その夜、ヴェルナは次の舞踏会での計画を練るため、アンドレとエリオットを自室に呼んだ。集めた証拠は十分だったが、それをどのようにリリアンとセザールを追い詰める形で公開するかが、成功の鍵となっていた。
「次の舞踏会が決定的な場になるわ。」
ヴェルナは机に広げた舞踏会の招待状を指差しながら言った。「リリアン嬢が再び孤児院の慈善活動について語ると予想されるわ。その場で彼女の偽善を暴露するタイミングを見計らう必要がある。」
「ですが、あまりに急激に攻撃すれば、社交界全体が混乱します。」
アンドレが冷静に指摘した。「穏やかに、しかし確実に追い詰める手段が必要です。」
「それなら、彼女自身の口から矛盾を引き出す方法を取るべきだ。」
エリオットが意見を述べた。「彼女が自らの言葉で誤ちを露呈させれば、我々が後から提示する証拠がより強力に響くはずです。」
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計画は慎重に練り上げられた。ヴェルナは舞踏会当日、リリアンがスピーチを始めるのを待ち、その中で彼女自身の矛盾を引き出す形で質問を投げかける。そして、最終的に決定的な証拠を提示し、リリアンの評判を覆すというものだった。
「まず、彼女に話させる。そして、その話の中にどんな小さな矛盾でも見つけたら、すかさず問いただすわ。」
ヴェルナは強い決意を込めて言った。「彼女の虚言を周囲に気づかせることが目的よ。」
「了解しました。」
エリオットが頷いた。「私は彼女が言葉を発するたびに、それを記録する役を引き受けます。必要なら、その場で矛盾を突く材料を提供します。」
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舞踏会当日、ヴェルナはエメラルドグリーンのドレスに身を包み、堂々とした態度で広間に現れた。彼女が姿を見せると、すぐにざわめきが広がった。婚約破棄の騒動以来、彼女の動向を注視している者は多かったが、この夜の彼女の落ち着いた振る舞いは、予想を超えるものであった。
「おや、ヴェルナ様。」
リリアンが笑顔を浮かべながら近づいてきた。その背後にはセザールの姿もあった。「再びお目にかかれて光栄ですわ。」
「こちらこそ、リリアン嬢。」
ヴェルナは優雅に微笑み返した。「今日はどのようなお話をされるのか、とても楽しみにしていますわ。」
「ありがとうございますわ。」
リリアンはその言葉に少し戸惑ったようだったが、すぐに笑顔を取り戻した。「私はただ、孤児院の支援について少しお話をさせていただくだけですわ。」
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その後、舞踏会の主催者がリリアンにスピーチの時間を与えた。リリアンは広間の中央に立ち、優雅な仕草で周囲に挨拶をした。
「皆様、今夜このように美しい舞踏会にお招きいただき、大変光栄に思います。」
彼女は穏やかな声で語り始めた。「私が支援しております孤児院は、多くの方々のご協力により、ますます成長を続けております。」
その言葉に、会場からは拍手が起こった。しかし、ヴェルナは冷静にリリアンの言葉を聞きながら、矛盾を探し始めた。
「先日も、孤児院の子供たちと過ごす時間を楽しませていただきました。」
リリアンは微笑みながら続けた。「彼らの笑顔を見るたびに、支援を続ける意義を感じます。」
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リリアンのスピーチが一区切りついたところで、ヴェルナが手を挙げて口を開いた。
「リリアン嬢、素晴らしいお話をありがとうございます。」
彼女の声は穏やかだったが、その瞳には鋭い光が宿っていた。「一つだけお伺いしたいのですが、その孤児院には具体的にどのような支援を行われているのですか?」
その質問に、リリアンの表情が一瞬だけ強張った。しかし、すぐに平静を装いながら答えた。
「ええ、それはもちろん、生活用品や教育のための寄付を行っていますわ。」
「なるほど。」
ヴェルナは頷きながらさらに問いを重ねた。「その寄付はどのように管理されていますか? 具体的な数字や方法について教えていただけると嬉しいですわ。」
その質問に、リリアンの微笑みが一瞬だけ曇った。彼女は返答に困ったように視線を泳がせたが、すぐに何とか言葉を繋げた。
「そ、それは……孤児院の運営側に全て任せていますの。私自身が管理しているわけではありませんので、詳細は分かりかねますわ。」
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その答えを聞いた瞬間、ヴェルナは確信を得た。リリアンが資金の具体的な流れについて何も知らないという事実は、彼女の支援活動が表向きだけのものに過ぎないことを物語っていた。
「なるほど、分かりましたわ。」
ヴェルナは微笑みを保ちながら、静かに席に戻った。彼女は今、この場で全てを暴露するのではなく、リリアンが自らの偽善を証明するのを待つことにした。
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舞踏会の後半、エリオットが持ち込んだ証拠を基に、ヴェルナはついに動き出す決意を固めた。次の段階で、リリアンの評判を完全に覆すための準備が整っていた。
「あなたの真実は、もはや隠しきれないわ。」
ヴェルナは心の中でそう呟きながら、次の行動に備えた。
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