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1-2-4: 反撃の糸口




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翌朝、ヴェルナは早朝から屋敷の庭を歩いていた。昨夜はほとんど眠れず、老執事アンドレから得た情報を整理するのに時間を費やしていた。リリアン家の借金、セザール家との取引の可能性、そしてその裏に隠された思惑——全てが未解決のパズルのようだった。


庭園に咲く花々を見ながら、ヴェルナは深く息を吸い込んだ。朝の冷たい空気が頭を冷やし、彼女の思考を鮮明にする。


「私には時間がない。これ以上、セザールとリリアンに好き勝手させるわけにはいかない。」

彼女は静かに自分に言い聞かせた。



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ヴェルナは朝食を早々に済ませた後、母マティルダのもとを訪れた。マティルダはすでに応接室で待っており、温かい紅茶を用意していた。


「おはようございます、ヴェルナ。」

「おはようございます、母様。」


ヴェルナは椅子に腰を下ろし、母親に向き合った。

「昨日、アンドレに調査を頼みました。リリアン家の借金について、さらに詳しい情報が必要だと思ったのです。」


マティルダは娘の真剣な表情を見て、軽く頷いた。

「良い判断ね。アンドレなら信頼できるわ。それで、何か分かったことは?」


「まだ断片的な情報ですが、リリアン家には最近、大口の貸し手が現れたそうです。それがセザール家と繋がっている可能性があります。」


その言葉に、マティルダの表情が曇った。

「それが本当なら、彼らの婚約には単なる愛情以上の理由が隠されているわね。」



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「それだけではありません。」

ヴェルナはさらに声を落とした。「リリアン家は借金を抱えているだけでなく、社交界で何らかの不正な取引をしている可能性があります。舞踏会の費用をどのように賄ったのか、それを調べる必要があります。」


「なるほど……。」

マティルダはしばらく考え込み、やがて静かに言った。「ヴェルナ、あなたの考えは正しいと思うわ。でも、これを進めるには慎重さが必要ね。証拠がなければ、ただの憶測で終わってしまう。」


「分かっています。」

ヴェルナは頷いた。「だからこそ、母様のご友人たちの助けが必要なんです。彼らなら、社交界の裏事情に詳しいはずです。」


「分かったわ。すぐに何人かに連絡を取るわね。」



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その日の午後、マティルダは早速動き出した。彼女の友人の中でも特に信頼の厚い一人、バースリー侯爵夫人に手紙を送った。侯爵夫人は社交界の事情に詳しく、またリリアン家とも一定の交流がある人物だった。


「彼女なら何か情報を持っているかもしれないわ。」

マティルダはそう言って、手紙を封筒に入れて印を押した。


ヴェルナは母の素早い行動に感謝しつつ、自分もまた別の手段を講じることを決めた。セザール家やリリアン家の動きを監視するため、アンドレに引き続き調査を依頼すると同時に、自身も使用人たちのネットワークを活用して情報を集めるつもりだった。



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翌日、バースリー侯爵夫人からの返事が届いた。その手紙には、リリアン家の最近の動向についての興味深い情報が書かれていた。


「リリアン家の借金は以前よりも減少しているように見えるが、その原因は明らかではない。ただ、近頃、セザール家の執事と頻繁に接触しているとの噂がある。」


この情報を読んだヴェルナは、再び仮説を立てた。

「セザール家がリリアン家の借金を肩代わりし、その代わりにリリアンを利用しているのかもしれない……。」


彼女の推測が正しければ、これは単なる恋愛や婚約の問題ではなく、もっと大きな取引や陰謀が絡んでいる可能性が高い。



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「これで、彼らを追い詰める糸口が掴めるかもしれないわ。」

ヴェルナはそう呟き、手紙を慎重に保管した。


同時に、彼女の中で燃える決意がさらに強くなった。ただ泣き寝入りするのではなく、自分の誇りと立場を取り戻すために戦う覚悟が固まった。


「セザール、リリアン……あなたたちが私にしたこと、必ず後悔させてやる。」



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