夜の舞踏会は、社交界の華やかさを象徴する場でありながら、その裏では多くの策略や思惑が交錯していた。ヴェルナはその中で冷静さを保ちながら、これまでに得た証拠をどう効果的に使うかを考えていた。この夜、彼女が目指すのはセザールとリリアンの行いを暴露し、彼らの評判を完全に崩壊させることだった。
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舞踏会の広間には、煌びやかな装飾と心地よい音楽が響いていた。ヴェルナはエメラルドグリーンのドレスに身を包み、その堂々とした姿勢で注目を集めていた。彼女が広間に現れると、多くの貴族たちが彼女を見て囁き合った。
「彼女が噂のヴェルナ嬢ね。」
「あの婚約破棄を乗り越えて、今でも堂々としているわ。」
ヴェルナは微笑を浮かべながら、冷静に人々の視線を受け止めていた。彼女にとって、これらの注目は恐れるべきものではなく、むしろ計画を遂行するための舞台装置だった。
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その時、セザールとリリアンが広間の中央に現れた。セザールは自信満々の笑みを浮かべ、リリアンは華やかなドレスで人々の視線を引きつけていた。二人はあくまで「理想のカップル」を演じており、その姿は表面的には非の打ちどころがなかった。
「ヴェルナ嬢、ごきげんよう。」
リリアンが声をかけてきた。その言葉には明らかな挑発が込められていた。「あなたもこのような素晴らしい舞踏会に参加されるなんて、意外ですわ。」
「ごきげんよう、リリアン嬢。」
ヴェルナは冷静に微笑みながら答えた。「このような素晴らしい場に招かれたこと、感謝しておりますわ。」
その言葉にリリアンの表情が一瞬曇ったが、すぐに取り繕うように笑みを浮かべた。
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ヴェルナはその場を離れると、エリオットの元に向かった。エリオットは広間の隅で待機しており、これまでに集めた証拠を整理していた。
「準備は整ったわね。」
ヴェルナがエリオットに確認すると、彼は力強く頷いた。
「はい、全て整っています。」
エリオットは静かに答えた。「リリアン嬢とセザール様の行いを明らかにする証拠は揃っています。この場で公にすれば、彼らの評判は確実に崩れるでしょう。」
「ありがとう、エリオット。」
ヴェルナは感謝の意を込めて彼に微笑みかけた。「これで彼らの偽善を終わらせることができるわ。」
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舞踏会の後半、リリアンが注目を浴びるために孤児院の支援活動について語り始めた。彼女は誇らしげに、自分がいかに貢献しているかを強調していた。
「私が支援している孤児院は、皆様のご協力のおかげで大きく成長しています。」
リリアンは広間の人々に向かって微笑みながら話していた。「私の活動が少しでも多くの方々に届いていることを心から嬉しく思います。」
その言葉に、多くの貴族たちが拍手を送った。しかし、ヴェルナはその場をじっと見つめていた。そのスピーチの中に多くの矛盾があることを、彼女は既に知っていたからだ。
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リリアンのスピーチが一区切りついた瞬間、ヴェルナは静かに立ち上がり、広間の中央に進み出た。
「素晴らしいお話でしたわ、リリアン嬢。」
ヴェルナは微笑みを浮かべながら語りかけた。「ですが、一つだけ確認したいことがございます。」
その言葉に、広間の視線が一斉にヴェルナに向けられた。リリアンも一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を作り直した。
「何でしょうか?」
リリアンが答えた。
「あなたがおっしゃっていた孤児院への支援活動についてです。」
ヴェルナは冷静に続けた。「具体的に、どのような形で支援を行っているのか教えていただけますか?」
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リリアンは一瞬だけ言葉を詰まらせたが、すぐに取り繕うように答えた。
「もちろんですわ。私は孤児たちに必要な物資を提供し、教育の支援を行っています。」
「それは素晴らしいことですわね。」
ヴェルナは微笑みを浮かべながら続けた。「では、その支援に使われた資金の流れについて、詳細を教えていただけますか?」
その言葉に、リリアンの表情が硬くなった。彼女はしばらくの間、視線を泳がせながら言葉を探していたが、結局、曖昧な答えしか返せなかった。
「そ、それは……運営側に任せていますので、詳細は分かりませんわ。」
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その瞬間、ヴェルナはエリオットから受け取った資料を掲げた。
「では、こちらの資料をご覧いただけますか?」
ヴェルナは広間の全員に向けて声を上げた。「これはリリアン嬢の支援活動に関する財務記録です。しかし、この記録には驚くべき事実が記されています。」
その言葉に、広間が静まり返った。ヴェルナの言葉は、この舞踏会の雰囲気を一変させる力を持っていた。
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