広間はざわめきの渦に包まれていた。セザールが地方議会への贈賄で権力を拡大していた事実が明らかにされたことで、貴族たちの怒りと失望が沸き起こっていた。
「こんな不正を行う人物が我々の中にいるなんて!」
「彼は全てを操ろうとしていたのだ!」
非難の声が次々と上がる中、セザールは顔面蒼白になりながら何とか言い訳をしようとしていた。
「皆様、どうか冷静に聞いてください!」
彼は震える声で叫んだ。「これは誤解です! 私は地方の発展を心から願っていただけなのです!」
だが、その言葉に耳を傾ける者はいなかった。ヴェルナが提示した証拠はあまりにも明白であり、彼の言葉が虚偽であることを全員が理解していたからだ。
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ヴェルナは冷静な表情を保ちながら、広間の中央に立つセザールを見下ろしていた。
「セザール様、これ以上の言い逃れは無駄です。」
彼女は静かに、しかし力強い声で言った。「あなたがこの社交界と地方議会を自らの利益のために利用しようとしていたことは、もはや明白です。これが貴族としての振る舞いですか?」
その言葉に、広間にいる全員がセザールに厳しい視線を向けた。彼らの中には、これまでセザールと親しくしていた者もいたが、今やその関係を断ち切るべく態度を変えていた。
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その時、地方議会の議員の一人が広間の中央に進み出た。彼は緊張した面持ちでセザールに向き合い、静かに口を開いた。
「セザール様、私はあなたからの支援を受け取った一人です。しかし、今思えばそれは支援ではなく、明らかな買収行為でした。」
彼の言葉は静かだったが、その場の空気をさらに重くした。
続けて別の議員も立ち上がり、口を開いた。「私も同様です。あなたの提案に応じたことを後悔しています。」
これらの告白が続く中、セザールは完全に追い詰められていた。彼は顔を伏せ、何も言い返せなくなっていた。
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その様子を見たヴェルナは、内心で静かな勝利を感じていた。しかし、彼女は浮かれることなく、最後の一撃を加える準備を整えていた。
「セザール様。」
彼女は冷静な声で語りかけた。「これ以上、あなたがこの社交界に留まることは許されないでしょう。この場で自ら退場する意志を示していただけますか?」
その言葉に、セザールは震える声で反論しようとした。
「私は……何も間違ったことをしていない!」
彼は声を震わせながら叫んだ。「これは全て、誤解だ!」
だが、その瞬間、広間の隅から低い声が響いた。
「誤解? いいえ、誤解ではありません。」
その声の主は、貴族議会でも影響力を持つルシャール侯爵だった。彼は静かに歩み出ると、セザールを厳しい目で見つめた。
「私もあなたのやり方を見てきましたが、それは到底許されるものではありません。」
ルシャール侯爵は続けた。「この場で退場しないのであれば、私はこの件を国王に直接報告するつもりです。」
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ルシャール侯爵の言葉に、セザールは完全に言葉を失った。彼はしばらくの間、その場に立ち尽くしていたが、やがて深いため息をつき、低い声で言った。
「……分かりました。」
セザールは震える手で額を押さえながら、広間を見渡した。「私はこの社交界を去ります。しかし、これは終わりではありません。」
その言葉を最後に、彼は広間を後にした。貴族たちはその背中を冷たい視線で見送りながら、ざわめきを再開した。
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セザールが去った後、ヴェルナは静かに深呼吸をし、広間の貴族たちに向けて一言を発した。
「皆様、私はただ、正義を追求したに過ぎません。」
彼女の声には謙虚さが感じられた。「これからも、この社交界が健全な場であることを願っています。」
その言葉に、貴族たちは一斉に拍手を送り始めた。彼女の行動を賞賛する声が響き渡り、ヴェルナはその場で静かに頭を下げた。
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その夜、ヴェルナは自室に戻り、一人静かに窓の外を見つめていた。セザールを追放するという目標を達成したものの、彼女の心はまだ完全に晴れたわけではなかった。
「これで全てが終わったわけではない……。」
彼女は小さく呟いた。「まだ、この社交界には多くの問題が残っている。」
しかし、彼女の目には確かな決意が宿っていた。ヴェルナは新たな目標に向かって、次の一歩を踏み出す準備を整えつつあった。