ユーリエが倒れてから、二日目の深夜。
僕はずっと、ユーリエのそばにいた。
石碑の文章は消し飛んでしまったけれど、あの魔法陣はなんとなく
あることを思い出した。
聖神殿や魔法学校にある一般的な魔法書には、初級、中級、上級までしか載っていない。
しかし、実はその上に“禁術”がある。
これは術者にもなんらかのダメージを与えるけれど、その分、奇跡のような力を使えるという。ごく限られた記録にしか載っていないので、僕は全く知らないけれど、その存在は司教さまから伺っている。
上級魔法は主に三本線の縁に二列の詠唱文を書く“二重詠唱魔法”だけど、あの石碑が放った魔法陣はそれを超える“三重詠唱魔法”だった。
ひょっとしたら、あれが上級を超える“禁術”だったんじゃないだろうか。
だとしたら、そんなものを分析しようとするなんて、自ら崖を飛ぶようなものだ。
「ユーリエ」
僕は呼吸が安定し、汗も引いたユーリエの頭を
振り返ればユーリエは一つ目のレゴラントの石碑から、石碑の文章よりも魔法陣に興味を示していた。
起きたら、ゆっくり問いただしたいから。
だから、起きてよ。
このまま眠り続けちゃうのかな。
その可能性もある。
なにせ三重詠唱魔法を解析しようとしたんだから。
ああ……。
いつの間にか
この二日間で僕は、自分の身に起きた変化に気づいていた。
ユーリエの身体を
僕はいつのまにか、人間を食べたいという銀獣人の欲求を、抑えることができるようになっていた。
だからもう、一緒にいられるんだよ。
急に眠気が襲ってきた。
そろそろユーリエが寝込んで三日目になるけれど、その間、僕は全く眠っていない。
ユーリエ。
僕は君のことが本当に――。
そこまで
「…………ぅ?」
気づくと、窓から入ってきた日差しが僕の頬を温めていた。
「朝……か?」
僕はベッドでうつ伏せになり、そのまま寝てしまったらしい。
「ユーリエ?」
頭を上げてベッドに目を向けると、そこには誰もいなかった。
「ユーリエ!」
慌てて立ち上がろうとする僕の肩に、そっと手が置かれた。
「なぁに?」
顔を上げると、幾分顔色が良くなったユーリエが立っていた。
「あ……あ、あああ。もう、大丈夫なの!?」
「うん。ありがとうカナク。あなたの
「良かった、良かったぁ……!」
立ち上がるどころか、安心感で脱力してしまった。
「君は一体なにをやってたんだよ! ものすごく心配したじゃないか!」
「ほんと、すっごい心配してくれたんだね」
「当たり前じゃないか! ユーリエになにかがあったら、僕は――」
「僕は、なぁに?」
う、と言葉に詰まる。
ユーリエは目を細めて、僕の目を
「カナク、ちゃんと確認させて」
「え?」
「マール信徒は“
ユーリエが優しさを込めて、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「うん、そうだけど」
「……でも、ね、カナク」
ユーリエは
「あなたが好きな人って……私で間違いないんだよね? それなら想い人が私になるから、カナクが好きになってもいいってことになるもんね。だから、はっきり告白してほしいな」
息を飲む。
こう素直に言われると……。
いや、もう照れている場合じゃない。
そういうのは超えて、先に行こう。
僕は立ち上がり、真剣な顔でユーリエに向き合った。
「ユーリエ、君が好きだ。魔法学校一年生の頃から、ずっと好きだった!」
僕が一気に告白すると、ユーリエはなんだか覚悟を決めたような、寂しいような、嬉しいような……そんんな複雑な表情になった後、弾けるような笑顔を見せた。