その夜、社交界における最も華やかな舞踏会の一つが開催されていた。煌びやかなシャンデリアが豪奢な大広間を照らし、貴族たちは最高の装いで集い、音楽と踊りに身を委ねていた。その中で、ひと際注目を集める存在があった。長い間社交界から姿を消していたヴェルナ・アルドレアが、再び舞踏会に現れたのだ。
ヴェルナの登場は、噂好きな貴婦人たちの間で一瞬にして話題となった。鮮やかな藍色のドレスに身を包み、銀の糸で織られた刺繍が月光に反射してまるで星々の輝きを纏っているかのようだった。背筋をまっすぐ伸ばし、穏やかで自信に満ちた笑みを浮かべながら堂々と歩く彼女の姿は、まるで女王が帰還したかのようだった。
舞踏会の中心に立つと、ヴェルナは一瞬周囲を見渡し、軽く会釈をした。その動作一つ一つが洗練され、長い間彼女を侮っていた人々でさえ言葉を失うほどだった。特にリリアンとセザールの顔には動揺が浮かんでいた。セザールは険しい表情でヴェルナを睨みつけ、リリアンは笑みを浮かべてはいたものの、その笑みが硬く引きつっているのは明らかだった。
ヴェルナは周囲の視線を楽しむようにしながら、まるで何事もなかったかのように旧知の友人たちに挨拶を始めた。その中には、彼女が一時期距離を置いていた貴族の令嬢たちも含まれていた。彼女たちは初めは戸惑っていたものの、ヴェルナの穏やかで温かい態度に次第に安心し、再び彼女と談笑を始めた。
一方で、リリアンとセザールは遠巻きに彼女を観察していた。
「思ったより堂々としているわね。」
リリアンが皮肉めいた声で囁くと、セザールは肩をすくめた。
「どうせ見せかけだ。しばらくすれば、何かしらの失態を晒すだろう。」
そう言いつつも、セザールの目には警戒の色が浮かんでいた。長い間社交界に姿を現さなかったヴェルナが、これほどの自信を持って戻ってきたのには何か理由があるはずだ。それが何なのかを見極める必要がある、と彼は内心考えていた。
ヴェルナは二人の視線を感じていたが、あえて無視を決め込んでいた。彼女にとって、リリアンとセザールはすでに過去の存在だった。今の彼女にとって重要なのは、社交界における地位を取り戻し、さらにそれ以上のものを手に入れることだった。そして、それを成し遂げるための準備はすでに整っている。
しばらくして、ヴェルナは舞踏会のホストである伯爵夫人の元へ歩み寄った。夫人はヴェルナを見るなり目を輝かせた。
「まあ、ヴェルナ嬢!こんなに美しく成長なさって……本当に驚きましたわ。」
「ありがとうございます、伯爵夫人。舞踏会のご招待、心より感謝いたします。」
ヴェルナは丁寧に礼をしながらも、その態度には余裕が感じられた。伯爵夫人はその気品と知性に感心した様子で、すぐに他の貴婦人たちに彼女を紹介し始めた。ヴェルナはその場を見事に切り抜け、自然と注目の的となっていった。
リリアンはその光景を遠くから見つめ、唇を噛み締めた。彼女がこれまで築き上げてきた評判が、わずか一夜で揺らぎ始めているのを感じたのだ。
ヴェルナは冷静に舞踏会の全体像を把握していた。この社交界の場こそが、彼女の再起の舞台であり、リリアンとセザールを追い詰めるための第一歩であることを、彼女は確信していた。