広間が静寂に包まれる中、ヴェルナは手にした資料を高らかに掲げた。その堂々とした態度に、貴族たちは釘付けになり、誰一人として目を逸らすことができなかった。
「皆様、この資料には驚くべき内容が記されています。」
ヴェルナは一言一言を噛み締めるように語り始めた。「リリアン嬢が語った孤児院への支援活動、その実態についてです。」
リリアンの顔が青ざめるのが分かった。彼女は何とか取り繕おうと、微笑みを浮かべようとしたが、その表情は明らかに引きつっていた。
「ヴェルナ嬢、一体何をおっしゃっているのですか?」
リリアンは声を震わせながら問いかけた。「私の活動を疑うのですか?」
「疑うのではありません、真実をお伝えするのです。」
ヴェルナは冷静な声で答えた。「この記録によれば、リリアン嬢が集めた寄付金の大半は、孤児院ではなくリリアン家の私的な支出に使われています。」
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その言葉に、広間がざわめき始めた。
「なんてことだ……!」
「彼女がそんなことをしていたなんて……」
ヴェルナはざわめきを背に受けながら、さらに話を続けた。
「例えば、孤児院に送られるべき資金の一部は、高価な宝飾品や贅沢なパーティーの費用に充てられていました。」
彼女は資料を手に取り、一つ一つの項目を読み上げた。「ここに記されている金額は、孤児たちのために使われるどころか、完全にリリアン家の贅沢品に消えています。」
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「そんな……!」
リリアンは声を上げた。「それは何かの間違いです! 私はそんなことしていません!」
しかし、その時、広間の隅から一人の女性が進み出た。それはリリアン家で働く使用人のクラリスだった。
「ヴェルナ様のおっしゃることは事実です。」
クラリスは深く頭を下げながら、震える声で語り始めた。「私はリリアン家で働く中で、何度もこれらの不正行為を目にしてきました。」
その証言に、広間のざわめきはさらに大きくなった。貴族たちは驚きと怒りの入り混じった表情でリリアンを見つめていた。
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リリアンは言葉を失い、何とか反論しようとしたが、クラリスの証言がそれを許さなかった。
「孤児院に送られるべき資金が、すべてリリアン様の個人的な用途に使われていました。」
クラリスは真剣な表情で続けた。「私はその記録を見て、何度も疑問に思いましたが、雇い主に逆らうことができませんでした。ですが、これ以上黙っていることはできません。」
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その証言を聞いた瞬間、ヴェルナはさらに一歩前に進み出た。
「これでお分かりいただけたでしょう。」
彼女は広間の貴族たちに向けて語りかけた。「リリアン嬢の語る『善行』は、表向きだけのものだったのです。真実は、孤児たちのために使われるべき資金を私的に流用していたということです。」
広間は再び静まり返った。誰もがこの事実に衝撃を受けていた。
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その時、セザールがゆっくりと立ち上がった。彼はヴェルナを睨みつけながら、低い声で言った。
「ヴェルナ嬢、これ以上の侮辱は許されません。」
彼の声には怒りが滲んでいた。「あなたの発言には何の根拠もありません!」
「根拠がないと言うのですか?」
ヴェルナは冷静に答えた。「では、こちらの記録をどう説明するのですか?」
彼女はさらに一枚の資料を広げた。それは、セザールがリリアン家の資金を管理し、不正に協力していた証拠だった。
「セザール様、あなたもまたこの不正に深く関与していたのです。」
ヴェルナは冷たい声で言い放った。
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その言葉に、セザールの表情が曇った。彼は何とか反論しようとしたが、周囲の視線に圧倒され、言葉を紡ぐことができなかった。
「もう十分です。」
ヴェルナは広間全体に向かって声を上げた。「これ以上、彼らが社交界に居座る理由はありません。正義は、ここで明らかになりました。」
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広間の貴族たちは次々と立ち上がり、セザールとリリアンに対して非難の声を上げ始めた。
「なんということだ……!」
「彼らを許すことはできない!」
「今すぐ追放するべきだ!」
その声の中で、リリアンは完全に泣き崩れ、セザールも無力感に打ちひしがれていた。
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ヴェルナは冷静な表情を保ちながら、エリオットと目を合わせた。彼もまた、彼女の行動に敬意を抱いた表情を浮かべていた。
「これで一つの終わりが訪れたわね。」
ヴェルナは心の中で静かに呟いた。「でも、まだ私の戦いは終わらない。」
その目には新たな決意が宿っていた。
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