殿や魔法学校にある一般的な魔法書には、初級、中級、上級までしか載っていない。

 しかし、実はその上に“禁術”がある。


 これは術者にもなんらかのダメージを与えるけれど、その分、奇跡のような力を使えるという。ごく限られた記録にしか載っていないので、僕は全く知らないけれど、その存在は司教さまから伺っている。


 上級魔法は主に三本線の縁に二列の詠唱文を書く“二重詠唱魔法”だけど、あの石碑が放った魔法陣はそれを超える“三重詠唱魔法”だった。


 ひょっとしたら、あれが上級を超える“禁術”だったんじゃないだろうか。

 だとしたら、そんなものを分析しようとするなんて、自ら崖を飛ぶようなものだ。


「ユーリエ」


 僕は呼吸が安定し、汗も引いたユーリエの頭をでる。

 振り返ればユーリエは一つ目のレゴラントの石碑から、石碑の文章よりも魔法陣に興味を示していた。


 起きたら、ゆっくり問いただしたいから。

 だから、起きてよ。


 このまま眠り続けちゃうのかな。

 その可能性もある。

 なにせ三重詠唱魔法を解析しようとしたんだから。


 ああ……。

 いつの間にかほおを、一筋の滴が走る。


 この二日間で僕は、自分の身に起きた変化に気づいていた。

 ユーリエの身体をれたタオルで拭いていても、よだれが出ない。食欲を感じない。


 僕はいつのまにか、人間を食べたいという銀獣人の欲求を、抑えることができるようになっていた。

 だからもう、一緒にいられるんだよ。


 急に眠気が襲ってきた。

 そろそろユーリエが寝込んで三日目になるけれど、その間、僕は全く眠っていない。

 まぶたが重く落ちていく。


 ユーリエ。


 僕は君のことが本当に――。

 そこまでつぶやいて、意識を失った。



「…………ぅ?」


 気づくと、窓から入ってきた日差しが僕の頬を温めていた。


「朝……か?」


 僕はベッドでうつ伏せになり、そのまま寝てしまったらしい。


「ユーリエ?」


 頭を上げてベッドに目を向けると、そこには誰もいなかった。


「ユーリエ!」


 慌てて立ち上がろうとする僕の肩に、そっと手が置かれた。


「なぁに?」


 顔を上げると、幾分顔色が良くなったユーリエが立っていた。


「あ……あ、あああ。もう、大丈夫なの!?」


「うん。ありがとうカナク。あなたのぬくもり、ずっと感じてたよ」


「良かった、良かったぁ……!」


 立ち上がるどころか、安心感で脱力してしまった。


「君は一体なにをやってたんだよ! ものすごく心配したじゃないか!」


「ほんと、すっごい心配してくれたんだね」


「当たり前じゃないか! ユーリエになにかがあったら、僕は――」


「僕は、なぁに?」


 う、と言葉に詰まる。

 ユーリエは目を細めて、僕の目をぐ見ていた。


「カナク、ちゃんと確認させて」


「え?」


「マール信徒は“おもい人がいる人を好きになってはいけない”そうよね?」


 ユーリエが優しさを込めて、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「うん、そうだけど」


「……でも、ね、カナク」


 ユーリエは微笑ほほえみをたたえたまま、僕に告げた。



「あなたが好きな人って……私で間違いないんだよね? それなら想い人が私になるから、カナクが好きになってもいいってことになるもんね。だから、はっきり告白してほしいな」



 息を飲む。

 こう素直に言われると……。


 いや、もう照れている場合じゃない。

 そういうのは超えて、先に行こう。


 僕は立ち上がり、真剣な顔でユーリエに向き合った。



「ユーリエ、君が好きだ。魔法学校一年生の頃から、ずっと好きだった!」



 僕が一気に告白すると、ユーリエはなんだか覚悟を決めたような、寂しいような、嬉しいような……そんんな複雑な表情になった後、弾けるような笑顔を見せた。

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